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30円のブラックサンダーで「義理チョコ文化」を再び盛り上げる!有楽製菓 マーケティング部の戦略

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Case: 有楽製菓株式会社「義理チョコショップ」
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。 今回は、有楽製菓株式会社の『義理チョコショップ』を取り上げます。同社の主力商品であるチョコレート菓子『ブラックサンダー』で、バレンタインの名脇役“義理チョコ”を応援しようと始まった本施策。2014年より毎年、『東京おかしランド』に期間限定ショップをオープンし、義理チョコ文化を応援しています。本ショップを始めた背景やねらい・思いを、有楽製菓株式会社 マーケティング部 マーケティング課 主任 山﨑美沙さんに伺いました。
Interview & Text : 香川 妙美
バレンタインの波に乗れない『ブラックサンダー』と、陰りのある義理チョコを組み合わせたら
―『義理チョコショップ』がスタートした背景を教えてください。 当社の主力商品である『ブラックサンダー』は、コンビニエンスストアなどでおなじみのチョコレート菓子です。これまでの当社は、イベントや広告活動というものをほとんど行ってきておらず、オリンピック選手の好物として紹介されたり、輸出先の台湾で人気に火が付き、生産が追い付かないことが話題になったりと、非常にラッキーな形でメディアに取り上げていただいていました。ただ、これからはこういった現象に頼るのではなく、戦略を持ってプロモーションを図っていく必要があるという考えから、2011年にマーケティング部門が新設されました。 チョコレートの売り上げが伸びるバレンタインは、製菓会社各社が特に力を入れる時期ですが、『ブラックサンダー』は、1個30円という安価さもあり、かねてからバレンタイン商戦の波にイマイチ乗り切れていないという課題がありました。この現状を打破できないかと、プロモーション施策の検討を行うなか、義理チョコ文化に着目いたしました。 一昔前、バレンタインといえば、本命チョコ、義理チョコが定番でしたが、昨今はこれらに加え、“友チョコ” “自分チョコ”というジャンルが生まれ、チョコレートの高級志向が進んで久しい印象があります。一方の義理チョコは、「用意するのが面倒」「誰に渡すか気をつかう」という渡す側である女性の声とともに、貰う側である男性からも「気をつかわせて悪い」「お返しに悩む」といった声が挙がっています。とはいえ、義理チョコは日頃の感謝を伝えるツールとして広く認識されており、良い文化になっているとも感じていたので、ブラックサンダーにこの役目を担わせないかと考えたことが、『義理チョコショップ』への足掛かりとなっていきました。
初年のキャンペーンの成功が、翌年からの『義理チョコショップ』につながった
―スタートからこれまでの経緯をお聞かせください。 初年となる2013年は、ショップの出店はなく広告のみの展開でした。 市井に、「義理チョコが煙たがられている」「敬遠されつつある」というイメージがじわりと浸透していましたが、そんな負のイメージもあえて逆手に取ることが『ブラックサンダー』の性格に合っていることから、“一目で義理と分かるチョコ”というコピーを用い、新宿駅のコンコースに広告を出すと同時に、専用の自販機でサンプリングを行いました。これらの取り組みが好評を博し、ネットを中心に話題になったので、次年はそこから一歩踏み込んだコミュニケーションに発展させたいと検討するなか、直接購入できる場があると消費者の方も喜ぶのでは、という声が挙がりました。 そこで、翌年は、東京駅一番街にある『東京おかしランド』で期間限定出店を行ったところ、台湾から観光に来ていた方が30万円分もの商品を購入されたことをはじめ、連日午前中には品切れをする現象が続きました。ただ、これは1日の売り上げ予測を弱気に見ていた面もありましたので、翌2015年は商品を潤沢に用意し、終日販売できる体制を整えました。結果、前年比120%超の売り上げとなり、数字からもショップ展開の手ごたえを感じましたので、今年の出店につながっていきました。 ―商品の特徴、購入者の属性などを教えてください。 バレンタインならではのラインナップを揃えようということで、限定商品を数種類ご用意しました。なかでも、チョコレート専門店『ミュゼ・ドゥ・ショコラ テオブロマ』の土屋公二シェフに監修いただいた、『生ブラックサンダー』は人気が高く、昨年は開店の2,3時間前からお客様が並ぶほどでした。今年は整理券の配付を行いましたが、販売スタートと同時に完売していきました。 また昨年までは、イチゴ味のブラックサンダーを限定品としてご用意していましたが、出店3年目の今年は、新しい展開が必要だろうということで、初恋の味としてよく連想されるレモン味の商品に替えました。加えて、義理でも少し本命に近い商品として『ブラックサンダーショコラケーキ』という生菓子もご用意し、よりバラエティに富んだ商品をご提供しました。 ご購入者は、男女半々の印象です。女性は義理チョコとしてお求めになる方が多いように見受けましたが、もともと男性のファンも多い商品ということもあり、限定商品に関心を示す男性も目立ちました。 また、あくまでも義理チョコという打ち出しではあるのですが、東京駅という立地柄、お土産としての要素も意識しています。買いやすい金額設定もそうですが、それぞれのフレーバー、パッケージの仕様は、お持ち帰りになったご家庭や職場で話題にしていただくことをイメージしながらつくっていますので、渡すほうも貰うほうも楽しいコミュニケーションになっているとうれしいです。 また、今年は春節とかぶりましたので、台湾の方をはじめ、多くの海外観光客の方にもお立ち寄りいただきました。 ―出店にあたって、印象に残ったエピソードはありましたか。 今回は、『ブラックサンダーショコラケーキ』の準備が大変でした。当社に生菓子のノウハウがないこともあり、味の見当をつけるところからパッケージのデザインまで手探りの状態からスタートしています。製造ラインももちろん持っていませんので、外部の会社に依頼し、試作の段階から協力していただきました。 このケーキの特長は、『ブラックサンダー』がそのまま中に入っていて、持ち味のザクザクとした食感をお楽しみいただけることなのですが、通常のケーキに『ブラックサンダー』を入れるとケーキの水分を含んでしまい、この食感が出ないんですね。今回は、この部分をいかにクリアするかがポイントでしたが、工夫を重ね、結果として当社ならではの商品をご提供することができました。ちなみに通常のケーキには、『ブラックサンダー』のような堅い食感の食材を入れることはまずないので、そういった部分もお楽しみいただけたのでは、と感じています。 ―SNSをはじめ、ユーザーからの反響はいかがでしたか。 プレスリリース配信当初は、「期間中に買いに行きます」といった声を多く見かけました。期中は、お買い上げの商品を写真付きで紹介される方がたくさんいらっしゃいましたね。でも一番は、「他の地域でも販売してほしい」という声だったように思います。ウェブ販売なども行っていないので、今後はその声にも応えていきたいです。
義理チョコ文化を支え、バレンタインの活性化、チョコレート市場の拡大につなげたい
―本施策を始めて4年目ですが、義理チョコ市場への影響や動向をどのように捉えていますか。 他社さんも再び義理チョコに力を入れ始めているように感じています。特にコンビニエンスストアやスーパーマーケット等は、売り場の広さや品揃えを見ても顕著だったように思います。 さらに本命チョコは、手づくりや、百貨店でのご購入が主流になりつつあるので、うまくすみわけができていると感じており、購入者へのアプローチにも違いが見て取れました。”自分チョコ“”友チョコ“など、新たな購入動機も生まれていますので、当社も義理チョコ文化を支えることで、引き続きバレンタインの活性化、ひいてはチョコレート市場の拡大に寄与できればと思っています。 ―今年のバレンタインの成果はいかがでしたでしょうか。また、今後の展開も教えてください。 今年は3年目ということもあり、社内に催事のノウハウが定着し、比較的落ち着いた流れで出店を終えることができました。1年目は台湾・中華圏からいらしたお客様の爆買い、2年目は限定品を求め何時間も前からお並びになるお客様の姿が、それぞれ印象として強かったのですが、そういった意味では安定した運営ができたと感じています。今後、4年5年と継続していくにあたっては、お客様に目新しさを感じてもらえる商品の投入や場づくりが肝要になってくると思っていますので、そういった施策に力を入れていきたいと感じています。 これらの活動の一番のねらいは、義理チョコというキーワードを通じて『ブラックサンダー』をより多くの方に知っていただくことなので、認知度の拡大に向け、さらなる取り組みを行っていきたいです。 加えて、直近の展開としては、3月14日まで義理チョコのお返し専門店をテーマに『義理のお返しショップ』を、東京おかしランドで再び展開しています。こちらは初めての取り組みなので、緊張しながらのオープンになりましたが、おかげさまで好評をいただいております。バレンタイン同様、限定商品も多数ご用意していますので、男性をはじめ、多くの方にご来店いただけるとうれしいです。

有楽製菓株式会社 マーケティング部 マーケティング課 主任 山﨑美沙さん


海外でも広がる地域PRムービーを作るには。市民1,000人×「さげもんガールズ」福岡県柳川市のケース

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Case: 福岡県柳川市 PRムービー「SAGEMON GIRLS」
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。 今回は、1,000人を超える市民を動員して作られた、福岡県柳川市のPRムービー「さげもんガールズ」について取り上げます。企画・制作の意外な経緯から、PRムービーに込められた想い、ダンスチーム「さげもんガールズ」の結成、そして予想を超える海外からの反響まで、株式会社ティーアンドイー プロデューサーの肥後岳志さんと同社 ディレクターの井上拓馬さんにお話を伺いました。
Interview & Text : 坂巻 渚
ひょんなことから生まれた、柳川市のイメージ覆すユニークな企画案。
—柳川市のPRムービーにはどのような経緯で携わられることになったのでしょうか? 肥後:柳川市がホームページ上で、柳川市PR映像を制作する業者を一般公募しており、興味があって手を挙げたのが始まりです。以前から柳川市ではCMの撮影をしたことが多々あったので。当初柳川市は、柳川を舞台とした情緒的なストーリー性のある企画を求めており、そのトーン&マナーにあわせて私たちも企画書とビデオコンテを作成し、プレゼンを行いました。プレゼン当日は資料に基づき、企画の説明をしたのですが、途中で「こんなPRムービー、誰が見るんだろう?全然面白くない…」と感じてしまって。 せっかく最後までプレゼンさせてもらったにも関わらず、最終的には「こんな企画は面白くないです。どうせやるなら、柳川市のイメージを180度変えるような、そしてもっと話題になるような企画を一緒にやりましょう!」と言ってしまいました。市の方からしてみれば、そういう企画を始めから持ってこいという感じですよね(笑)。 —なかなか聞いたことのない展開ですね(笑)。柳川市の方はどのような反応をされたんですか? 肥後:今回の企画はコンペだったのですが、最後の最後で自ら作成した企画を全否定するかのようなプレゼンをしてしまったので、「絶対に負けた…」と思っていました。ただ市の方々には、逆に面白く思っていただいた様で、「ぜひ今回の企画をお願いしたい。話題になるような企画の提案を再度お願いします!」とお電話をいただいたんです。嬉しかったと同時に、「本当に勝っちゃったの!」と信じられない状況でした(笑)「もちろんです!」と強気で答えたものの、その時は当然のことながら企画はゼロベースでした。 —嬉しいやら、ビックリするやらですね。また一から企画を考えられたのですか? 肥後:はい。お電話をいただいてから、改めて企画を考えるために、まずは一人で柳川市に行って、1日そこで過ごしてみました。行ってみて気づいたのですが、柳川市は観光名所として知られてはいるものの、歴史的建築物・川下り・ウナギ等のイメージが先行しているからか、観光客の年齢層が圧倒的に高いんです。また柳川には、有名なお土産の一つとして「さげもん」という吊るし飾りがあるのですが、おみやげ屋さんで売れ行きを伺った所、実際そこまで人気のある商品というわけではないとのことでした。実際にそこで時間を過ごしてみないと分からないものですね。

<柳川市の名産品「さげもん」>

—意外な発見が色々とあったのですね。実際に柳川で過ごされたことが、今回の「さげもんガールズ」のアイデアにつながったのですか? 肥後:今回のPRムービーは主に海外向けということで、「若い世代向け」+「さげもん」+「海外を意識する」という3つのキーワードがあったのですが、柳川市に行ったことで、その3つから「さげもんガールズ」という言葉がポンっと出てきたんです。 日本人の女の子には、世界的に見て「独特の可愛いさ」があるので、せっかくなら可愛い子たちに出演してもらって、柳川で何か面白いことができたらと。「さげもんガールズ」という言葉も、なんとなく「ドラえもん」に似ていて、海外でも親しみを持ってもらえるのでは、と感じました。 そこでまず、弊社のディレクターの井上に、「さげもんガールズを使った企画を3日間でお願いね。」と無茶振りをしてみたんです(笑)井上自身、ダンス映像が大好きなこともあり、そこからどんどん企画に色を足していってくれて。最終的には、今回の企画にまで作り上げてくれました。

<実際の企画書の一部>

海外向けを意識。映像を見ただけで伝わる柳川市の魅力。
—企画のコンセプトはどのようなものだったのですか?また、また、制作で特に意識されたことがあれば教えていただけますか。 井上:コンセプトは「小さな町が世界を驚かせる」です。観光地や食べ物はもちろん、さげもんガールズのファッションも含め、映像を見ただけで、その人が魔法にかかったようなファンタジーな世界作りを意識しました。ナレーションやセリフ構成にすると、見る人の体力も必要になってしまうので、とにかく映像を見れば全てが伝わるようにするという点を大切にしました。まさに、「百聞は一見にしかず」ですね。 —海外の方にもとても分かりやすそうですよね。 井上:はい、今回のPRムービーは、主に海外へ向けての映像という事だったので、ナレーションやコピーは一切入れませんでした。ムービーのラストにも、コピーではなく、柳川市に古くからある河童伝説の「河童」を入れたくらいです。 あとは、海外向けということで、英語、中国語、韓国語バージョンも作らなければならなかったということもありますね。海外の方にも分かりやすい映像ということを心掛けました。

<相撲ドーム「雪龍の郷」でのお相撲さんとのダンスシーン>

<柳川名物の鰻のせいろ蒸し>

—ムービーには1,000人を超える市民の方が出演されているということですが、この構想は最初からあったのですか? 肥後: 井上とも話していたのですが、柳川市民の方々と話しているうちに、市民の方々の「柳川市を盛り上げたい」という熱量がものすごく大きいということを感じたんです。その盛り上がりをなんとか映像化したいと思ったのですが、そのためには柳川市民の方々を巻き込むことが必須でした。我々はあくまでそれをサポートする裏方であって、当事者は柳川市民の方々ですからね。正直、人数も集まらないかもしれないと不安だったのですが、柳川市の企画担当の方々が本当に頑張ってくださいました。 こういう企画の場合、制作スタッフが市民の方々に説明をしにいくと冷ややかな反応をされる事があるのですが、市の方から直接話していただくと話も早いし、同じ柳川市民という信頼もあって、皆さん快く協力してくださるんですよね。市の方々の尽力のおかげで、1,000人という大勢の方々に参加していただくムービーを実現できたと感じています。

<市民が一丸となって踊ったエンディング>

—今回のために結成されたダンスチーム「さげもんガールズ」はどのように選ばれたのですか? 肥後:オーディションで決めていったのですが、ダンスが踊れるかどうかということは一切無視しました。ダンスについては、今回振付けをお願いした「振付稼業 air:man」 さんがなんとかしてくれるだろうと思い(笑)、頻繁にメディアに出ている人というよりは、初々しさが残っているような方をイメージしていました。 実際に選ばれた彼女たちも、オーディションの時でさえ、きょとんとしたり、戸惑っているような感じで、そこがまたよかったんですよね。彼女たちの成長度合いが目に見えて分かることで、やりがいを感じそうでしたし、初々しい反応がかえって新鮮で面白くて印象に残りました。
「柳川市に行きたい」という声、続出。予想を超える海外からの反響。
—ムービーはSNS上でも話題になっていますよね。海外からの反響も大きかったのではないですか? 肥後: はい、特に海外からの反応がすごいですね。台湾の旅行メディア「旅飯 Pan Travel」では、ムービー公開日の2月8日にサイトとFacebookページで動画を取り上げていただいたのですが、その翌日には動画再生回数が25万回を超えていました。現時点で、旅飯さんを通した動画の再生回数は70万回を超えている状況です。あとは中国のWEIBOでの反響もすごいですね。動画に対してのシェアが49000件、コメント数が7千件超えで、しかもそのほとんどが「柳川に行きたい」「さげもんガールズ可愛い!会いたい!」という反応ばかりです。

<台湾の旅行メディアのFacebookページ>

<中国WEIBOでのコメントの一部>

—すごい盛り上がりですね!特に嬉しかったコメントなどはありますか? 肥後:こういう動画は意外と賛否両論あったりすることが多いのですが、この動画に至っては、ありがたい事に「賛」の声が多いです。最初は批判してもらう事で炎上して拡散されるのでもいいかな、とも思っていたのですが、本当に批判がなくて。「柳川に行きたい」というコメントが多く、反響は想像以上でした。当然動画を作ることがゴールではなく、動画を見てもらって「行きたい!」と思ってもらうことがゴールなので、そういったコメントは本当に嬉しかったです。 あとは、音楽に対するコメントも結構多かったですね。私は幼い頃からずっと音楽をやっていた事もあり、元々この映像業界に入ったのも音楽に携わりたいという想いが強かったんです。今回の作曲についても、RiZ☆Zunさんと私とで一緒に行ったのですが、やはり自分が製作した曲を褒められるのは、個人的にも、ものすごく嬉しかったですね。 —「さげもんガールズ」の皆さんも反響の大きさに驚かれていたのではないですか? 肥後:そうですね。彼女たちはプライベートでツイッターをやっているのですが、フォロワーがものすごく増えたみたいです。フォローしてくるのは圧倒的に中国や英語圏の方々が多いみたいですね。コメントも中国語等できているらしく、「解読できない」と言っていました(笑) —最後に、地方の魅力を伝える動画をつくられる際に、特に意識している点があればお教え頂けますか。 井上:自治体の動画を作る際は、突拍子もない企画で攻めるのも、もちろん良いと思いますが、それだけではなく、丁寧にしっかりとその場所の魅力を伝えることも同じくらい大事だと思います。 今回の場合だと、単に「柳川には、こういう可愛い女の子たちがいますよ」ということを伝えるのではなく、主人公はあくまで「柳川の景観、食べ物、柳川市民の皆さん」であって、その主人公をより魅力的に表現するサポート役として「さげもんガールズ」が存在する、ということは常に意識しながら構成しました。

株式会社ティーアンドイー プロデューサー 肥後岳志さん(左) 株式会社ティーアンドイー ディレクター 井上拓馬さん(右) さげもんガールズの皆さま(後方)

交通局&警察署と「三國志」がコラボ! “ゲーム”ד啓発キャンペーン”成功の秘訣とは

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Case:「三國志」シリーズ × 横浜市交通局・神奈川県港北警察署「啓発ポスター標語募集キャンペーン」
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。 今回は、コーエーテクモゲームスの人気歴史シミュレーションゲーム「三國志」シリーズ30周年記念として行われた、横浜市交通局と神奈川県港北警察署とのタイアップ企画「啓発ポスター標語募集キャンペーン」について取り上げます。タイアップ企画実現の経緯から、話題になったポスターサンプルの工夫、そして予想を超えるSNSでの反響まで、株式会社コーエーテクモゲームス 宣伝部広報課 課長の桂毅さんと同社 宣伝部広報課 リーダーの大関淳嗣さんにお話を伺いました。
Interview & Text : 坂巻 渚
「以前ハマっていた人」や「なんとなく興味がある人」も。ファンを巻き込む募集型のキャンペーン。

©2016 コーエーテクモゲームス All rights reserved.

—横浜市交通局さん、神奈川県港北警察署さんと合同の企画を行うことになった経緯をお教え頂けますか。 大関:昨年2月に、我々のオフィスがある日吉を管轄する港北警察署さんから防犯に関する啓発系のキャンペーンで何か面白い企画を一緒にできないかとご相談を受けたのが始まりです。その頃、横浜市交通局さんともタイアップのご相談をさせていただく機会がありました。当社のゲーム「三國志」シリーズが30周年を迎え、新作『三國志13』の発売も予定しているタイミングでタイアップ企画を検討していたこともあり、せっかくなら3社合同で何か企画ができたら面白いのではという話になったのがきっかけです。 —御社にとって、今回の企画にはどのような目的があったのですか? 大関:まずは大きな意味で、「三国志」全体を盛り上げたいという目的がありました。以前三国志にはまっていた人や、なんとなく興味のある人、また他社さんの三国志のゲームや漫画を好きな方も含め、幅広い方にもっと三国志自体を好きになってもらうきっかけを作れたらと思いました。 桂:もちろんそこから当社商品のPRにもつなげていきたいと思っていました。1月28日に新作『三國志13』を発売したのですが、今回の啓発ポスターにもしっかりロゴを入れていただいています。 —キャラクターを使った啓発ポスターとは、斬新で面白いですよね。募集型にすることは最初から考えられていたのですか? 大関:はじめは私たちの方で標語や武将など、ポスターの中身を全て決めてしまおうと考えていました。ただ、せっかくならファンの皆さんを巻き込めるような、参加型の募集キャンペーンをした方が三国志を盛り上げられるのでは、という話になりました。そこで、一般の皆さんに好きな三国志の武将を選んでいただき、その武将にぴったりの標語を応募してもらうことになりました。

©2016 コーエーテクモゲームス All rights reserved.

ファンの心を掴んだポスターサンプル。ユーモアに富んだ応募を増やすための工夫とは。
—1,500件を超える応募があったとのことですが、募集の告知はどのようにされたのですか? 大関:昨年 9月の東京ゲームショウ2015で、『三國志13』の新作紹介と合わせて、このキャンペーンの告知を行いました。同時に、ニコニコ生放送でもキャンペーン紹介をしました。キャラクターを使った標語といってもなかなかイメージしにくいと思い、紹介する際はこちらで考えたポスターサンプルを作ったのですが、それがよかったですね。サンプル画像をツイートしてくださった方がいらっしゃったのですが、そのツイートがなんと5,000回以上もリツイートされていて。2週間という短い応募期間でしたが、1,500件もの応募をいただけたのも、ファンの方々によるSNSでの盛り上げの力が大きかったと感じています。

<ファンによる実際のTwitter投稿>

—孔明のサンプルポスターには、私もクスっとさせられました(笑)。やはりサンプルを考える際には、面白さも意識されたんですか? 大関:そうですね、啓発系のポスターというと真面目なものが多く素通りされてしまうイメージがあったので、今回のキャンペーンではユーモアも重視しました。サンプルによって応募内容も変わってくると思ったので、色々考えましたね。三国志ファンとまでいかない人にも分かりやすく、尚かつ武将のキャラクターを活かしたユーモアのある標語を集めたいと思い、孔明の標語にたどり着きました。 このサンプルがファンの皆さんの挑戦心にも火を付けてくれたようで、「この孔明のポスターを超えるものを作りたい!」「こんなネタはどうだろう?」など、SNS上で標語のアイデアを議論し合うような投稿も見受けられ、三国志ファン同士でかなり盛り上がっていたようです。 —サンプルがファンの心を掴んだのですね。集まった標語は、どのような基準で選考されたのですか? 大関:選考では、三国志好きな方が喜びそうなエピソードや逸話、武将のパーソナリティが反映されているものでありながら、かつライトな三国志好きの方でも楽しめる、そこまでマニアックすぎない内容のものを選びました。一次選考は当社内で行い、最終選考は交通局さん、警察署さんそれぞれにお願いしました。 桂:啓発ポスターというとなかなか面白いものを採用するのは難しいイメージでしたが、警察署の方々も署長さんはじめとてもご理解があり、ツッコミどころ満載のユーモアのある標語を採用できたのはよかったですね。

©2016 コーエーテクモゲームス All rights reserved.

予想を遥かに超えたSNSでの盛り上がり。三国志の盛り上がりを随所で実感。
—実際にポスターが完成してからのSNSでの反響はいかがでしたか? 大関:Twitterでの反響が大きくて驚いています。ポスターの掲示に先駆け11月18日に、横浜市の林市長が定例記者会見でタイアップ企画を紹介してくださったのですが、その時のTwitterはかなり盛り上がりましたね。会見には当社名誉会長の襟川恵子もご招待いただき、完成したポスターのお披露目もしました。その時にまた、ポスター画像を投稿してくださった方がいらっしゃったのですが、そのツイートは3万回以上リツイートされていました。募集開始の時もそうでしたが、ファンの皆さんによるSNSでの拡散力はすごいですね。 桂: SNSでキャンペーンをバズらせることは、今回の企画で1番やりたかったことなので嬉しかったですね。それにしても、今回の拡散の大きさは予想を遥かに越えていました。 大関:他にも、読売新聞さん、エンターテイメント系のネットメディアさんでもタイアップ企画を取り上げていただきました。特に、「ロケットニュース24」の記事はFacebookで8000件のシェア、そして1万2000件のツイートと掲載後すぐに2万件ほどのシェアがされていました。三国志の舞台となる中国や台湾のメディアでも、今回の企画を取り上げていただいたようです。

<記者会見後のファンによる実際のTwitter投稿>

—SNSでかなり盛り上がっていますが、投稿している方々は既存ファン以外の方も多い印象ですか? 桂:公式アカウントの投稿に対してはやはり既存のファンの方の反応が多いですが、今回特に盛り上がった一般の方の投稿に反応しているのは、ファン以外の方々が多い印象ですね。標語のユーモアを理解してくださる方が多く、予想以上に一般の方にも三国志が浸透している印象を受けました。 大関:特に昨年末くらいから、CMや雑誌、新聞等でも三国志を目にする機会が増えてきているような気がしていて、三国志自体が盛り上がってきていることを感じて嬉しいですね。

<実際に掲載されているポスター>

—交通局さん、警察署さんからは、今回の企画についてどんな感想等をいただいていますか? 桂:今回、横浜市営地下鉄40駅や港北警察署管内にポスターを貼っていただいたのですが、現場の方のお話では、駅や警察署でもポスターの写真を撮って行かれる方が結構多く、手応えを感じているとのことです。駅の構内もかなりいいスペースにポスターを貼っていただいたので、普通に広告として掲載していたら相当な広告費がかかっていたと思います。他にも、警察の方には区民の方からポスターについての声が寄せられていたり、横浜市としても面白い取り組みをしているという認知拡大ができて嬉しいというお声をいただいています。 大関:シンプルにゲームのキャラクターを使った啓発系のキャンペーンはしたことがなかったので、新しいノウハウができたというお声もいただきました。今後もまた色々なキャラクターを活用しながら、ファンの皆さんを巻き込んだ面白いキャンペーンを仕掛けていけたらと思っています。

株式会社コーエーテクモゲームス 宣伝部広報課 課長の桂毅さん(左) 株式会社コーエーテクモゲームス 宣伝部広報課 リーダーの大関淳嗣さん(右)

町全体を巻き込んだラジオドラマで地域の魅力を発信!茨城県のコミュニティFM「FMだいご」の挑戦

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Case:FMだいご『大子町殺人事件』
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。 今回は、コミュニティ放送局「FMだいご」が今年1月11日(月)より放送開始し(番組サイトでも聴取可能)、3月28日(月)に最終回を迎える、茨城県内でも最も高齢化が進む久慈郡大子町の活性化を目指した住民参加型の連続ミステリードラマ『大子町殺人事件』を取り上げます。 大子町を舞台に地元の名所・旧跡が登場し、2人の刑事役以外の出演者はすべて町民。ラジオドラマ制作を通した地域活性化を目指すこの取り組み。株式会社 電通 第2CRプランニング局 コミュニケーション・プランニング・センター コミュニケーションプランナー 加我俊介さんに制作の舞台裏を伺いました。
Interview & Text : 市來 孝人
5歳から78歳まで、総勢20数名の町民が参加
—まずは企画に携わることになったきっかけからお聞かせ下さい。 FMだいごは茨城県久慈郡大子町のコミュニティFMで、東日本大震災後の防災インフラとして立ち上げられました。三万世帯程度で聴取可能で、各世帯にラジオを配っています。それは何か災害があった時に大子町はお年寄りが多く、スマホでの通知では連絡が行き届かないからです。ラジオに自動的に電源が入って防災情報が流れるという仕組みになっています。 民話の読み聞かせや地元高校の吹奏楽担任が行うブラスバンド番組など、限りある予算の中で様々な自主制作番組を放送しているのですがなかなか聴いてもらえない、するとそのうち電池も外してしまう恐れがあるんですね。そのため、FMだいごを聴いてもらう”きっかけ”となるような番組を作れないかと、たまたまご近所さんだった現在の番組プロデューサー・浅野修治郎さんに声をかけてもらったのが始まりです。 —地元の方が出演されているとのことですが、どのように声をかけていったのですか? 一旦シナリオを起こして、その上で町を回って、「消防署を登場させたけど、ここにはないね」などと実際の町の状況に合わせてチューニングした上でプロデューサーの浅野さんに渡し、職業や年齢感に近い人をキャスティングしてもらいました。例えば、看護師さんが看護師さんを演じるのは普段の自分でいられますから。5歳から78歳まで、総勢20数名の町民の方に参加頂いています。 また町のみなさんには自分の台詞だけ台本を渡していて、それ以外は伝えていません。なんとなく全員の台詞を集めていくと真相がわかるようになっているので、町中で「どこまで聞いてる?」などと井戸端会議で話題になってもらいたいな、という狙いがありました。 —なぜ「殺人事件」のストーリーなのでしょうか? ミステリーにしたのは、謎を解く聞き込み対象にすれば、誰でも登場人物に出来るんです。「殺人事件」と聞くとネガティブに思われるかもしれないのですが、実は結末は誰も悪い人はいない。その事件が”起こった”理由がちゃんとある…というハッピーエンドになっています。
町の象徴的な音でドラマを構成
—音楽監督に、invisible designs lab 清川進也さんが起用された経緯はどのようなものでしょうか? 今回、「あの場所だね」と分かるような町の象徴的な音でドラマを構成したかったんです。例えば汽車が走っているので、汽笛が鳴ると「あ、あの駅のあたりね」とイメージしてもらえるように。 このような環境音と言えば、やはり清川さんしかいらっしゃらないとお声がけさせて頂いて、BGMのみならずドラマ自体の監督もお願いしています。スタジオでの収録にも参加されて「声」の部分も全て見て頂いています。 ちなみにSEだけではなくBGMも全て町で録っています。町の音楽好きな方を集めたところリコーダーからギターまで7人集まりました。公民館に集まって実際に楽器を弾いてもらい、清川さんがその力量を見ながら「XXさんとXXさんを組み合わせて」とその場でのセッションみたいに組み合わせて、BGMを作っていきました。音楽好きだけど発表する場がないとか、公民館などの施設を整えたけどなかなか使用されていない、そういった点の解決策の一面もあります。 —現地での反響はいかがですか? 町が小さいのでスタジオに差し入れを持ってきてくれたり、見学に来たり、OA開始前から話題になっていました。自発的に配ってもらえるようにポスターも100枚程度用意して持って帰ってもらえるようにしました。 OA開始後は「カレンダーに放送日を赤字で記入し、忘れないように欠かさず聴いている。ただ忘れてしまう事もあるので、子どものスマートフォンで聴き直しさせてもらうことをおぼえた」(70代 男性)「大子町の情景を思い浮かべながら聴けるので楽しい」(40代 女性)「放送時間には聴くことができないので、サイトでUPされるのを待って通学時に聴くようにしています。とても面白いです」(高校生 女性)など、幅広い方から反響を頂いています。 —ラジオという媒体の特性については、いかがでしょうか? 媒体特性の視点で言うと、ほぼ全域の町民が車を使っていて、このような車社会ではラジオは有効だなと思いました。またコンテンツの視点では、映像は回答を与えている、ラジオは聴きながら想像するので余白がある、そういった違いがあるなと感じていました。そのため、町民の皆さんがイメージを膨らませながら楽しめるように、町に存在する”音”、身近にある”音”にこだわって制作しました。
まずは町の人自身が楽しんでもらえたかどうか
—Web上でもアーカイブが聴取出来るようになっていますね。 こちらは、副次的な広がりの部分、つまり町外の人を対象にしています。ドラマで登場するのがすべて町中の名所なので.観光協会とも協力し名所を紹介した観光協会のページにリンクし、「大子町の観光ポータル」としても位置づけています。 —今回の企画を振り返ってみていかがですか? まず、町の魅力が外に発信されればもちろん良いのですが、それは副次的なもの。まずは町の人自身が楽しんでもらえたかどうか、という点を意識しています。 ラジオだけに関わらず地方からの情報発信は増えていますが、この企画は小さい町のフォーマットにはなりえるなと感じました。大子町のようにシャッター商店街となってしまっている小規模な町であればまずは町の中を盛り上げなければいけません。そこに注力することで、結果的に外へも話題が広がっていくと思います。 また、本企画は、町民の方に声優として出演頂いたりBGMを演奏して頂いたり、町のあらゆる音を採取させて頂いたりと大子町総出で作り上げていますが、この制作プロセス自体が一つのお祭りになっていました。町おこしと考えると、従来のクローズドな制作スタイルを、巻き込み型のオープンな制作スタイルに変えることも一つのソリューションになりえるのかなと思いました。

株式会社 電通 第2CRプランニング局 コミュニケーション・プランニング・センター コミュニケーションプランナー 加我俊介さん

サザエの貝殻から番組が聴こえる「SAZAE RADIO」〜ラジオ局が新たな取り組みを行う意義

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Case:bayfm「SAZAE RADIO」
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。 今回は、千葉に拠点を置くFMラジオ局・bayfmが生み出した、次世代型ラジオデバイス「SAZAE RADIO」を取り上げます。千葉県産のサザエを100%使用し、ラジオ局の技術者がひとつひとつハンドメイドで制作。現在、特設サイト上で抽選販売の申込み中です(4/30 24:00まで)。この「SAZAE RADIO」開発理由を株式会社ベイエフエム 編成部 小懸正幸さんに伺いました。
Text : 市來 孝人
三方を海に囲まれている千葉。海に関するものとコラボできないかと考えていた
ー元々、このような新しいプロダクトを生み出したいと考えていたのでしょうか。 当社は三方を海に囲まれた立地であり、以前から海に関するものとコラボできないかと考えていました。港でサザエの貝殻を目にしたとき、人が貝殻を耳に当てているイメージが浮かび、そこからラジオの音が流れたら面白いのではと思ったのがスタートです。 ーアイデアとして生まれてから、開発の過程で苦労した点はございますか。 できるだけいい音でラジオを聴いてほしいこともあり、より質の高い音にこだわろうとすると、ある程度の大きさのスピーカーにしないと、いい音で聞くことができませんでした。結果、大ぶりのサザエの殻でないと基盤が収まらないということになり、条件にある殻をそろえるのもたいへんでした。 ー出来映えをご覧になってのアピールポイントをお聞かせ下さい。 無機質なラジオに、自然物であるサザエの貝殻を組み合わせることで、1つ1つが個性を持ったオンリーワンなラジオになってます。 ー斎藤工さん、槇原敬之さん、押切もえさんなど、bayfmの番組に出演している方々の反応を納めた動画を制作しようと思った理由を教えて頂けますか。 実物を見た人、みんながみんな「すごくイイ!」と反応してくれていたので、いろんな人の反応を見てみたくなり動画を制作してみることにしました。動画出演のみなさんには、初見でリアクションをいただいたので、驚き・感心・笑いなどなど、それぞれの素直な反応が、映像からも伝わってきますよね。
ラジオそのものに興味を持たせるキッカケを提案していくことも大事
ーラジオ局がこのような新たな取り組みをする意義について、どのようにお考えですか。 最近の、特に若い世代のライフスタイルでは、ラジオはネットやスマホで聴く、もしくは、カーラジオで聴くことが多く、ラジオそのものを身近に置くことが少ないのではないでしょうか。家にラジオを置いていないという方も比較的普通でしょう。であれば、ラジオ本体に魅力や面白味を待たせることで、ラジオというシンプルなメディアデバイスの楽しさや可能性を再発見してもらうキッカケになると考えました。ラジオ局が、ラジオそのものに興味を持たせるキッカケを提案していくことも、大事なことだと思っています。

株式会社ベイエフエム 編成部 小懸正幸さん(右)、技術担当 吉田八郎さん(左)

ラジオ番組「INNOVATION WORLD」が筑波大とコラボし、テクノロジーにまつわるイベントを行う理由

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Case:J-WAVE「INNOVATION WORLD FESTA 2016」
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。 今回は、J-WAVE「INNOVATION WORLD FESTA 2016」を取り上げます。5月14日(土)に筑波大学にて行われる"テクノロジーと音楽の祭典"。イノベーターを発掘する番組「INNOVATION WORLD」(毎月最終日曜日 22:00~ J-WAVEにて)から生まれたイベント。ラジオ局が大学とコラボし、様々な企業が集うイベントの実施意義・理由を探ります。株式会社 J-WAVE 事業企画室長 小向 国靖さんにお話を伺いました。
Interview & Text : 市來 孝人
テクノロジーの進化により生まれる新たなサービスやプロダクトを応援する番組
—まず番組「INNOVATION WORLD」をスタートされた理由は何でしょうか? テクノロジーがますます進化していく中、それを支えている20-30代は我々の局としてもターゲットとしている層ですし、局のカラーとしても「新しいものを牽引していく」面を打ち出していきたいと考えていました。テクノロジーの進化により生まれる新たなサービスやプロダクトを応援し、一緒に作っていけるような番組にしたいとスタートしました。 —実際のリスナーはどの世代が多いでしょうか? 20代中盤から30代です。これから起業しようという20代前半の方にももっと聴いてもらえるようになりたいですね。 —ナビゲーターはm-floのVERBALさんが務められていますが、その人選に込められた意図を教えてください。 音楽業界はもちろんのこと、ビジネス界の人脈も広い方ですし、新しいものをどんどん取り入れるイメージや若い人の兄貴分的なキャラクターという面も含め、適任だとお願いすることにしました。(アメリカ・ABCのテレビ番組)「Shark Tank」のように起業家がプレゼンをしてはどうか…等と、アイデアも出してくれました。 —実際に番組で、企業が登場してプレゼンされていますよね。 番組内で自分たちのビジネスを1分間という短い時間でプレゼンしてもらっています。「短い時間でプレゼンする」という内容も非常にラジオ向きですし、プレゼンを聞いても面白いだろうなという企業にお声がけしています。 番組内でプレゼンしてもらうだけではなく共感出来る企業に出資したり、一緒にイベントを仕掛けたり、放送だけではない広がりを作りたいと考えていました。 —ちなみに小向さんも、元々テクノロジーなどの動向はお好きなのでしょうか? 実はSE出身なので、テクノロジーはとても好きですね。
企業の新規事業担当や、技術者、広告・マーケティング担当者にはぜひ来場してほしい
—そして今回の「INNOVATION WORLD FESTA 2016」を実施することになった経緯は、どのようなものだったのでしょうか。 元々筑波大学の学生さんから、学園祭でアーティストを呼びたいと相談の連絡を受けたことがきっかけです。彼は今もイベントの企画に入ってもらっているのですが、単に学園祭でのアーティスト出演に留まらず、折角「テクノロジー」のイメージも強い筑波大ですから、(アメリカ・テキサス州で行われている音楽・映画・インタラクティブなどを扱うイベント)SXSWのようなイベントを新たに立ち上げられたら面白いなと考えました。 そこからさらに、番組の初回ゲストとして出演頂いた森川亮さんが筑波大のOBで、森川さんから学長にお話しして頂いたんですね。学長がとてもアクティブな方で「これは是非成功させましょう」と、大学の職員の方もアサイン頂くなど精力的に動いて頂きました。そして今回のイベント翌日の5月15日からG7サミット(日、米、英、仏、独、伊、加の首脳並びに欧州理事会議長及び欧州委員会委員長が参加して開催される首脳会議)の、G7茨城・つくば科学技術大臣会合がこのエリアで開かれるため、その前夜祭イベントとしての公認も頂くことになるなど、どんどん話が広がっていきました。 —予定しているコンテンツについてお聞かせ下さい。 アーティストのパフォーマンス、トークセッション、ベンチャー企業ブース、テクノロジー体験エリア、つくばのグルメフードエリアといった構成です。アーティストは小室哲哉さん、m-floなど、トークセッションでは堀江貴文さん、田原総一郎さんなど、有名な方も数多く登場しますので「テクノロジー」に関心のある方も、関心の薄い方も楽しんで頂けるかと思います。企業ブースはスタートアップを中心に30-40社が出展予定です。 —どういう方にご来場頂きたいですか? テクノロジーやメディアアートに興味がある方はもちろん、企業の新規事業担当や、技術者、広告、マーケティング担当者、起業家、投資家、学生など、様々な方にご来場頂きたいです。 —出展企業も募集中とのことですが、の基準などはありますか? テクノロジーを活用したベンチャー企業であれば大丈夫です。ユニークなベンチャー企業が多数集まってきてくれています。 —協賛企業なども募集中なのでしょうか? はい、絶賛大募集中です!技術力に自信がある企業さん、ベンチャー企業とコラボしたい企業さんなどは相性が良いと思います。 —今後「INNOVATION WORLD」全体としては、どういうプロジェクトにしていきたいでしょうか? ただ紹介するだけではなく、より、ビジネスとの関わりを強めていきたいですね。例えば出演者やアーティストが企業に出向いたり、一緒にものづくりをしたり、ラジオ局ならではの形のビジネスモデルを作っていけたらと思います。

「引越し侍は引越し業者ではありません」ならば、何なのか?–謎を呼ぶTV-CMの舞台裏とその成果

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Case: 株式会社引越し侍 ミュージックビデオ風TVCM
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。 今回は、当サイト「AdGang」の運営母体であるPR TIMESがデジタルPRの支援を行った、株式会社引越し侍のミュージックビデオ風TVCM『よやきゅん篇』『HIKAKU篇』『比古志篇』を取り上げます。 引越し侍は、毎回、ユニークなCMクリエイティブに定評がある企業。今年の1月中旬から3月初旬にかけてO.A.された本TVCMは、「引越しするなら引越し侍」のフレーズを15秒間繰り返し歌うというもの。しかし、最後は「引越し侍は引越し業者ではありません」という謎のメッセージで締めくくられ、認知欲求をかりたてられた視聴者がネットで検索する流れが生まれました。これにより、指名検索数は前年同期比2.6倍にも伸びたのだとか。本クリエイティブの狙いやこだわり、バズを意識したプレスリリース・PRの手法やその成果を、株式会社引越し侍 代表取締役社長 熊澤博之さんに伺いました。
Interview & Text : 香川 妙美
インパクトのある、かつおもしろいクリエイティブが完成
―本クリエイティブはどのようにして決まったのでしょうか。 当社のクリエイティブは、都度コンペで決めています。各代理店さんにはいつもインパクトのあるおもしろいクリエイティブをオーダーしており、毎回、全部で100~200案が挙がってくるのですが、そのなかから今回も株式会社大広の西田良平さんにお願いすることになりました。 ミュージックビデオ風にしたのは、音楽がどの年齢層にもリーチでき、様々な嗜好に応えることができるから。ただ一つのジャンルにしぼると偏りが出るので、アイドル、ビジュアル系バンド、ムード歌謡の3本を制作しました。 ―ユニークな内容になっていますよね。 そうですね。クリエイティブディレクターの西田さんと私は同世代なのですが、同じTV番組を見て、同じところで笑って育ったという共通項があり、感性がとても似ているんですよ。なので、彼の提案するクリエイティブは、やはりおもしろい。これまで築いてきた引越し侍のイメージをさらに印象付けるものになっていると感じています。また、今回は株式会社BBDO J WESTの眞鍋海里さんにもプランナーとしてご参加いただき、主にバズマーケティングの分野を見ていただきました。 ―制作の狙いをお聞かせください。 引越しの繁忙期は1月から4月と言われており、当社も毎年この時期に新CMを制作しています。昨年のクリエイティブ『エーシャ篇』では、「A社とB社を比べる幸せ」をテーマに、「引越し侍は、引越し業者の見積もりが一括で取れるサービス」という部分を訴求しました。 今年はそこから一歩踏みこみ、キーメッセージである「引越しするなら引越し侍」を15秒間言い続けるクリエイティブに。これは、引越しの当事者になったときに引越し侍を思い出してもらえれば、と考えてのことですが、最後を「引越し侍は引越し業者ではありません」で締めくくることで、「じゃあ、なんなの?」という謎を残しました。 これは、TVCMをご覧になった方を引越し侍のウェブサイトに誘導する仕掛けなのですが、種明かしである動画やコンテンツから、引越し侍が“引越し業者の比較ができるサービス”であることを認識いただけるようになっています。また、序盤は出演者の情報を伏せることで、視聴者の憶測や、もやもや感を醸成し、これらでネット上の盛り上がりをつくることも意識しました。
妥協のないミュージックビデオ制作
―ウェブ動画のクオリティの高さも話題になりました。 おかげさまで、多くの方にお楽しみいただいています。こういうものは中途半端にするとむしろ格好悪くなってしまうので、どのクリエイティブも一切妥協はせず、徹底的につくりこみました。 たとえば、『比古志篇』は、昭和の時代を思い起こす服装やメイク、小物、シチュエーションを、『HIKAKU篇』は、実はLUNA SEAを参考にしました。LUNA SEAをはじめ、ビジュアル系バンドといえば、「羽が舞う」「外国の少女が出てくる」といった印象がありますよね。そういう“あるある”を詰め込み、そこにガムテープやダンボールを混ぜることで、引越しの要素を出しました。『よやきゅん篇』も、バスケットボールをダンボールに替えてみよう、みたいな発想でつくりこんでいます。 3作品とも、いかにしてそのジャンルらしさを打ち出すかは、私も含め皆で議論しましたが、西田さんや制作サイドの方々には、様々なプロモーションビデオなどから、そのジャンルのよくある特徴を探し出すなど、さらに研究していただきました。 ―撮影時のエピソードも教えていただけますか。 『よやきゅん篇』は、ご出演いただいた一ノ瀬みかさんが、現在売り出し中のアイドルということもあり、当初はかわいいを全面に出していく予定だったのですが、当日、現場で変顔をリクエストしたら、とても良いものが撮れまして(笑)。編集の際にその表情を当てはめてみたら、やはりすごく良かったんですよ。 「引越し業者じゃないならなんなの?」という謎が深まるよねということで、その表情を採用させていただいたところ、ウェブへの流入にしっかり寄与していただきました。リクエストに応じてくれた一ノ瀬さんと、許可を出してくださった事務所さんには、本当に感謝しています。ちなみに、振り付けはADの方が即興でつくってくれました。前回と一緒の撮影チームでしたので、本業以外の部分にも力を貸してくださったりと、撮影はスムーズに進みました。 また、『HIKAKU篇』に出てくるバンドは、名古屋で活動する『メリーバッドエンド』というインディーズバンドで、演奏も彼らによるものです。ただ、今回のミュージックビデオにはキーボードのパートがなかったので、マニピュレーターの奇凛さんはどうするんだろうと思っていたら、キーボードの前でスティックを左右に振りながら、可愛らしく踊ってくれました。小ネタではないですけれど、動画にはそういった色々な要素がつまっていますので、そこに注目して視聴されてもおもしろいと思います。
プレスリリースも「謎」と「種明かし」の二部構成に
―プレスリリースの配信にあたってPR TIMESと連携していますが、その内容と成果をお聞かせください。 今回、PR TIMESの千田英史さんに色々とご協力をいただきました。より効果的な情報発信の機会にするためには、という観点から相談したのですが、「1回で出し切る情報を、2回に分けてみては」というアドバイスをいただいたので、1回目は出演者の情報を伏せ、謎のメッセージCMという立てつけで配信し、2回目で出演者の情報やCM制作の背景を種明かしする形を採りました。2回目の配信は、ユーザーの盛り上がりが高まったタイミングで行いたかったので、毎日エゴサーチをして反応をチェックしていました。 効果としては、エンタメ系メディアを中心に露出を獲得できました。『謎だらけのCM』という内容に加え、「あのアイドルは誰?」「あのビジュアル系バンドは?」と出演者に関するものも多かったですね。さらには、種明かしのタイミングでも記事化していただき、情報を1度で出すよりも多くの露出につながったと思います。2度目は、出演者の情報やミュージックビデオのクオリティに関するものが多かったものの、『引越し侍は、引越し業者ではなく、引越しの比較サイトです』と記事内で触れていただけたので、当社の意図する露出が叶ったことは、本当に良かったです。 ―O.A.の反響はいかがでしょうか。 実は、1度だけフライングでO.A.をしているのですが、瞬間的に通常の20倍ものアクセスがウェブにあり、その時点で手ごたえを感じていました。本出稿期間中も昨年対比で指名検索数が2.6倍に伸びるなど、良い結果につながりましたね。CMが流れると瞬発的にアクセスが伸びたので、視聴者のレスポンスはとても速かったように思います。 ちなみに、私たちのなかでは3本のクリエイティブのうち、『よやきゅん篇』が一番反響を見込めると思い、出稿量も多めにしていたのですが、実際に放送してみると『HIKAKU篇』の反響が一番良かったため、急遽、出稿量を増やすことにしました。『HIKAKU篇』のようなビジュアル系バンドの最盛期を彷彿させるTVCMは、最近あまり見かけないんですよね。そのため、リアルタイム世代の方が観るとどうしても気になるし、当時を知らない方にとっても新鮮に映ったのではないかと思います。その関心がネットでの検索につながり、反響につながったのではないか、と考察しています。 ―ユーザーからはどんな反応はありましたか。 出稿期間中、Twitterでは、デイリーで200~300ものツイートが確認できました。「引越し侍は、引越し業者じゃないのなら一体なんなんだ」というものから、「悔しいけれど検索してしまう」「LUNA SEA感が半端ない」「クオリティが高すぎる」など、嬉しいコメントが数多く見られましたね。私たちが想定していたものがそのまま出てきたので、とてもうれしかったです。 ―書き込みのなかには、「カラオケで歌いたい」というものも見かけました。 使用している楽曲のなかにもジャンルごとの世界観が現れています。名古屋でご活躍するフリーランスの方に楽曲を作っていただいたのですが、昨年の『エーシャ篇』に続いてのお願いでしたので、『HIKAKU篇』なら、「ビジュアル系バンドっぽい楽曲」といったざっくりなオーダーだけお伝えし、あとはお任せしました。全くジャンルの違う曲をお一人で作るのですから、すごい才能だと思います。 いま、カラオケの話が出ましたが、実際に第一興商さんからオファーをいただき、『カラオケDAM』での配信がスタートする予定です。思わぬ波及効果に驚いているところです。 ―今後の展開をお聞かせください。 おかげさまで大きな反響をいただきましたが、実はTVCMでの認知をきっかけにサービスを使っていただく方は、全体の5%ほど。まだまだリスティング広告やアフィリエイトなどウェブ広告からの流入が大半を占めています。今後もブランディングや認知度向上を目的に、TVCMは継続していきたいと思っていますが、ゆくゆくはCM効果に頼らずともダイレクトに「引越し侍」と検索していただけるブランドに育てていきたいですね。

株式会社引越し侍 代表取締役社長 熊澤博之さん

[当記事は「AdGang」を運営する株式会社PR TIMESの事例です]

“あるある”部屋からババンギダ選手起用まで。ウイイレ好きのスタッフだからこそ作れた、共感型キャンペーン「#ウイイレまたやろーぜ」

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Case:KONAMI 「ウイニングイレブン」20周年記念キャンペーン
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。 今回は、国民的人気サッカーゲーム「ウイニングイレブン」(以下、ウイイレ)の20周年記念キャンペーンについて取り上げます。キャンペーン開始の経緯から、あるあるが詰まった「ウイイレ部屋」、ババンギダ選手起用の裏話、そしてウイイレの今後についてまで、株式会社コナミデジタルエンタテインメント プロモーション企画本部の斎藤亘さん、同社 第3制作本部の緑川一徳さん、株式会社読売広告社 営業局の日髙茂樹さん、同社 統合プロモーション局の皆川壮一郎さんにお話を伺いました。
Interview & Text : 坂巻 渚
ウイイレ好きのスタッフのみが集結。ユーザー視点で生まれた、ファンの心に響くキャンペーン。
—ウイイレ20周年記念キャンペーン実施の経緯を教えて頂けますか。 斎藤:もともと社内のミーティングでもよくウイイレの思い出話で盛り上がることがあり、いつかウイイレの“あるある”を盛り込んだキャンペーンが出来たら面白いのではと思っていました。僕も含め、学生時代にウイイレに熱中していた30代が、今は仕事や家族のことで忙しく、なかなかゲームをする機会がなくなってしまっているんですよね。そんなユーザーに対して、なんとか最新のウイイレの魅力や無料版「ウイニングイレブンmyClub」についても知ってもらいたいと思い、読売広告社さんにご相談したのが今回のキャンペーンの始まりです。 —以前ウイイレにハマっていて今は離れてしまっている方が、今回のターゲットということですね。 斎藤:はい、学生時代にウイイレにハマっていた30代の男性です。実際に周りを見ても、結婚したり、子供が生まれたりで、休みの日でもなかなかゲームで遊べないという人が結構多いんですよね。そこで今回の企画の軸は、ターゲットが「気軽にウイイレで遊べる場所」を作るということになりました。 —「ウイイレ部屋」のアイディアはどのように生まれたのですか? 皆川:「気軽にウイイレで遊べる場所」ということで、最初はターゲットが住めるシェアハウスを作るという案が出ました。結局その案は大掛かりすぎて難しいということになったのですが、その後も「部屋」という言葉だけが頭の中に残っていました。麻雀で言うと、家で麻雀をやる人が少ない割に今でも根強く雀荘が残っているように、ウイイレも家とは別にウイイレで遊ぶ用の部屋があってもいいのでは、と思ったんです。そこから最終的に「ウイイレ部屋」という案に辿り着きました。 斎藤:重要なのは、いかにターゲットの心に訴えかけて当時の楽しい気持ちを思い出してもらうかでした。更にウイイレの“あるある”を絡めることで、ターゲットに当時の気持ちを思い出してもらいやすくなり、SNSなどでも拡散されていくことをイメージしていました。 皆川:そこで、みんなでワイワイ遊んだ気持ちや空間、雰囲気を全部パッキングした部屋を作り、イベントや動画という形にしていくことになったんです。

<ウイニングイレブンプレイヤーズハウスで実際に再現された「ウイイレ部屋」>

—部屋の中には、沢山の“あるある”が詰め込まれていると思いますが、何かアンケートなどを取られて参考にしたのですか? 皆川:僕ら自身がまさにターゲットだったので、特に調査などはしませんでした。みんなから自然と“あるある”が出てきたという感じです。特に今回は少しでもターゲットの心に訴えかけたいという想いがあったので、スタッフについてもウイイレ好きの人だけを集めました。特に監督はウイイレが大好きで、動画内でゲームをしていた人たちの名前も実は監督の実際の友人の名前なんです。監督を中心に、KONAMIさんや僕ら自身の中にある思い出を積み上げていって出来上がったのが「ウイイレ部屋」ですね。 斎藤:壁にかかっているユニフォームはバイエルンやミランのものなのですが、これもサッカー好きだからこそ喜びそうなものを選びました。僕もそうだったのですが、当時ウイイレで海外の選手の名前を覚えた方が結構いらっしゃるんですよね。ユーザー視点で小道具を選んだことで、昔を思い出させるいい部屋が出来たと感じています。 —イベントでは、「ウイイレガールズ」と対戦もできるようになっていたんですよね。 斎藤:はい、ウイイレの一番の魅力は、今も昔も変わらず、誰かと対戦することだと考えています。ウイイレの良さを思い出してもらうには、部屋だけでなく誰かと対戦できる場面を用意したいと思い、彼女たちに来てもらいました。 —動画の中でも、友達同士が対戦してかなり盛り上がっていましたよね。動画にもかなりこだわりが詰まっているように感じられました。 斎藤:動画内に盛り込んだ“あるある”はかなりこだわって考えましたね。“あるある”を通じて、昔を思い出したり、面識のないユーザーさん同士でも仲間意識のようなものを感じることができるのだと思います。動画の中は15個、イベントの壁画には100個ほどの“あるある”が描かれているのですが、“あるある”の候補が多すぎて絞るのが大変でした。みんな個人的にウイイレへの思い入れが強すぎるんだと思います(笑)。

<採用されたウイイレ“あるある”(一部抜粋)>

<動画「#ウイイレまたやろーぜ」のワンシーン>

—特に動画はSNSでもかなり話題になりましたよね。 斎藤:Twitterで沢山コメントをいただいています。「またみんなでウイイレしたくなった!」「昔を思い出して涙が出てきた。」という声は非常に多いですね。もともとユーザーさんのエモーショナルな部分に訴えかけるというのが一番の目的だったので、目に見える形でそういった声を知れるのは嬉しい限りです。
チームが更に一体に。ババンギダ選手を起用したTwitterキャンペーンによる予想外の効果。
—イベントと動画の他に、Twitterキャンペーンも実施されていますが、このキャンペーンの中心的存在として起用されたババンギダ選手はどのように選ばれたのですか? 斎藤:ババンギダ選手は何故かこの世代の心に残っているんですよね。足がものすごく早い割に、シュートがあまり決まらないことで有名なのですが、そこがまた愛らしいというか(笑)。実は今回の企画はスケジュールがものすごくタイトで、制作チームにダメ元で依頼をしたのですが、ババンギダ選手を使ったキャンペーンだと伝えた途端、快く受け入れてくれました。制作チームの中でも愛されている選手なんですよね。 緑川: その時期はちょうどリリースを控えており、忙しい時期ではあったのですが、ババンギダ選手と聞いたらやるしかないと思いました(笑)。チーム全体が盛り上がったくらいです。 —ババンギダ選手のパワーはすごいですね!スケジュールはそんなにタイトだったんですか? 日髙:かなりタイトでしたね。昨年12月にイベントや動画も含め、今回のキャンペーンの最初のご提案をしたのですが、方向性が決まったのが1月と、実質準備期間は2ヶ月弱でした。タイトなスケジュールではあったものの、ババンギダ選手の起用がみんなのモチベーションを上げた気がしています。通常、選手の搭載には、半年ほどかかるのですが、今回に関してはKONAMIさんが2ヶ月弱ほどで対応してくださいました。 緑川:選手をゲームに搭載するには、顔の作成、選手の動き、能力パラメーターなどなど、制作と搭載には通常3ヶ月から半年かかる所、ババンギダ選手となると制作チームも一致団結し、突貫で搭載することができました。この結果は奇跡に近いと思っており、対応した担当やセクションには頭があがりません。 斎藤:ババンギダ選手でテンションが上がったのは確かですね。起用の話が出た時は、正直今どこにいるかも分からない状況だったので、順調に契約できた時はほっとしました。少し余談になりますが、僕自身これまでウイイレでババンギダ選手に愛着を持っていたものの、本人の顔をしっかり見たのはゲームのデモが上がってゲーム内で見たのが初めてでした(笑)。今回のキャンペーンでババンギダ選手の顔を初めて知ったという方もきっと多いと思います。 —予想と比べて、Twitterキャンペーンの反響はいかがでしたか? 斎藤:ツイート数については、キャンペーン開始時と比べると落ち着いてきてはいるものの、予想以上の結果が出ています。特に今回のTwitterキャンペーンは弊社の海外支局でも注目されていて、「なんでうちにはこのキャンペーンの話がなかったの?」などクレームが来ているくらいです!実際、海外でもババンギダ選手を起用したキャンペーンを実施することが決まりました。 皆川:動画がバズったということだけで終わってしまうキャンペーンが多いかと思いますが、今回は、イベント、動画、Twitterキャンペーンがうまく相乗効果を発揮しいい流れができたと手応えを感じています。

<イベントのスポーツ紙面風フォトパネル>

変わっていくのは技術の進歩。対戦する楽しさは、これから更に大切に。
—最後に、この20年間を通して、変わらないこと・変わったこと・そしてみなさんにとって今後ウイイレがどのような存在になってほしいか、教えていただけますか。 斎藤:「みんなでつながって楽しむ」という魅力はずっと変わらないことだと思います。変わったのは、技術面の進歩ですね。より臨場感が出たり、選手がリアルになることで、ゴールを決めた時の快感やミスした時の悔しさなどは増していると思います。また今後という点では、やはりつながりを大切にしていきたいですね。無料版「ウイニングイレブンmyClub」が後押しとなって、ウイイレがきっかけで疎遠になってしまっている友達と久しぶりに連絡を取ったり、友達だけでなく、子供や奥さんともウイイレで遊んでもらえるようになったら嬉しいですね。また僕たちゲームを作る側とユーザーさんとのつながりも大切にし、ユーザーさんからの声を生かしてゲームも進化させていきたいと思っています。 緑川:対戦の形がオンラインになっていくなどはあるかもしれませんが、やはり人とのつながりが魅力という点は変わらないと思います。対戦についても、より多くの方に遊んでいただけるよう日々技術面を磨いています。実際、今年昨年と2年連続で欧州最大級のゲームショー・Gamescomの「ベストスポーツゲーム・アワード」を受賞しており、我々もいいものを作っていると感じています。あとはやはりより幅広いユーザーさんにウイイレの楽しさを知ってもらい、実際に遊んでもらいたいですね。以前はそれこそサッカー好きの人でないとプレイが難しかったりしましたが、今はゴール一つ決めるのもだいぶ操作しやすくなりました。今後は子供から女性を含めた大人まで、より幅広い層に遊んでいただけるといいですね。

株式会社コナミデジタルエンタテインメント 広報宣伝部 斎藤亘さん(右) 株式会社読売広告社 営業局 日髙茂樹さん(左) 株式会社読売広告社 統合プロモーション局 皆川壮一郎さん(中央)


ネットで噂の“レオパレス伝説”に言及。ダンスユニット・エグスプロージョンを起用した自虐コンテンツ

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Case: 動画『レオパレス伝説 エグスプロージョンVer.』
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。 今回は、株式会社レオパレス21によるウェブ動画『レオパレス伝説 エグスプロージョンVer.』を取り上げます。本動画は、『踊る授業シリーズ』で話題のダンスユニット、エグスプロージョンが、実際のレオパレスの物件を舞台に、部屋の壁にまつわる数々の噂をダンスとリズミカルな掛け合いでコミカルに解明していくというもの。 「“レオパレス伝説”に対する、当社からのメッセージです」と話す、株式会社レオパレス21 広告宣伝部 課長 中村景一さん、主任 大門一将さんに、制作の意図や撮影秘話を伺いました。
Interview & Text : 香川 妙美
ネットで噂の”レオパレス伝説”をあえてコミカルに表現
―まず御社のウェブ動画の取り組みは、どのようにスタートしたのでしょうか。 中村:2014年1月、ユーチューバーを起用し、当社のサービスを紹介するコンテンツからスタートしました。当時いろいろな会社さんから「これからは動画ですよ」という声が聞こえてきていたこともあり、その年の4月からは年間計画を立て、本格的な運用を開始しました。 ―今回のような、いわゆる“自虐コンテンツ”は、初めてではないとのことですが。 中村:そうですね。運用当初は、キャンペーンの告知やお部屋の特徴の紹介、ご利用者向けの情報など、比較的オーソドックスなコンテンツで展開していましたが、いつかはネット上の”レオパレス伝説”に対する当社からの返事を発信したいと思っていました。 この発想から生まれたのが、2014年12月に公開した『壁ドン女子』という動画です。当時、モデルのマギーさんが男性を壁ドンする写真をネット上にアップしたことが話題になったのですが、それをヒントに女子大学生の壁ドンを視聴者が疑似的に体験できる動画を制作しました。ちょうど、『レオパレス』=『壁ドン』みたいな揶揄をネットでされていたこともあり、回りくどいながらも気付いて反応してくれるユーザーがいるんじゃないかと考えました。 結果として、『Yahoo!映像トピックス』や、キュレーションメディア『ViRATES』などで取り上げられ、おもしろく受け取っていただいたという感触がありました。社内でも、「自虐コンテンツもいいね」と概ね好評で、「『壁ドン女子』の次は何するの?」と期待の声をかけられたりもしまして。そんな手ごたえもあり、この延長線上で、女優さんやユーチューバーを起用した動画を制作していくなか、YouTube上での再生回数が話題になっているエグスプロージョンのダンスで、”レオパレス伝説”を踊ってもらうという企画が立ちあがり、今回のクリエイティブへとつながっていきました。
まずは、“レオパレス伝説”の内容を精査。楽曲は人気シリーズの中からセレクト
―コンテンツは、どのようにつくりこんでいったのでしょうか。 中村:まずは、歌詞のベースにするために“レオパレス伝説”の中身を一つずつ確認し、フィーチャーする要素を決めていきました。曲は、「オリジナルでつくりたい」というお話を先方からいただいたのですが、「『本能寺の変』のように、ネットでバズっている曲をベースにしたほうがユーザーにも分かりやすくて良いのでは」と、お返事したところ、「だったら『ペリー来航』の曲を」とご提案いただき、楽曲の方向が固まりました。 その後しばらくしてエグスプロージョンさんの歌う音源が届いたのですが、それを聞いたときは正直少し心配になってしまいまして(笑)。「当初想定していたところに着地できるんだろうか」みたいな気持ちが一瞬よぎったんですけれど、キレの良いダンスと一緒になった映像を見た瞬間、かっこいいものになったと感じました。 ―撮影秘話を聞かせてください。 大門:振り付けは、もちろんエグスプロージョンさんによるもので、『ペリー来航』がベースになっているのですが、“レオパレス伝説”が出てくる部分は、ほぼアドリブです。しかも2回しか踊っていないんですよ。お二人がお互いにリクエストを出しあうなど、細かい部分は現場で決められていました。現場は和やかでしたが、お二人の真剣な様子がひしひしと伝わってきました。 また撮影場所は、当社の実際にある物件を使用しています。もちろんスタジオのような広さがあるわけではなく、エグスプロージョンさんとカメラの距離は3メートルほど。全体を映せる距離を確保するため、三脚の一部がベランダにはみ出るなど、スペース的にはかなりギリギリでした。なのに、カメラに映らないところにスタッフがたくさんいるから気持ちが落ち着かないようで、エグスプロージョンさんから「撮影場所にはなるべく人がいないでほしい」というオーダーが出て、スタッフの多くは隣の部屋のモニターで様子を見ていました。 ―ユーザーの反応はいかがでしたか。 大門:普段キャンペーン広告として動画をつくってもコメントは付きづらいのですが、今回はエグスプロージョンさんをフックに、たくさんのコメントをいただきました。ユーザーのリアルな反応を知れたのは良かったです。内容は、ダンスや歌詞に関するものが多く、なかには、「スニーカーを脱いで踊ってる」というファンならではの視点のものもありました。 数字を見ても、『壁ドン女子』が1年以上かけて16万再生回数に達したことに対し、今回は公開から約1か月半で23万回にのぼりました。さらにいうと、前回はTrueViewも活用しましたが、今回はすべてオーガニックによるものなので、良い結果になったと思っています。今回も『Yahoo!映像トピックス』に取り上げていただき、拡散に拍車がかかりました。
検索ページからネガティブな記事が減少。社内から喜びの声が
―動画による効果を感じている部分はありますか。 中村:ネットで、『レオパレス』と検索すると、予測検索に『伝説』と出てくるのですが、この組み合わせで検索すると、これまでは当社に対するネガティブな内容が表示されていたんですね。でも、今回のクリエイティブに関する記事がバイラルメディアから波及していくことで、“レオパレス伝説”がホットワードになり、結果として関連記事が検索の上位に出現するようになりました。 そうなると、ネガティブなものが必然的に下がり、閲覧者の目に留まりにくくなるんです。このため、風評による機会損失が減るんじゃないかと社内で喜ばれています。やはり検索1ページ目の強さというものがありますから。この例をとっても、ユニークな動画をコンスタンスに制作する意味はあると思っています。 ―ネットで書かれている噂に対し、当事者がアクションを起こすこと自体が珍しいと思うのですが、コミュニケーションで意識されたところはありますか。 中村:今回のクリエイティブに関しては、レオパレスに興味を持ってくださる方が増えることを前提に、表現をおもしろくしつつも、「レオパレスの壁は薄くないです」「良い部屋をご提供しています」というメッセージに落とし込めるよう意識しました。なかには“レオパレス伝説”をご存知でない方もいるので、当社自らが言及することへの懸念もありましたが、それよりも『エグスプロージョンとタイアップをしておもしろいことをやっている企業』と認識いただけるほうが、価値のあることだと思っています。 ―今後の動画施策として、どのようなことをお考えでしょうか。 中村:おもしろい動画が話題になることは、当社の認知度向上や理解にもつながっていくため、今後も大事にしていきたいと思っていますが、そればかりではなく社員の顔が見えるものをはじめ、入居者向けのイベントの模様、DIYの情報や料理のレシピといった、ご利用者の生活に役立つことも引き続き発信していきたいと思っています。レオパレスには、ただ住むだけではなく、いろいろな体験ができるという付加価値がありますので、『住んでからも住みよいレオパレス』と感じていただけるコンテンツをこれからもお届けしていきたいです。 動画もそうですが、やってみないとわからないことは多くありますので、今後も既成概念にとらわれず、さまざまなチャレンジを続けていきたいですね。また、今回のような事例を増やしていくことで、ユーザーにポジティブな印象を持っていただける企業を目指したいと思っています。

株式会社レオパレス21 広告宣伝部 課長 中村景一さん 株式会社レオパレス21 広告宣伝部 主任 大門一将さん

無印良品の商品で“TOKYO”を表現!台北、NYでのインスタレーションが実現するまで

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Case: 良品計画×&TOKYO「MUJI 10,000 shapes of TOKYO」
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。 今回は、東京観光財団による東京ブランド推進キャンペーン『&TOKYO』と株式会社良品計画によるコラボレーションプロジェクト『MUJI 10,000 shapes of TOKYO』を取り上げます。 世界一の観光都市を標榜する「TOKYO」のPRを目的に、東京都と無印良品がタッグを組んで行われた本企画は、東京タワーをはじめとする東京の建物や街並みを、400品目10,000点にもおよぶ無印良品の商品で表現し、海外都市でインスタレーションを行うというもの。3月5日~13日に台北、同19日~4月24日にニューヨークで開催され、それぞれに大きな反響を集めました。 本プロジェクトを担当した、dot by dot inc. Creative Director / COO 谷口恭介さん、同Planner 藤原愼哉さんに、企画が実現するまでの話を伺いました。
Interview & Text : 香川 妙美
世界共通のブランディングを実現する無印良品で、“スマート東京”をPR
―まずは本企画のきっかけをお聞かせください。 藤原:東京都は、2020年のオリンピック開催を視野に、2015年10月から『&TOKYO』のキャッチコピーのもと、世界に向けて東京ブランドを発信する活動をスタートしています。東京のライフスタイルや、東京のカルチャーによって育まれたブランドを通し、“スマートな東京”をPRしていくとのことで、そのイメージを国内外において高いレベルで実現している良品計画さんに、白羽の矢が立ったのが発端です。 当社への打診は、去年の7月ごろ。元々お付き合いのあった良品計画さんから声をかけていただきました。 ―良品計画社とのコラボレーションにより東京観光財団が打ち出したいイメージとは、具体的にどのようなものでしょうか。もう少し詳しく教えていただけますか。 藤原:まず、無印良品というブランドを選択する意識がとても日本的なんですよね。たとえば収納用品なら、まず大きな箱があり、その中に中箱が入って、さらに小箱が入る、といった具合にとても機能的にデザインされています。このことが海外の人には驚きらしく、世界中にたくさんの無印良品ファンがいる所以でもあります。さらに言うと、海外、特に欧米はもともと家のサイズが大きいので収納という意識自体があまりなく、ガレージにどさっとまとめて置くような文化です。つまりは、きれいに小分けする必要が無いんですね。 一方、日本は限られたスペースに、いかに多くのものを収納するのか、また外から見えたときにどれだけ美しくまとまっているのか、という視点で整理整頓をする習慣が根付いています。その過程として、いらないものは処分し、いるものはきちんと片付けるといった作業があるわけですが、そうした必要最低限なものだけで生活していく日本のスタイルが、海外では禅的なものとして伝わっているみたいで。 実際に無印良品も、“コンパクトライフ”というものを提唱していますし、東京観光財団さんは、そんな無印良品のイメージを東京のPRにトレースできれば、と考えたようです。 ―今回のインスタレーションが決定するまでの流れをお聞かせください。 藤原:コラボレーションに至った経緯もあり、当初は、“コンパクトな収納を実現するプロジェクト”に焦点を絞って企画を立てていたのですが、良品計画さんから「プロダクトプロモーションは意識していない」という声が挙がり、であれば無印良品の商品を使って東京を表現するという大枠で検討しようということになりました。 また、都の窓口である東京観光財団さんから、「北米とアジア圏の店舗でイベントや展示を行うアウトプットにしてほしい」とオーダーがありましたので、お店の構造を活用した企画を考えるなか、ニューヨーク・「MUJI TIMES SQUARE」店のガラス壁を活用する案が出てきました。外に向けて商品をディスプレイし、離れて見ると東京の街並みに見えるという、いわゆるモザイクアートのような企画です。 ただ、日本でいう消防法のような問題やビルオーナーの許可が下りないなどの理由から実現が難しいことが分かりました。そうこうしているうちに、無印良品の北米における旗艦店となる「MUJI Fifth Avenue」店が10月にオープンすることになり、PR的にもインパクトが大きいからと、こちらの店舗で実施する方向になっていったので、11月に現地調査へ出かけ、改めて企画を検討しました。その結果、壁面ではなく立体で展開することが決まり、こうして素案が出来上がっていきました。 ―企画を提案した段階で、全容も固まりつつあったのですか。 藤原:その時点では、まだ漠然としていましたね。というのも、「東京のイメージってなんだろう」という疑問が、誰もの頭にもたげていたんですよ。海外の人が見たときに、「東京だね」と思ってもらえる象徴めいたものがまだ確立できていなくて。なので案として、浮世絵風のもの、タイポで『TOKYO』と書いたもの、東京タワーのある夜景など、色々提案しながらどのように見せていくのかをかなり考えました。 最終的に決め手となったのは、東京観光財団さんがお持ちの海外ツーリストのデータでした。「東京のなかで一番印象に残ったもの」「東京と聞いてイメージするもの」「東京で行きたい場所」など、いろいろな項目があるのですが、いずれも1位が東京タワーだったんです。また、ネットで『東京』『TOKYO』と検索して上位に出てくるのも東京タワーが最も多く、これらから東京タワーをメインにすることで、三者のコンセンサスが取れ、ようやく方向性が固まりました。
iPadで撮影した商品画像を切り取ってモックアップを作成
―実際の制作過程についてお聞かせください。ジオラマはどのように完成していったのでしょうか。 谷口:現地調査のフェーズから株式会社TASKOさんに全面的なご協力を仰ぎました。ジオラマには東京のさまざまなエリアが詰まっているのですが、配置にあたり東京の地図の上に線を引き、どのエリアをピックするのかをTASKOのKIMURAさん、北澤岳雄さんが中心になって設計し、そのうえでエリアごとにフォーカスするものを決めていきました。また、ジオラマに使う商品の選定は、実際に全商品を見るところから始めました。 無印良品に並ぶ一つひとつの商品をKIMURAさん、北澤さんがiPadで撮影したりスケッチしたりしたのですが、次にその画像を切り抜いて並べ、「PPボックスを積み上げたらビルに見えるよね」「東京タワーなら赤ペンのリフィルが骨組みのように見えるんじゃないか」といったように街らしく見えるものをデザインしていってもらいました。それを基にどういうものができるのか一旦モックアップをつくり、ある程度の目星がついたら次の東京らしい建造物を選んで、それを見ながらまた商品を組み合わせていくという作業の繰り返しです。 藤原:制作は現地視察から帰国後すぐの11月からスタートしましたが、全体像が見えたのは2月の前半あたり。現地への配送は2月20日ごろでしたので、ぎりぎりまでこの繰り返しの作業を行ってもらいました。今回は限られた時間のなかでのつくり込みが、そのままクオリティとして出る作品になりましたので、TASKOさんが、ジオラマのデザインと組み立ての繰り返しに使った時間とクラフトに対するアイディアが一番の成功のポイントになりました。 ―配送も大変だったのではないでしょうか。 藤原:そうですね。はじめは、現地の店舗にある商品を使って制作できれば、と考えていたのですが、やはり商品の量も種類も日本のほうが多いですし、向こうでジオラマをつくるにも時間がかかりすぎることから、日本で組み立てたものを送ることにしました。ただ、そのまま送ると輸入扱いとなり商品代と別に関税がかかってしまうので、ATAカルネを使い、展示物として送ったものをそのまま戻すという運用を行いました。
商品をそのまま使うことで、無印良品のデザインの美しさを訴求したかった
―制作するうえでのこだわりがいくつかあったとのことですが。 藤原:はい。無印良品の商品は計算された均一なデザインのものが多く、積み上げたり、重ねたり、並べたりするだけで、まるで設計された建造物や計画された都市のように見えてきます。配置だけで表現できるというのが無印良品の商品の美しさであり、そのものであることを感じ取ってもらいたかったので、原則、商品は加工ぜず、そのまま使いました。 谷口:あとは、ご覧になった方がシェアしやすいようにという意図もあるのですが、エリアごとに撮影ポイントをしっかりつくることで、どこを切り取っても画になるよう構図を意識した制作を行っています。

[ニューヨークにて]

―インスタレーション先として、台北、ニューヨークを選ばれた理由を教えてください。 藤原:まず、台湾ですが、無印良品にとってビジネスの拠点という観点でいえば、中国が日本に次ぐ商圏にあたるのですが、台湾は無印良品というブランドの培われかたが、スタッフの意識を含めて日本同様に浸透しているんですね。たとえば、昔の広告クリエイティブをちゃんと管理していたり、スタッフが日本語を勉強していたり。 そういったブランドを深く理解しようという姿勢や精神が無印良品ブランドを発信していく場としてベストではないかという結論になりました。もちろん親日であり、日本を訪れる観光客が多いからという側面もあります。また、ニューヨークは、北米を管理する『MUJI U.S.A LTD.』の拠点がニューヨークということもあり、自ずと決まっていきました。

[台北にて]

―インスタレーションの実施にあたり、PR活動はされたのでしょうか。 藤原:今回は、海外向けのプロモーションなので、外国メディアを中心にムービーとプレスキットをつくって配信しました。30媒体くらいに取り上げていただいたのですが、大きなデザイン系メディアをはじめ、いくつかのキーメディアに掲載されたことで、そこから一気に拡散していきました。ムービーの再生回数が公開1週間で50万に達するなど、反響は顕著に出てきました。
台北は自作マップ。ニューヨークはキャンペーン開催。インスタレーションをそれぞれがバックアップ
―開期中の台北、ニューヨークそれぞれの様子はいかがでしたか。 谷口:台湾の店舗は、目の前の通路を1日70万人くらいが通る非常に良い立地ということもあり、ものすごく好評でした。さらには、スタッフがナビゲータとしてジオラマ付近に常駐し、自作のマップまで用意してくれていたので、そこからコミュニケーションが生まれたりと、すごく賑やかでしたね。ジオラマを見ながら、お父さんが子どもに説明する姿もありました。 また、ニューヨークでは、インスタレーションに合わせて、Instagramでキャンペーンを開催しました。『#mujitokyo』のハッシュタグをつけてシェアすると、東京のマップがプリントされたハンカチがもらえるというものですが、2000件以上の投稿が見られました。 両開催とも足を止めてじっくり見ていく方が多く、なかには日本フリークなのか2~3時間滞在する方もいらっしゃいましたね。ディティールにこだわったつくり込みをしていますので、見る方に発見という感動や驚きを提供できたことが何よりでした。ちなみに、ニューヨークでは、ジオラマに折り鶴を置いていかれた方がいて印象に残っています。創作意欲が駆り立てられたのでしょうかね。クラフトの楽しみを提案できたような気持ちになり、うれしかったです。

[ニューヨークにて]

―手応えとしては、いかがでしょうか。 藤原:東京観光財団さんも、当初パートナー企業とどんな協業に結び付くのかイメージが追い付いていない部分があったようでしたので、その反動もあり完成物のクオリティから受けた感動は大きかったみたいです。また、数字的な部分を検証しても、掲載メディア数をはじめ、ハッシュタグの数、SNSのシェア数、映像のビュー数など、手応えは十分です。実際にご覧になった方の感想をSNS等から見ていても反響をひしひしと感じています。

(左奥から順に)株式会社良品計画 風間公太さん、株式会社良品計画 川名常海さん、dot by dot inc. 谷口恭介さん、株式会社TASKO 坂田亮一さん、株式会社TASKO 加藤小雪さん、株式会社TASKO 佐々木香菜さん、株式会社TASKO KIMURAさん、dot by dot inc. 藤原愼哉さん、株式会社TASKO 北澤岳雄さん、株式会社TASKO 二村俊和さん、株式会社良品計画 鎌田健史さん

プロ野球チームとスポンサー win-winの関係を生み出した「バファローズポンタ」Twitterの舞台裏

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Case: ロイヤリティ マーケティング「バファローズポンタ」
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。 今回は、株式会社ロイヤリティ マーケティングによるTwitterアカウント「バファローズポンタ」を取り上げます。共通ポイントサービス「Ponta」の運営元であるロイヤリティ マーケティングが、プロ野球 オリックス・バファローズのスポンサーとなり、キャップへのキャラクターとロゴの掲示のみならず、Twitterアカウントも開設。 そのTwitterアカウント上で繰り広げられるキャラクター「バファローズポンタ」の喜怒哀楽豊かな表情が話題を呼び、現在のフォロワー数は開設一ヶ月強程度で50,000人超え。キャラクターの人気上昇や、「Ponta」サービス自体にも繋がったのでしょうか?「バファローズポンタ」のプロデュースをしている、株式会社ロイヤリティ マーケティング コミュニケーション本部 ブランディング・コンテンツ部 アシスタントマネージャー 奥山 珠里さんにお話を伺いました。
Interview & Text : 市來 孝人
ファンの皆様と一緒にバファローズを応援していこうという気持ちを伝えていきたい
—奥山さんが所属している部署では、元々どういった業務をご担当されているのでしょうか? Pontaポイントのサービスの宣伝・ブランドを統括している部署です-。その中でキャラクターの宣伝も担当していて、通常のポンタの公式Twitterや、ポンタを起用したイベント、協賛なども担当しています。 —オリックス・バファローズのスポンサーとなった経緯を教えて頂けますか? 元々オリックス自動車さん、オリックスクレジットさんといった、オリックスグループのPonta提携企業があったことが、スポンサードのきっかけです。オリックス・バファローズには今年からキャップスポンサーとして関わっています。昨年11月のファン感謝イベント「Bs Fan-Festa 2015」にてポンタのマークが入ったキャップがお披露目されたのですが、プロ野球チームのキャップにキャラクターが出るというのもなかなかない事例で、ファンの方の中では驚かれた方も多かったようなのです。 弊社としてはファンの皆様と一緒にバファローズを応援していこうという気持ちを伝えていきたく、キャップに登場するだけではなくプロモーションの計画を立てることにしました。その中の一つが今回のTwitterです。
—「バファローズポンタ」ほぼ毎試合画像つきでツイートされているので、やはり気になるのは画像がどのように準備されているのでしょうか?という点ですが… 戦況に合わせて描いているものが多いです。勝ったときは思いっきり喜んで、負けたときは思いっきり落ち込んで…ファンの方がその試合を見てどう思っているかなということを考えながらイラストに落とし込んでいます。勝ったときも負けたときも出来るだけ喜怒哀楽を表現しているので、通常のポンタのTwitterよりは振り切った表情のイラストが多いですね。
—アカウント開始直後に連敗が続いて、悲しい表情のツイートが多く、ネットニュースでも「不憫」と話題になっていた中でのサヨナラ勝ち。この時のフォローやRTの伸びはすごかったのではないですか? 元々アカウントが出来てからの初ホームランや勝利は盛り上げたいと思っていたので、初ホームランについては「ホームランが出たらアップしよう」と前々から思っていました。また「サヨナラ!」については、サヨナラ勝ちを見て急きょ用意しました。このサヨナラ勝ちツイートは7分で6,000RT(現在約14,000RT)、その時のTwitterトレンド6位・画像検索で1位、Yahoo!トレンドで2位となりましたが、この反響には驚きました。またネットニュースでも多く取り上げて頂きましたが、キャラクター自体がニュースになることはあまりなかったので、嬉しかったですね。
社内にカレンダーを用意して、バファローズの勝敗を共有
—プロ野球のシーズンはまだ序盤ですが、今後の展開についてもお聞かせ下さい。 もっとバファローズポンタが球場に行けたらという話も進めているところです。またグッズについてもLINEクリエイターズスタンプや、ぬいぐるみ、スマートフォンケースなどを発売予定です。 弊社内でも毎試合楽しんで見させて頂いています。実は社内でもカレンダーに勝敗をつけていて、社員みんなが現在の状況を分かるようにしています。 —実際にポンタ本体への反響などもありましたか? 元々ポンタは共通ポイントサービスのキャラクターなので、いわばサービスのアイコンとしての認識が強かったと思うのですが、喜怒哀楽を入れることでキャラクターへいっそう愛着をもって頂き、バファローズさんや弊社のことも知って頂ければと思っています。実際に「ポンタのLINEスタンプを買った!」、「Pontaカードを作りに行った」、提携社さんで「買い物に行った」というコメントをTwitter上で見ることも増えています。

「泣ける」の声続出!1,000万再生の共感を生んだ“空港で人生ゲーム”が実現するまで

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Case: 株式会社タカラトミー ウェブ動画『人生ゲーム「人生に驚きと歓びを」篇』
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。 今回は、株式会社タカラトミーのウェブ動画『人生ゲーム「人生に驚きと歓びを」篇』を取り上げます。国産ボードゲームの大定番である『人生ゲーム』。その中での出来事が実際に起こったらーー。 舞台は空港の到着ロビー。前半は『人生ゲーム』の黄色いマス目が装飾されたベルトコンベアから荷物を受け取る人たちにサプライズが起こるユニークな展開が続きますが、後半は一転、成人式を迎えた娘さんと両親による涙と感動のストーリーに。 「笑いから入って最後は泣ける」「おもしろいはずが、電車の中で泣いてしまうはめに」のコメントのとおり、観る人の期待を鮮やかに裏切る本クリエイティブの誕生秘話を、株式会社タカラトミー 次世代マーケティング室 WEBマーケティング課 担当課長 竹川洋志さん、株式会社オプト オンラインビデオアドソリューション部 チームマネージャー 伊藤弘明さん、同クリエイティブディレクター 松本康成さんに伺いました。
Interview & Text : 香川 妙美
ロングセラー商品の鮮度を出す取り組みとしてのウェブ動画
―タカラトミー社には、たくさんのプロダクトがありますが、今回そのなかから『人生ゲーム』をフィーチャーした理由をお聞かせください。 竹川:当社は、『人生ゲーム』をはじめ、『黒ひげ危機一髪』『リカちゃん』など、誰もが遊びかたを知る玩具を長く売ることを得意としています。その反面、それぞれの商品の新しさを出しづらいという課題もあることから、鮮度を出す取り組みを行っています。今回は、『人生ゲーム』に焦点を当てることに。4月に新しい盤を発売しており、ティザー的な側面もありました。 近年、スマートフォンや携帯型ゲーム機など、一人で楽しむゲームが台頭していますが、顔と顔を突き合わせて賑やかに楽しむボードゲームの良さを改めて訴求したい思いもあります。 ―その鮮度を出す手法として、動画を選ばれた理由を教えてください。 竹川:OOHメディアやイベントを活用したものでもよかったのですが、新商品のティザー的な役割を果たす手法として、拡散力の高い動画が最適と考えました。そこで、『人生ゲーム』の代表的なモチーフを演出の鍵に、ユーザーの共感を呼ぶクリエイティブをオプトさんにお願いしました。 ―このオーダーをもとに、オプト社が提案したクリエイティブは、どのようなものなのでしょうか。また、提案したときのタカラトミー社の反応はいかがでしたか。 松本:タカラトミーさんからの要望を踏まえ、まずはリアルイベント型の企画にフォーカスして考えていきました。そんななか、荷物受け取りのベルトコンベアが『人生ゲーム』のマス目を連想させること、いろいろな人の人生が交錯する場という視点から、空港を舞台にした企画にたどりつきました。また、空港自体が動画の舞台としてドラマ性のあることも決め手の一つになりました。 最初は竹川さんに向け、他の案と一緒に提案したのですが、「空港という既存の場所に、違った価値を与えて遊んでいる感じがいいですね」とおっしゃっていただきました。タカラトミー社内でもこの案が好評とのことで、わりと早めに企画案を決定していただきました。 伊藤:また、プロモーションに対する方針として、能動的な視聴を促進するためのメディア選定や拡散しやすい層へのターゲティング手法についてお話したところ、「デジタルならではの考えかたで、目から鱗です」とおっしゃってもいただけました。 以上のように、当社の提案内容を前向きに考えてくださいましたので、本企画のパートナーとして一緒に熟考し作り上げていくことができた点も大きく、提案に賛同いただけました。 ―撮影現場の雰囲気はいかがでしたか。 松本:実は空港の撮影可能時間が5時間しかなく、その時間内に美術の仕込みから撮影、撤収まで終えなくてはならなかったので、かなり慌ただしい雰囲気でした。撮影中もスタッフサイドは撮り直しができない一発勝負の緊張感に溢れていましたが、サプライズを受ける人々は楽しげだったこともあり、現場はいろいろな感情の混じり合う、とても変わった空気が漂っていました。 ―こだわった点、苦労した点はありますか。 松本:まず、こだわった点ですが、サプライズを受ける方になるべくカメラの存在を意識させないよう、ベルトコンベアに『GoPro』の小型カメラを仕込み、リアルな表情を捉えることに注力しました。編集時も、手持ちカメラマンが映り込んでいるカットはなるべく使用せず、視聴者に作り手の意図を感じさせないようにしました。 そして、これは苦労というよりも不安だった部分なのですが、「ちゃんと撮り終えることができるのか?」「最後の親子のサプライズは成功するのか?」。この2点がずっと気がかりで。撮影1週間前から不安で眠れない日もありましたが、スタッフの尽力もあり、当日はすべてが予想以上にうまくいったので、久しぶりに熟睡することができました(笑)。 竹川:台本があったり演じたりしていただいたわけではないので、撮っているときは本当にドキドキでしたよね。ただ、これだけのものを作っていただくための準備と仕込みは、隅々までやっていただきました。リアリティにとことんこだわったスタッフの皆さんの努力に感謝です。
動画からいくつもの要素を抽出し、ターゲットごとに共感ポイントを設定
—動画を広めていくにあたり、PR面ではどのように動かれたのでしょうか。 伊藤:今回は、視聴された方の「誰かに伝えたい」という気持ちを喚起したいと考えていたので、動画コンテンツとしてうまく流通させることを意識し、SNS上で話題になるための仕掛けをいくつか用意しました。具体的には、拡散しやすい層への広告ターゲティングや、メディア特性を踏まえたアプローチです。動画は一つですが、そのなかにはサプライズや成人式、結婚式など、さまざまな要素が詰まっています。ただ、年代ごとに共感ポイントが異なりますので、ターゲットに合わせて打ち出す部分を決め、その文脈が流れていくように設計していきました。この結果、公開から短期間のうちにSNSをはじめとするウェブ上に多くのクチコミが生まれていきました。 情報洪水ともいわれる現代ですから、短期間のうちにいかに広く拡散できるのかを注視し、公開に合わせてプロモーションを集中投下する施策が功を奏しました。 —メディアへの出方としては、予想どおりでしたか。 伊藤:出方は予想どおりでしたが、数は予想以上でした! 動画が拡散するポイントを押さえたことで、アプローチをしなかったメディアにも取り上げていただけましたし、その効果もあり、オーガニックでの閲覧が全体の約5割を占める結果となりました。 さらには、人気ユーチューバーのはじめしゃちょーさんや、『w-inds』の緒方龍一さんら著名人がコメントやツイートをしてくれたことにより、その方たちのファンを中心に広く波及していきました。その効果は非常に大きく、単純な広告展開以上の成果が出ました。
成功の要因は、クリエイティブに特化したつくり込みと共感を念頭にしたコミュニケーション
―1,000万回以上という驚きの再生回数ですが、ここまで話題化できた要因を何だとお考えでしょうか。 竹川:まず、商品訴求ではなく共感を呼ぶクリエイティブに振り切れたことが挙げられます。『人生ゲーム』を知らない方はほとんどいらっしゃらないので、クリエイティブに特化した作り込みができたことは幸せでした。さらには、オンリーワンのプロダクトなので、どこかと比べたり工夫を割いたりする必要もなかったですし。 伊藤:そこは大きかったですよね。認知度が90%以上というネームバリューを布石にすることで、クリエイティブ表現の幅が広がりました。 松本:クリエイティブ的には、「人生ゲームを空港でリアルにやってみた」という"無邪気な遊び心"と、最後のサプライズでの小室さん家族の"感動的な親子愛"が共感されたからだと思います。また、そうした「遊び心」や「感動」への共感だけではなく、「人生ゲーム」という商品やブランドへの好意とともにクチコミされた点は、非常に嬉しかったですね。 伊藤:動画のクオリティと入念なプロモーション設計も貢献しました。また、拡散の観点でいえば、配信を開始したのが1月8日で、人生ゲーム需要期であるお正月や動画ネタでも活用した成人式付近で、トレンドを加味したプロモーションタイミングであったことも良かったです。 —タカラトミー社内での反響も大きかったのではないでしょうか。 竹川:ええ、非常に大きかったです。「ワクワク」を提供できるのはおもちゃ会社の醍醐味なので、商品以外でそういったことができたことに喜んでくれた社員が多くいました。数字的にも昨年対比百数十%の売り上げで推移しており、結果がともなったことも何よりでした。 ―とはいえ、数年ぶりの新盤を控えたなかでの施策のため、現行商品の売れ行きが新商品に影響するのではという懸念はありませんでしたか。 竹川:旧盤は旧盤の、新盤は新盤のおもしろさがそれぞれあります。そもそも「新盤だから買う」というタイプの商品ではないので、その点の懸念はありませんでした。 —今回得たノウハウは、タカラトミー社内で今後どのように活用されていくご予定ですか。 竹川:まず、短期的には動画で得た“届いたお客様のセグメント”に対して告知を濃くしながら、ソーシャルを活用したプレゼントキャンペーンを実施しています。その結果も検証しながら、今後のPDCAを回していきたいと思っています。 新しいメディアや手法にトライする機運は高まっていると感じていますので、今後も関連セクションと連携のもと、しっかりと効果検証を行い、実を結ぶ施策のノウハウを蓄積したいと思っています。

株式会社タカラトミー 次世代マーケティング室 WEBマーケティング課 担当課長 竹川洋志さん(左) 株式会社オプト オンラインビデオアドソリューション部 チームマネージャー 伊藤弘明さん(中) 株式会社オプト オンラインビデオアドソリューション部 クリエイティブディレクター 松本康成さん(右)

lyrical school “スマホジャック” MV 企画チームに聞く舞台裏と縦型動画の未来

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Case: lyrical school「RUN and RUN」
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。 今回は、6人組ヒップホップアイドルユニット「lyrical school(リリカルスクール、以下リリスク)」の新曲「RUN and RUN」のミュージック・ビデオ(MV)を取り上げます。2015年4月27日メジャーデビューシングルの発売に向け、4月5日にMVが発表されるやいなや、瞬く間にSNSなどで拡散され、大きな話題を呼びました。「スマホで見てほしい」と口コミされるこのMVは、スマートフォンでの鑑賞を想定した縦型の動画となっています。スマホのロック解除画面、着信画面、カメラ画面、ビデオ通話、Twitterのタイムライン、vine、vimeoなどのアプリケーションを行き来しながら曲が流れ、メンバーが登場する仕掛けとなっており、まるで自分のスマートフォンが勝手に操作されているような錯覚を覚える内容となっています。 これまでにない革新的な縦型動画の「スマホジャック」により、大きなバズを巻き起こした本MVの制作メンバーである株式会社TBWA HAKUHODOのクリエイティブディレクター近山知史さん、アートディレクター河野吉博さん、コピーライター荒井信洋さん、コピーライター髙橋律仁さん、インタラクティブプランナー栗林和明さんにお話を伺いました。
Interview : 市來 孝人 / Text : まきだ まどか
始まりは、縦型動画の「決定版」を作りたいという思いから

RUN and RUN / lyrical school 【MV for Smartphone】 from RUNandRUN_lyrisch on Vimeo.

―今回のアイデアは、どのようなディスカッションを経て生み出されたのですか。 近山:縦型MVは2015年頃から出始めてはいたのですが、「これぞ、縦型動画決定版」といえるようなものはまだありませんでした。これをチャンスととらえ、誰も見たことがないような新感覚の動画を作ろうという考えから今回の企画は始まっています。ここにいるみんなでアイデアを持ち寄って企画を作り上げていきました。 ―最初の段階では、具体的にどのようなアイデアが挙がったのですか。 近山:TwitterなどのSNSのユーザーインターフェースをプリントアウトし、それを使って撮影をすることで、アナログ感覚のSNSができるのではないかというアイデアが挙がりました。実際にテスト撮影をしてみておもしろかったので、これをベースに何か作れないかという話になったんです。 その次の打ち合わせで、荒井さんがいろいろなアプリやスマホの機能を映像に活用して、メンバーがアプリ内に登場するのはどうかというアイデアを持ってきてくれました。普段自分たちが使っていて見慣れているスマホ画面やアプリを使って制作することで、勝手にスマホが操作されているように錯覚し、今自分が何を見ているのか分からない感覚に陥るようなMVにできたなら、縦型動画の決定版としてぴったりくるのではと思いましたね。
実際のSNSを使って生まれたリアルさ、没入感
―具体的に撮影はどのように進んでいったのですか。 荒井:今回の撮影については、大きく2種類に分けられます。リリスクのメンバーがSNSなどに登場する中の素材を撮る撮影と、スマホの画面そのものを撮るキャプチャーの撮影です。今回のMV制作で重要なのは、後者の撮影でした。ツイートの投稿やメールのやりとり、スマホ画面にポップアップのメッセージが出てくるタイミングを曲と合わせながら撮影しなければならなかったので、かなりの時間をかけて撮影しました。 栗林:キャプチャーの撮影は、実際にリリスクのメンバーのTwitterアカウントから投稿させてもらっているのですが、たくさんのスマホを用意して、リズムに合わせてすごいスピードで端末から端末へ移動して投稿しました。少しでも間違えたら全てやり直しです。 髙橋:歌とのタイミングを合わせないといけないので、今回のMV制作では、相当緻密に計算し尽くしてから撮影に臨みました。通常のMV撮影やCM撮影では、尺を緩く撮って、後で編集をすることが多いのですが、今回のMVでは厳密にそれぞれのシーンをはめ込んでいかなければならなかったので、現場での撮影にはかなりの時間を割きました。すこしでもあやふやなところがあると成り立たなくなるので、その度に制作メンバーで話し合うなど、とにかく緻密さが必要な現場でしたね。 近山:編集頼みにせず、計算し尽くして撮影をしたからこそ、自分でスマホを操作している感覚に近付けることができたのだと思います。編集を加えれば加えるほど、作りものになってしまい、リアルさからは離れていきます。 荒井:いわゆる画面繋ぎで構成されているムービーは、イラストレーターなどで画像を組み合わせ、ほぼアフターエフェクトで編集されているのですが、今回は、その方法を取りませんでした。あたかも自分で操作しているような感覚に陥るスピード感と没入感は、自分たちで実際にスマホを操作して撮影しているからこそ生まれたものだと思います。細かいタイプミスや、一瞬のタイプの遅れなどもそのまま画面の中に表現されていることで、見ている側がいつも打ち込むときの感覚により近付いています。 河野:僕は、映像のカラーコレクション(映像の色彩を補正する作業)を担当しました。スマホが勝手に操作されているかのような没入感を演出するため、今回は白背景での撮影をしています。無駄な要素を排除し、できるだけ映像内の要素を少なくすることで、没入感を増大させています。
見た人のシェアしたくなる「驚き」を呼び起こし、バズを巻き起こした
―MV発表後すぐに再生回数が伸び、急速な勢いでバズにつながりました。周りからの反響はいかがでしたか。 近山:何もPRをせずリリースしたにもかかわらず、リリース後、一気にTwitterのタイムラインが埋まり始めたので、驚きました。シェアされ続け、一晩でTwitterのトレンドランキング1位となりました。企画段階から出ていた「スマホジャック」という言葉や「こんなの初めてだ」という驚きの声が大量に自然発生していましたね。 髙橋:SNSで動画などをシェアするときって、コメントを添えますよね。中身に触れたり、ネタに触れたりすることが多いと思いますが、今回は「やられた」という声がとても多かったんです。広告業界、音楽業界、映像業界の方々が注目してくださっていて、先を越されたという感覚になった方が多かったようです。 荒井:拡散のスピードの速さも爆発的に広まった要因になっていると思います。動画を見ているその場で、そのまま画面を友達の方に向けてシェアできるスピード感が重要です。Twitter上のシェアとともに、そのときすぐ横にいる人へのシェアもされたからこそ、広がるスピードがさらに増したのだと思います。 近山:一番のポイントは、拡散してくれている人たちがまわりの人たちを驚かせたいという感覚でシェアしてくれたことだと思います。「絶対スマホで見て」とコメントを添えてシェアしてくださいました。スマホ視聴専用の動画にしたことがインパクトを高める上ではよかったのだと思います。
「スマホジャック」という縦型動画のひな型を作れたのでは
―名前もまだ知られていないアイドルグループのメジャーデビューMVとしては、大成功といえるのではないでしょうか。 栗林:ファンの方がとても喜んでくれました。MVが話題になったことで、あの話題のリリスクだから聞いてみてと、周囲に広めやすくなった側面もある気がしています。 荒井:通常は、アイドルのMVってなかなか周りの人には広めにくいんですよね。アイドルがどれだけかわいいかという論点になるため、なかなか見せづらいものです。そういったシェアしづらいという現状を打ち破ったのが今回のMVでした。噂にしやすいものになったので、ファンの方々が周りの人に広めやすくなったんです。 ―大きなバズを起こした今回の縦型MV。縦型動画の未来についてどのようにお考えでしょうか。 近山:今回のこの縦型MVは「決定版」である必要がありました。中途半端にせず、考えうることは全部やり、縦型動画のひとつのひな形を作ることで、その後で真似ができないようなものにしようと考えたんです。このMVが出た後で同じようなアイデアの動画を作っても、パクりとみなされてしまいますからね。 とはいえ、縦型動画の表現は、今後もブラッシュアップされていくと思います。僕たちは今回のMV制作を通して「スマホジャック」という新たな感覚を作り出しました。しかし、これだけが正解ではありません。まだまだ面白い縦型動画が生まれてくる可能性を感じています。

株式会社TBWA HAKUHODO クリエイティブディレクター近山知史さん(右から1人目)、アートディレクター河野吉博さん(右から5人目)、コピーライター荒井信洋さん(右から4人目)、コピーライター髙橋律仁さん(右から3人目)、インタラクティブプランナー栗林和明さん(右から2人目)

2000号分の表紙で表参道駅をジャック!10代〜70代の心に響いた「ananアーカイブ展」とは

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Case:通巻2000号記念キャンペーン「ananアーカイブ展」
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。 今回は、株式会社マガジンハウスが、総合女性誌『anan』が通巻2000号を迎えたことを記念して、2016年4月11日〜4月17日 東京メトロ表参道駅構内にて開催した「ananアーカイブ展」について取り上げます。創刊から46年間分の表紙を振り返るアーカイブ展開催の経緯から、予想を超える反響、そしてSNS上での意外な盛り上がりまで、株式会社マガジンハウス マーケティング局 宣伝プロモーション部 宮下明久さんにお話を伺いました。
Interview & Text : 坂巻 渚
現在の読者から創刊当時の読者まで。46年間の歴史を沢山の方に伝えたい。

<1970年の創刊号の表紙>

— まず、「ananアーカイブ展」開催の経緯からお教えいただけますか。 宮下:『anan』は今年の4月に、「週刊女性ライフスタイル・総合誌」としては初めて、通巻2000号を迎えました。初めは、2000号の販売促進のために読者招待のイベントなども検討していましたが、せっかくこれまで長い歴史を築いてきた雑誌なので、一部の方をイベントに呼ぶだけではなく、もっと沢山の方に楽しんでいただけるような企画にしよう、と考えたのが始まりです。創刊から46年ということを考えるとこれまでの読者の年齢層は幅広く、下は10代から上は70代位の方までいらっしゃるんです。今の読者の方に『anan』の歴史を知っていただくことはもちろん、以前読者だった方に久しぶりに『anan』を思い出してもらったり、まだ読んだことのない方にも興味を持ってもらえるような、幅広い層にアプローチできる企画ということをキーとして考えました。 — 表紙のアーカイブを展示するというアイデアには、どのように辿り着いたのですか? 宮下:もともと2000号の誌面で表紙のアーカイブ特集をすることになっており、その特集が元になっています。実際表紙を並べてみると、当時流行していたファッション、ライフスタイルから当時一斉を風靡したアイドルまで、その時代の特徴が見えてきて結構面白いんですよね。これを人通りの多い場所で展示したら、幅広い年齢層の方に興味を持っていただけそうだと感じ、割とすんなり今回の企画が決まりました。本誌と連動することで雑誌の販売促進にもなりますしね。インターネットが普及し、雑誌を読む人が減ってきている中で、改めて雑誌の良さを感じてもらう機会にもなればと思いました。 — 企画が決まってから、アーカイブ展を実現される上で苦労されたことはありますか? 宮下:まずは、表紙が全て揃うのかという点が心配でしたね。ただしっかりと担当セクションが、時系列で綺麗に表紙を保管してくれていたのでかなり助かりました。今回の企画は表紙がないと成り立たないので(笑)ただ2000号のうち、約1600号分はデジタル化されておらず、最初は表紙をデジタル化することから始まりました。 — 2000号となると、表紙の並べ方やサイズを決めるのも大変そうですよね。 宮下:そうですね。スペースが限られているものなので、代理店の方にもご協力いただきながら、図面を作って配置を考えていきました。並べ方は基本的に時系列にしましたが、サイズについては時代時代で話題になったものやユニークな表紙のサイズを特別大きくするなどしてバランスを考えました。最近はタレントさんの表紙が多いのですが、昔はイラストの表紙があったりと今とは表紙のテイストもだいぶ違いましたね。

<「ananアーカイブ展」の展示風景>

懐かしさに、アイドルに。様々な目的で賑わったアーカイブ展。
—展示期間中、通行者の方々の反応はいかがでしたか? 宮下:立ち止まって熱心に見てくださる方が多くて驚きました。面白かったのが、年代ごとの表紙の所に、当時の読者と思われる方が立ち止まっているんですよね。創刊して間もない頃の表紙の辺りだと、60代、70代くらいの方々です。年齢層が上の方にアプローチするのは難しいと思っていたので、「懐かしい、昔読んでいたわよ。」などと、一つ一つじっくりと見てくださっている様子は嬉しかったですね。 あとは、アイドルが表紙の辺りはかなり人気で、そこは年代関係なくアイドルのファンと思われる方々が集まっていました。同じアーカイブ展でも時代によって、見る方に特徴が出ていたのは意外で面白かったですね。

<実際の展示期間中の様子>

立ち止まって写真を撮る人が続出。予想を超えるSNSでの盛り上がり。
— SNSもアイドルファンの方を中心にかなり盛り上がっている印象を受けました。 宮下:特にtwitterは写真付きの投稿が非常に多かったのですが、あそこまで写真を撮る方がいらっしゃるとは予想外でしたね。もちろんアーカイブ展に注目したただくのはとても嬉しいことなのですが、途中であまりにも人が集まり過ぎてしまって、展示期間の後半には警備員を配置したくらいです(笑)みなさん写真を撮るだけでなく、長い時間留まったり、中にはしゃがみ込んでじっくりとご覧になっている方などもいました。最初はタレントさん目的でアーカイブ展を見に来られた方が多かった気もしますが、「さすがanan!」「ananってこんなに歴史があったんだ!」などのコメントも数多くいただいていることを考えると、最終的には雑誌に繋げることができたのではと感じています。また、当時を懐かしく思い出している方がいたことも嬉しかったですね。 — 今回表紙のアーカイブの他に、特集タイトルの展示やフォトブースも設定されたと伺いました。 宮下:はい。これまで『anan』では、「好きな男、嫌いな男」「にゃんこLOVE」など、時代時代に合わせインパクトや共感を生む言葉を作ってきて注目を浴びてきました。今回のアーカイブ展でも、せっかくであれば表紙と合わせて、これまで話題になった200ほどの特集タイトルの展示も行おうということになったんです。連動して、メトロ各路線では、話題になったananの特集タイトルを中づり広告にして展開しました。 フォトブースについては、自分が『anan』の表紙モデルになれる「じぶんanan」というコーナーを設けました。

<特集タイトルの展示(左)と「じぶんanan」のフォトブース(右)>

— 今回、アーカイブ展を実施されて、当初の予想と比べて手応えはいかがでしたか? 宮下:今回特にKPIは設定していなかったものの、予想以上に、駅構内、またSNS上でも盛り上がったと感じています。社内からはもちろん、広告を出稿していただいているお取引先やタレント事務所からも、嬉しいお声をいただいています。 — 最後に今後の方向性について教えていただけますか。 宮下:本や映画・ファッション・タレント、そしてライフスタイルまで様々なジャンルを扱う総合雑誌があまりなくなってきている中で、弊社全体としても『anan』を一冊買えば一週間を楽しめるということを色々な形で発信していきたいと感じています。編集部がいつも面白い特集を企画してくれているので、我々宣伝プロモーション部は本誌とうまく連動しながらフレキシブルに面白い宣伝方法を考え、エリアを問わず幅広い年代の方々にももっとアプローチできるような企画を考えていきたいと思っています。

株式会社マガジンハウス マーケティング局 宣伝プロモーション部 宮下明久さん

石原さとみの“もぐもぐ顔”に「かわいい」の嵐! 屋外広告を活用したPR戦略のポイントに迫る

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Case:明治果汁グミ『もぐもぐセルフィースタジオ in Harajuku』
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。 今回は、東京・原宿で5月1日〜5月14日まで期間限定でオープンした明治果汁グミの自撮り専用屋外広告『もぐもぐセルフィースタジオin Harajuku』について取り上げます。企画の経緯から、石原さとみさんが引き出す商品の魅力、自撮り文化の特徴を活かした看板デザイン、そしてSNS上の拡散を狙うPR戦略まで、株式会社読売広告社 コミュニケーションデザインセンター の皆川壮一郎さんにお話を伺いました。
Interview & Text : 坂巻 渚
CMに寄せられた声をヒントに。新しい自撮りポーズ“もぐもぐ顔”が誕生。
—まずは、今回「自撮り専用屋外広告」を実施することになった経緯から教えていただけますか? 皆川:明治さんから、果汁グミの“噛み心地の良さ”を伝えることを目的に、オーガニックのシェアが見込める面白い企画をしたいとご相談いただいたのが始まりです。明治さんは果汁グミのCMでここ数年石原さとみさんを起用しているのですが、石原さんのグミをもぐもしている姿が可愛いと、視聴者からものすごい人気なんです。そこから、女の人がもぐもぐしている姿はそもそも可愛いよね、という話になりました。特にターゲット層の10代から20代の女の子たちの間には自撮り文化が根付いていて、虫歯ポーズ“や“ガオーポーズ”など人気の自撮りポーズがあります。そこに新しく“もぐもぐ顔”が入り、果汁グミのPRにつながればと考えました。 —女の子からも絶大な人気がある石原さんなら、ポーズを真似したい女の子も多そうですね。 皆川:そうですね。石原さんに憧れを抱いている女の子は非常に多いと思います。昨年は「ぷにぷにダンス」という、やはり石原さんが登場するWeb限定の動画を作ったのですが、これがものすごいスピードで拡散され、メイキングだけでも50万回、本編に関しては300万回ほど再生されました。 ただ石原さんほど魅力的な方だと、ついつい広告もタレントさんのPRになってしまいがちなので、企画を考える際には、いかに石原さんに商品の魅力を最大限に引き出してもらえるかを意識しています。 —Web動画から一転し、今年は「自撮り専用屋外広告」ということですが、沢山の方に自撮りをしてもらうためにデザインも色々と工夫されたのではないですか? 皆川:はい、自撮り文化の特徴を考えて今回は3つのポイントを工夫しました。1つ目は、「最高のお手本」です。10代から20代の女性は、タレントさんのSNSをフォローしたり、自撮り用アプリを使うなど、いかに可愛い自撮り写真を撮るかについて非常に研究熱心です。そこで、石原さんに3つの自撮りポーズをしていただき、みんなが真似したくなる最高のお手本になってもらいました。 2つ目は「イケてるフレーム」です。自撮りしている人たちを見ていると、写真の背景にもかなりこだわっているんですよね。イベントでよく見かけるインスタグラム風のフォトフレームもその1つだと思います。そこで看板には予めフォトフレームをデザインし、素敵な背景を用意しておきました。 3つ目は、「ハッシュタグ」です。僕は普段からハッシュタグは免罪符だと考えています。例えば、「#メイク濃すぎた」「#寝起きですいません」「#痩せなきゃ」などのハッシュタグは、自撮り写真の言い訳をしてくれるとても便利な存在です(笑)。今回も自撮りを恥ずかしいと感じる人が多いと思い、「#グミをもぐもぐしているだけです」というハッシュタグを予め用意しておきました。

<もぐもぐ顔 ボ〜ノver.>

<もぐもぐ顔 おすましver.>

<もぐもぐ顔 食いしん坊ver.>

見たら思わず自撮りしてしまう 、“擬似インタラクティブ”なデザイン。
—看板のデザインには、自撮りをしたくなるポイントが沢山詰まっているのですね。 皆川:最近アプリが必要だったり、屋外広告でも警備員が必要だったりと手間やお金がかかるキャンペーンが多い中、シンプルにデザインの力だけでキャンペーンに参加してもらうことを重視しました。僕はこれを「擬似インタラクティブ」と呼んでいるのですが、実際にはデジタル上で一切繋がっていないのに、そのデザインを見ただけで「思わず○○してしまう」状態にさせることを言います。今回は、「思わず自撮りしてしまう」デザインを意識し、それを実現できたと感じています。 —「擬似インタラクティブ」とは新しい言葉ですね!そうすると、看板を設置する場所も重要になってきますよね。 皆川:はい、場所は原宿と表参道の間という若い女の子たちにとって非常にシンボリックで、かつフォトジェニックな場所を選びました。特に今回は、看板の前で自撮りをしてもらうキャンペーンだったので、通行人の邪魔にならないよう、看板の前にスペースがあるということも重要なポイントでした。 —石原さんの撮影は順調でしたか? 皆川:とても順調でした。1つのポーズをお願いすると、それに対して何パターンもポーズを試してくださるんです。女性スタッフからの「可愛い!」の歓声もすごかったですね(笑)。本当にいい写真ばかり撮れて、3枚を選ぶのにめちゃくちゃ苦労しました(笑)。
場所とデザイン次第で屋外広告はPRネタに。 SNS上での拡散を狙うPR戦略。
—女性系メディアを中心に、沢山の記事が取り上げられていましたよね? 皆川:100弱程のメディアさんに記事を取り上げていただくことができました。 “もぐもぐ顔”だけではなく、原宿というシンボリックな場所に1ヶ所拠点を持つことでそのニュース性を増すことができたと思います。実際に、「行きたい!」「どこでやっているの?」などのコメントも沢山いただき、嬉しかったですね。 従来の屋外広告というと何人の人に見てもらえるかに焦点が当てられがちですが、今回はPRネタとしてまず看板をシンボリックな場所に用意し沢山の方に集まってもらい、その後ターゲットと親和性の高いメディアに記事を取り上げていただき、最終的にはそれらの記事がオーガニックにシェアされることを狙うということを戦略的に考えました。 —実際にSNS上での反響はいかがでしたか? 皆川:記事のシェアが圧倒的に多かったですね。特に女性向けメディアの記事は怒涛のシェア数で、屋外広告でありながら、費用対効果の高いWeb広告の役割も果たすことができ、非常に良かったと感じています。 今後も広告でありながらコンテンツとして楽しめる、シンプルかつ拡散性のある企画を考え続けていきたいと思っています。

株式会社読売広告社 コミュニケーションデザインセンター 皆川壮一郎さん


「キリン 生茶」日本のあいさつをコミカルに解説したショートムービー 制作の狙い

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Case:キリンビバレッジ株式会社『Japanese Greeting ~日本の挨拶~』
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。 今回は、キリンビバレッジ株式会社による生茶のプロモーションコンテンツ『Japanese Greeting ~日本の挨拶~(※公開は2016年6月30日まで)』を取り上げます。 2000年の発売以来、消費者に愛され続けている『キリン 生茶』の大々的なリニューアルを記念して、3月21日から公開されているショートムービーは、日本の風習である「あいさつ」がテーマ。「すごい話したがりのご近所さんが回覧板を持ってきた時の挨拶」「職場の休憩室で、そんなに仲良くない上司と2人きりになってしまった時の挨拶」など、全8パターンをコミカルかつスタイリッシュに展開しています。本ムービーが生まれた経緯やこだわりを、キリン株式会社 CSV本部 デジタルマーケティング部 中村美幸さん、面白法人カヤック 企画部・人事部 平野俊介さんに伺いました。
Interview & Text : 香川 妙美
テレビを観ない属性のユーザーにも、新しい生茶を訴求したい
―まずは、企画が立ち上がった経緯を聞かせてください。 中村:『生茶』は、今年で発売16周年を迎えます。これまでもパッケージや中身の見直しを都度図ってきましたが、ここまで大きなリニューアルは今回が初めてです。3月22日の発売に合わせ、TVCMも展開していますが、近年はテレビを視聴せず、ウェブ上から情報を取得する層も一定数存在することから、その方たちからのアテンションを取るため、ウェブで楽しんでいただけるコンテンツをつくりたいと考えました。 平野:企画の段階で、ジェネレーターやプロジェクションマッピングなどいくつか提案し、その中からこの動画企画を採用していただきました。とはいえ、動画はおもしろそうと感じてもらえなければ、見てもらうことすらできず、情報自体をシャットアウトされてしまうので、大きな賭けでもあります。 お茶は商品訴求によるコミュニケーションが難しい商材のため、イメージ訴求を軸にアイディアを膨らませていきました。 ―この考えのもと、『日本の挨拶』をテーマにしたショートムービーが生まれたのですね。 平野:最初に『新 生茶』のボトルデザインを見たとき、ずいぶんスタイリッシュに変わったという印象を受けました。それと同時に、和の雰囲気や上品さを感じたので、そのイメージをコンテンツ内でしっかり表現するため、日本独自の文化『あいさつ』をテーマにしようと思いました。 日本のあいさつは、相手やシチュエーションに応じて、空気を読んだり、間合いを取ったり、表情を作ったりと実に複雑です。そんな日本のあいさつの複雑さや難しさを焦点にしつつ、生茶の「和」「スタイリッシュ」「上品」といったイメージが浸透するように構成していきました。 ―企画をご覧になったときの印象をお聞かせください。 中村:率直に「おもしろそうだな」と思いました。日本のあいさつという風習をコミカルに解説するという主旨は、数年前に話題になった、ラーメンズの動画『日本の形』に近く、イメージもしやすかったです。笑いの質もスマートで、ブランドイメージにも合っていると感じました。 ―動画は8パターンありますが、どのように生まれたのでしょうか。 平野: 最初に100案くらいあいさつの種類を考えました。第1弾の5本は、ターゲットを全方位的に考えていたので、『生茶』のブランドイメージや面白さの観点で、直感的に選んでいきました。しかし第一弾の動画は、おもしろかったという反応が多いにも関わらず、シェアの動機をつくれていないという反省点が生まれました。そこで、第2弾の制作にあたっては、どういう人にシェアしてほしいのか、どう拡散していくのかを突き詰め、中村さんと何度も話をしながらチューニングし、新たに3本のムービーを制作しました。 中村:第1弾とくらべて、動画を見てもらいたい人がより明確になりましたよね。 平野:ええ。たとえば、「配属されたばかりの新人の、怖そうな先輩エンジニアへの挨拶」は、エンジニアのみをターゲットにしています。エンジニアはSNSの接触回数が多く、接触時間も長い傾向にあり、反応も良いので、少数ターゲットながら反響が大きいのでは、と考えました。ほかの動画2本もターゲットを明確にしています。 ―第1弾と第2弾で方針が異なる部分は、ほかにもありますか。 平野:はい、拡散施策を変えています。第1弾のときは、公式サイトに誘導し、YouTube上で再生してもらうことを目的にSNS広告の出稿とPRリリースを実施しましたが、結果として公式サイトへの流入はさほど多くはありませんでした。キリンさんの公式SNSから投稿したものを検証しても、ユーザーはその場で再生するケースが多いことが分かりましたので、第2弾では、SNSのなかで再生されることを念頭にした施策に方針を転換し、OGPも動画再生の設定を行うなどしています。
視聴したくなるポイントづくりに苦心
―こだわった点、難しかった点はありますか。 平野:ユーザーが動画を視聴したいと思うかどうかは、一瞬で判断されます。今回のクリエイティブは、じわじわ系のため、視聴してもらうための動機づけには、いろいろと頭をひねりましたね。その策として、各動画のタイトルをなるべくマニアックにして、文字数も画面いっぱいになるように長くしています。難易度を付けたのも興味喚起につなげられればと思ってのことです。 あとは、トーン&マナーでしょうか。動画をモノクロと深緑だけにして色数を絞っているのは、全体的にスタイリッシュに仕上げたいという意図からです。色が多いとノイズも多くなるので、内容に集中しにくくなるので、この辺りにも気を配りました。 ―ウォータースライダーの描写やひざの角度の表示など、ディティールのこだわりも感じます。 平野:ええ。1、2分の動画を見てもらうのは、かなりハードルが高いと考えています。特に今回のムービーは、終盤に『生茶』が登場するので、どうしても一番最後まで視聴してもらう必要がありました。あいさつというシンプルな行為をなるべくマニアックに捉えることで、最後まで見たくなるように細部までこだわっています。 ―ユーザーの反応のなかで、印象に残ったものはありますか。 平野:「生徒に見せたい」という学校の先生からの書き込みや、「大学で日本文化を研究している外国人の先生に見せたら爆笑していた」というものは印象的でしたね。とにかく笑いながら視聴していただいていると感じています。 ―ショートムービーは、期間限定公開なんですよね。 中村:はい。新しい生茶からのごあいさつという趣もあり、当初から恒常的な施策にする予定は持っていませんでした。ただ、コンテンツマーケティングを大々的に行うのは、『生茶』としてはほぼ初めてのため収穫は大きいと感じています。今回、第1弾をブラッシュアップして第2弾につなげたように、今回の検証を基に、今後さらに良いものをお届けできるよう、より励んでいきたいと思っています。

キリン株式会社 CSV本部 デジタルマーケティング部 中村美幸さん(写真右) 面白法人カヤック 企画部・人事部 平野俊介さん(写真左)

日本ダービーと『コップのフチ子』がコラボ! “ソーシャル時代の国民的おもちゃ”に託したJRAの想いとは

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Case: JRA×コップのフチ子『お馬のフチ子と日本ダービー』
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。 今回は、日本中央競馬会(JRA)と人気カプセルトイ『コップのフチ子』のコラボレーションによるウェブコンテンツ『お馬のフチ子と日本ダービー』を取り上げます。最も有名なGⅠレースの一つである日本ダービーの開催にあたり、ウェブ上で公開された本コンテンツは、自分でつくったMYフチ子を使って、レースやミニゲームを楽しめるというもの。フチ子の持つ独特な妙味をそのまま競馬にトレースした世界観は、女性をはじめとする新しい競馬ファンの呼び水になりました。 今回のコラボレーションが実現したいきさつやその成果を、株式会社博報堂 統合プラニング局コピーライター/プラナー 宇佐美雅俊さん、株式会社博報堂アイ・スタジオ コミュニケーション・デザイン・センター インタラクティブディレクター/コミュニケーションプラナー 野田慎太郎さん、株式会社博報堂アイ・スタジオ 統合デジタルマーケティング3部 インタラクティブディレクター/アートディレクター 堀井正紀さんに伺いました。
Interview & Text : 香川 妙美
競馬を国民的レジャーに! コラボレーションキャラクターへのこだわり
―御社はこれまでにもビッグレースのプロモーションを担当されているとのことですが。 宇佐美: これまでに日本相撲協会、株式会社カプコンの人気格闘技ゲーム『ストリートファイター』とタッグを組んだ企画を行ったことに加え、昨年末の有馬記念は、人気絵本『ウォーリーをさがせ!』とのコラボレーションコンテンツ『有馬記念でさがせ!』を展開しました。 ―そして今回は、『コップのフチ子』とのコラボレーションが実現しました。 宇佐美:競馬はギャンブルの要素が含まれており、特殊なレジャーに位置づけられている節があります。ファン層を広げるためには、誰もが親しみの持てるキャラクターの活用が肝要だろうということで、当社からは、スポーツやゲームなど、そのカテゴリの代表とのコラボレーション企画をこれまで提案してきました。この流れを汲み、今回の『コップのフチ子』につながるのですが、フチ子はカプセルトイでは圧倒的人気を誇るのはもとより、“ソーシャル時代の国民的おもちゃ”であることも起用の理由になっています。現代はスマホ社会のため、SNS上で話題になるのは必須条件です。フチ子の持つSNSバズを発生させる力を活用すべく、企画も入念に考えました。 野田:プレゼンでは、女性にリーチするのに『コップのフチ子』は適している旨もお話しました。SNS上でのシェアにしても女性のほうが多いイメージがあります。直近の『有馬記念でさがせ!』のときも約半分が女性ユーザーによるものでした。競馬ファンはそもそも男性が多いですし、過去の検証結果を見ても、裾野はもっと広げなければいけないという思いがありました。 宇佐美:JRA様のコンテンツを連続して担当していると学びも多くあります。『有馬記念でさがせ!』では、自分のアバターを競馬場に紛れ込ませ、それをシェアすると友人に出題できるというコンテンツを用意したところ、多くの方に遊んでいただけました。こういった事象も含め、JRA様も『有馬記念でさがせ!』は、ユーザーに大変好評だったという印象をお持ちでした。 この成功体験をもとに、今回もユーザーに遊んでもらえる企画を考えるなか、『コップのフチ子』はインスタグラムなどでいろいろな遊ばれかたをされていることに着目しました。これをヒントに、フチ子を馬にかけたら奇想天外だし、そのおもしろさからSNS上での広がりが生まれるんじゃないかと盛り上がりました。 ―企画化にあたり、開発元である奇譚クラブさんへも足を運ばれたと思いますが、反応はいかがでしたか。 堀井:お見せしたときは、「フフフッ」て笑っていました(笑)。「おもしろいですね」と。これまでのコラボレーションは、フィギュア販売が基本で、ウェブコンテンツになるのは初めてとのことでした。反応はとても良かったように思います。
フチ子の遊ばれかたに基づいた六つのコンテンツ
―コンテンツの内容についてお聞かせください。 宇佐美:まず、自分だけのMYフチ子をつくれる『フチ子メーカー』がコアになっています。いまや顔ジェネレーターは、たくさんのコンテンツがあり広く知られてはいますが、我々としては、つくっておしまいではなく、つくって遊べるところまで進化させたいという気持ちがありました。 野田:その遊びの部分を担保できるよう、コンテンツは全部で6個用意しました。もう一つのメインは、MYフチ子を使ってレースに参加できる『フチ子ダービー』なのですが、レースは以前の企画にもありました。ただ、そのときはレースしか遊べるコンテンツが無かったんですよね。ユーザーのなかには、フチ子メーカーには興味があるけれどレースには興味がないという人もいて、しっかり遊んでもらえている印象を持てずにいました。 その教訓が、今回の体験強度の異なるゲームを複数つくることにつながりました。メーカーでも遊べるし、レースでもミニゲームでも遊べる。レースは1,2分かかるが、ミニゲームは10秒程度で終わる、というように、さまざまなモチベーションのユーザーに対応できるようにしています。ただこれらはちゃんと連動していて、ミニゲームをクリアしてもらったパーツは、メーカーを使ってフチ子に装着でき、そのフチ子はレースで走らせることもできるといった具合に、相互関係にありつつも単体でも楽しめるように設計しました。 宇佐美:ミニゲームの『ひっかけフチ子』は、人気が高かったですね。これは、フチ子を馬に引っかけて遊ぶバランスゲームなのですが、ライトな体験だし、おもしろいという声が多かったです。また、『瞬間フチ子』はゴールの瞬間のフチ子のポーズを当てる動体視力診断ゲームですが、診断モノは、「あなたは〇〇級です」のように評価の出るものが多く、その結果はついシェアしたくなるものです。この欲求をうまく突けるよう、ゲームの結果を4段階評価で表すように工夫もしています。 野田:つまるところフチ子のおもしろさって、ユニークなポージングと引っかけて遊ぶというところにあるんですよね。当初、フチ子のポーズがパズルになったゲームも案として挙がっていたのですが、フチ子の遊ばれかたとしては違うな、と。そんなふうに各コンテンツは、フチ子の持つ文脈と競馬をかけ合わせながらつくっています。 ―コンテンツ制作にあたり、苦労した点はありましたか。 堀井:『フチ子メーカー』における3Dの構築の部分でしょうか。各コンテンツを競馬本来の魅力に落とし込む必要がありますので、実際につくったMYフチ子をレースに出馬させるのは命題の一つです。これをクリアするため、3D化は絶対条件でした。とはいえ、立体造形なので本当に大変で。パーツも2Dで重ねればよいというものではないですし、パソコン、スマホの両方に対応しなければならない。スマホに及んでは、パーツの画像数が何億パターンにもなり、すべてをサーバに置けない事態にも見舞われました。 宇佐美:しかし、その苦労があったからこそ、ユーザーの満足度は総じて高いのだと思っています。MYフチ子をくるくる回して見られるなんて、2Dの顔ジェネレーターでは、まずできない体験です。博報堂アイ・スタジオのクラフト力の高さを改めて感じました。
限定フィギュアの販売で、O2Oを実現!
―今回、プレミアムフィギュアも場内限定で販売されていますよね。 宇佐美:はい。東京競馬場正門前にカプセルガチャを設置し、日本ダービー開催の前日から販売をスタートしました。ウェブでの取り組みを起点に、会場へ足を運んでもらうところに結びつけたのは、一連の取り組みのなかでは初めてのことです。O2O(Online to Offline)の良い事例をつくることができました。 ―「ガチャにたくさんの人が並んでいる」というツイートも見かけました。 野田:めちゃくちゃ並んでいました(笑)。ガチャは1度に2回まででお願いしていたのですが、並び直して買う人もたくさんいて。「外国から来た人がダンボール一杯分購入していった」「香港から来た人が100個買った」というツイートも見かけました。2、3日で1万5000個が売れるほど盛況でした。またブースには、SNSでシェアしてもらえるようにディスプレイも設置しました。 ―ユーザーの反応で印象に残ったものはありましたか。 野田:「フチ子メーカーで、かれこれ20分遊んでいる」「ひっかけフチ子にハマっている」というのはうれしかったですね。先ほどの繰り返しになりますが、ゲームがレースだけだと興味のない人は外れたら戻ってきません。でも、今回はいろいろなコンテンツがあるからずっと遊んでいられるし、再来訪もしてもらえます。とにかく楽しんでいただいていることが伝わりました。SNSのアイコンにされている人も多かったです。 ―定量的に見て成果はいかがでしょうか。 宇佐美:今回は、ツイッターを使ったキャンペーンを展開したこともあり、ツイート数は15万にも及び、『有馬記念でさがせ!』のときと近しい想定通りの伸びを見せました。男女比も半々、20~30代が8割とバランスも良かったです。また、ウェブサイトのPVも500万にのぼり、ユニークユーザーも50万と、こちらも一定の成果を出せました。 『日本スモウダービー』のときは、ウェブPRは良かったものの、SNSの拡散では課題が残ったので、今回はそれを踏まえ、キャンペーンをフックにしたことが成功の要因になりました。 ―JRAの資料を見ていると、近年は売得金額、参加人数、入場者数ともに微増しています。ウェブプロモーションがこれらに寄与しているという実感はありますか。 宇佐美:そうですね。プロモーション施策は、ビッグレースに限らず、JRA様でも並行していろいろ取り組まれていますが、そのなかでも日本ダービーと有馬記念は一際大きなレースであり、プロモーションにも力を入れられています。過去からの積み重ねも含め、一連の活動は競馬全体の底上げに貢献していると言えるのではないでしょうか。今回、『コップのフチ子』を通して訴求した競馬の魅力が、たくさんの方に届いているとうれしいです。

株式会社博報堂 統合プラニング局 コピーライター/プラナー 宇佐美雅俊さん(写真中央) 株式会社博報堂アイ・スタジオ コミュニケーション・デザイン・センター インタラクティブディレクター/コミュニケーションプラナー 野田慎太郎さん(写真右) 株式会社博報堂アイ・スタジオ 統合デジタルマーケティング3部 インタラクティブディレクター/アートディレクター 堀井正紀さん(写真左)

“世界初”の性格分析 資生堂uno「あせり層」に向けた緻密なコンテンツ設計

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Case: 資生堂uno「uno SOCIAL BARBER」
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。 今回は、資生堂の男性用化粧品ブランド『uno(ウーノ)』のwebコンテンツ「uno SOCIAL BARBER」を取り上げます。FacebookやTwitter に接続し、過去の投稿から29パターンの性格タイプに分類する新性格分析コンテンツです。ディープラーニングを用いた独自の性格分析アルゴリズムで、興味関心を抽出、心理傾向を推定します。分析結果から性格タイプを割り出し、一層大人に近付くためのアドバイス、大人のスタイリングを提案します。 ブランド全面リニューアルに伴い、制作された今回のwebコンテンツ。ブランドリニューアルに踏み切った経緯から、「uno SOCIAL BARBER」制作秘話まで、unoブランドマネージャーの山ノ井千草さんにお話を伺いました。
Interview & Text : まきだ まどか
エゴグラム分析にSNSの投稿を結び付ける“世界初”の試み
―「uno SOCIAL BARBER」のアイデアはどのようにして生まれたのですか。 unoでは10代~20代の若者男性をターゲットとしています。彼らにとって親和性の高いメディアであるFacebookやTwitterなどのSNSを通じてターゲットが自分事化してとらえてくれるものを作ろうと考えたんです。 unoは今年の3月のブランドリニューアルに伴い、10代20代の若者を大人へと引き上げ、背中を押し、「大人への進化」をサポートするブランドへと生まれ変わりました。SNSでの発言や態度は、意外と現実の自分とは異なるという事実や、自分の知らない一面を浮き彫りにすることで、“大人な自分”になるきっかけを提供したいという思いのもと、制作が始まりました。 ―SNSの発言に紐づけられた性格分析によって、SNSの世界ではどう見られているのか、自分でも知らない自分を知ることが「大人への進化」につながっているのですね。 そうなんです。自分の中にある大人な一面に気付かせてあげることが、unoのメッセージである「大人への進化」につながると考えました。自分を知ることが大人への第一歩だというメッセージを込めて、今回の性格分析コンテンツを制作しました。 ―「世界初」と謳っていますが、どういった点が世界初なのでしょうか。 他の性格分析コンテンツで、エゴグラム分析やディープラーニングを使っているものはあると思いますが、今回の「uno SOCIAL BARBER」では、そこにSNSでの投稿を結び付けているという点が新しい試みとなります。心理傾向とSNSの投稿を関連付けるため、複数のモニターを対象に『新版TEGⅡ』(東京大学医学部心療内科TEG研究会編)によるエゴグラムアンケート調査を実施し、同時にSNS投稿の取得も行いました。このモニターから得られたエゴグラムのアンケート調査結果とSNSの投稿をディープラーニングを用いて分析しています。
一瞬のバズよりも、ブランドメッセージを伝えるコンテンツを目指して
―今回のコンテンツ制作にあたり、苦労された点はどのようなところですか。 性格分析を行うコンテンツはこれまでにもたくさんありました。私たちは、これまでの性格分析コンテンツのように一過性の話題を生むものではなく、さらに自分事化できるもの、ブランドの価値やメッセージがしっかりと届くコンテンツを目指しました。ただ単におもしろいもの、一瞬のバズを起こすものではなく、そのコンテンツがブランドの価値に結び付くものでなければなりません。unoが悩める若者の背中を後押しし、彼らがなりたい大人の男に引き上げていくブランドであること、そして、彼らの「大人への進化」をサポートすることで、一歩大人へとレベルアップする自信を届けたいと考えていました。 ―ブランドのメッセージを伝えるため、工夫された点を教えてください。 まず気を付けたのは、他で見られるようなライトな性格分析コンテンツにしないという点です。最新の研究をもとに、独自に開発したシステムによって、説得力のある分析をしているということがブランド価値につながると考えました。 自分事化して見せるため、分析途中の動画にも細部にまでこだわりました。SNSでの自分の発言が髪の先から表れ、子どもっぽい側面は切り取られます。最終的には、ポジティブで大人な側面が残り、スタイリングされ、大人への一歩を踏み出すのにふさわしい理想の髪型に仕上がるというストーリーになっています。実際に分析をしていただくと、その人が何かしら記憶している過去のSNSでの発言などが動画の中に登場するんです。 ―一人ひとりにカスタマイズされた動画であるにもかかわらず、とてもなめらかな動きで非常にクオリティの高い仕上がりでした。 unoはスタイリングを提案するブランドですので、動画の中で髪の毛やスタイリングに落としていくということを意識しました。最終的に自分の髪型がはまるときの動画も、平面的な映像ではなく、立体的に360度ヘアスタイルが見られるようになっています。ここは非常にクオリティにこだわって制作した点です。電通様と制作会社のPARTY様にご協力いただき、実現しました。
成長意欲の高い「あせり層」が新たなターゲット
―そもそも、今回unoのブランドリニューアルに踏み切ったのにはどういった背景があったのでしょうか。 今回のブランドリニューアルには、近年の男性化粧品市場の活発化が背景にあります。unoは2009年の「フォグバー」発売後は新しい製品を出すこともなく、CMなどのブランドとしてのコミュニケーションをほとんど行ってきませんでした。市場の活発化の中、unoに大きなチャンスが来ていると考え、新たな時代に合わせたコミュニケーションを展開していくことを決めました。 ―ブランドリニューアルにあたり、どのような層をターゲットとして定めたのですか。 リニューアル前までは、10代から40代の男性という広い層をターゲットとしていたのですが、今回のリニューアルで10代から20代の男性にターゲットを絞り込みました。現在の10代20代は「ゆとり世代」「さとり世代」といわれている層です。調査を行うと、おもしろいことが分かりました。 彼らの中にも、「ゆとり世代だとか、悟り世代だとかいわれている場合ではない」「このままではいけない」「引っ張ってくれる人がいれば、僕だって頑張れるのに」といったような考えを持ち、非常に成長意欲の高い層が一定数いることが分かりました。 例えば、就職活動ではたくさんのセミナーやインターンシップ、OB・OG訪問に参加したり、大きな不安からとりあえず資格を取るために励むような方たちのことです。彼らは、大人になりたいけれど、何をしたらいいか分からなくて模索しているんです。今回のリニューアルでそういった成長意欲のあるあせり層に届くコミュニケーションをすることで、一歩大人へとレベルアップする自信を届けることを目指しました。
男性のSNSへのシェア率を高めることに成功
―リリース後のターゲットの反応はいかがでしたか。 通常、こういった性格分析コンテンツをシェアするのは女性が多く、男性は分析をし、シェアせずに終わるという方がほとんどなのですが、今回の企画では、男性のシェア率が非常に高いという結果が出ています。FacebookとTwitter両方で診断されている方も多いです。 このコンテンツがオープンした4月26日から6月16日までのレポートによると、UU数は約26万人、PV数は1200万PVを超え、トータルで119,903人の方に体験いただいています。シェア率は18%と高水準です。 ―とても多くの方に体験いただいていますが、今回のコンテンツが購入に結び付いている実感はありますか。 性格分析をしていただき、最終的にはブランドサイトに誘導する仕組みになっているので、ブランドを知っていただくきっかけになったのではないかと思います。unoでは、他のブランドよりもブランドサイトを認知されて購入に結び付いた方が多いというデータが出ているので、今回の施策が効いているのではないかと考えています。 ―今後のブランドの展望、新たに仕掛けたいプロモーションなどについて教えてください。 現在のunoは、ヘアスタイリングのブランドというイメージが非常に強いと思います。しかし、今後は、スタイリングだけではなく、男性化粧品市場をけん引していくブランドにランクアップさせることを目指しています。 コミュニケーションの媒体としては、テレビCMだけではなく、デジタル領域でのキャンペーンを今後も行っていきたいと考えています。今注目しているのは、AIです。人工知能を使ったキャンペーンは今後検討していきたいですね。 男性の化粧品市場は、女性の化粧品市場と異なり、製品の展開を増やしていくことには限界があります。そういったときに重要なのは、やはりブランド価値です。今回の「uno SOCIAL BARBER」でブランドメッセージを伝えることをゴールとしたように、今後も、第二ステップ、第三ステップとブランド価値の向上を目指し、ブランドを育てていきたいですね。

株式会社エフティ資生堂 パーソナルケアマーケティング部  unoブランドマネージャー 山ノ井千草さん

コーヒーが飲みたくなる“バイラルサウンド”はどのように生まれた?「WONDA」ラジオCMの舞台裏

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Case: アサヒ飲料「WONDER SOUND PROJECT」
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。 今回は、アサヒ飲料「WONDER SOUND PROJECT」を取り上げます。 『ワンダ 極 ブラック』の発売に合わせて、思わずコーヒーを飲みたくなる究極の音「WONDER SOUND」を制作。60秒のラジオCMとなりニッポン放送・MBSラジオでOA。さらには『口で効果音をつくる音の魔術師』と呼ばれ、数多くのアニメ・映画の音響効果を担当する笠松広司氏がボイスエフェクトで再現したバージョンも制作されました。 今回はこの笠松氏によるバージョンがどのように実現されたのか、その舞台裏を株式会社 ニッポン放送 営業局 営業1部 主任 平田浩之さん、株式会社 サウンドマン 第一制作部・CM課 ディレクター 松田哲雄さん、株式会社 電通 MCプランニング局 メディア・ソリューション室 ソリューション1部 部長 ディレクター 高草木恵さんに伺いました。
Interview & Text : 市來 孝人
「バイラルムービーもいいけれど、バイラルサウンドがあってもいいんじゃないか」
—まずは、企画が生まれた経緯について教えてください。 高草木:アサヒ飲料さんがWebでの拡散を視点にした企画にチャレンジされるにあたり、うちの営業が「バイラルムービーもいいけれど、バイラルサウンドというものがあってもいいんじゃないか」と言ったのがきっかけです。「それいいじゃないか、もし本当に出来るなら企画を作ってほしい」とお話が進むことになりました。 バイラルサウンドってなんだ?と考えた時に、まずは誰もが聞いた時にコーヒーを飲みたくなる音って何だろうということを考えました。実際やってみるとコーヒーをいれるまでの過程は、実はあまり音が鳴らず「ここは絶対に飲みたくなる音だ」というものがあまり存在しないよねという話になりました。 ただ「飲みたくなる」ことはもちろん「話題になる」ことは何だろう?と改めて考え、リアルなコーヒーの音ではなく、それを誰かがやってみたということにしてはどうかとなり、色々と再現する方法を考えデモを作りました。例えば楽器のパーカッションだけでやるパターンや、ポイスパーカッショニストによるパターンですとか。ただ、コーヒーをいれる音は、音程があるわけでもないので、音符で表現出来ないんです。その中で最後に、笠松広司さんによる口だけですべてを表現するというパターンにたどり着きました。 笠松さんは本職が音効なので、どういう音が鳴ればいいかということが見えていた面もあります。色んなデモを聞いてもらったなかで、笠松さんの音源を聞いてアサヒ飲料さんも「すごいじゃないか」とおっしゃられましたね。 このように、ラジオCM制作としてはありえないくらい事前の手間がかかっていましたし、全員あがりが見えない、というものでした。 —収録時に工夫した点・苦労した点はありますか? 松田:ラジオドラマなどでも様々なSEをつけますが、やはりコーヒー自体は静かにいれるものですから、あえて音を発てるのは禁じ手じゃないですか。ただ「バイラルさせる」ということならチャレンジしてみようと。 笠松さんもコーヒーの音を完全に再現することは難しいと分かった上で受けて頂いたと思うのですが、どうしてやる気になったのか聞いてみると「難しそうだからやってみようよ、ということもあるし、口で再現することで”なにこれ?”と思ってもらえる感じがいいんじゃないか」と。 笠松さんは、何かしら会話の話題になるということを狙って再現してくれたのかな、と思います。例えば車の中で流れて来た時に「お父さん、これ僕も出来るね」という親子の会話の元になりますよね。それこそが、「バイラルとはこういうことだな」と思いましたね。
Webでの話題化も。「ラジオ”も“やってるニッポン放送」という意識で
—反響はいかがでしたか。 高草木:ラジオCMの認知率という面では、出稿量に対して、通常とれる広告認知というのがあるわけですが、今回は通常の4倍強の数字を出しています。 ラジオを起点にしながら、映像、Web、PRという立体的な設計を企画当初から意識して行ったことが良かったのかなと思います。 —Webでの話題化も意識されていたということですね。 高草木:どのタイミングでどんな内容の露出を狙うか、ニッポン放送様のグループ会社の「grape」での記事露出を含めて、効果を最大化するタイミングや、文脈づくりを行いました。記事露出という意味では、100件以上の記事化につながりましたし、ラジオ起点の企画ですが、ヤフーの映像トピックスやトップページにも露出し、本当にありがたい限りです。 —今回のKPIはどのような点に設定されていたのでしょうか。 高草木:動画視聴回数、記事露出数、SNS拡散数など、様々な指標があったのですが、ほぼ全てのKPIをクリアしました。 —リスナーさんからの反応はいかがでしょうか。 平田:昨今、少しでも目立つように大きな音のラジオCMが多い中で、今回のCMは静かな立ち上がりなので逆に耳がいくという面もあったようです。「面白いCMだね」「変わったCMだね」という反応が多かったです。また、このCMに関する感想が、番組宛に来たりもしました。スタジオで生放送しているパーソナリティーも聞く機会がありますから、例えば清水ミチコさんがCM明けで物まねされたりとか。リスナーの方に広く楽しんで頂けたと思います。 —ワイドFM(FM補完放送)もスタートし、よりよい音質で聴取出来るようになった面も大きいですか? 平田:ワイドFMは、音楽番組の数字が上がったり、プロ野球中継の臨場感が増したりと、スタートしてから反響は大きいです。今回はたまたまのタイミングでしたが、そういう中で音をテーマにしたクリエイティブができたということは大きかったかなと思います。radikoもありますから。 —ラジオ局がこういった新たな広告表現に取り組む意義についても、お聞かせ下さい。 平田:SNSが発達して、radikoもスタートして、ラジオとネットとの相性が格段によくなっていると感じます。また、番組で発言した内容がすぐニュースになってYahooのトップになったりということもあったりと、今のラジオの置かれている拡散力というのは昔と比べると上がってきていると思います。 また弊社としても、デジタル施策や事業など「ラジオ”も”やってるニッポン放送」と、自然と心のどこかに持って仕事をしている人間も結構いるのかなと思っています。広報室についても他のラジオ局に先駆けて作りました。これはWebニュースが発達しているからこそです。 高草木:代理店のラジオ担当を長くしていましたが、ラジオリスナーを置いていかない前提で、「ラジオで終わらない企画」ということをずっと心がけていました。 ラジオは双方向のメディアの元祖ですよね。電リク、FAX、はがき職人、全てSNSに近いですよね。今も、Webに拡散しやすい話題は、ラジオこそ得意じゃないかなと思っていますし、だからこそ今回も絶対成功したいと思っていました。またWebでの拡散やPRという面を意識しているニッポン放送さんだからこそ、ここまでの話題になったのではないかと思います。 松田:やっていることははがきの頃から一緒ですが、色んなツールから話題が広がるようになりましたよね。 また今回はスタッフの意識がすごく変わりました。「あ、こういう風にやるとこういう反応があるんですね」とか「これってどういう風に録ったんですか?」と興味を持ってくれたり。「なるほど、こういう伝わり方をするんだ。はがきの頃より密になってる部分もあるじゃない」というスタッフの意識改革のきっかけにもなったのかなと思います。

(左より) 株式会社 電通 ラジオテレビ局 ラジオメディア推進部 坂谷温さん ニッポン放送 営業局 営業1部 主任 平田浩之さん 株式会社 サウンドマン 第一制作部・CM課 ディレクター 松田哲雄さん 株式会社 電通 MCプランニング局 メディア・ソリューション室 ソリューション1部 部長 ディレクター 高草木恵さん

クラウド名刺管理サービス・Sansanが”クリエイティブ”に力を入れる理由

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Case: Sansan CM
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。 今回は、クラウド名刺管理サービス「Sansan」を取り上げます。6月末より、松重豊さん、野間口徹さん、満島真之介さん出演のTVCMをOA。これは2013年のOA開始以来続いているシリーズ(今回が4作目)。Sansanでは、自社のカンファレンスや名刺・パスケースなど社員が使用するツールなどまで「Sansan」として表に出る物事については全て「ブランドコミュニケーション部」が手がけているそう。クラウドのサービス、かつスタートアップでありながらクリエイティブに力を入れる理由を、Sansan株式会社 ブランドコミュニケーション部 部長 クリエイティブディレクター 田邉泰さんに伺いました。
Interview & Text : 市來 孝人
TUGBOATと組んでCMを制作した経緯・理由
—まず、CMを作ることを決めた当時を振り返って頂けますか? 弊社が創業当時から目指しているのは、世の中を変えるような新しい価値を生み出すということです。Sansanが新しい「当たり前」になるには、もっと早いスピードで圧倒的に認知を広げなければならない、その非連続な成長の手段の一つとしてマス広告を検討したことがきっかけでした。 扱っているのはクラウド名刺管理サービスという新しいものですが、「名刺管理」は昔からある課題です。この誰もが理解できるキーワードをフックにすれば、テレビCMの短い時間でも大衆に価値が伝えられるのではないか、という仮説を立てました。さらに、チープな見え方にならず、きちんとサービスの価値が伝わるCMを作ることも重視し、「クリエイティブファースト」でクリエイターを探すことからスタートしました。 最初は、いろんな会社にご相談をしたのですが「CMはやめたほうがいいのではないか」と別の手法を薦められることも多かったです。確かに様々な手法があるのは事実なのですが、企画をご提案いただいてもしっくりこなかったりして、なかなか話が具体的に進まなかったのです。そんな中で現在もご一緒しているTUGBOATの岡(康道)さんにお会いする機会がありました。 —最初に寺田(親弘)社長が岡さんにお会いした際は、どんなお話をされたのでしょうか? 一回目にお会いした時は、「本当に効果を上げるクオリティの高いCMをつくろうとすれば一定の制作費が必要で、その数倍の媒体費用を投じて流さなければ効果は期待できない。その為にはこれくらいの額が必要です」と率直に教えて頂きました。このときは金額の折り合いがつかなかったのですが、CM自体をやめろとは言われず、「面白いですね。もっと広告費が貯まったら、ぜひ一緒にやりましょう」という話になりました。 —その後資金調達を経て、寺田社長自ら改めてTUGBOATさんに行ったそうですね。 はい、そこから実際にCM制作をお願いすることになり、プランナーは麻生(哲朗)さんに担当頂きました。 ブリーフィングの際のやりとりで、すぐにサービスの本質を捉えてくださった手応えがありました。完成したCMは名刺管理をフックとしながらも「名刺の管理に困った。そんな時はSansanがあるよ!」という単純なものではなく、「名刺を社内で共有して活用する」ことがもたらす本質的な価値を、世界観も含めて表現してくださったと思います。 —やはりCMのOA時、反響は大きく変わりますか? 投下時には問い合わせ数も増えますし、初めてオンエアしたシーズンは受注件数も2倍になりました。Sansanは名刺という企業の顧客情報をデータベース化するサービスなので、決裁者が社長・役員クラスになることが多いのです。CM投下によって、その層の方に「CMで見た会社だ」という認知と信頼感が受注率の増加につながるという狙いもあり、それも成果に寄与していると思います。
いいものを作るといい反応がある—クリエイティブ専任の部署を発足
—その後、御社の中でクリエイティブ専任のチームを作った理由は何でしょうか? CM制作を通じて、戦略的にクリエイティブに投資する意義を実感しました。いいものを作るといい反応がある、つまり良質なクリエイティブが会社のブランド価値向上につながるということですね。CMは引き続きTUGBOATさんにお願いしながら、自社でも、展示会、広告、パンフレット、オフィス、社員のストラップや名刺…「Sansan」として見えるもの一つ一つの質を意識するようになりました。こうしたタッチポイントは多岐に渡りどんどん広がっていくので、ちゃんと専門のチームを作って、企業の戦略として取り組んでいこう、というのが経緯です。 —外からの見え方としてこだわっている面はありますか? 提供するサービスは名刺管理ですが、それを通して一歩先の未来を作ろうとしていること、イノベーションにチャレンジし続けているということは、しっかりと伝えていきたいです。手当たり次第いろんなことをやるというより、ひとつのことに真摯に向き合っているという姿勢が伝わればいいなと思っています。 その結果、余計なもので着飾るというよりは、伝えたいことをシンプルに削ぎ落として伝えるということが多いですね。 —CMとは異なり、期間が決まっていないものについては、なかなか直接的な成果、数値が見えづらい部分かと思うのですが、社内ではどのように成果については検証しているのでしょうか? そうですね、実際の数値や短期的な成果としては本当に見えづらいところなので、弊社が掲げているミッションやビジョンをブレずに表現できているか、という点や、直感的に「これはいい!」と納得できているかを振り返るようにしています。 作っている自分達でさえ納得できていないものは、他の人から見たらもっと納得がいかないものです。だから、見る人と同じ目線に立った上で、自分達が「これはいい!」と思えるかどうかを大事にしています。そういったものの積み重ねでSansanへの共感が生まれるのだと信じています。そしてミッションやビジョンという大事な部分からブレずに表現するからこそ、長期的な目線で見ることができ、それがいずれ、なにかしらの成果に繋がっていくのだと考えています。 —最近の施策で大きかったものはありますか? 今年2月に初めてのプライベートカンファレンスを虎ノ門ヒルズで開催し、1,500人ほどの方に来場頂いたのですが、想像以上の反響があり、Sansanのことを好きになってくださる人が増えた手応えがありました。 こういったマーケティングイベントはマーケティングや営業の担当がメインで進めるのですが、自社のメッセージを発信するブランディングの一環として、私も企画段階から一緒にチームに入っています。 —「名刺交換」をテーマにした、Eightの動画も先日公開されていましたね。 Eightは紙の名刺を管理するアプリから、名刺を通じたビジネスソーシャルネットワークに進化していて、今年3月にはオンライン名刺交換機能を実装しました。そのイメージ転換とEightが目指す世界観をクリエイティブの力で広く伝えようと、このような動画を初めて作りました。 —今年これからやっていきたい企画はありますか? 昨年の年末に、築地本願寺で「Sansan名刺納め」という企画をやりました。名刺を通じて一年の出会いに感謝する法要で、サービスのユーザ以外の一般の方にも参加して頂き、TV等のメディアで紹介されました。これはブランドコミュニケーション部の発信で、名刺に関する新しい習慣を作ろうという狙いです。引き続きクリエイティブに力を入れながら、こういった新たなコミュニケーションの機会を自社発信で作っていきたいですね。

Sansan株式会社 ブランドコミュニケーション部 部長 クリエイティブディレクター 田邉泰さん

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