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“バズ”の先、需要を喚起する為に〜マジョリカ マジョルカが仕掛けた「ギフト」施策とは

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Case: マジョリカ マジョルカ「マジョリ画」
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。 今回は、資生堂の化粧品ブランド「マジョリカ マジョルカ」の施策「マジョリ画」を取り上げます。特設サイト上でイラストレーターの宇野亞喜良氏協力の元、合計4.4予(4,439,495,401,425,400,000,000,000)通り以上の組み合わせが作成可能なジェネレーターで似顔絵を作成し、SNS上でシェアできるのみならず、ギフトボックスセットを購入すると、その似顔絵カードと、ジェネレーター上で使ったアイテムが実際に届くという仕掛け。 SNS上でのシェアから、どのように購入までの導線を設計したのか、資生堂ジャパン株式会社 マジョリカ マジョルカ ブランドマネージャー 朝倉萌さんに伺いました。
Interview & Text : 市來 孝人
今までの化粧品になかったジャーニーを作る
—まず、施策が始まったきっかけについて教えて頂けますか? マジョリカ マジョルカのブランドとしての提供価値は、新しい「かわいい」の発見・出会いです。その点を、デジタルを使ってどのように提供していくかと考えた時に、ギフトというエモーショナルなオケージョンにチャンスがあるのではないかと考えました。店頭でのシェアも、どうしてもCMを沢山投下するブランドがリードするなど競争が激しいので、今までの化粧品になかった購買ジャーニーを作りたいなと。

コンセプトを定義した企画書の一ページ

—なぜ「ギフト」に着目されたのでしょうか? 近年、ギフトはどんどんプチになって、身近になってきていますよね。人と人との繋がりを結んでくれる、というニーズは確実に高まっているのではないかと考えました。ギフトにするアイテムとして、化粧品は食べ物に次いで2位という調査結果もありましたし、単に「モノ」を売るのではなく、大切な人にスペシャルな思いをのせて「コト」といて届ける、というのを我々としてもやっていきたいという思いから生まれたアイデアですね。 イラストレーター・宇野亞喜良先生とのコラボレーションが実現できたので、先生の世界と、ブランドの世界観を融合して没入してもらい、楽しみながら自然にブランド体験をしてもらえるようなサイト作りを心がけました。そのためサイト上では商品を前面に出すのではなく、「魔法のエッセンス」と呼んでいます。 —ギフトボックスについてのこだわりはありますか? これを手に取れば、新しい「かわいい」に出会える、という意味を込めて『かわいいが詰まった辞書』をイメージしています。また、中にある窓の中には、サイト上でつくったマジョリ画を差し込むこともでき、パーソナライズギフトにすることができます。(入っている商品は)サイト上で「魔法のエッセンス」として使用した商品がそのまま届きます。 —SNS上でのシェアだけではなく、リアルに届く点がやはり特徴的ですよね。 WEBキャンペーンは、バズらせることが仮に出来ても、それが販売に結びつかないということが悩ましい点だと思います。この点を解消すべく、納得感のある「自分へのごぼうび」や「友達へのギフト」としてのオケージョンを設定し、購買を喚起しました。化粧品に使うお財布はある程度決まっているものですが、ごぼうびやギフトに使うためのお財布はどうだろう?と、市場の捉え方を少し変えてみました。 —成果・反響はいかがでしょうか? 150万生成、UUでも250万、PVは1,044万を10日間で記録しました。またオンライン上での売り上げへの寄与という面では、ワタシプラスの売上が前年比380%(発売後1ヵ月)となりました。
競争の激しい、店頭におけるブランドへの期待も高まった
—元々、店頭での課題もあったのでしょうか。 テレビとデジタル両方での施策が展開出来るようなブランドがやはり前に立ちますし、価格競争も激しいです。 多くのお客様が店頭に行くまでに購入するブランドをある程度絞り込んでいくので、そこの想起集合に入り込めるか、そして店頭での露出と、二つの面で強化しないと、お客さまとの接点が持ちにくくなります。 —小売店向けに商談する際、今回の施策は活きましたか? 一番大きかったのは150万生成、広告換算で約5億円という数値でした。元々「かわいい」というブランドイメージの強さがターゲット市場でNo.1だったのですが、それが可視化されました。店頭でも「他にないブランド」と推してくださったり、「お店の中核にしたい」という声を頂いたりもしました。 —一方、ソーシャル上での拡散で意識された点はありますか? 今回はRTやリポストにも力を入れました。最初、クリエイティブなものに関心のある方から、一般の方に、広まっていきました。キャズムを超えられるかどうかの時期は寝られなかったですね(笑)。きっかけは、オーガニックで発生した、イラストレーターの方がタレントさんそっくりのマジョリ画を作ってくれたことです。新たな解釈をして頂いたなと。すごく似ていて面白いんです。 —今後の展開についても教えてください。 マジョリ画は、10月以降も仕掛けを用意していますし、今後もトライを続けたいと思っています。 今回の施策で感じたことは、商品との魅力的な出会いの場を設計する大切さです。また、ブランドの提供価値から逃げないことですね。バズらせよう・話題化させようとすると本来のブランドの価値から離れそうになることもあります。でもそこから逃げずに徹した点が良かったのではと考えています。

資生堂ジャパン株式会社 マジョリカ マジョルカ ブランドマネージャー 朝倉萌さん


PCメーカー×海の家 ブランド訴求から自治体連携まで『レノボ・ハウス』の成果

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Case:レノボ・ジャパン『Lenovo House at Quick Silver』
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。 今回は、レノボ・ジャパン株式会社が、由比ガ浜海水浴場(神奈川県鎌倉市)に、2016年7月1日〜8月31日までの期間限定でオープンした、海の家『Lenovo House at Quick Silver』(以下、『レノボ・ハウス』)を取り上げます。 今年で3年目となる本取り組みは、休憩場所やフード・ドリンクの提供といった、海の家本来の機能はもちろんのこと、同社の最新マシンに触れながら、シアターを楽しんだり、地元の観光情報を入手したりといった、パソコンメーカーならではの楽しみかたを提供しました。傍から見れば、パソコンメーカー×海の家は、一見異色なコラボレーションにも見えますが、そのねらいは、何だったのでしょう? 実現のいきさつや成果を、レノボ・ジャパン株式会社 コンシューママーケティング担当部長 宮田弘之さんに伺いました。
Interview & Text : 香川 妙美
海の家は、ミレニアルズ世代とのコミュニケーションの場
—まず、『レノボ・ハウス』のオープンに至ったきっかけや背景をお聞かせください。 レノボは、ミレニアルズ世代(編集部注:2000年以降に社会に出てきた、20代〜30代前半の世代)と言われる若いアクティブな世代に向けたブランディングに注力しています。この“ミレニアルズ”のなかでも、パソコンやタブレットを比較的自由に使いこなす進んだ方が、主なターゲットになるのですが、こういった方たちは、デザイントレンドにも敏感で、周囲のご友人にも影響力をお持ちです。 レノボのような新しいブランドは、そういう方にまずファンになってもらうことが大事だと考え、2013年より「レノボアクティブキャラバン」というキャンペーンを展開し、レノボブランドを訴求する活動を続けてきました。具体的には、スノーボード大会のスポンサー、ハロウィン当日の街頭イベント等が挙げられます。海の家もまた、まさにアクティブな若者が集う場であることから、本キャラバンの一環として2014年から取り組みをスタートしました。 —デジタル施策をふんだんに取り入れた、さまざまなコンテンツが組まれています。コンセプトはどういったものなのでしょうか。 我々は、パソコンやタブレットのメーカーですので、何かしらのデジタルツールを使って楽しいことをやる、ということを大前提にしています。「やっぱりインターネットって便利だな」「SNSってすごいな」「写真って楽しいな」と思ってもらうことが、レノボにとってファン層を広げる基本になっているのです。 とはいえ、海の家そのものに足を運ぶ人の数は、マス広告などでのタッチポイントと比べるとはるかに小さい数であるため、SNSでいかに拡散してもらうのか、という部分は工夫を凝らしました。 この点でいくと、今年は、『SnSnap』というフォトプリントサービスを使った施策が功を奏し、想定の5倍を超える反響が得られました。これは、スマホで撮った写真が、プラスチックのカードにプリントされるコンテンツです。写真に「#LenovoHouse」というハッシュタグを付けて、TwitterやInstagramに投稿すると、『SnSnap』がハッシュタグを基に画像を表示するので、そのなかから自分の写真を選んで出力するという流れです。チェーンを付けるとオリジナルキーホルダーにもなるので、とにかく大好評でした。我々としても、『レノボ・ハウス』で撮られた写真がSNSにどんどん投稿されますので、拡散策としても上手くいったと思っています。 —こだわった部分はありますか。 「海の家としてカッコいい」ということは、すごく大事にしたいと考えていました。この部分は、由比ガ浜のカルチャーを長年つくってきたQuick Silverさんのご協力を仰げましたので、鎌倉のビーチハウスらしさのなかに、うまくレノボブランドを溶け込ませることができたと思います。 そのおかげもあり、期間中は海水浴客だけではなく、近くにお住まいの方がランチを食べにご来店される姿も見られ、地域の方に受け入れられていることを感じました。現役をリタイヤされたご高齢のご夫婦がブランチを楽しまれるシーンなどは、お店の雰囲気づくりに貢献いただいているかのようで、とても印象的でしたね。
自治体とのコラボレーション、経産省発プロジェクトの実証実験も並行実施
—今年は、鎌倉市とのコラボレーション、経済産業省が2020年の社会実装を目指している『おもてなしプラットフォーム』(編集部注:訪日外国人の属性情報をサービス事業者間でID連携及び情報連携することを可能にするプラットフォーム 出典:経済産業省)の実証実験を行うなど、さまざまな取り組みも並行して行われています。それぞれどのような活動だったのでしょうか。 まず、地元の観光協会や企業との取り組みとして、来店者に対し観光情報の提供を行いました。これは、各テーブルに設置されたタブレットに、市内の観光スポットを紹介するアプリをインストールし、お客様が自由に閲覧できるようにしたもので、気になるスポットをタップすれば、詳細が表示されるようになっています。本件は、レノボの本業である、観光ソリューションの開発という視点から話が発展しました。『レノボ・ハウス』を3年間続けてきた成果として、このように実を結んだことは大変良かったと思っています。 そして、『おもてなしプラットフォーム』ですが、位置づけとしては、2016年10月からの実証実験の前段階というもので、『レノボ・ハウス』では、指紋認証によるキャッシュレス決済サービスの実証実験を行いました。海水浴のように基本手ぶらで楽しむレジャーは、お財布を携行すると煩わしく、管理面の心配もあります。その点、このサービスは、指紋認証によって支払いを後払いにできるので、お財布はロッカーに入れたままで大丈夫です。その利便性の高さをお客様に喜んでもらえたこともあり、手応えを感じています。 —今年の成果としては、いかがでしたか。 『SnSnap』に、想定以上の利用者が出たこともあり、SNSでの共有や拡散も想定の5倍になりました。また、来場者数以上に由比ガ浜という華やかな場所と海をエンジョイする活気ある若者の雰囲気のなかで、レノボブランドを認知していただいたことは、ブランド構築という意味でも大きな成果につながっていると考えています。また、『おもてなしプラットフォーム』のプレ実証実験としても、期待どおりの成果を上げることができました。 —本施策は、今後の御社の事業にどのような効果を見込めるのでしょうか。 当社は、今年の秋から、スマートフォンの販売を始めることもあり、若い人の認知度をますます高めていくことは、ビジネスの上で必要なことだと捉えています。この視点でいくと、『レノボ・ハウス』で、若い方が示してくれた、レノボブランドに対する反応は、今後のマーケティング活動で大いに活かしていける知見になりました。 —今後の予定を聞かせてください。 来年も『レノボ・ハウス』をオープンするのかは、未定ではありますが、いずれにしても単純なマス広告を打つのではなく、「またレノボがおもしろいことをやっている」と言っていただけるような、サプライズを実現したいと思っています。

レノボ・ジャパン株式会社 コンシューママーケティング担当部長 宮田弘之さん

“試乗味”のガム・コーヒー・音楽・小説…プリウスが仕掛けた、SNSで話題になるための戦略

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Case:トヨタ自動車「TRY!PRIUS」
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。 今回は、2015年12月に新たに発売になった4代目プリウスの試乗促進を目的としたキャンペーン「TRY!PRIUS」について取り上げます。 本キャンペーンでは、4代目プリウスの試乗から生まれたコンテンツとして、ブルーボトルコーヒーと開発した「プリウス試乗味コーヒー」、ロッテと開発した「プリウス試乗味ガム」、音楽ユニット・水曜日のカンパネラによるプリウスの試乗楽曲MV「松尾芭蕉」、小説家・村山由香氏と原田マハ氏による試乗小説・エッセイなどを今夏、続々と発表。これまでにない、車を“試乗”した感覚やイメージを、あらゆるコラボレーション先と共に形にして表現していくという新たな取り組みです。 本キャンペーンが生まれた経緯から、コラボ先の選定や企画の提案、SNS上やリアルでの反響まで、株式会社電通 CDCコミュニケーション・プランナー/CMプランナーの嶋野裕介さんと、シニア・アカウント・マネジャーの中村壮詔さんにお話を伺いました。
Interview :市來 孝人 / Text : 早渕 夏美
“試乗”の感覚をあらゆるコラボレーション先と共に形にするキャンペーン
—まず、本キャンペーンを実施するに至った経緯について教えていただけますか。 嶋野:本キャンペーンは、今年1月の4代目プリウスの部品40種を擬人化した「PRIUS! IMPOSSIBLE GIRLS」プロジェクトも含め、大きな戦略の流れに則って進めています。今回に関していうと、初めて試乗する人を増やしたいというクライアントからのミッションがありました。旧型のプリウスには既に乗ったことがある人がいたとしても、その過去の経験は忘れて、新しいプリウスに乗ってみてほしいという思いがありました。 —どのような層をターゲットにしているのでしょうか? 嶋野:メインターゲットは、大きく言うと、30代半ばの人々でした。そこでメインターゲットの特徴を自社のデータベースを基に詳しく分析し、現実性や組み合わせの効果も加味した上で、彼らの嗜好として“お菓子”“飲み物”“小説”“音楽”というものが導けました。 さらにメインターゲットの他の特徴として、車を所有する際にその車に乗っている自分がどう見えるかを意識していたり、SNSで積極的に情報発信・情報収集する傾向が強かったりすることがわかりました。よって、今回のキャンペーンを実施するにあたっても、各コンテンツがSNSでどう見えるか・どうしたらシェアされやすいかを重要視して考えていきました。
SNS上で驚きや話題性が生まれるコラボレーション先の選定
—コラボ先へはどのように企画を提案されたのでしょうか? 嶋野:例えば、ブルーボトルコーヒーさんであれば、プリウスに乗っていただいてコーヒーを作っていただきたいとお伝えしますよね。但し、その際に、単なるコラボグッズではなく、本当に皆さんに試乗していただいて、「飲むだけでプリウスに乗った気分を味わえるもの」を作っていただけませんかということを、真面目に提案しました。一方で、実際に試乗していただくシーン〜試乗味コーヒーを作っていただく過程などもしっかり撮影することで、ブルーボトルコーヒーさんのものづくりに対する姿勢なども伝わるようにしたいということも同時に提案しました。 —ものづくりへの姿勢、舞台裏をサイトでもしっかり見せていますよね。 嶋野:今回のサイトでは、開発したコンテンツの紹介ページと、開発の裏側を紹介するページの2面をきっちり分けています。前者がリーチをとるページとして文字は少なめの写真中心に作り、一方、後者は理解を深めてもらう開発の裏側ページとして、文字が多めでゆっくり読み込んでもらえるように作っています。またPCでもスマートフォンでも読みやすいように制作しています。 —今回、多数のコンテンツを段階的に発表されていますが、発表する際に何か意識されたことはありますか? 嶋野:タイミングですね。1月から始まった「PRIUS! IMPOSSIBLE GIRLS」プロジェクトの第2弾として、新作ラジオドラマを7月15日に発表、それ以降も7月29日にブルーボトルコーヒーと開発した「プリウス試乗味コーヒー」や8月5日にロッテと開発した「プリウス試乗味ガム」を発表、8月29日に音楽ユニット・水曜日のカンパネラによるプリウス試乗楽曲「松尾芭蕉」を発表といった感じに、出し続けることに意図していましたね。その他にも、間に渋谷での試乗イベントなども実施し、1〜2週間ごとに必ず新しい情報を出していきました。 —コーヒーやガムなどといった商品でのコラボに留まらず“音楽”の分野でも、水曜日のカンパネラさんとのコラボを実現されていますが、どのように今回の企画の提案をされたのでしょうか? 嶋野:水曜日のカンパネラさんに関しては、正面から口説きにいきましたね(笑)。水曜日のカンパネラさんのように、新しいことしかやらない方々だからこそ、“車に乗った感想を歌にする”という今回の企画は、逆に面白がってもらえました。 また、実は今年1月に実施した新型プリウス部品40種を擬人化した「PRIUS! IMPOSSIBLE GIRLS」プロジェクトでも、実際に50人の方に新型プリウスを試乗してもらった感想を歌の歌詞にするという取り組みをやっていたこともあり、水曜日のカンパネラさんなら、もっとすごいことができるのではという確信を持って、プレゼンしました。 中村:また、クライアントとの信頼関係により、アーティストの方に“ある程度自由にやっていただける土壌”が出来上がっていたことも手伝って、うまくいったと思います。アーティストをガチガチに縛ってしまうような企画だったら、アーティストサイドも出来ません!となってしまっていたかもしれないので。 —今回のキャンペーン全体として、こだわられた点はありますか。 中村:4代目プリウスは昨年の発売当初から販売好調だったのですが、クルマを乗り換える人をもう少し増やしたいという課題がありました。よって、今回のキャンペーンでは、いかにそういった人々を惹き付けるかという点を期待されていましたし、その点にこだわっていました。 嶋野:あとは、話題性ですね。今回の企画が、SNSでどうみえるかと考えたときに、コラボ先やコンテンツに対する驚きが生まれ、世の中で話題性をもって取り上げてもらえるようなコラボ先を選ぼうと思っていました。 中村:また、全国にあるトヨタの販売店に人を呼びこみたいという点もあり、今回のコラボガムなどを配布したことで店頭でも話題になり、新たなお客さんに足を運んでもらえたことも評価していただくことができました。 —今回のキャンペーンに対するコラボ先への反響などについては、いかがでしたか。 嶋野:ブルーボトルさんに関しては、コラボグッズがWebで売り出したその日の午前中に売り切れ。コーヒーも1日25杯限定だったのですが、こちらも午前中にいつも売り切れていたので、毎日すごく売れていますというお話を頂きました。また話題になっていることで、お客さんが増えたりもしたそうです。 また、ガムは59種類のデザインを作ったのですが、ロッテさんの社内の中でも非常に盛り上がったそうです。今回ロッテさんのサイト内で一部だけコラボ商品の販売も行ったのですが、すぐに売り切れました。
“どういう言葉でこの施策が世の中に出ていくのか”キャッチーな言葉を発信
—今回の企画の狙いの一つでもあるSNS上での反響を作っていくために、情報の出し方やPRで大事にされたことはありますか。 嶋野:もちろん、基本的な各媒体のプロモーション施策はきっちり考えるものの、その一歩手前でまずやるべきなのが、“どういう言葉でこの施策が世の中に出ていくのか”というコピーの部分をしっかり考えることです。新聞などだと、紙面の大きさで重要度が判断できますが、ネットの記事だと見出し一行で判断されてしまうので、この一行をどれくらい一瞬でクリックしたくなる感覚を作れるかを考えています。 今回であれば、プリウス試乗味=どんな味だろうというところがポイントですし、またハッシュタグは初め「#プリウス試乗味」としていましたが、その後「#トヨタのガム」と言い方を変えて出し直したり、カンパネラの場合は「#水曜日のプリウス」という出し方をしてみたり(笑)。平易な言葉よりも、キャッチーでコピーになるような言葉を発信することで、思わずツッコミながら、クリックしたくなるようなのを狙いました。 特にTwitterは拡散力が強いので、リーチの拡大や話題を作って盛り上げるという観点から有効だと思っています。ただし、匿名か非匿名かにより、SNS上での反応は変わりますし動画も観てもらいたかったので、今回ニュースはTwitterから発信し、動画はFacebookやYouTubeを活用していきました。
デジタルとリアルへの誘導が上手く機能した
—施策全体のKPIはどのように設定されたのでしょうか? 嶋野:2つの軸がありまして、まず1つ目は、新規率として、新しいユーザーをどれだけプリウスの新サイトに連れてこられたかを施策ごとに分析。全体でみたときに、どの施策で最も新規ユーザーを獲得できたかを見ています。2つ目は、コンバージョンとして、どれだけの人が店舗を検索してくれたか、カタログの申し込みが何件あったかなどを見ています。 特に店頭でも配布を行ったガムに関しては、サイトへの誘引のためのバナーに対する新規率が、通常よりも多く、さらに高確率で店舗を検索していました。今回に関しては、話題になりつつ、そこから実際に店舗に足を運んでいる人がいるという結果が数字としても出ています。よって、デジタルキャンペーンとリアルへの誘導がうまく機能した良い事例かなと思います。 中村:そうですね、特に20〜30代などの若い層にとっては、車のディーラーというと、足を踏み入れるのにもハードルが若干高い場所だと思うので、そのハードルを少しでも下げることができたのかなと思います。 —ある意味、これだけの新しいことを実施できる、クライアントさんとの関係性や、“勇気”も大事ですよね。 中村:まさにその通りですね。いくら良い企画やぶっ飛んだ企画を、説得力もって提案させていただいて、良いとご判断いただけても…最後には、やっぱり“勇気”は必要です。 —まだキャンペーンは続いてはいますが、今回のカギはどんな点だったと思われますか。 中村:今回、コラボ先や何をつくればいいかという案は実現したものの100倍くらい考えていたので、その中で何が正解かというのを一つ一つ検証していく作業を丁寧にできたのが成功の要因ではないかと思います。具体的には、販売店で扱えるかなどという相性から、実際のコスト感や消費期限、お客様に実際に提供できるのか…などの細かいところのせめぎ合いの中で、いかに良いものを作り出していくかというところに時間をかけました。 嶋野:本キャンペーンは、マスコミュニケーションとは、全く別ラインで立ち上げています。SNSでヒットする広告の作り方と、マスでヒットする広告の作り方は、違うと考えており、今回はあえて違った形でトライしています。マスに関しては、出稿量によるところも大きいからこそ、クライアントが伝えたいメッセージをどう上手く伝えるかという点が重要になってくるのですが、今僕らがやっているSNS上の広告は、どうやって見たい気持ちにさせるか、ユーザーの気持ちを先に作って、そこにどうやって企業のメッセージを入れたらいいのかということを考えています。よって、思考の方法が逆だなと思っているんです。 とはいえ、日本ではまだまだテレビの影響力が大きいので、SNS向けにおいても、テレビの焼き直しのようなキャンペーンが多くなってしまうところですが、あえて、マスとSNSで違うやり方を作るというのも今後は有効になってくるのではないかと思っています。今のところ、今回のキャンペーンによる良い数字の結果も出てきているので、今後もいい成功事例を作っていきたいですね。

株式会社電通 CDCコミュニケーション・プランナー/CMプランナー 嶋野裕介さん(左)、 シニア・アカウント・マネジャー 中村壮詔さん(右)

難しいからこそ、踊ってみたい!MixChannel 活用施策『ポカリガチダンス選手権』の舞台裏

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Case: 大塚製薬 ポカリスエット「ポカリガチダンス選手権」
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。 今回は、ポカリスエットのTVCM用のダンス動画をMixChannel上で一般公募したキャンペーン「ポカリガチダンス選手権」について取り上げます。企画の経緯から、ダンスのクオリティへのこだわり、MixChannel上でキャンペーンを盛り上げるための施策、そして予想を越えるユーザーからの反響まで、大塚製薬株式会社宣伝部 課長の上野隆信さんと株式会社電通 クリエーティブ・ディレクターの眞鍋亮平さん、そして株式会社電通デジタル アカウント・プランナーの山手渉さんにお話を伺いました。
Interview & Text : 坂巻 渚
ユーザーの声から生まれたダンス投稿コンテスト『ポカリガチダンス選手権』

<応募作品で作られたTVCM「ポカリガチダンス ありがとう」篇>

—まず、今回のキャンペーン実施の経緯をお教えいただけますか。 上野:もともとポカリスエットの既存顧客は30代、40代がメインだったので、もっと次世代のユーザーを開拓していきたいと思ったのが始まりです。昨年から若い世代へのアプローチを始め、今年は10代向けの施策として、八木莉可子さん主演のTVCM「エール」篇、「サンクス」篇の2本を春からスタートしました。このCMが嬉しいことに予想を越える大反響をいただくことができましたし、一般の方や、学校の先生からも、「ダンスの振り付けを教えてほしい。」「運動会でぜひこのダンスを踊りたい。」など沢山のお声をいただき、今回のダンスコンテストという企画に辿り着きました。 眞鍋:またユーザーとのコミュニケーションを大切にするために、コンテスト終了後には、参加者の方に“ありがとう”の気持ちも込め、マス広告のクリエーティブチームと僕たちデジタル広告チームが連携して応募作品を使用したTVCMを作ろうということにもなりました。 —一般の方のダンス動画をTVCMに起用するとなると、応募作品の質を上げることにもこだわられたのではないですか? 眞鍋:はい、ダンスのクオリティにはかなりこだわりました。MixChannelでは、“誰でも踊れる”という文脈で、これまでにいくつか簡単な振り付けのダンスコンテストが行われていたのですが、「ポカリガチダンス選手権」では、敢えてこれまでのコンテストとは真逆の戦略を取り、“難易度の高いダンス”を課題にしようということになりました。キャンペーンのコピーでもある「自分は、きっと想像以上だ。」、「潜在能力をひき出せ。」というメッセージがまさにピッタリの内容で、コンテスト名も「“ガチ”ダンス選手権」と敢えてダンスの難しさを強調するネーミングにしました。 ただ、正直、ダンスの難易度が高い上に、応募期間もたった1週間と非常にハードルの高いコンテストだったので、応募が集まるか不安な気持ちもありました。しかし、この難易度の高さが、結果的にはユーザーの挑戦心を掻き立て、コンテストを大きく盛り上げてくれたと感じています。 上野:提案を聞いた時は、こんなに難しいダンスをみんな踊ることができるのかドキドキしました(笑)ただ、CM主演の八木さんも、実は始めは全くダンスを踊れなかったんです。オーディションでもソーラン節を踊っていたくらいです(笑)ただ収録までの1ヶ月間半、本気で練習した結果、本番では見事なダンスを披露してくれたので、そのこともあり今回のコンテストも何とかなるのではないかとは感じました。八木さん自身が最初に「潜在能力をひき出せ。」のスローガンを体現し、この企画に勢いをつけてくれたような気もします。 眞鍋:数を集めるために、ダンスの難易度を下げた方がいいという意見も出ましたが、そこは譲れないという気持ちがありました。上野さんにも最初から「数ではなくて質を優先」ということにご納得いただいていたので、今回の挑戦ができたと思っています。

<CMカット画像(八木莉可子さん)>

<「ポカリガチダンス選手権」告知バナー>

再生回数は68.5万回!インフルエンサーの「お手本動画」が伝えた「動画のこだわりポイント」
—参加のハードルが高いとなると、コンテストを盛り上げるためにはどのような工夫をされたのですか? 山手:1つはMixChannel内のダンスが得意なインフルエンサーの方々に、今回のダンスの「お手本動画」を作ってもらい、応募開始に先駆けてMixChannel上にアップしてもらいました。 眞鍋:今回お願いしたインフルエンサーの方の一組は「STYLE」という女性3人組のダンスグループで、実際にコンテストに応募する要領でダンスを踊り、撮影してもらいました。「楽しくかつ本気で踊る」こと、そして「面白いシチュエーションで撮影する」こと、この2点について依頼しました。撮影場所が教室やダンススタジオに偏ってしまうと、CM化した時も面白みに欠けてしまうので、参加者の個性を活かした色々なバリエーションの動画がほしかったんです。お手本動画のおかげで、シチュエーションや衣装など、参加者のこだわりの詰まった作品を沢山集めることができました。

<STYLEさんのお手本動画カット>

山手:あとすごかったのは、STYLEさんをはじめとするインフルエンサーの拡散力です。お手本動画はMixChannel内だけでも、再生回数68.5万回と脅威的なスピードで閲覧されました。また動画には200件を超えるコメントも寄せられ、「ダンスやってみます!撮影場所はどこですか?」「やってみたけど、なかなか難しい…」など、コンテストに興味のある人たちがうまく情報交換できるようになっていたのもよかったです。 あとはコンテストを盛り上げる工夫として、MixChannelに掲載したバナーに、「MixChannelの皆さま」という文言を入れるなど、できるだけユーザーさんの心に響くクリエイティブ作りを意識しました。 眞鍋:コピーライターやアートディレクターもMixChannelユーザーが使いそうな言葉を多く取り入れるなど、言葉の使い方や世界観にかなりこだわっていました。みんなの居場所に居させてもらっているプロジェクトなので、出来るだけその世界に溶け込むようなクリエイティブを意識していました。 —投稿されたダンス動画に対して、SNS上での反響はいかがでしたか? 上野:まず、投稿者ご自身が、ダンス動画を投稿した後に、Twitterで友人にシェアしたり、YouTubeにアップするなど、できるだけ多くの人に動画を見てもらうように努力していたのが印象的でした。 山手:MixChannelのカテゴリ上位にしっかりと再生回数の多い作品が並んでいたこともあって、それが投稿者にシェアを促すいい影響を及ぼしてくれていた気もします。 またダンサーとしてコンテストに参加はしないものの、動画を見て楽しんでいる方々のコメントやシェアもかなり盛り上がっていました。コメントの8割くらいは10代なのですが、意外と20代、30代の投稿も多かったですね。「青春って素敵!」「眩しすぎる!」など、昔を懐かしむような内容が目立ちました(笑)あと、投稿者のお母様方のパワーはすごかったです。「娘が頑張っているので、応援してください!」とご自身のSNSで動画を拡散している方が結構いらっしゃいました。 質を追い求めた結果、数字も大幅達成!たった1週間で集まった作品は600件以上 —最終的に応募作品はどれくらい集まったのですか? 山手:最終的には600件を越える作品が集まりました。最低でも100件以上という目標を立てていたので、1番最初にこの数字を聞いた時は、正直かなりホッとしました(笑) 眞鍋:ミニマムでも100件はないと、そもそもCMが作りにくいんですよね。質を追い求めた結果、数字も大幅に想定を超えることができたのは本当に嬉しかったですね。また投稿動画の総再生回数も380万回以上という数字を記録することができました。 山手:ダンスのハードルが高かったにも関わらず、他のダンスコンテストと同じくらいの応募数を達成し、募集期間に関しては、わずか1週間でこの数字を達成できたのは本当に嬉しいですね。 また今回応募で特徴的だったのが投稿数の推移です。想定ではコンテストの開始から2〜3日で応募の8割程を占めると思っていたのですが、今回は最終日に向けて右肩上がりに応募が伸びていました。あとは、1ユーザー当たりの複数回投稿が目立ったのも今回の特徴でした。このことから、参加者の皆さんが短い期間内に練習を重ね、できるだけいい作品を投稿しようとしてくれていることが伝わりました。 —実際に投稿作品をご覧になって、予想と比べていかがでしたか? 眞鍋:想定を超えるクオリティとバリエーションが予想以上に集まったので、非常に満足のいく結果になりました。 山手:受賞作の選考は10名程のメンバーで行い、応募された600本以上の動画を全て見たのですが、アプローチが多種多様で、選考していても非常に楽しかったです。準優勝の作品についてはカメラワークがすごすぎて、「中学生が撮影しているなら天才だよ!」と、みんなで圧倒されていました(笑) 眞鍋:選考では、「ダンスのクオリティ」と「ユニークさ」を特に重視し、結果発表のページではそれぞれの作品に寸評も付けています。

<優勝したDoubleDさんのダンス動画カット>

<MixChannel上の結果発表画面>

—TVCMで使用する作品の応募者はきっとCMの放送日が待ち切れないですよね。 山手:実は今回のCMについては、どの作品が使われているか事前に公表していないんです。受賞作品10作品はCMに使用しているのですが、それ以外の作品もできる限りCMに入れたので、当日放送を見てビックリされた方も多いと思います。 上野:既に9月19日の「MUSIC STATION」で60秒CMを流し、YouTube上にもアップしていますが、CMに起用された皆さんの嬉しそうな反応がSNSでも多々見受けられました。また10月2日の『DASHでイッテQ!行列のできるしゃべくり日テレ系人気番組NO.1決定戦 2016秋』、9日、16日、23日の『ザ!鉄腕!DASH!!(日曜日 19:00〜19:58)』と4回に渡り、毎回異なる切り口でまとめられた30秒CMをで放送しています。そこでもまたSNS上での反応が非常に楽しみです。 —今回のコンテストには、ユーザーさん自らがSNSでシェアしたくなるようなポイントが沢山含まれているんですね。 山手:そうですね。オフラインとオンラインを上手く交互に使えたことが、今回のプロモーションの大きな特色になった気がしています。TVCMというマスから始まり、CMに対する声を受けてオンラインでは「ポカリガチダンス選手権」を実施し、それをまたTVCMとして放送するなど、ユーザーさんとのコミュニケーションに手応えを感じています。 —今後の展開について一言いただけますか? 上野:これまではTVCMや交通広告など単発で終わっていた所が、今年はユーザーの方々を巻き込んだ立体的なプロモーションを実施することができました。まだ始まったばかりなので、今回得たノウハウをしっかり活かし、引き続きユーザーの方々とのコミュニケーションを大切にしながら、いつも傍らにはポカリスエットがある、そんな存在にポカリスエットがなることを目指して頑張っていきたいと思います。

大塚製薬株式会社宣伝部 課長 上野隆信さん(中央) 株式会社電通 クリエーティブ・ディレクター 眞鍋亮平さん(左) 株式会社電通デジタル アカウント・プランナー 山手渉さん(右)

日本の美しい写真が話題に「PHOTO METI PROJECT」が目指す、ストックフォトサービスのその先とは

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Case:経済産業省『PHOTO METI PROJECT』
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。 今回は、経済産業省が2016年8月4日にオープンしたウェブサイト『PHOTO METI PROJECT』を取り上げます。 国内外に向け、日本の魅力を写真で伝える観光オープンプラットフォームとしてスタートした本プロジェクト。全国津々浦々にある景勝地や祭りなどの伝統行事を、息を呑むほど美しい写真で紹介するとともに、そのエリアの観光情報を、観光に関連するデータを提供する『観光予報プラットフォーム』と連携しながら発信しています。本ウェブサイトの制作秘話や今後の展望を、プロジェクトを手がけた、株式会社ライゾマティクス クリエイティブディレクター 有國恵介さん、アートディレクター 木村浩康さんに伺いました。
Interview & Text : 香川 妙美
リオオリンピックでの展示企画が、プロジェクトの発端に
―まずは、プロジェクトのいきさつをお聞かせください。 木村:もともとの発端は、リオオリンピックなんです。経済産業省より、オリンピック開催中に設営するジャパンハウスのなかで、写真を使って日本を紹介できるコーナーがつくれないかという相談がありまして。とはいえ、オリンピックのためだけに制作するのではなく、東京オリンピックを視野に別途経済産業省が進めている『観光予報プラットフォーム』との連携が図れないのかなど、様々な思惑がありました。 そこで、まずは写真をベースにしたウェブサイトを立ち上げ、中長期的な視野で発展させていく方向で話がまとまりました。ゆくゆくは、2020年に向けてインバウンドを獲得し、日本の各地域のファンになっていただくこと、様々なところに何度も訪れたいな、と思ってもらうことがゴールなのですが、前段としてまずは、日本に行ってみたいと思ってもらうことが、本サイトの目的になっています。 ―美しい写真が、美しい音楽とともに流れていく様子は、日本人であってもうっとりします。 有國:写真は、まだ51枚しか収めていないんです。リストにして並べれば一覧化できる量なので、1枚ずつゆっくり見てもらうためには、という視点から今の形にしています。ジャパンハウスで流すことを前提にしていたので、半動画的なコンテンツとして扱うことで、飽きずに楽しめることを目指しました。楽曲も写真の裏にある情景や情緒を感じていただきながらも、聴いていて心地よいサウンドを目指しました。 ―ところで、写真はどのようにして集めたのですか? 有國:経済産業省が「2020年東京オリンピック・パラリンピックを活用した地域活性化推進首長連合」に依頼したほか、『観光予報プラットフォーム』を手がけるJTBさんにも協力を仰ぎました。ただ、写真が全都道府県から集まるのだろうか、ボリュームやクオリティはどの程度なのかなど不確定な要素も多かったので、クオリティの高い写真をいかにきれいに見せるかをベースにサイトの構成を考えました。 ―想像するだけで骨が折れそうですね。 有國:そうですね。今回、写真の収集・選定が一番大変でした。解像度が足りない、写真の向きが様々、クオリティも今回の趣旨と照らすと劣るなど、なかなか条件に合うものがなく、結局集まった7,000枚のうち、公開できたのは51枚だけ。各首長さんには、「本当にいい写真を1枚でよいのでください」と改めてお願いするなどしつつ、どうにか集めることができました。 木村:大変といえば、クリエイティブコモンズでダウンロードできるようにしたことにも労を費やしました。ライセンスをどのレベルで設定するのかを弁護士の先生に相談しながらリストにしつつ、権利的にOKなのか確認を取っていくのですが、なかには個人が撮影した写真もありますので、各自治体に条件がクリアしているのか照会したり、クリアしている写真を送ってもらえるよう依頼したりしながら進めていきました。写真を扱うコンテンツにするのであれば、ダウンロードできることは、大前提だと思っているので、この部分には、とことんこだわりました。
ライターによるサイト紹介を機に、認知度が拡大
―そのようなプロセスを経て、8月4日のローンチを迎えることになるのですが、外部に向け告知はされたのでしょうか。 有國:いえ、やりたいことがこの先にもたくさんあるので、ここで区切るイメージはありませんでした。なので、認知もじわじわと獲得できればいいかな、と。ローンチからしばらくは、リオにいる人しかサイトの存在を知らなかったと思います(笑)。 ―関連記事の公開日を見ると、9月以降が多いように感じます。きっかけはあったのでしょうか。 有國:ライターのモリジュンヤさんが紹介してくれたんです。それから徐々に認知されていきました。モリさんは、自分がよいと思うものしか紹介されないので嬉しかったですね。 木村:ですが、どの媒体でもストックフォトサイトとして紹介されていたので、エゴサーチをしていると、「ストックフォトなのに、なんでこんなに使いづらいんだ」という声が結構あって。確かにその要素が強いので、仕方のない部分はありますが、眺めて楽しんでもらうことも一つの目的になっています。そこをご理解いただけるとうれしいです。 とはいえ、記事中でクリエイティブコモンズライセンスについて詳しく説明してくださったことは、とてもありがたかったです。これまでは使えることを知らなかったり使いかたを間違っていたりと、認識があいまいな印象が強かったので、これを機会に世の中のクリエイティブコモンズリテラシーが上がったように思います。 ―ユーザーの反応はいかがでしょうか。 有國:「この写真を選んでくれてありがとう」「カレンダーにしたいから元データがほしい」など、色々な反応をいただいています。なかでも「どうすれば、『PHOTO METI』に載せてもらえるのか」というアマチュアカメラマンからの問い合わせには、今後応えていきたいですね。というのは、プロの写真家の作品は、その人に権利があるので、こういう形で公開ができませんが、アマチュアの方は権利云々よりも、写真を使って地元を広めていきたいという思いのほうが強いんです。その思いの部分と『PHOTO METI』の企画は、うまく合致しているように思っているので。 木村:写真家の方がおっしゃっていたのですが、プロのカメラマンが限られた時間しか、その場にいられないのに対し、地元のカメラマンはずっとそこにいて撮影に没頭できるので、良いショットが必ず生まれるのだそうです。そして、それには作家性が含まれていない場合が多い。そういった意味でも地元の方からいただいた写真をクリエイティブコモンズライセンスで配付していくことは、とても相性が良く、理にかなっているんです。 有國:今後は地域の方が、『PHOTO METI』に写真が載ることを喜ばしいと感じてもらえるようなモチベーションをいかに形成していくかが、プロジェクトの肝になると思っています。その方法として、著名写真家に選定をお願いする、賞を用意するなど、色々な施策を検討しているところです。
ゆくゆくは、インバウンド効果を発揮できるサイトとして成長したい
―冒頭、『観光予報プラットフォーム』との連携の話が出ましたが、具体的にはどのようなカタチを目指しているのでしょうか。 木村:インバウンドの視点ですと、『PHOTO METI』には、今まで見たことのない景色を眺めつつ、そこに行きたいと思っていただく動機づけの意味合いがあります。『観光予報プラットフォーム』は、そのための導線なのですが、現在のところ、ティザー的に付けている状態に留まっているので、今後はより子細な観光情報の発信、たとえば3か月後の混雑状況が知れたり、旅行のプランニングに活用できたりなど、そんなことを念頭に準備を進めています。 そのためには、やはり写真を集めていかなければならないので、まずはそこに注力していきたいですね。 ―一連の経過をたどって、改めてどう感じていますか。 有國:写真は一つのコンテンツだということを再確認しました。制作をしながらも全国から集まった美しい写真に引き込まれていく感覚がありました。世の中がインスタグラム的なものに慣れつつある今だからこそ、こういう見せかたが良かったのかなと思っています。 ―今後の予定をお聞かせください。 有國: 来年には投稿機能を付けて、地方にいるアマチュア写真家の作品を収集、かつご紹介しながら、地元の人の視点による地方の資源の掘り起こしに寄与していきたいと思っています。旅行雑誌に載っていない写真を多くご紹介していきたいですね。 木村:『PHOTO METI』は、クリエイティブコモンズライセンスによって誰でも写真を使える点が、大きな強み。最終的には、日本一のフォトサービスになっていくことが理想です。と言いつつも、ストックフォトとしての意味合いは半分くらい。今後は、国内外の観光を促すサイトとしてのポジションをどのように確立していくのかが目下の課題です。 引き続き、『観光予報プラットフォーム』との連動を図りつつ、ストックフォトとしても国内外に広く認知されていくことで、インバウンドにも効果を発揮していきたいと思っています。

株式会社ライゾマティクス クリエイティブディレクター 有國恵介さん(左)
株式会社ライゾマティクス アートディレクター 木村浩康さん(右)

キリンビバレッジ「缶コーヒー100万本サンプリング」の理由と、配り切るための緻密な戦略とは

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Case:キリンビバレッジ『「KIRIN史上最大!100万本サンプリング」#ジャッジしてみたキャンペーン』
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。 今回は、キリンビバレッジ株式会社が、2016年9月14日から10月3日にかけて実施した『「KIRIN史上最大!100万本サンプリング」#ジャッジしてみたキャンペーン』を取り上げます。「味わいに集中してほしかった」という理由から、缶コーヒーであること以外の情報はすべて伏せた状態で、100万本もの大規模サンプリングを展開した本施策。この大がかりなキャンペーンを成功に導くための数々の施策とその成果について、キリンビバレッジ株式会社 マーケティング本部 マーケティング部 商品担当 主任 中村奈津美さんに伺いました。
Interview & Text : 香川 妙美
期待を上回る味を実現。これをフックにしたキャンペーンを計画
―事前情報はすべて伏せられていたこの缶コーヒーの正体は、1999年に発売された御社のロングセラー商品『FIRE』でした。これまでにも数度リニューアルを図っているとのことですが、今回のフルリニューアルにはどのような意味が込められているのでしょうか。 近年、コーヒー市場は拡大基調にありますが、けん引しているのは、コンビニエンスストアで展開するカウンターコーヒーやショップコーヒーであり、缶コーヒー市場は横ばいが続いています。なかでも、SOT缶と呼ばれるプルトップ付きのアルミ缶は、リキャップできるボトル缶タイプのものに押され、ユーザーからも、“旧文脈の飲み物”という認識が持たれつつあります。そういった環境の変化やトップブランドとの差分などから、『FIRE』のブランド価値は年々弱まっていく傾向にありました。そこで、今一度ブランドを蘇らせることを目的に、今回のフルリニューアルにいたりました。 ―リニューアルのポイントを教えてください。 缶コーヒーユーザーの6割がコンビニコーヒーやショップコーヒーを併飲しているというデータが出ており、舌の肥えたユーザーが増えつつあります。なかには、缶コーヒーは、抽出タイプのコーヒーよりも味が劣ると考えている人もいるようで、缶コーヒーに対する味への期待が薄れている印象がありました。 そこで、その期待を良い意味で裏切るべく、 “焦がし焼き”という製法を開発し、コーヒーそのものを感じていただける味わいを実現しました。社内でも大きな手ごたえを感じていたことから、キャンペーンも味をフックにした企画を打ち出すことになりました。 ―味への自信がキャンペーンの方向性を決めたのですね。 ええ。商品名をはじめ一切の情報を隠すことで、味に集中してもらおうと考えました。さらには、シークレットの体裁を採ることで、普段コーヒーを飲まない方の関心につなげることも目的の一つになっています。 ―ところで、飲料業界におけるこの種のキャンペーン規模は、通常10万本、多くても30万本程度と聞きます。これを踏まえると、今回の100万本は、かなり大きい数字に感じますが、どのようにして数量を決めたのでしょうか。 一言でいうと、フルリニューアルの意気込みを表すため、といったところでしょうか。今までにないくらいの数をお配りすることで、当社の自信を表したい思いがありました。また、情報に触れた方が、「そんなに配るのなら自分も貰えるかも」と、自分ごととして受け止めていただける数という視点からの設定でもあります。ちなみに100万本は、コーヒーユーザーの20人に一人へ行き渡る数になります。 ―そうはいってもかなりのボリュームです。社内からはさまざまな声が上がったと思うのですが…… そうですね。まだ製品化されていないものを配るという視点から、この規模での実施にはさすがに心配の声が聞こえてきました。大量の数が動くので物流面の心配もあったようです。しかし、毎年秋はコーヒーの新商品が出る時期でもありますし、少し停滞気味の缶コーヒー市場を盛り上げたい気持ちは全社員が持っていましたので、最終的には全社はもちろんお取引先にもご協力いただきながら意欲的に取り組むことができました。
[CM内のワンカット]
100万本を配り切るための積極的な広告展開
―実施にあたってのプロモーション施策をお聞かせください。 100万本というボリュームをさばくためには、広告投下量もそうですが、量に見合うだけの認知を得ることが重要と考え、そのためにさまざまな施策を行いました。ユーザーの目に留まりやすいTVCMやポータルサイトのバナー広告は、通常のキャンペーンよりも出稿量を多くしましたし、サンプリングイベントの実施にあたっては、オウンドメディアやメルマガでの告知はもちろん、たとえばLINEはエリアをセグメントできるので、開催地域のユーザーに通知を送るなど、相当な量のプッシュを行いました。 配布方法を、ウェブでの申し込み、auショップ様での店頭配布、街頭サンプリングの3種類で展開したのも、できるだけたくさんの方に手に取っていただきたいがため。とにかくすごい量なので、イベントだけで配り切るのは相当難しいですし、さまざまな属性の方がいらっしゃいますので、それぞれが入手しやすい環境をご用意する必要があると考えました。なかでもauショップ様は、全国に3,000店舗もありますので、お客様の特に身近な場所ということで、過半数近い量を用意しました。これら以外にもアンバサダーキャンペーンや既存商品への首かけ、ショッピングモールでの配布等を行い、最終的には100万本を期間内に配布しました。 ―PR文脈では、どのような活動をされたのでしょうか。 今回、記者発表会を2度実施したんです。1度目は初日に当社社長によるサンプリング宣言を、2度目は発売日前日にタレントさんにご登場いただき、シークレット缶の正体は、『FIRE』だったという種明かしを行いました。これは、キャンペーンで盛り上げた期待感を発売のタイミングでさらに高め、『FIRE』の販売につなげていくという視点からの施策でした。 このほか、試飲した感想をレビューしていただこうと、ウェブ媒体を中心にサンプルの送付を行いました。一件ずつ電話を入れ、承諾を得てから発送するという地道なものでしたが、“キリン”“と”缶コーヒー”しか情報の無いキャンペーンでしたので、概要をしっかりご理解いただくためにも必要な作業でした。
[社長自らのサンプリング]
―キャンペーン実施にあたり、印象に残ったエピソードはありますか 1度目の記者発表は、社長だけの登場ということもあり、注目度はさほど高くないと予想していたのですが、発表直後のウェブサイトのアクセスが12万件にのぼり、サーバーがダウンしてしまいました。さらには翌週の金曜日も再びダウンしてしまい、チャンスロスをした点は反省点でした。裏を返せば、ユーザーの皆さんに、それだけ大きな興味を持っていただけたということなのですが……。以降は、アドを打つタイミングをずらして集中を緩和させるなど、施策を調整しながら対応していきました。
SNSに投稿したくなる仕掛けで、コアターゲットより若い層にもリーチ
―参加されたユーザーの反響は、いかがでしたか。 今回は、ツイッターと連動したキャンペーンを実施しており、試飲された方に「ジャッジしてみた」というハッシュタグで、感想を投稿いただきました。キャンペーン自体も「あなたがジャッジ」というやや挑戦的なトーンでしたので、辛辣なコメントも飛び出すのでは、と思ったりもしていたのですが、好意的な声が多く集まり、ほっとしましたね。なかでも、「普段飲まないけれど、キャンペーンがおもしろいから参加して飲んだらおいしかった」といった感想は、リーチしたい人に届いたということもあり、印象に残っています。 反響はツイート数にも表れていました。通常、自社のキャンペーンは4,000ツイートあれば好成績と言われているのですが、今回は1万を超えました。これは、抽出するのもなかなか大変な量で(笑)。当社にとっては嬉しい悲鳴になりました。 あとは、街頭サンプリングもお楽しみいただけたように思います。会場にシークレット缶が入った自販機を設置したのですが、ボタンを押せば出てくる仕様でしたので、その非日常な体験がうけたようです。ほかにもシークレット缶のモニュメントやフォトプロップスをご用意し、若い方がSNSにあげたくなる仕掛けをご用意しました。ツイッター施策もそうですが、SNSの活用により、若い世代の方に多くご参加いただけたことは何よりでした。 ―最後に、発売後の売れ行きはいかがでしょうか。 おかげさまで、流動の激しいコンビニエンスストアでも一定の評価をいただくなど、良いスコアで推移しています。好調を維持するためのキャンペーンも今後実施する予定です。 商品のコモディティ化の進む缶コーヒー市場は、定番品を根付かせるのは難しいと言われていますが、今後も当社の持つ高い技術力でユーザーの期待に応えながら、フルリニューアルをした『FIRE』をさらなるロングセラー商品として育てていきたいと思います。

キリンビバレッジ株式会社  マーケティング本部 マーケティング部 商品担当 主任 中村奈津美さん

篠崎愛が電話で“小悪魔っぷり”を炸裂!『世界初の通話連動型MV』制作の狙いと舞台裏

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Case: 篠崎愛『URA SHINOZAKI-ほんとうの愛を、知っていますか?』
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。 今回は、グラビアアイドル、そして歌手として活動する、篠崎愛さんのメジャーデビューシングル『口の悪い女』のリリースに合わせて公開された、世界初の通話連動型MVサイト『URA SHINOZAKI-ほんとうの愛を、知っていますか?』について取り上げます。 企画の経緯から、メディアを意識した戦略、制作をスムーズに進めるための工夫、そしてその反響までを、株式会社東急エージェンシー クリエイティブディレクターの野澤直龍さん、同社 統合プランナーの酒井亮祐さん、同社 コピーライター/統合プランナーの丸本翔一さん、そして株式会社 monopo テクニカルディレクターの宮川涼さんにお話を伺いました。
Interview & Text : 坂巻 渚
メジャーデビューを機に伝える、アーティストとしての「新しい篠崎愛」
—まず、今回のプロモーションに携わられた経緯からお教えいただけますか。 野澤:メジャーデビューを機に、アーティストとしての篠崎愛をどのように打ち出していくか、という所からスタートしました。 酒井: これまでの篠崎さんと言うと、「癒し系グラドル」というイメージが一般的。しかし今回は、『口の悪い女』のように“ブラックな裏の側面“を打ち出し、パブリックイメージを覆すことで「アーティストとしての篠崎愛」を浸透させようということになりました。 —「通話連動型MV」というアイデアにはどのように辿り着いたのですか? 野澤:「アーティストとしての篠崎愛」と言っても、一方的に新しいイメージを押し付けるだけでは、世の中にはなかなか受け入れてもらえません。そこでアイデアを考える際はまず、「メディアに取り上げてもらうこと」を意識しました。まずは、ニュース系メディアに企画への興味を持ってもらい、世の中へ発信してもらう、そして、その情報に触れた生活者にもSNSでシェアしてもらう、という流れの中で「アーティスト篠崎愛」というイメージが形成されていく、というコミュニケーション構造がいいのだろうな、と。 あとは、「ファンがちゃんとやりたくなる要素」を意識しました。篠崎愛と電話できるなんて、ファンにとって最高ですからね。「もしも、自分が篠崎愛の友達だったら?」という設定も心をくすぐりますし、新しい篠崎さんの1面を自然に知ってもらえる施策として、最終的にこのアイデアに決まりました。 丸本:正直、話題になるであろう強いアイデアは沢山出ていたのですが、「篠崎さんのパーソナリティが伝わる企画」「篠崎さんだからやるべき企画」という点にはこだわりました。
“リアルさ”をとことん追究。いち早く実施した「デザイン検証」と「デモ体験」
—サイトを制作するにあたり、特にこだわられた点はありますか? 野澤:今回のプロモーションでは、拡散が重要なポイントだったので、シェアされるためのデザイン検証は徹底して行いました。インパクトの残るビジュアルとして機能させるため、紅い唇の絵を大々的に使ったのもそういった意図があります。 宮川:「シェアのしやすさ」と「引きの強さ」を意識し、サイトは全て一画面の構成にしています。スマホの通話画面やLINE風画面についても、アニメーションの細かい部分までこだわり、リアルさを追求しました。実際、メディアに取り上げてもらった記事でも予想通りのキャプチャが使われていたので、こだわった甲斐がありました。 —電話のセリフもかなりリアルですよね。セリフはどのように考えられたのですか? 酒井:リアリティがとにかく大事だったので、まずは篠崎愛が言いそうな言葉や使いそうな顔文字をリサーチし、盛り込んでセリフのたたきを作りました。その上で、最終的にご本人とディスカッションをして修正を加えていきました。ただ、セリフとMVの連動が難しかったですね。両方のタイミングが少しでもずれると、それだけで噛み合わなくなってしまうので。セリフの長さを考慮しながら、面白い内容になるよう、試行錯誤を重ねました。 野澤:篠崎さんに確認してもらう前に、「通話体験のデモ」も行いました。作ったセリフを女性に話してもらって録音し、検証を重ねていくことで、違和感のない通話体験に近づけたと思います。 —電話を切るとメッセージが送られてくるというアイデアも面白かったです。思わず返信しそうになりました(笑) 酒井:途中で電話を切ったり、動画の再生を止めると、たたみかけるようにスマホに“お怒り”のメッセージが送られてくるようになっています。電話を切った後にメッセージでダメ押しがくるというのは、実生活で体験したことのある方も多いと思います(笑) 篠崎さんの小悪魔感を感じてもらえる大きなポイントだったと思います。 —企画を聞いた時の篠崎さんの反応はいかがでしたか? 丸本:その場で、「面白そう。これやりたい!」と言っていただきました。こういう企画は、いかに本人に「やりたい!」と思ってもらえるかが重要なので嬉しかったですね。 野澤:今回かなり早い段階から、宮川さんに「デモサイト」を用意してもらい、篠崎さんが企画をイメージしやすいような環境作りを心掛けました。 丸本:プロトタイプを最初に用意したからこそ、篠崎さんにも沢山意見を言っていただくことができ、かなり早いペースで本人を巻き込みながらブラッシュアップできたと思います。 —社内での反応はいかがでしたか? 野澤:基本的には高評価でよかったのですが、中には「恥ずかしくて会社ではできない…」という人たちも結構いました(笑) 丸本:職場ではできない人や、家にPCがない人もいるので、その人たちにコンテンツを体験したように感じてもらうためにも、最初にメディアを押さえることは重要だと考えました。メディアに掲載されれば、やってくれる人も増えますし、やってない人にも「これ面白いよね!」と感じてもらうことができるので。
「質」と「量」ともに、理想的なメディアの盛り上がり
—実際に、リリース後のメディアの反響はいかがでしたか? 野澤:200以上のメディアに記事を取り上げてもらうことができ、アーティストのメジャーデビュー施策としては異例の好数字を出すことができました。 丸本:通常、歌手のデビューというだけだと、音楽系のメディアには取り上げてもらえても、それ以外のメディアで取り上げてもらうことはなかなか難しいんです。しかし今回は、ネタになる企画を戦略的に用意してあったので、エンタメ系やオモシロ系のメディアにも取り上げてもらうことができました。そして、その先にある、Yahoo!やグノシーなどの大手ニュースサイトにも転載され、さらにまたバイラルメディアにも掲載されるという、非常にいい構造を作ることができました。 酒井:記事の質も高く、メディアが実際にコンテンツを体験した様子を、順を追って細かくまとめてくれていました。もともと期待はしていたものの、メディアのコントロールはできないので、実現すると嬉しいですね。 野澤:あとは、Yahoo!急上昇検索ワードで、「iPhone7」「イタリア地震」などといった社会的に関心の高いワードと並んで「篠崎愛 通話連動型MV」が表示されたことを見ても、この構造がしっかり機能できたのではないかなと。 —拡散のいいサイクルが出来上がっていたのですね!SNSでの反響はいかがでしたか? 酒井:今回はスマホとPCの両方がないと再生できないので、「やりました」というコメントはあまりなかったものの、メディアの記事を見た人が「これ面白そう。後でやる!」というコメントと一緒に、記事をシェアしてくれていました。 丸本:あとは、記事を見た一般の方が自発的にブログに書いてくれたり、NAVERまとめを作ってくれたり。また、NAVERまとめは個人とは思えないほど質がかなり高く、たった1日で5万PVを越えていました。今回のように結果を出すことができたのは、ユーザーやメディアのインサイトを捉えられていたからだと思います。 野澤:「篠崎愛がメジャーデビューしたんだ!」「篠崎愛が面白いことやってる!」というコメントが多く目立ち、まずは、篠崎愛のメジャーデビュー、そして歌手としての新しい篠崎愛を多くの層に伝えることができたと感じています。今後もこういったコミュニケーションを継続することで、「アーティストとしての篠崎愛」という像を定着させて、そこから楽曲を知ってもらい、そして篠崎さんのファンになってもらうという、いい構図を作っていけたらいいですね。今回はその第一歩として、まずは道筋を作れたと思います。

株式会社 東急エージェンシー コピーライター/統合プランナー 丸本翔一さん(左から1人目) 株式会社 東急エージェンシー クリエイティブディレクター 野澤直龍さん(左から2人目) 株式会社 東急エージェンシー 統合プランナー 酒井亮祐さん(左から3人目) 株式会社monopo テクニカルディレクター 宮川涼さん(左から4人目)

頭皮ケアシャンプーが帽子を被るプロに向けたサポート制度「着帽手当」を提案!?『CLEAR』が目指す未来とは

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Case: 『着帽手当 by CLEAR』
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。 今回は、ユニリーバ・ジャパン・カスタマーマーケティング株式会社が、販売する男性用頭皮ケアシャンプーブランド『CLEAR』のマーケティング施策『着帽手当』を取り上げます。 『着帽手当』とは、 企業が専用サイトで購入した『CLEAR』を、帽子を被って働く社員に支給する世界初の社内サポート制度。6月22日のスタート以来、福岡ソフトバンクホークス、ドミノ・ピザ、金谷ホテル、三和建設をはじめとする企業が、福利厚生の一環として導入しています。本施策が誕生したいきさつや今後の展望を、プロジェクトを手がけた、株式会社アサツーディ・ケイ クリエイティブ本部 クリエイティブディレクター 玉川健司さん、コミュニケーション・アーキティクト本部 コピーライター 青木一真さん、コミュニケーション・アーキティクト本部 コミュニケーションディレクター 贄田翔太郎さんに伺いました。
Interview & Text : 香川 妙美
コモディティ化の進むシャンプー市場での新しい売り方を模索
―まずは、プロジェクトのいきさつをお聞かせください。 青木:『CLEAR』は、頭皮ケアシャンプーとして男性用では世界No.1のシェアを持つものの、日本では2014年に発売したばかりのブランドです。流通周りはすでに競合に固められ、カテゴリー自体のコモディティ化が進み、さらには対象ユーザーが商品選択に関与する傾向がさほど高くないなど、『CLEAR』には当初から様々な課題がありました。クライアントも、どんな切り口なら興味を持ってもらえるのか、そもそもどこに潜在ターゲットがいるのか悩んでいました。 玉川:これらを踏まえ、新しい売り方を模索するうちに企業の中に入り込めないかと考えるようになりました。というのは、たとえば工事現場で働く人や、コックさん、野球選手など、日常的に帽子を被って仕事をするビジネスパーソンは、1350万人いると言われており、そういう方のインサイトとして、髪への不安やケアしたいという思いがあるのではないか、と考えたのです。 そこで、企業が『着帽手当』として社員に『CLEAR』を支給する仕組みをつくらないか、とクライアントに提案したところ、「ユニークな売り方であり、『CLEAR』を家庭に置いてもらうきっかけとしても新しい。自分たちの課題を解決する施策だ」との言葉をいただき、施策が実現に向かっていきました。 -本施策にあたり、プロダクトも開発されたと伺いました。 贄田:帽子の中の環境の“見える化”を目的に、『ヘアラート』をつくりました。帽子の上に載せて使います。話題化や導入のためのツールという目的があったので、開発チームにPR担当者を加え、全員で話し合いながら仕様を決めていきました。あえて分かりやすいアウトプットになっているのも、メディアの関心を誘引するためです。絵的に撮りやすいこともあり、TVでも複数紹介いただき、導入の問い合わせにも寄与しました。 -動画もおもしろいと話題です。 青木:日本人が観るぶんには、「かっこいいね、クールだね」って感じなのですが、外国の人は見た瞬間、大爆笑するんです。クールなんだけど、本当は面白い。そのギャップが受けたようで、海外でも話題になりました。 玉川:ムービーには、一見ふざけた感もありますが、本当に『着帽手当』を実施するという「本気度」を示したい、そういう意気込みがありました。あとは、話題性を持たせたるために、頭を掻いている、蒸気が上がっているといった描写をこだわって盛り込んでいます。ポップな歌ものにしたのも、本施策がグローバルインサイトになる可能性を含んでいたので、そこを意識しました。
業界専門誌の掲載を多数獲得! コアターゲットへの圧倒的なリーチを実現
ーPR施策についてお聞かせください。 贄田:まず、スタートまでに10社近い企業さんとお話しし、この『着帽手当』を採用いただきました。その上でローンチ時には、実際に帽子やヘルメットを被って仕事をされている導入企業の社員の方やスポーツチームの方にランウェイを歩いていただき、使用感を話してもらうイベントを行いました。いわゆる一企業のキャンペーンのPRイベントではなく、たとえばクールビズが導入されたときのような、新たな制度が始まったと伝わる見せ方を意識しました。実際の露出もそういったトーンが多かったように思います。 このイベントを皮切りにしつつ、まもなく夏が訪れるというタイミングで、帽子の中が蒸れる、頭皮に汗をかくといった事象をフォーカスし、メディアに随時情報提供を行っていきました。 また本施策では、第三者PRとブランド主語のコミュニケーションのタイミングを合わせることも重要視しています。露出が徐々に広がっていくタイミングで、第二弾ムービーとなる『着帽の真実』を公開し、着帽手当が生まれた経緯や、どんな人に必要なのかをインフォグラフィック的に紹介することで、より深くご理解いただき、特設WEBページからの問い合わせや申し込みにつなげています。 -PRを展開するうえで印象的だったことはありますか。 贄田:総務・人事専門誌の権威である、『月刊総務』の編集長さんにご賛同いただけたことでしょうか。「企業の健康経営が標榜されるなか、頭皮に関する社員ケアは今までになかった」と、大きな関心を寄せてくださり、イベントにもご来場のうえ記事にもしていただきました。『月刊総務』は、発行部数はさほど多くはありませんが、企業の総務人事関係者が定期購読する雑誌のため、『着帽手当』の導入検討者には圧倒的なリーチを獲得でき、影響力も大きかったです。 -掲載が意外だったメディアはありましたか。 玉川:導入企業さんが関連する業界の専門媒体。例えば、建設業界紙やホテル・旅館の業界紙等が挙がります。シャンプーなんて、絶対載らないじゃないですか(笑)。あとは、四国アイランドリーグさんが導入してくださったおかげで、四国のローカル局に取り上げていただいたりもしました。幅広いメディアだけでなく、ターゲットが詰まったメディアにもバランスよく露出できた印象があります。 -導入企業からは、どんな反応がありますか 青木:「社員のモチベーションになっている」「会社の姿勢を社員に伝えられる」等が多いですね。「身だしなみに気遣っていることを対外的に訴求できる点もメリット」と、おっしゃる企業もいらっしゃいます。 玉川:意外だったのは、経営者の方が賛同してくれたこと。経営者の立場から言うと、「社員に着帽させている」=「無理を強いている」と映りかねない部分が懸念されそうですが、そういった指摘は挙がりませんでした。ネガティブな話が出てこないのは、本質をつかんでいるから、と考えています。
ECでの販売が前年大幅増に。BtoC市場へも大きく寄与
-ローンチ後の企業からの問い合わせはいかがでしょうか。 青木:トータルは集計中ではあるものの、建設業界に関しては導入が2桁を超えました。ローンチのタイミングで三和建設さんが導入してくださったことにより、業界紙に取り上げられ、それが呼び水になりました。問い合わせも絶えず続いていますので、手ごたえとしては大きいです。 -BtoC市場での売り上げにも貢献できていると感じていますか。 贄田:ECでの売り上げは前年第3四半期比で71%増まで伸びました。それだけ頭皮と髪に良いシャンプーだと認識していただけているようです。今回は、ウェブへの出稿に注力しており、特設サイトから『CLEAR』を取り扱っている各ECへの案内も入れています。その導線設計がワークしたと考えています。 ―一連の活動を踏まえ、どのような印象をお持ちですか。 玉川:一昔前だと育児休暇さえ取りづらかった日本の労働環境がだいぶ変わってきていて、社員に対する新しい取り組みをどこの企業も考えている、と感じました。今後もきっと新しい福利厚生が続々と生まれてくるのでしょうね。 青木:そうですよね。今でさえ色々な福利厚生がありますが、それらも生まれた当初は、「本当にやるの?」って思われていたと思うんですよね。『着帽手当』も、今は突飛に思われているのかもしれませんが、5年後10年後には、当たり前の制度として定着しているという思想でやっています。 玉川:クライアントに提案したときも、「5年後にはほかの企業が始めているかもしれません。だから、ユニリーバが世界で初めて提唱することに意味があるんです」という話をしました。 あとは、今回の結果に結び付いたのも、もともと目標のなかに今までに無いイノベーションをシャンプーで起こすとしたら何ができるのだろう、という裏テーマがあり、クライアントとその視点を揃えたうえで共に挑戦できたことが大きかったと思っています。僕らだけでは、制度をつくるなんて到底できませんでした。販売ルートづくりからPR施策にいたるまで、あらゆることを二人三脚でやってこその結果だと感じています。 ―今後の展開を聞かせてください。 青木:先日、ユニリーバ・シンガポールに提案へ行きましたが、「グレート」「クレイジー」という反応が返ってきました(笑)。つまりは、見るだけで分かってもらえるのは、良いことだということです。コミュニケーションスピードの速さは、他の国に展開していくうえで大きなアドバンテージになりますので。 海外展開にあたっては、引き続きクライアントと取り組んでいきたいと思っています。 贄田:メディア換算も3億円を超え、当初の目標値もクリアできていますが、金額以上の反響を得られています。業界専門誌をはじめ、ターゲットに近い媒体での露出を多く獲得できたため、一つひとつの換算額は小さいものの、ターゲットスコープが非常に高いんです。いまのPRの時流にあった、本当に届けたい人に届けるための施策ができているので、今後も継続的な露出を目指していきたいですね。 玉川:一方、日本では、来年以降どのように展開していくかを考えていかなければと思っています。今回の施策は、キャンペーン色もあるものの、ブランディングでもあるし、営業支援でもあるんですよね。なので、売れた、売れなかったという一過性の現象で判断するのではなく、制度として根付かせていければ。来年以降も導入企業を増やす施策を行いつつ、売り上げにもより貢献していきたいと思っています。

写真左:株式会社アサツーディ・ケイ クリエイティブ本部 第2クリエイティブ・ディレクション局 玉川ルーム ルーム長 / クリエイティブディレクター 玉川健司さん 写真中:株式会社アサツーディ・ケイ コミュニケーション・アーキティクト本部 コピーライター 青木一真さん 写真右:株式会社アサツーディ・ケイ コミュニケーション・アーキティクト本部 コミュニケーションディレクター 贄田翔太郎さん


マイルが貯まるスマホ!? 航空会社による携帯電話サービス『ANA Phone』開発の狙いとは

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Case: ANA X株式会社『ANA Phone』
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。 今回は、ANA X株式会社が、2016年12月2日にスタートした携帯電話サービス『ANA Phone(エーエヌエーフォン)』を取り上げます。ANA Phoneは、料金プランやフライトの回数に応じ、2年間で最大34,400マイルが貯まる、スマートフォン。端末自体にも、旅に出かけたくなるホーム画面やウィジェットが標準搭載されており、飛行機好きにはたまらない仕様が魅力です。 航空会社であるANAが、携帯電話サービスを手がけるその意図にはどんな思いが込められているのでしょう。サービス提供のいきさつや、ANA Phoneを通して描くANAの展望を、ANAの会員プログラム「ANAマイレージクラブ」を運営するANA X株式会社 顧客戦略部 企画チーム アシスタントマネージャー 樋口義洋さん、同 企画チーム エグゼクティブ 川原千明さんに伺いました。
Interview & Text : 香川 妙美
スマホはお客様との究極の接点
—まずは、ANA Phoneの提供にいたったいきさつをお聞かせください。 樋口:ANAグループは、お客様の生涯にわたって関係性を築いていくことを目指しています。航空券をご購入いただく都度のコミュニケーションに限らず、日常の接点を増やしていくことでお客様との関係をより確かなものにするためにスマートフォンでのサービスに力を入れています。例えば、アプリケーションや月額課金サービスなど徐々にタッチポイントを広げています。そのような中、ソフトバンクさんとのご縁があり、今回のANA Phoneの構想が浮かんできました。ANA Phoneの開発にあたっては、仕様やデザインを含め、ソフトバンクさんに全面的に携わっていただき、両者ともに思い入れの強いプロダクトになったと感じています。 川原:スマホはもはや、わたしたちの生活において切っても切れない存在になりつつあります。お客様との関係性を構築するうえでも非常に強力なツールであり、スマホ自体をANAオリジナルカスタマイズにすることで、当社とお客様とのあいだに究極の接点をつくれたらと考えたのです。 ANA Phoneをお使いいただきながらマイルが貯められ、次のフライトにつながるというサイクルにより、旅が身近になるライフスタイルをご提案したいと思っています。 —ANA Phoneの特長やこだわりを聞かせてください。 樋口:基本設計は、『マイルが貯まるスマートフォン』ですが、端末自体にANAの世界観を盛り込むことで、付加価値を出したいと考えました。たとえばオリジナルのホーム画面は、機内の窓から外を見るというコンセプトのもとデザインしています。この構図は、お客様が「これから旅に出る」という気持ちを高められる印象的なショットですので特にこだわり、背景も時間の経過に合わせて、青空が夕暮れに、夕暮れが夜空に、というようにライブ感を出しました。このホーム画面を見るたびに旅へのモチベーションを高めていただけるとうれしいです。 川原:このほか、フライトの予約ができる「ANA」アプリに加え、「ANAマイレージクラブ」アプリがプリインストールされています。こちらでは、積算マイルの確認等ができるほか、マイルが貯まるショッピングやグルメ予約の導線が用意されております。フライトだけではなく、日常的にマイルを貯めるきっかけとしてお使いいただくことを想定しています。 —マイルが貯まる仕組みを教えてください。 樋口:スマホの契約プランに応じてもらえる「月々マイル」と、フライト時に獲得できる通常マイルに加えて付与される「搭乗ボーナスマイル」をご用意しています。ANA Phoneのご利用にあたり、どのくらいのボリュームでマイルをお渡しするのかは、貯まり方も含めてどういう方式が良いのかを何度も検討を重ねました。 今回最大で貯めていただけるマイル数は、人気の路線である沖縄にペアでご利用いただくことができ、さらにお持ちのマイルを少し追加したらハワイに行くこともできるなど、お客様が特典航空券をご利用いただくことをイメージし、お客様の期待に応えられるように設定しました。
自社メディアを活用し、ANAマイレージクラブ会員にリーチ
—ローンチにあたって、どのような広告展開や広報活動をされたのでしょうか。 樋口:宣伝を担当している部署とも協力し、自社メディアでの告知を積極的に実施しました。例えばTwitterなど自社SNSへの投稿や、ANAの機内誌「翼の王国」、プレミアムメンバー向けの会員誌「ana-logue(エーエヌエーローグ)」といった紙媒体、ANAマイレージクラブ会員向けのメールマガジン、自社のウェブサイト「ANAウェブサイト」など、様々なチャネルを使うことで、効果の最大化を図りました。 広報活動については、共同でプレスリリースを配信したので、両社のリレーションを活用しながら多くのメディアに取り上げていただきました。 —販売状況はいかがでしょうか。 樋口:サービス開始にあたり、ANAマイレージクラブ会員の皆様からは、「ぜひ欲しい」「マイルがもっと貯まるようになる」などの声をもってお迎えいただき、出足も好調です。販売台数も当初の計画を上回る実績が出ています。 川原:ANA Phoneは当初、ポイントに対して関心の高いお客様を想定していたのですが、ふたを開けてみればANAファンのお客様の反応が大きく、端末にもその傾向が出ています。 今回のANA Phoneは、『Xperia XZ』で提供しているのですが、こちらの機種は4カラーで展開されています。一般的には4カラーがだいたい均等に購入されているそうですが、ANA Phoneは、ANAのコーポレートカラーと同じフォレストブルーの購入比率が非常に高く、こういった面からもファンの方にご購入いただけていることがうかがえ、手ごたえを感じています。 —今後についてお聞かせください。 川原:一定以上のマイルが貯まると航空券に換えられる仕組みは、他のポイントシステムと比べても十分なアドバンテージがあると思っています。日常で貯められるポイントはどんどん増えているものの、シーンによって使い分けている方がまだまだ多くいらっしゃいますので、スマートフォンをはじめ、全てがANAのマイルにつながる世界をつくることが最終的な目標です。 当社は1997年にマイレージプログラムを導入し、長きにわたりお客様との絆を大切に育ててきました。また、空港や機内というリアルな接点を強みとして生かしながら、お客様と向き合うマーケティングに関しては、一朝一夕では培うことのできないノウハウと自信を持っています。これからはエアラインの域に留まらず、様々なパートナー企業と共に新しい価値創造を提供していきたいです。 樋口: ANA Phoneは、お客様に近づきたい一心でスタートしましたが、お客様に意外性を持って受け止めていただけたことにより、「次は何と組むのだろう」という期待感を醸成できたと思っていますし、私たちにとっても、次は何をすればお客様の満足度を高められるのかを探す機会につながっています。今後も他社さんとの協業を通してお客様に驚きを提供するとともに、よりマイルを貯めたいと思っていただけるよう、次の一手に向けて励んでいきたいと思っています。

写真右:ANA X株式会社 顧客戦略部 企画チーム アシスタントマネージャー 樋口義洋さん(右) 写真左:ANA X株式会社 顧客戦略部 企画チーム エグゼクティブ 川原千明さん(左)

九州・山口の知事が妊婦に? 世界188ヶ国に拡散された知事の妊婦体験動画 制作の理由

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Case: 九州地域戦略会議『九州・山口 ワーク・ライフ・バランス推進キャンペーン』
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。 今回は、九州・山口地域9県と経済界による「九州・山口 ワーク・ライフ・バランス推進キャンペーン」を取り上げます。 このキャンペーンでは佐賀県、宮崎県、山口県の3県の知事が重さ7.3kg(妊娠7ヶ月相当)妊婦ジャケットを着用し、仕事や家事、買い物などを行う事で妊婦の大変さを体感。その模様がYouTubeにアップされました。この動画は、日本のみならず世界188ヶ国へと広がり、全世界での再生数は2,300万回以上になりました。企画立案の経緯から、公開後の反響までを株式会社 CS西広 クリエイティブセンター 第1CRチーム チーフクリエイティブディレクター 深堀康平さん、同社 コミュニケーションデザインセンター コピーライター・CMプランナー 岡本和久さんにお話を伺いました。
Interview : 市來 孝人/ Text : まきだ まどか
知事を企画の中心にすることで、メッセージの本気度を伝える
―ワーク・ライフ・バランスをテーマにキャンペーンを行うに至った経緯について教えてください。 岡本:今回の「九州・山口 ワーク・ライフ・バランス推進キャンペーン」は、九州地方知事会と九州・山口経済連合会が主体となり、九州独自の発展戦略を立てたり、具体的施策に取り組む「九州地域戦略会議」から生まれた企画です。様々なテーマのプロジェクトがこの会議から生まれるのですが、出産をテーマにしたプロジェクトチームでは佐賀県の知事がリーダーとなり、今回の企画がかたちになりました。9社の競合プレゼンが行われ、私たちの企画が採用されました。 ―競合プレゼンの中でも、今回の企画が選ばれたのは、どういった理由があったのでしょうか。 岡村:最近は地方自治体によるPR動画がたくさん作られるようになり、面白系や感動系など様々なものが公開されています。その中でも、私たちの企画は、知事を全面に出しながら、見た目のインパクトもあったということで、選んでくださったと聞いています。 深堀:知事が集まり、地域を変えようとしていることを伝えるキャンペーンですので、県民をはじめ、見ている人にその本気度が伝わらなければなりません。そのためには、地方自治体のトップである知事を企画の中心に据えることで、よりメッセージが世の中に響くのではないかと考えました。知事自ら動くことで、根本的な解決につながるのではと思ったんです。
バズよりも、女性からの共感を集めるために
―参加された知事3人の反応はいかがでしたか。 深堀:佐賀県の知事の撮影は、8月のお盆前だったので、かなり暑い時期でした。妊婦ジャケットを着ているだけでも体力が奪われる中で、いろいろな環境で妊婦体験をしてもらいました。予想していた以上に大変だったそうです。それまで(制度を通して)子育て支援はしていたけれど、妊娠中の実際の感覚までは意識がいっていなかったという気付きもあったようです。 ―企画が採用され、制作するにあたり、苦労した点はありましたか。 深堀:一番悩んだのは、バズを起こすようなおもしろさと本質的なメッセージとのバランスです。プレゼンの段階では、妊婦ジャケットを着用した知事がいろいろな失敗をして少し笑えるようなシーンを入れ込むことを想定していました。しかし、演出コンテを考える段階で考え抜いた末に、バズ的なおもしろさを追うあまりに、女性の共感を得られないものになってはいけないという結論に至り、見せ方を変えました。 岡本:動画の中で、靴下を履くシーンがあります。立ってふらふらしながら靴下を履いた方が画としてはおもしろいのかもしれないですが、現実的には、お腹の大きな女性はそういう履き方はしません。これでは女性からの共感は得られないですよね。 その他、細かな点についても編集段階で女性に見てもらい、意見を集め、女性視点で見たときに少しでも嫌な気持ちにならないかを調査しました。女性により共感してもらえるものを目指し、最終的にはちょうどいいところに着地したと思っています。
日本だけにとどまらず、海外でも大反響!議論を巻き起こす
―動画公開後、かなりの反響があったかと思いますが、メディアからの反応はどういったものでしたか。 岡本:予想以上の反応がありました。ヤフートピックスをはじめ、現在までに100媒体以上のネットメディアに掲載されました。テレビでも、ニュース番組や池上彰さんの番組などで取り上げてもらい、実際に妊婦ジャケットを番組内で着用してくれたこともありました。 SNSなどで議論を巻き起こしたのも、今回のキャンペーンの特徴でした。女性からは、つわりや精神的なつらさも加わり、妊娠中の大変さはこんなものじゃないという意見、男性からは、会社の環境を整えないと早く帰りたくても帰れないという意見などがあがっていました。ただ、涙が出てきたとか、国で義務化すればいい、この動画で救われたというようなポジティブな意見も多くありました。 ―日本だけではなく、海外での反響も大きかったようですね。海外展開へ向けて、何か戦略があったのですか。 岡本:正直、私たちが戦略的に特に何かしたわけではありません。結果的には、この動画は世界188ヶ国で見られることになりました。映画『スティーブ・ジョブス』主演のアシュトン・カッチャー氏がFacebookでシェアしてくれるなど、想像以上にSNSでも話題になりました。ありがたいです。 深堀:インドや中国などのアジア圏が特に再生回数が多く、アメリカ、ヨーロッパ、ロシアでも再生回数が伸びていました。スピードの差はありましたが、比較的まんべんなく世界中の人が見てくれたようです。 ―日本の何かの媒体で紹介されていたものが、海外へと波及していったのでしょうか。 岡本:そうですね。元々海外向けに制作した動画ではないのですが、YouTubeの動画にそれぞれの言語の訳が加えられてアップされて広がっていきました。中国版のTwitterといわれているウェイボーでも取り上げられ、話題になっていたようです。 女性の妊娠出産にともなう大変さ、男性が女性の気持ちを理解する必要があることは、世界共通だということが改めてわかった気がします。「素晴らしい社会実験だ」というコメントをいただいたこともありました。 ―どれくらい再生回数が伸びたのですか。 岡本:世界中のサイトなどで視聴され、動画公開後1ヶ月で2300万回再生されました。
動画を公開してからが環境改善・意識改革へのはじまりだと思う
―社会的にも影響が大きい動画になったのではないでしょうか。 深堀:佐賀県の担当の方が内閣府に出向いて、この動画を作った経緯について聞かれたりということもあったそうで、成功例としてとらえてくれているようです。 ―改めて、この企画を制作するにあたり、最終的なイメージはどういったものだったのでしょうか。そのゴールイメージに近いものとなりましたか。 深堀:ここまで広がるとは思っていなかったので、それは喜ばしいことですが、私たちは動画を作って終わりにはしたくない、実際に妊婦体験出来るところまで実現したいという思いがありました。動画が完成した後も、県の担当の方々と何かできることがないかと話し合いは続きました。 岡本:子育て関連のイベントでブース出展した際に妊婦体験出来るようにしてくれたり、佐賀県知事は、撮影後すぐに妊婦ジャケットを3着購入して県庁に置いてくれたりと、各自治体での独自の動きはあるようです。 ―今後の構想があれば、教えて頂けますか。 岡本:今後のことはまだこれからですが、個人的には、企業にもこのプロジェクトに加わってもらって、ワーク・ライフ・バランスを推進していかなければいけないと思っています。企業からも変わっていく必要があると考えています。

株式会社 CS西広 クリエイティブセンター 第1CRチーム チーフクリエイティブディレクター 深堀康平さん(右) 同社 コミュニケーションデザインセンター コピーライター・CMプランナー 岡本和久さん(左)

空港トイレにスマホ用トイレットペーパーを設置 NTTドコモによる訪日外国人向け“おもてなし”企画

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Case: NTTドコモ『スマホ専用トイレットペーパー』
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。 今回は、NTTドコモが、現在成田空港で展開しているインバウンド向けプロモーション施策『スマホ専用トイレットペーパー』を取り上げます。訪日外国人の数が初めて2,000万人を突破した2016年。今後もインバウンド需要の増加が予測される一方、訪日外国人が日本の旅行で最も困ることとして、「Wi-Fiサービスなどのネット環境」が挙げられています。 この課題を解消すべくNTTドコモドコモが舞台として選んだのが、海外から高い評価を誇る日本のトイレ。成田空港の各ターミナル到着ゲート付近7か所のトイレに、Wi-Fiサービス・音声翻訳機能付きトラベルガイドアプリの情報等が印字され、スマホの画面を拭きやすいサイズにした"スマホ用"トイレットペーパーを取り付け、訪日外国人に向け、日本での快適な旅の一助となるサービスの利用を喚起しています。 さて、「Wi-Fi」と「トイレ」という意外な組み合わせが、ドコモのねらいとどのように結びついたのでしょう。企画のいきさつや動画制作の意図、PR面での工夫点などを、株式会社NTTドコモ プロモーション部 第二制作担当 主査 深田大介さん、同 第二制作担当 香村佳宏さん、株式会社東急エージェンシー クリエイティブ局 クリエイティブディレクター 諸橋秀明さん、同 第1営業本部 第5営業局 第1営業部 熊澤真一さんに伺いました。
Interview & Text : 香川 妙美
インバウンド需要の高まりに呼応する、新たな取り組み
―NTTドコモさんによる訪日外国人に対する取り組みは、これまでどのようなものだったのでしょうか。   香村: SNS広告や記事広告等のメディア掲載、旅行系イベントへの出展、訪日アプリ事業者とタイアップしたクーポン配布等、Web系のプロモーションを中心に実施してきましたが、インバウンド向けの施策をさらに強化したいと考え、ターゲットへ効果的にコンタクトできるポイントを模索しているところです。 ―そのようななか、今回の取り組みを始められたのはなぜでしょうか。 深田:ドコモには現在、堤真一さんらを起用して展開している『特ダネ』シリーズ、黄色い鳥のキャラクター、ポインコが出演する『dポイント/dカード』を軸としたプロモーションフレームがありますが、これらとは一線を画す施策として、若年層をはじめ、これまでドコモに触れてこなかった方に向けたプロモーション活動にもプロジェクトとして取り組んでいます。 インローミングに対するプロモーションは、そのプロジェクト内でもの課題として挙がっていました。2020年の東京オリンピックに向け、インバウンド需要はますます高まりつつあり、今後注力していくべき領域であると捉えたことが発端になっています。 ―提案をお受けになった当初の印象を聞かせてください。 深田:実施場所がトイレというのが盲点というか、目から鱗で。伺った瞬間、ぜひやりたいと思いました。ドコモに限らず、いわゆる日本のクライアント側は、トイレを使ったプロモーションはまず発想できないですし、できたとしても実行に移すのはなかなか難しい。なぜなら、第一にトイレに対する一般的なイメージがあるからです。 とはいえ、前述のプロジェクトは、そういう固定観念を一つずつ打破し、新しいドコモのイメージを世の中に訴求していくことが目的でもあるので、今回の提案は、そこにぴしゃりとハマった印象を受けました。 ―起案者である諸橋さんは、どういったところから、その着想を得られたのでしょうか。 諸橋:以前、ドキュメントバラエティ番組で、日本人の女の子が海外に住むおじいさんに日本のシャワートイレをプレゼントして喜ばれるというシーンを観たときに、「日本のトイレは外国人に興味を持ってもらうネタとして使えるなあ」と思ったんです。日本のトイレが外国人にとって驚きの存在であることも認識していました。 そのうえで、今回のテーマは、早いタイミングで訪日外国人の方と接触することが肝になると考えるなか、日本に到着したら真っ先に向かうであろうトイレは、その条件に適っているし、世界が注目する日本のトイレの新たな一面をつくることは世の中の話題にもなりそうだな、と。もちろん、ドコモさんがお持ちの課題も解決できると思いました。
チャレンジングなおもしろ動画で、ドコモブランドを揺さぶりたい
―動画も話題になっています。 諸橋: 当初、「スマホ専用トイレットペーパーの使い方」という動画を作ろうという話を深田さんからいただいたんです。でも、もっと拡大解釈をして「日本のトイレの使い方」にすれば、より多くの人の関心を引けると思い、企画を提案しました。そのときは、日本のトイレの使い方を淡々と説明するだけで、十分関心を示してもらえるとお話ししたのですが、今度は深田さんから「めちゃくちゃおもしろくしよう」とさらなるご提案をいただき、そこから“前から拭くエレファントスタイル、後ろから拭くホーステールスタイル”などが生まれました。こんなふうにドコモさんと良い企画ラリーができた成果として、ユーザーからおもしろがって観ていただける内容になりました。ただ、本当と冗談の境界をどこで引くのかには慎重になりましたね。リアルになりすぎると本気で捉えられかねないので、そこのさじ加減は監督ともずいぶん議論を重ねました。 もともと本施策は、プロダクトだけで口コミ拡散していくイメージを持っていたので動画を作る予定も当初は無かったのですが、結果として作ってよかったです。メディア露出の仕方が多面的になるなど、いろいろと勉強になりました。時間の無いなか、協力してくださった磯拓馬プロデューサーはじめ、AOI pro.チームには、本当に感謝しています。 ―ドコモさんが、おもしろさにこだわった理由をお聞かせくださいますか。 深田:おもしろいに限らず、「悲しい」「考えさせられる」などもそうですが、世の中に膨大な情報が溢れるなか、ユーザーに見つけてもらい、さらにアクションしてもらうには、よっぽどのきっかけがないと難しい潮流になっています。逆に琴線に触れることができれば、その人自身がメディアとなって拡散してくれる。 それによってプロモーションが成立することを過去の事例から認識しており、また年々そうした時代になってきているとも実感していましたので、そこを狙わない手はないと考えました。 特に今回は、多少のリスクを承知のうえ、よりおもしろさを追求した動画にすることで、ドコモブランドを少しでも揺さぶりたいと思っていたので、これだけ多くの方に視聴いただけたのは、本当に良かったです。 さらには、プロダクトのみだと、体験された訪日外国人がSNSで拡散して、海外で火が付いて、日本のメディアでも紹介されるという流れを待つ必要がありましたが、動画もあることで日本国内でも火が付き、両方からの効果が得られると思いました。この視点からも動画はポイントになりました。 ―続いて、プロダクトのこだわりを教えてください。 諸橋:デザインについては、アートディレクターの林俊美と入念に打ち合わせしました。スマホ用トイレットペーパーホルダーは、空港のトイレットペーパーホルダーと並べたときに、そのミニチュア版に見えるよう、愛らしい佇まいを目指したいと思いました。そのため成田空港までロケハンに出かけて実物を確認し、近しい形になるようにつくっています。全体のデザインも、なるべくシンプルにしつつ、どの国の方にも認識してもらえるようにしています。 熊澤:こだわりでもあり、一番大変な部分でもあったのですが、スマホ用トイレットペーパーには、かなりの労を割きました。画面に付いている皮脂を取りつつ、トイレに流すからには水に溶ける紙でなければならない。この条件の揃った紙がなかなか見つからなくって。さらには、ミニサイズのロール紙をつくれるのか、小ロット印刷に対応してもらえるのかなど、そのほかの条件も重なり、協力会社をすべてあたってようやく見つかりました。 ―ところで、成田空港の反応は、いかがでしたか。 熊澤:最初、電話越しに話したときには、「え?」っていう反応でした(笑)が、成田空港としても外国人の方に、どのようなおもてなしができるかを模索されていたようで、「ご利用者に喜んでもらえるのであれば、場所を提供しましょう」とご快諾いただきました。 ―実際のご利用者やSNSの反応で、印象に残ったものはありましたか。 香村:外国人利用者からは「とてもクールね!」「スマホのクリーナーペーパーとは、とてもいいアイデアだ」という声をいただきました。またSNSでは、日本人の方からも「成田空港に行くから見てみよう」「日本のハイテクなトイレ伝説がまた一つ生まれた」などのコメントを見かけました。「発想がおもしろい」「斬新だ」というコメントが総じて多かったように思います。 深田:このほか、「ドコモが、こんなことできるんだ」というコメントも見かけ、当初意識していたような良い意味での驚きも感じていただけたように思っています。
ファクトと旬のキーワードを盛り込んだPR文脈で、多数の記事掲載を獲得
―ローンチにあたり、どのようなPR戦略を掲げられたのでしょうか。 諸橋:当社PRプランナーの吉尾達矢と協議して大きく2点を意識しました。一つは、ファクトをしっかり盛り込むこと。今回、「スマホは便座の5倍も汚れている」という事実は絶対に入れたいと思い、この調査をされた『SPA!』さんの承諾を得て、プレスリリースと動画に使用しました。もう一つは、メディアで流通するキーワードを盛り込んだことでしょうか。「ドコモ流おもてなし」というのが、そうですね。 深田:海外から来た人が困ることランキングもよかったですよね。1位がWi-Fi環境、2位が言葉、というものですが、リリースにも一部盛り込まれています。 諸橋:今回は、さまざまなファクトを吉尾が見つけてきてくれました。このようにファクトを挙げると、メディアは記事にしやすい。今回も、スマホが汚いということが見出しになったり、おもてなしという言葉を記事内にちりばめることができたりと、多面的な露出が実現できました。 掲載数は、ローンチ1か月で454にのぼっています。現在、『CNN』『BBC』など海外メディアにも取り上げられはじめていますので、今後も数が増えていくと思っています。 ―実業との連動に関しては、いかがでしょうか。 香村:今回は、ドコモという日本でナンバーワンのキャリアが存在することを、訪日観光客に印象付けることを重要視していますので、成果へのこだわりは次回以降になってくると思っています。 諸橋:そうですね。スマホ用トイレットペーパーにも、「JAPAN’S NO.1 MOBILE OPERATOR」の文言を載せていますが、極端な話、印字はすべてこれでも良かったくらい一番に訴求したい部分でした。 ナンバーワンは、信頼や安心につながりますので、「日本のキャリアといえば、ドコモね」と思ってもらうきっかけづくりを大切にしています。 ―最後に、今後の予定を教えてください。 深田:一旦3か月間の取り組みということで3月15日まで行いますが、その後の展開は、今回の反響と効果を検証したうえで考えたいと思っています。

写真左から順に 株式会社NTTドコモ プロモーション部 第二制作担当 香村佳宏さん 株式会社NTTドコモ プロモーション部 第二制作担当 主査 深田大介さん 株式会社東急エージェンシー クリエイティブ局 クリエイティブディレクター/CMプランナー/コピーライター 諸橋秀明さん 株式会社東急エージェンシー 第1営業本部 第5営業局 第1営業部 熊澤真一さん

アウトソールから音が聴こえる!? 未来を感じさせるスニーカー コンバース「ALL STAR HACK」が完成するまで

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Case: コンバース「ALL STAR」100周年施策『ALL STAR HACK』
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。今回は、コンバース「ALL STAR」100周年施策『ALL STAR HACK』を取り上げます。 1917年に世界初のバスケットボール専用スニーカーとして誕生して以来、不動の定番スニーカーとなったコンバース「ALL STAR」。 このたび誕生から100周年を迎えるにあたり、定番として愛されているデザインはそのままに、アウトソールやインソールなどを大幅に改良した「ALL STAR 100」が発売されました。 この改良点に着目してもらおうと制作されたのが、今回の『ALL STAR HACK』。アウトソールにスピーカーを搭載した「ALL STAR 100 SPEAKER」、九九の式を問うと答えを返す「ALL STAR 100 AI」、インソールを押すと「もっと、もっと」と気持ちよさそうに答えてくれる「ALL STAR 100 SHIATSU」の三つのプロトタイプを発表し、コンバースの進化ポイントを訴求しました。これらのプロトタイプを制作した、株式会社博報堂アイ・スタジオ 統合デジタルマーケティング1部 インタラクティブプラナー 木下剛さん、同 Future Create Lab R&Dチーム テクノロジスト/インタラクティブエンジニア 茶谷亮裕さんに、開発のいきさつやプロダクトのこだわりについて伺いました。
Interview & Text : 香川 妙美
 
“ALL STARのありえない進化案”が、プロダクトのベースになった
—スタートのいきさつは、どういうものだったのでしょうか。 木下:去年の2月ごろ、株式会社SIXの坪井卓さんから声がかかったんです。「興味があったら、どう?」くらいの軽い話だったのですが、せっかくの機会だからと最初の打ち合わせに参加したら、帰りがけに「ALL STARのありえない進化案を考えてきて」と宿題が出されました。 坪井さんも始めから何かを決めるというより、まずはアイディアを散らかしたいと思われていたようで、ALL STAR大喜利のように提案しては、また宿題を持って帰る、というのを繰り返すうちに、今回のプロダクトのベースとなるものが見えてきました。 —具体的に、どういう話が繰り広げられたのですか。 木下:僕らとしては、ALL STARの進化ポイントをフォーカスしていきたいので、例えばアウトソールだと、「見た目がスピーカーっぽいですよね」とか。坪井さんは、側面の二つの穴をつぶしたいと言っていたので、「じゃあ、イヤホンジャックに見立てましょうか」なんて話をしながら、実際にALL STARを買ってきて、アウトソールをくり抜いてスピーカーをはめ込んでみたり。そんな風に話が進むときもあれば、8時間くらい雑談して何も決まらずに終わった回もありました(笑)。

各プロトタイプの元となった「ALL STAR 100」

—プロトタイプを考えるうえで、コンバースのブランドイメージをどのように分析されたのでしょうか。 木下:コンバースには、『Design Yourself.』という考えかたがあって、ファンの方もそのとおり、自分なりの履きこなしを楽しまれています。皆さん、ただの靴好きというよりも、「コンバースが好き」というブランドへの思い入れが強いんですよね。ALL STARのフォルムが100年間変わっていないのも、皆さん、この形状が好きだからです。その一方で、素材を中心に細かい改良が繰り返されているのですが、その部分をポスターや映像で見せようとしても、なかなか分かりづらい。この点をどうクリアしていくかを考えたときに、実際に見て触ってもらえればよいのでは、と考えました。 加えて、コンバースには、やんちゃなイメージがあると思っています。例えば、机に足を載せることは無作法ですが、「おすすめの曲があるので聴いてください」と、どんと足を載せる絵面は、バカらしい世界観なんだけれど、下品じゃない。「ALL STAR 100 AI」を紹介するのに、“七歳児並みの知能”とコピーを付けたのも、外しかたにコンバース感を出していこうという考えからです。コンバースならではの世界をとおし、コンバースをさらに好きになってもらえれば。すべての案は、この視点から生まれ、精査されていきました。 —提案したときのクライアントさんの反応を教えてください。 木下:先方には、五つ提案したのですが、「打ち合わせでこんなに笑ったのは初めてです」という内容のメールが、後日届いていました。やんちゃな施策と同時に、いわゆる格好良い系の施策も提案したのですが、「その案は普通すぎるので、やんちゃなほうで行きましょう」と、今回の案が採用されました。
話題をさらった、三つのプロトタイプ
—プロダクトそれぞれのこだわりを聞かせてください。 木下:まず、「ALL STAR 100 SPEAKER」ですが、こういうプロダクトでおもしろいものをつくってしまうと、「どうせ冗談でしょう」と、エイプリルフールみたいになってしまいがちです。なので、歩いたり踊ったりしても大丈夫なように製品レベルのものをつくることにこだわりました。 今回は予算との兼ね合いもあり、ベースは僕たちでつくりました。秋葉原にある専門パーツを扱うショップに既存モデルを持って行って、「底をくり抜いてスピーカーを入れたい」って相談したら、「ちょっと分からないですね」ってかわされたりしつつ(笑)、試行錯誤を繰り返しながら4号機までつくったところで、完成形が見えてきました。 木下:また、プロモーションも、プロダクトが遊んでいるぶん、かっこいい世界観をつくることを前提に進めていきました。ただ、アウトソールで音が鳴るのって現実世界では考えにくいことなので、その普通からかけ離れたシューズを、本当にかっこいい優れたプロダクトとして見せるにはどうすればよいかのかを考えるなか、スピーカー付きシューズでスケートボードをする人々がいる世界にたどり着きました。ムービー制作にあたっては、アートディレクターの長嶋慎さん(株式会社博報堂)の意見が色濃く反映されています。 茶谷:一番大変だったのは、「ALL STAR 100 AI」ですね。最後まで完成するか、予想が付きませんでした。 木下:アッパーをディスプレイにするアイディアもあったのですが、それだと予測が立って驚きに欠けるという意見が挙がったため、生地の色が変わる現在の案に落ち着きました。最初は電子ペーパーを使おうとしたのですが、その上に生地を張っても発光するだけで、数字を出すのが難しくって。結果として、感熱インクを使う案に落ち着きました。 —生地も特別なものを使っているのでしょうか。 茶谷:いえ、普通のものです。本当は白いコンバースでやりたかったのですが、温度設定の習熟度の高い黒い生地を使うことになりました。ただ、これは黒いコンバースを使っているのではなく、白いALL STAR 100 を黒色の感熱インクで染めた生地を張り付けているんですよね。というのも、ALL STARは製造段階において一度オーブンで焼くため、その工程を経てしまうとインクが壊れてしまうんです。そのため手作業で生地を張っていますが、張ってくれる職人さんを探すこともまた一苦労でした。 —九九の認識ですが、「に かける に」でも、「に にん」でも、反応する点に驚きました。 木下:九九って、ジャンケンのように色々な言いかたがあるので、そのどれでも認識ができるように人工知能を組み上げました。チームスタッフが音声認識システムに向かって順番に九九を言い、間違った認識結果をシステムに反映するという地道な作業を繰り返しています。 茶谷:他にも、音楽のロック、英語で岩を指すロック、といった誤認識や言い間違いなど、想定できるパターンをすべて織り込んでいます。 木下:ローンチパーティのときに、お客さんがAIの横で「〇〇さんにさあ……」って話していたら、6って表示していましたけどね(笑)。そんなふうにかなり忠実なんですよ。とにかく九九だと思われる言葉すべてに答えを返す部分を含め、AIには一番骨が折れました。 茶谷:三つ目の「ALL STAR 100 SHIATSU」は、以前、足踏みを検知する什器をつくったときの経験が生きました。こちらは、指で押してもらえれば、インソールの良さが分かることを訴求しています。 —続いて、オフィシャルサイトについて聞かせてください。 木下:ウェブサイトのアクセスは、圧倒的にスマホが多いと聞いていましたので、設計もスマホを念頭にしています。メニューボタンを左上に設置するサイトが多いのですが、「親指が届きにくい。押すときにスマホを落としそうで怖い」という話を担当のデザイナーがずっとしていたので、その点も考慮したデザインに収まりました。メニューボタンを押すと、左下に向かってガクッと画面の割れる部分を含め、インタラクションにはずいぶんこだわってくれたおかげで、評判も上々です。今回、入社2〜3年目の若いスタッフの多い編成だったので、彼ら・彼女らの感性が様々な部分に反映されています。 —展示の様子はいかがでしたか。 木下:クライアントさんから「こんなに盛り上がったのは初めて」と、言っていただきました。 印象的だったのは、レセプションパーティの会場で、コンバースの方がバイヤーさんに自慢していたこと。ご担当者の方が、欲しいと言ってくださることもまた嬉しかったです。 展示も当初は、原宿にある旗艦店『ホワイトアトリエ バイ コンバース』のみ予定していたのですが、そのあと、新宿店、代官山店、二子玉川店と移っていった点をみても好評と言えると感じています。 —今後の予定を聞かせてください。 木下:現在、秋冬コレクションのプロモーションを準備中です。ただ、春夏とはコンセプトが異なるため、違う切り口を考えているところです。次回も、ぜひ期待していてください!

写真左:株式会社博報堂アイ・スタジオ 統合デジタルマーケティング1部 インタラクティブプラナー木下剛さん 写真右:株式会社博報堂アイ・スタジオ Future Create Lab R&Dチーム テクノロジスト/インタラクティブエンジニア 茶谷亮裕さん

シェア回数はトータル150万!「バレンタインポスト」バズを生んだ仕掛けを解き明かす

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Case: ネスレ日本『バレンタインポスト』
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。 今回は、ネスレ日本のチョコレートブランド『キットカット ショコラトリー』のWebコンテンツ「バレンタインポスト」を取り上げます。「バレンタインポスト」は、Web上でバーチャルなチョコを贈り合えるサービス。フェイスブックまたはツイッターでログインし、マイポストを設置することで、チョコを贈ったり、受け取ったりすることができます。ミッションクリアで『キットカット ショコラトリー』の引換券がもらえる仕組み、チョコ図鑑でレアチョコを集めるゲーム性により、多くのユーザーを獲得。トータルシェア回数は150万回を突破しました。 企画が立ち上がった経緯から、制作秘話、大きなバズにつながった秘策まで、株式会社パーティー クリエイティブディレクター 中村大祐さん、インフォメーションアーキテクト 阿久津達彦さん、株式会社バードマン クリエイティブディレクター 長井崇行さんにお話を伺いました。
Interview & Text : まきだ まどか
今のバレンタインの実態ってどうなっているの?
―今回の企画「バレンタインポスト」がスタートしたきっかけについて教えてください。 中村:ネスレさんから『キットカット ショコラトリー』の認知度を上げるためのデジタル施策を実施したいというご相談があったのが始まりです。『キットカット ショコラトリー』の現状についてヒアリングし、認知度向上のために何をするのがベストかクライアントと話し合いながら、一緒に企画を考えていきました。 『キットカット ショコラトリー』は1本300円から500円の高価格帯のチョコレートなので、普段の自分用のお菓子ではなく、需要があるのはやはりプレゼントです。11月にご相談いただき、12月にご提案というタイミングでしたが、バレンタインに間に合わせようとプロジェクトがスタートしました。 ―どういった思考を経て、「バレンタインポスト」というコンセプトに行き着いたのですか。 中村:最初に、今のバレンタインが昔とどのように変化しているのかについて話し合いました。従来のバレンタインは、女性から男性へ告白をして、チョコレートをプレゼントする文化でしたが、現在は、友達への“友チョコ”や、会社や学校でたくさんの人に配る“シェアチョコ”も流行っています。バレンタインの意味合いが多様化し、単純に「バレンタイン=告白」という文脈ではなくなってきているんです。 そこで、今回の企画では、告白のためのツールではなく、もっと気軽にチョコを贈り合える“コミュニケーションツール”を作ろうということになりました。 ―チョコレートという物自体が重要なのではなく、チョコレートを贈ることをコミュニケーションの手段だととらえたんですね。 中村:贈るものは、本物のチョコレートではなく、バーチャルチョコでよかったんです。そうすれば、もっと気軽にチョコを贈ることができます。実物のチョコを贈るのって、案外ハードルが高いんです。贈る方は、相手は喜んでくれるのか、ホワイトデーのお返しに気を使わせてしまうのではないかと考えますよね。バーチャルチョコにすることで、そういったことも気にしないで済むので、たくさん贈るようになるんじゃないかと考えました。 ―今回の企画が話題を呼んだのは、ユーザーのどんな心理を押さえたからなのでしょうか。 中村:今回の企画でひとつの大切なポイントは、「チョコを贈りたい」という気持ちに寄り添ったのではなく、「チョコがほしい」という気持ちを基点にしたことです。チョコを待ち受けられるポストを設置して、自分からチョコが欲しいとSNS上で宣言してもらいました。そうすれば、くれる人はきっといます。結果として、たくさんのユーザーさんにバーチャルチョコを贈り合ってもらえました。
これまでになかったサービスだからこそ「ポスト」というアイコンが必要だった
―「バレンタインポスト」は、シンプルなようであまりなじみのない仕組みですよね。 中村:ネット上でチョコを贈る習慣はそれまでなかったので、バーチャルチョコといっても、どういう仕組みなのか理解が難しく、使ってもらうにはハードルがありました。そこで、「ポスト」をアイコンとして、企画内容を具現化したんです。ネット上に自分のポストを作り、そのポストに自分宛てのチョコが届くという流れを示すことで、仕組みが直感的に分かりやすくなりました。 ネーミングも、「キットカットポスト」ではなく、バレンタイン全体で盛り上げたいということで、「バレンタインポスト」にしました。 ―バーチャルチョコを贈ったり、もらったりすることで、実物の『キットカットショコラトリー』の商品がもらえたそうですね。 中村:一定のミッションをクリアすると、『キットカット ショコラトリー』の店舗またはバレンタイン期間限定の催事場で『キットカット ショコラトリー』のチョコレートの引換券がもらえます。今回の企画を通して、最終的に1万5000個を配りました。 今回の企画は、単純なキャンペーンではなく、ソーシャルゲームに近いものです。あえて複雑な機能や難易度の高いミッションも追加し、ゲーム性を高めています。 阿久津:チョコ図鑑でレアチョコを集めて楽しむ人もたくさんいました。ツイッター上などで、自分の持っていないレアチョコをもらい、相手が持っていないレアチョコをあげるというチョコ交換のコミュニケーションが生まれ、「#レアチョコ交換」のハッシュタグがユーザーから広まりました。ユーザー同士で協力してチョコを集め、もらったチョコについてツイートする人も多かったですね。

レアチョコ一覧

―ポストにもいろいろな種類があり、自分の好きなポストを選べるんですね。 中村:ポストのキャラクターはウサギ風、サラリーマン風、王様風など15種類用意し、それぞれに個性を持たせています。このキャラクターがユーザーの代わりに周りの人にチョコをおねだりしてくれるので、「チョコが欲しい」といいやすいんです。「そろそろおねだりしたら?」とか「バレンタインデーまであと2日だよ」というような運営側がいいたいことを代わりにユーザーに伝える役割もあります。 ―贈るチョコレートに自分で「○○○チョコ」と名前を付けて贈れるようにするというのもおもしろいですよね。 中村:相手に何らかのメッセージを伝えてコミュニケーションを取れるように、20文字以内で、自分でチョコに名前を付けられるようにしました。このことが今のバレンタイン文脈にマッチし、大喜利などのSNS上の盛り上がりにつながりました。より幅広く、おもしろい使い方をしてもらえたと思います。
演出やコピーライティングのディテールがユーザーの楽しさにつながる
―制作についてはどのように進んだのですか。 中村:12月初旬に企画をご提案しました。12月中は構成を詰めて、デザインと実装は1月からです。2月1日に公開だったので、かなりのハードスケジュールでした。 長井:私の会社は、デザインと実装を担当しました。キャンペーンサイトを作るというよりも、アプリやサービスをひとつ作るくらいの感覚で制作しました。使いやすさとともに、バーチャルチョコを贈るという体験をより楽しいものにできるよう細かな点まで意識して作り込みました。特にこだわったのは、ポストのキャラクターの個性に合わせた動き、チョコを贈ったり受け取ったりするときの映像表現です。 中村:そういった細かな演出があったからこそ、キャラクターの個性が際立ち、シェア数が伸びたのだと思います。ゲーム感覚でユーザーに楽しんでもらうためには、細かな演出が必要でした。 阿久津:今回の案件では、ディテールの作り込みがシェア数に結び付いていると思います。そういった意味では、コピーライティングの力も大きいです。キャラクターの性格を表現する台詞やサイトの言葉一つひとつをコピーライターと一緒に作りました。10代~20代前半のターゲット像を想定して、言葉遣いをフランクにするなど、細かな点までこだわりました。
ファンの「贈りたい欲」を満たし、バズをさらに盛り上げた
―訪問者数やシェア数など、どれくらいの数字につながったのですか。 中村:2月3日から14日までリアルタイムの訪問者数は、1万人を超えた状態がずっと続きました。公開から15日までのデータでは、参加者数は約62万人、サイトからSNSにシェアされた回数は約150万回、贈られたバーチャルチョコの数は、約500万個にもなりました。また、ツイッターのトレンドワードの上位もキープし続けました。 ―SNSではどのような反応がありましたか。 中村:キットカット ショコラトリーの写真とともに、実店舗へチョコを受け取りに行ったユーザーの報告ツイートがアップされたり、「キットカットが食べたくなった」という声も多く、購買にもつながりました。アニメ絵師によるイラストツイートも盛り上がり、5000を超える「いいね」が付いたツイートもありました。 長井:今回のキャンペーンに携わり、ユーザーの反応を見て感じたのは、意外に多くの人が「贈りたい」という気持ちを深層心理として持っているということでした。絵師さんやユーチューバーさんなど、SNS上でファンの多い人たちのもとへファンのみなさんからのバーチャルチョコがたくさん贈られました。 ファンの方々の「贈りたい欲」みたいなものをこのサービスで満たすことができたのだと思います。SNS上の有名人とファンの間のコミュニケーションのきっかけを与え、うまく成立させられたことが、約2週間の長いバズを生み出した要因のひとつになったと考えています。 ―今後の展開について教えてください。 中村:今の段階では、まだ何も決定していませんが、できれば来年もやりたいですね。機会をいただけるなら、今回得た知見をもとに、アップデートしたものを作りたいです。毎年恒例の企画として定着し、バレンタインといえば、「バレンタインデーポスト」というくらいの認識を世の中に作れたらいいですね。

「バレンタインポスト」プロジェクトメンバー集合写真
(写真左から)株式会社パーティー インフォメーションアーキテクト 阿久津達彦さん、株式会社パーティー クリエイティブディレクター 中村大祐さん、株式会社バードマン クリエイティブディレクター長井崇行さん、株式会社パーティー コピーライター 大津裕基さん
(手持ちパネル内写真左から)株式会社パーティー アートディレクター 石塚美帆さん、株式会社バードマン プロジェクトマネージャー 横川遥さん、株式会社バードマン デザイナー 三島良太さん、株式会社バードマン フロントエンドエンジニア 鳥居駿平さん

カップヌードルとファイナルファンタジー 異色のコラボはどのように実現したのか

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Case: 日清食品×スクウェア・エニックス『CUP NOODLE XV』『カップヌードル FINAL FANTASY BOSS COLLECTION』
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。 今回は、日清食品とスクウェア・エニックスのコラボレーション企画「CUP NOODLE XV」、「カップヌードル FINAL FANTASY BOSS COLLECTION」を取り上げます。2016年11月29日、ゲームファン待望の最新作、『FINAL FANTASY XV』がスクウェア・エニックスより発売となり、約7年ぶりの新作をさらに多くのユーザーに広めたいというスクウェア・エニックスの思いから始まった今回のコラボ企画。常識では考えられないような“コラCM”はSNS上でも大きな話題となり、カップヌードルを使った二次創作も流行しました。 全く異なる世界観を持っているカップヌードルとファイナルファンタジーのコラボ企画がここまでの成功を収めた裏側には、2社間のどのようなやりとりがあったのでしょうか。企画が立ち上がった経緯から、「CUP NOODLE XV」CMの制作秘話、その後の新たな展開まで、株式会社電通 コミュニケーション・プランナー 加我俊介さんにお話を伺いました。
Interview & Text : まきだ まどか
FINAL FANTASY XV内にカップヌードルが登場!?
―日清食品とスクウェア・エニックスがコラボレーションに至った経緯について教えてください。 加我:2016年秋に発売された最新作『FINAL FANTASY XV』(以下、FFXV)内に日清食品のカップヌードルが登場したことが今回の企画の発端です。 「FF」と言えばその名の通りファンタジー要素に満ちた世界が魅力的なシリーズですが、今回のFFXVは、リアルな体験を追求して現実世界の要素を取り入れているため、ゲームや映像作品内にカップヌードルやアウディの自動車などが登場しているんです。カップヌードルの販売車が出てきたり、キャラクターがキャンプ等で食べる食事アイテムのひとつとしてカップヌードルが登場します。具材をカスタマイズできる仕様にもなっているんです。 ―FFXV内に登場するアイテムとして、カップヌードルが選ばれた理由は何ですか。 加我:FFXV開発チームの皆さんが、もともとカップヌードルを好きだったそうです。加えて、FFはロールプレイングゲームの冒険ものなので、モバイル性が高いカップヌードルはゲーム内に登場させるのに相性がよかったんだと思います。 スクウェア・エニックスさんから日清食品さんへゲームの中でカップヌードルを登場させたいとオファーをしたそうです。そういった商品プレースメントを通して、日清食品さんとスクウェア・エニックスさんのつながりがすでにできていた中で、今回の企画が始まりました。
カップヌードルによるFFXV公式“クソコラ”CM
―加我さんは、今回の企画でどういった役割を担っていたんですか。 加我:私自身は、FFXV自体の発売プロモーションを担当させていただいていました。スクウェア・エニックスさんに既存ファン以外にもFFXVの情報を届けたいという想いがあり、企画したのが今回のコラボCMだったんです。 ゲーム内にカップヌードルが登場しているので、タイアップして話題にするのがおもしろいのではという話になり、日清食品さんに話を持っていったところ、すでに2社間で関係性ができていたので、スムーズに話が進みました。

FFXV公式コラCM『CUP NOODLE XV Special Edition』(30秒)

―どんな内容のCMになったのですか。 加我:いわゆる「クソコラ」CMです。ゲームファンの間では、“MOD”というゲームエンジンをいじって、映像を改造して遊ぶゲームカルチャーがあります。ゲーム内に登場するキャラクターなどを他のものに差し替える遊びです。 それを応用し、FFXVのCMを改造してカップヌードルのCMを作りました。巨大なカップヌードルが登場したり、主人公がカップヌードルの被り物をしていたり、エビ、たまごなどの具材が登場したり、FFXVのCMをコラージュして遊んでいます。 ―CMの話題化のため、特に意識したポイントはありますか。 加我:両者の世界観のギャップがバズにつながったひとつのポイントだと思います。「何これ!?」と思わせるギャップを意図的に作り出すことを意識しました。あえて無理やり入れ込んでいる感じを大事にし、カップヌードルがいたずらをした、何か事件を起こしたという雰囲気作りを重要視しました。FFXVのCMを流したすぐ後にカップヌードルのCMを流すという打ち方も、インパクトを強めることにつながったと思います。 ―本来、ゲーム会社であれば、映像を改造されて公開されることを容認しないイメージがあります。映像を改造して遊ぶMODカルチャーをスクウェア・エニックスは受け入れているんですね。 加我:このCMが実現できたのは、スクウェア・エニックスさんがゲームカルチャーを理解して受け入れており、かつ、FFXVを広めることを第一義に考えていたからです。 当初は、提案を受け入れてもらえるかも分からない状況でした。恐る恐る今回の企画をスクウェア・エニックスさんへ提案したところ、「おもしろいからうちが作る」とまでいってくれたんです。私たちのチーム内では、よく企画が通ったなと話していたくらいです。
FFXV開発チーム自ら“コラCM”を制作
―CMの制作はどのように進んだのですか。 加我:CM制作は、FFXVのゲーム開発チームが行いました。通常の作り方だと、スクウェア・エニックスさんから素材を提供いただき、我々の方でCMの編集作業をすることになりますが、今回は、FFXVのゲーム開発チームにCMを制作してもらいました。広告業界ではすごく珍しい制作体制だと思います。 ―2社がお互いに協力し合っていて、両社にメリットのある純粋なコラボレーションという感じがしますね。 加我:スクウェア・エニックスさんのゲーム開発チームがCMを制作し、それを基に、日清食品さんがPRやプロモーションを仕掛ける。両社の理想的な関係性があったからこそ実現したコラボ企画だったと思います。 ―どれくらいの反響があったのでしょうか。 加我:2016年の11月、カップヌードルの差し入れを持って行った様子とともに、両社のご近所付き合いから生まれたというコンテクストの下、カップヌードルのツイッターアカウントでCM制作発表のツイートをしてもらいました。瞬く間に5万リツイートされ、その後の年末のCM公開時のツイートでは、数時間で約12万リツイートを記録しました。日清食品さんのツイッターはバズることで有名ですが、これまでのリツイート記録を更新したそうです。 リアルタイム検索、YouTube急上昇ランキングも1位になり、LINEニュースやYahoo!ニュースにも掲載されました。動画の再生回数は、3~4日で260万回。TVCM自体は計7本回しか放映していませんが、SNS上で話題になり、再生回数がここまで伸びました。
二次創作によってユーザーが勝手に宣伝してくれる
―今回のキャンペーンを通して、SNSではユーザーからどんな反応がありましたか。 加我:カップヌードルの写真をツイッターにアップするのが流行りました。FFXVに出てくるカップヌードルをシェアする/再現するユーザーがたくさん出てきたんです。 うれしかったのが、CMが話題になったことで、みんながカップヌードルを食べたくなっているということでした。話題化が食欲喚起につながった珍しい事例です。 ―CMをきっかけに、ユーザー自身がカップヌードルを宣伝してくれているんですね。 加我:通常は、おもしろい動画を見たとしても、「おもしろかった」と感想をいうだけで終わることが多いと思います。今回の事例は、その一歩先の二次創作につながっているので、盛り上がりを分かりやすく可視化できたのだと思います。企画の段階から、二次創作にまでつなげるという点は意識していました。 結果として、ゲームをやりながらカップヌードルを食べようという文脈を作ることができ、スクウェア・エニックスさんにも、日清食品さんにもメリットのあるキャンペーンになりました。
話題化だけで終わらせない!コラボ商品開発へ
―このCMが次の商品開発につながっていくんですね。 加我: CUP NOODLE XVのいい流れをそのまま引き継いで何かできないかと思案していたところ、コラボ商品開発をしようという話になりました。カップヌードルは、いろんなコンテンツと組んで商品開発をしており、FFとも商品開発をしたいということで、話が進展しました。 2017年で30周年を迎えるFFシリーズ自体とコラボし、「空腹は最強の敵だ」というコンセプトで「カップヌードル FINAL FANTASY BOSS COLLECTION」を企画しました。歴代のボスキャラ15体がパッケージに描かれた限定仕様のカップヌードル15食セットです。 ―ボスキャラをパッケージにしたのはどういった意図があったのですか。 加我:主人公たちがきれいに並んでいるのでは、カップヌードルらしくありません。カップヌードルの文脈の中にFFを持ってくるなら、どんな見せ方がいいのかを考えました。「空腹は最強の敵だ」というコンセプトワードがコピーライターの井戸正和さんから出てきて、「最強の敵」であるボスキャラをパッケージにしようという方向で決まりました。 私たちがFFXVのお仕事を担当させていただいていることもあり、どんな素材ならご提供いただけるかをなんとなくイメージできていたのもよかったのだと思います。 ―商品開発は、日清食品さんからスクウェア・エニックスさんへの提案だったんですね。 加我:コラボCMはスクウェア・エニックスさんから日清食品さんへの提案、コラボ商品は日清食品さんからスクウェア・エニックスさんへの提案という流れです。お互いにメリットのある企業コラボになりました。2社のつながりを活かし、商品開発によってタイアップがさらにスケールアップする流れを作ることができました。 ―今回のようなコラボはありそうでなかなかないですよね。 クライアントが2社になるので、両社が同じ目線でゴールを決めることができなければ、うまく進行しません。日清食品さんとスクウェア・エニックスさんは、両社とも、常に生活者目線で話題になりそうか否かを判断基準にされていたので、それまでは実現が難しかったことも実現可能になり、大きな反響を呼ぶことができたのだと思います。 代理店である私たちが間に入り、クライアント同士をつなぐことができた成功事例となりました。ちなみに、「カップヌードル FINAL FANTASY BOSS COLLECTION」は絶賛発売中なので、ぜひこの機会にお買い求め下さい!

株式会社電通 コミュニケーション・プランナー 加我俊介さん

「卒業アルバムの写真も盛りたい!」ターゲットインサイトをとらえたNTTドコモ×SNOWコラボの裏側

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Case: NTTドコモ×SNOW『卒業“盛ルバム”』
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。 今回は、NTTドコモと動画コミュニケーションアプリ「SNOW」のタイアップキャンペーン「卒業“盛ルバム”」キャンペーンを取り上げます。一生残る大切な思い出のはずなのに、黒歴史になってしまいがちな卒業アルバム。学校生活を共にした最高の仲間たちと一緒に、最高の瞬間をカメラに収めてほしい。そんな想いから誕生したSNOWで撮る“盛れる”卒業アルバムです。第1弾では、2017年春に卒業を迎える高校生を対象にSNOWで撮影した写真を製本して「卒業“盛ルバム”」としてプレゼントするキャンペーンを実施。第2弾では、WEB上で誰でも“盛ルバム”がつくれる「“盛ルバム”ジェネレーター」を公開しました。 企画が立ち上がった経緯や動画制作の舞台裏、バズにつながった企画のポイントについて株式会社NTTドコモ プロモーション部 深田大介さん、株式会社東急エージェンシー 統合プランナー 酒井亮祐さん、プランナー/コピーライター 室屋慶輔さん、第1営業本部 石井絢子さんにお話を伺いました。
Interview & Text : まきだ まどか
卒業アルバムにまつわるインサイトを的確にとらえる
―“盛ルバム”キャンペーンの全体像について教えてください。 酒井:1月30日~2月7日に実施した“盛ルバム”キャンペーン第1弾の「卒業“盛ルバム”」プレゼントキャンペーンでは、1校限定で「卒業“盛ルバム”」を制作しました。第1弾リリース時にはコンセプトムービーとして、残念な卒アル“あるある”をネタにした動画を公開し、女子高生ミスコン2015-2016グランプリの“りこぴん”こと永井理子さん、男子高生ミスターコン2016グランプリに輝いた本田響矢さんに出演していただきました。 その後、2月17日より第2弾となる「“盛ルバム”ジェネレーター」を公開し、PR告知ムービーとして「盛リコレ~JKの盛りポーズの歴史~」を制作しました。学生だけではなく、さらに広い世代に広めようという意図があったので、過去のあらゆる「盛リポーズ」をテーマにしています。 ―今回の企画がスタートしたきっかけについて教えてください。 深田:例年1月から3月は、高校生や中学生が卒業してスマートフォンを持つタイミングのため、1年のうちでスマートフォンが最も多く売れる時期です。この重要な春商戦には、学生たちの注目を集めるキャンペーンが毎年必要だと考えています。 そんなとき、たまたまSNOWとコラボ企画をしようという話が持ち上がり、この2社のタイアップキャンペーンとして、学生の間で“話題になる”“ドコモに注目を集める”企画を実施したいと相談しました。 ―どういったところから“盛ルバム”のアイデアが生まれたのですか。 酒井:学生時代は楽しいことがたくさんありますし、世の中はおもしろいコンテンツであふれています。そうした環境の中でターゲットの琴線に触れて話題にしてもらうには…という入口から考え始めました。今回は好意形成が目的だったので、ターゲットの人たちの困りごとや不満に思っていることをブランドが解決してあげることで好きになってもらうコミュニケーションを目指しました。 そういった考えのもと、シーズナリティを踏まえ、学生の気持ちを掘り下げていってたどり着いたのが「一生の想い出になるはずの卒業アルバムが黒歴史になってしまっている」という不満でした。このインサイトを企画に仕立てればターゲットに刺さると思い、SNOWで盛れる卒アルという企画を提案しました。 石井:卒業アルバムの実態にまつわる調査でも、卒業アルバムの写真うつりに不満を持っている人が約8割にのぼり、多くの人が不満を持っているという調査結果もあります。
ターゲットの気持ちをコピー化し「体験をのせられる」言葉をつくる
―インサイトを的確にとらえたことの他に、バズにつながったポイントをあげるとしたら何でしょうか。 室屋:レトリックに逃げたりせず、学生たちが本当にいいたかったことをコピー化できたことだと思います。学生生活は楽しいですが、校則などの制限もあります。そういった制限された環境の中、「最後くらいワガママいわせて!」という学生の気持ちをコピーで体現しました。 卒業生たちの切実な想いが爆発したようなセリフコピー「#最後くらい盛らせろ」を「卒業“盛ルバム”」というタイトルとセットで打ち出したことで共感につながり、キャンペーンの拡散が加速しました。ターゲットの人たちの「体験をのせられる」言葉をつくるというイメージです。もはや、女子高生の間では普段から使うタグに昇華しているようです。 酒井:「#最後くらい盛らせろ」は強い言葉なので、提案当初は採用されないのではないかと思っていたのですが、ダメ元で提案したら、ドコモの深田さんが即決してくれたんです。 深田:強いインパクトと学生たちの共感を得るためには、「卒業“盛ルバム”」というタイトルに付けるキャッチコピーが絶対に重要になると思いました。「#最後くらい盛らせろ」は、キャッチーで、本音を表に出している感じがよかったのだと思います。このキャッチコピーでユーザーの共感を集められたことに加え、ターゲットと同世代の永井理子さんや本田響矢君に出演してもらったことがプラス要素となり、うまく学生たちの言葉にのり、起爆してくれました。 ―学生に向けた“ノリ”や“テンション”を表現するにあたって、工夫されたことはありますか。 酒井:制作メンバーが全員アラサー男性だったので、正直手探りでした。第1弾の動画では、前半には卒業式の定番『仰げば尊し』が流れ、後半はテンポアップしていく構成になっていますが、この後半部分の楽曲作りに最も苦戦しました。『仰げば尊し』をロックっぽくしてみたり、転調させたり、EDMバージョンなども作ったのですが、マッチせず、いろいろと検証した結果、アイドルグループが歌う電子音で構成された楽曲に決めました。 歌詞には「スノる」「はげる」「卍(まんじ)」などの女子高生の流行語を入れ込むなど、アラサーなりに細かなところにまでこだわった結果、映像のテンションともマッチし、かわいいと評価いただけるものに仕上がりました。
日本全国から届いた学生さんたちの熱い想い
―「卒業“盛ルバム”」について、SNSなどではどんな反応がありましたか。 石井:現役の高校生からは、「これを待っていた」という反応が多かったです。大人の方からも「私たちの時代にこれがあればよかったのに」という反応が多数ありました。キャンペーン期間中は「当選したい」というつぶやきがたくさんあり、募集要項として書いてもらった応募の意気込みについては、長文でエピソードを書いてくださった方もいて、非常に多くの方から「卒業“盛ルバム”」への熱意を感じました。 ―「卒業“盛ルバム”」にはどれくらいの応募があったんですか。 深田:全国から1113件の応募がありました。私たちが学校に行って「卒業“盛ルバム”」を制作することになるので、応募して採用されるためには、学校側の許諾も必要になります。ひとりだけの意思ではなく、クラスメイトや学校の理解も必要になるキャンペーンのため、応募のハードルはかなり上がります。当初は、応募がどれだけ集まるか心配でしたが、結果的には、多くの方々に応募いただきました。 ―多数の応募の中、当選校を決定した決め手は何だったのですか。 深田:長野県にある東海大学付属諏訪高等学校を当選とさせていただきました。クラスの10人以上から応募があり、一人ひとりのコメントにも熱意がこもっていたというのが選んだ理由です。 生徒同士でSNOWで写真を撮ってもらい、それを「卒業“盛ルバム”」に製本し、3月の中ごろ、完成した「卒業“盛ルバム”」を直接渡しに行きました。高校生たちがスマホで撮影している様子など「卒業“盛ルバム”」の制作過程を3つ目のムービーとして公開しています。 ―生徒さんたちの反応はいかがでしたか。 深田:「やっぱりこっちの方がいいよね」といってくれて、すごく喜んでもらえました。先生方もキャンペーンに好意的で、生徒の想い出をひとつでも多く作ろうと熱意を持って協力してくださいました。 石井:スタッフよりも、現役の高校生の方がSNOWを使い慣れているのが印象的でした。それぞれのお気に入りのエフェクトがあったりして、本当に身近なツールなんだと感じました。 酒井:友達と撮ったり、好きな場所で撮ったりするので、撮っている時間そのものがいい想い出になったのではないかと思います。
共感とつっこみどころを意図的につくり上げる
―第2弾として「“盛ルバム”ジェネレーター」を制作したねらいは何だったのですか。 酒井:“盛ルバム”を手軽に、より多くの人に体験してもらうためです。クラスで、仲のいい友達同士で、恋人同士で、WEB上で気軽に想い出をつくってもらいたく、制作しました。学生はもちろんのこと、社会人や家族など、あらゆる人たちに使ってもらえたらという想いを込めました。なので、第2弾の告知動画では、幅広い世代に広がっていくよう、いろいろな年代の人が共感し、語れる文脈を用意して拡散を狙いました。 ―第2弾のムービーの内容はどういったものだったのですか。 室屋:「“盛ルバム”ジェネレーター」のリリースに伴い公開した第2弾の動画では、若い女性たちの間で流行った盛りポーズの歴史をテーマにしています。現在女子高生たちの間で流行中の「指ハートスタイル」から、懐かしい「エッグポーズスタイル」、さらに江戸時代にまでさかのぼった「見返り美人スタイル」など、盛りポーズの歴史を一挙に振り返る内容となっています。 「盛る」という行為の根底には「かわいく写りたい」という心理があります。その行為は、今の若い子たちだけがやっていると思いがちですが、「MAXかわいく写りたい」という心理はいつの時代も普遍だと思い、原点はどこなのだろうかと歴史をさかのぼってみようと思ったのがきっかけです。もちろんSNOWはその行為の“最高到達点”だという位置づけになります。 いろんなポーズをさかのぼることで、「こんなのあったなぁ」とか「これ今でもカワイイかも」など、世代間を超えた会話が生まれるのでは?と考え、話題化が見込めると判断し、映像を企画しました。出演と音楽は、ノンストップパフォーマンスグループの「東京パフォーマンスドール」にお願いしました。 深田:江戸時代にまでさかのぼっていることへのつっこみ、「これ懐かしい」「他にもこういうのあったよね」というポーズへの共感を引き出し、東京パフォーマンスドールのキレッキレのダンスとキュートさなど、話題化のポイントをいくつもつくることで話題化に成功し、SNSでも盛り上がりを見せ、地上波をはじめ多くのテレビ番組やその他のメディアでも取り上げていただきました。 室屋:このムービーの撮影はワンカットのノンストップパフォーマンスとして撮ったため、OKが出るまでに30テイク以上撮りました。ポーズがうまく決まらなかったり、後ろに他のメンバーが見切れてしまったり、映像がぶれてしまったり、ワンカット撮影は予想以上に大変でした。その時代の雰囲気を出すことを意識し、動きや衣装、小物など細かなところにまでこだわりました。 酒井:「盛リポーズ」はSNS上でも話題になり、再生回数は30万回を超えました。いろいろなメディアにも取り上げていただき、「めざましテレビ」や「あさチャン」、「ZIP!」などでも紹介されました。めざましテレビの「ココ調」のコーナーでは、盛リポーズについて街頭インタビューも交えて詳しく取り上げてくれました。 ツイート数はキャンペーン全体で2万を超え、WEBでは200媒体以上、テレビ番組でも多数取り上げられ、世の中に浸透した手ごたえがありました。 深田:今回のキャンペーンを通して、やはりプロモーションで重要なのは向き合う相手に寄り添うこと、相手が置かれている環境・状況をとらえた上でプロモーションを展開することが成功へのカギだと改めて実感しました。このことは今後のプロモーションでさらに追求していきたいと考えています。

(写真左から)株式会社東急エージェンシー 第1営業本部 熊澤真一さん、株式会社東急エージェンシー 統合プランナー 酒井亮祐さん、株式会社NTTドコモ プロモーション部 深田大介さん、株式会社東急エージェンシー プランナー/コピーライター 室屋慶輔さん、株式会社東急エージェンシー 第1営業本部 石井 絢子さん


ワコールとバービーがコラボ!SNS連動型プリントサービスやPR活動を通した話題作りの成果は

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Case: ワコール『パルファージュ』30周年施策
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。今回は、女性下着メーカー、ワコールが百貨店向けブランドとして展開する「パルファージュ」と、世界一有名なファッションドール「バービー人形」のコラボレーション企画を取り上げます。 パルファージュ発売30周年を記念し、2017年3月29日~4月11日の期間限定で実施された本施策。「PARFAGEショップがBarbieとコラボレーション」と銘打つとおり、小田急百貨店新宿店(東京)、大丸梅田店(大阪)のパルファージュショップはこの期間、バービーのオトナかわいいイメージで埋め尽くされ、訪れた買い物客からは、「かわいい!」の声が絶えず聞こえてきたのだとか。さらには、店頭に設置された、SNS連動プリントサービス「PICSPOT(ピックスポット)」は、とりわけ好評を博したそうです。 本企画を「長期的なファンづくりに向けて実施しました」と話す、株式会社ワコール 広報宣伝部 ワコールブランド販売促進課 パルファージュ販促担当 宮本夕美香さんに、企画の発端や実施の効果について伺いました。
Interview & Text : 香川 妙美
パルファージュと世界観を一にするバービーのコラボレーションが実現
—まず、パルファージュは、ワコールの製品のなかでどのようなポジションなのでしょうか。 パルファージュは、20~30代のキャリア女性を対象とした百貨店向けのブランドです。大人向けのフェミニンなデザインが豊富で、下着を選ぶ楽しさなど情緒的な価値を大切にしつつ、着け心地などの機能にもこだわっています。そのため、価格はワコールの中心価格帯と比べて高めに設定していますが、自分に合うものが何かを知っていらっしゃる方や、ファッションを真剣に楽しまれる方からは高い支持をいただいています。 —今回、バービーとコラボレーションするに至った経緯を教えてください。 このたびの発売30周年を機に、パルファージュのコンセプトを『愛される、香り。』に刷新しています。今後、このコンセプトを体現しつつ、さらにはファンの方により愛されるブランドとして、今以上の成長を目指すなか、消費者の認知や興味関心をどのように獲得していくかを考えたとき、その一つの形としてバービーの存在が浮かんできました。 バービーのコンセプトである、“YOU CAN BE ANYTHING”には、「女性はなりたいものに何にだってなれる、自分の人生は自分で選択できる」というメッセージが込められています。これらを体現するバービーの世界観は、いつの時代も女性の憧れそのものであり、パルファージュが目指す、「身に着けることで女性本来の魅力を引き出す下着」「“自分を愛し、愛される”女性になれるための商品づくり」のイメージと、とても近いんですね。誰からも愛されるかわいらしさを追求している点や理想の自分を目指す女性を応援しているといった共通項もあり、コラボレーションの実施につながっていきました。 —プロモーションにあたり、店舗のテーマや展開イメージはどのように決まっていったのでしょうか。 売り場づくりにあたっては、バービーの持つ“誰からも愛されるかわいらしさ”の発信、オトナ女子の気分が盛り上がるお店をポイントにしました。 近年、インスタグラムを中心とした投稿型SNSが盛り上がっていますが、ユーザーのインサイトには、「フォトジェニックな場所で写真を撮りたい」というものがあると考えています。そういった点を踏まえ、コンセプトショップとして展開した小田急百貨店新宿店と大丸梅田店のパルファージュショップには、バービーとのコラボレーションを記念したフォトブースをつくり、お店に訪れたくなる、写真を撮りたくなる、さらにはSNSで発信したくなる売り場を目指しました。加えて、SNSでの拡散をねらい、ピックスポットを設置しました。 今回、キャンペーンのKPIとして、「来店数の増加」を設定していましたので、クーポンに頼らない来店動機づくりとして、バービーの起用とピックスポットの活用が、目標に対してどの程度寄与するのかも注視したい点になりました。
ワコール、百貨店、バービーライセンス会社、三位一体となったPR活動
—売り場づくりを行うにあたり、何かエピソードがあれば聞かせてください。 設営や商品陳列は、百貨店が閉店した後からの作業となるため、まさに時間との戦いでした。担当セールスや販売スタッフと協力して粛々と進めていったのですが、バービーを展示するときに現場がわっと沸いたことが印象的でした。このたび展示したバービーは、たくさんの種類のあるバービーのなかでも、クラシックドールと呼ばれる貴重なものばかりで、すべてバービーのライセンス会社さんからお借りしたのですが、現在流通しているバービーとは趣が異なり、一体一体が個性をまとっているんです。 展示した途端、売り場が一層華やかになり、バービーの持つ魅力の大きさをまざまざと感じさせられました。 —PR活動について聞かせてください。 今回のゴールは、パルファージュの情報に触れたお客様の興味を喚起し、店頭に足を運んでもらうことでしたので、PR活動は取材誘致を念頭に展開しました。ありがたかったのは、両百貨店の広報担当の方やバービーのライセンス会社さんが、取材誘致やオウンドメディアでの告知等、積極的に動いてくださったことです。その結果、当日は多くのメディアに取材していただき、バービーとのコラボレーションのみならず、パルファージュの商品についても多数ご紹介していただけました。 なかには、ピックスポットをフックにした記事を書いてくださるメディアもあり、さまざまな切り口で露出できたことも良い成果でした。結果、掲載は100媒体を超え、たくさんの反響に繋がった点は、うれしかったです。また今回は、インフルエンサーの方もご招待しており、ターゲットとほぼ等身大の視点から、パルファージュについてご発信いただけたこともブランド認知や来店動機の形成につながったと感じています。
ピックスポットの活用により、SNSでの発信を体験の一部に組み込めた
—今回、フォトブースとして設置された「ピックスポット」の活用法について教えてください。 まず、ピックスポットは、SNS連動型プリンターサービスと称されるものです。ファッションイベントなどで見かけることが多くなってきましたので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。専用機械がSNSに投稿された指定のハッシュタグの付いた写真を読み込み、ステッカーやポストカードとして、その場でプリントする仕組みです。スマホで撮影するだけで簡単に出力できるため、「思い出になる」と、ユーザーの満足度が高いようです。 当社も今回、コンセプトショップである2店舗にピックスポットを設置し、「#Barbie_PARFAGE」「#バービー_パルファージュ」のハッシュタグを付けて、ツイッターもしくはインスタグラムに投稿していただいた方には、特性フレームで印刷した写真をプレゼントしました。 ピックスポットと連動させたことで、SNSで発信することをお客様の体験の一部に組み込むことができました。SNSの投稿を見てご来店になったお客様が、ご自身も撮影され、SNSに投稿するといったスパイラルが生まれたことにより、当社もお客様の発信力をプロモーションに活用することが叶いました。ショップスタッフとの会話もかなり盛り上がったと聞いており、来店の動機づけとしては本当にうってつけでした。パルファージュの認知や商品に触れていただくきっかけにもなり、実際に商品の売り上げにもつながっています。 —キャンペーンの効果についてお聞かせください。 キャンペーンがスタートした4月以降、売上も順調に推移しており、手ごたえを感じています。売り場をお客様と商品の接点に留めるのではなく、ブランドを体験する場所として機能させたことは、当社にとって初めての施策でしたが、お客様のみならず百貨店さんやスタッフ一同も楽しみながら展開できたことは、大きな収穫となりました。

株式会社ワコール 広報宣伝部 ワコールブランド販売促進課  パルファージュ販促担当 宮本 夕美香さん

NHKプロ野球中継にも採用 AI野球解説「ZUNOさん」チームに聞く、AIで広がる野球の楽しみ方

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Case:NHK『ZUNOさん』
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。 今回は、データテクノロジーを利用して開発されたAI野球解説システム「ZUNOさん」を取り上げます。約3ヶ月の開発期間を経て、3月31日のプロ野球開幕戦より新たにNHKの野球解説の現場に取り入れられた「ZUNOさん」。ディープラーニングなどのデータテクノロジーを用いて、野球というスポーツに新しい視点を提供する取り組みです。2004年以降の300万球を超えるデータを学習させることで、配球や勝敗、順位などを予測。さらに、データマイニングによって、これまで人間の解説者には見つけることのできなかった選手の傾向を探っていきます。 Dentsu Lab Tokyoが企画とディレクションを担当し、データ提供および野球解析に関するアドバイザーとしてデータスタジアムが協力。ディープラーニング、データマイニングの専門家をチームに招き、制作・運営を行っています。コンテンツ内容から今後の展開まで、Dentsu Lab Tokyo 田中直基さん、株式会社Qosmo(コズモ) 徳井直生さん、データマイニング担当 山田興生さん、株式会社TWOTONE(ツートン)茂出木龍太さんにお話を伺いました。
Interview & Text : まきだ まどか
300万超の投球データを学習して、配球を予測
―野球×ディープラーニングという切り口がおもしろいですね。どういったいきさつで「ZUNOさん」プロジェクトが立ち上がったのですか。 田中:Dentsu Lab Tokyoは、従来の広告の枠を超えてもっと自由にものづくりをしていく場所として2015年10月に設立されました。今回のように広告案件に限らず、新しいモノづくりをする場として活動しています。また、組織そのものも電通社員に限らず、それぞれの分野のスペシャリストの方々とチームを組みながら、様々な課題解決やコンテンツ制作を行っています。 その中で、立ち上げ当初からビジョンのひとつに掲げていたのが「スポーツ×テクノロジー」なんですが、NHKの知人に「AI×野球解説」の話を相談したところ、ちょうど先方の中でも関心の高い領域ということで目的が合致し 、そこから数ヶ月後に「ZUNOさん」プロジェクトが動き出しました。

(NHK 「AI解説プロジェクト ZUNO」WEBサイトより)

徳井:野球とデータ分析の相性がよいことは、映画「マネーボール」で取り上げられたMLBオークランド・アスレチックスの例にあるように、よく知られています。メジャーでは、データ活用が当たり前になってきていますが、まだディープラーニングによるものは少ないです。実際の中継で使われたのは、世界でも「ZUNOさん」が初ではないかと思います。 ―ディープラーニングによって、どんな予測を行ったのですか。 徳井:シーズンを通しての順位予測とピッチャーの配球を予測しています。スポーツはいろいろな偶然性があるので、AIによる予測が難しいのですが、配球予測に絞れば、偶然性を抑えることが可能です。配球は、過去の経験や戦略に基づいて組み立てられているので、データさえあれば、配球予測のモデルは作りやすいんです。 ストライク、アウトカウント、出塁状況、点差などの試合状況を表すデータ、投げているピッチャーの持ち玉、受けているキャッチャーが要求するボールの癖、打席に立っているバッターの特徴 (長打率、カウント別のスイング率)、ランナーの足の速さ(盗塁数)などの選手のデータ、そして直前の数球の配球をもとに、次のボールのコースと球種を予測します。

(NHK 「AI解説プロジェクト ZUNO」WEBサイトより)

―配球予測のためには、具体的にどういったデータが必要になるのですか。 徳井:ピッチャーとキャッチャーの基本的な情報、細かな試合状況を数値化し、実際にその状況下で投げた球種とコースのデータを集めます。その入力と出力のデータの組をできるだけたくさん学習させて、徐々にモデルをアップデートさせ、予測の精度を上げていきました。 山田:データについてはデータスタジアムからご提供いただき、データの読み解き方、ディープラーニングの設計についても相談に乗っていただきました。プロジェクトメンバーに野球経験者がひとりしかいなかったので、野球を知り尽くしているデータスタジアムのアドバイスは必須でしたね。 徳井:バッターの能力を数値化するとき、打率のデータを使おうとしたのですが、データスタジアムに相談してみると、長打率や出塁率のデータを使う方がより的確な結果が得られるというアドバイスをもらったりもしました。野球データにまつわるプロがいたからこそ、開発で回り道をせずにすみました。 ―配球予測の的中率はどれくらいなんですか? 徳井:現時点では、3割~4割くらいです。球種だけでいえば、7割~8割当たっています。 ―「ZUNO」さんの弱点はあるんですか。 田中:過去のデータをもとにした予測ですので、シーズンが始まってからのアクシデントは予測に入れられないことです。日本ハムの大谷翔平選手が開幕早々に離脱したこともあり、日本ハムが不調に陥ったのですが、こういったことが起こると、「ZUNOさん」の予測には不利に働きますね。
野球の新たな視点を提供するデータマイニング
―「ZUNOさん」で応用されているデータマイニングの手法について教えてください。 山田:データマイニングはマーケティングの分野でもよく使われている手法です。マーケティングの手法として使われる際には、売り上げを伸ばすなどの結果が定義されていて、そこに最適な解を大量のデータから分析・抽出します。 今回は、目的達成のために解を見つけるというよりは、エンターテインメントとしてネタになる視点をたくさん提供すること、人間の解説者が気付かないような切り口を提供することを目指しています。新しい野球の楽しみ方を提案したいですね。 ―今までの野球解説とは一味違う切り口で興味深いです。具体的にはどういった傾向を見つけましたか。 田中:大谷翔平選手は、塁の出塁状況に応じて、三振率が上がっていくという傾向を見つけました。打率、出塁率の高い大谷選手ですが、満塁のときは54%も三振しています。 このデータから、人間はいろいろな推測を楽しむことができます。たとえば、ひょっとすると大谷選手は目立ちたがり屋で、満塁ホームランを打ちたいがために力が入っているのではないか?とか(笑)。選手のキャラクターがデータの影から見え隠れするんです。

(NHK 「AI解説プロジェクト ZUNO」WEBサイトより)

―他にはどんな切り口で分析したんですか。 田中:関係者に怒られちゃうかも知れませんが、「テレビ中継の有無と成績の関係」、「年俸交渉の時期と成績の関係」、くだらないものだと「満月と成績の関係」「仏滅と成績の関係」とか。目指したいのは、“どんどん脱線していく野球解説番組”なんです(笑)。野球好きはさらにマニアックな議論を交わし、そんなに野球を好きじゃない人も楽しめるといいなと。 また、データマイニングによって、新たな切り口を提案することで、目の前で起きている勝負に奥行きが出て、新しい視点が加わります。選手の人間性みたいなものが見えることで、親しみを感じるきっかけにもなります。

(NHK 「AI解説プロジェクト ZUNO」WEBサイトより)

―データマイニングの結果をデザインに落とし込むにあたって、工夫したことはありますか。 茂出木:広告グラフィックの場合は、いかに短い時間で伝えられるかが勝負ですが、今回の場合は、データのグラフを見ることによって、見る人の思考を促す必要がありました。結果だけをきれいにグラフィックにするのではなく、読み解きたくなるようなビジュアルを目指しました。
実体を作ることによって、AIの存在を認識できる
―「ZUNOさん」のキャラクター化など、デザインをする上で工夫したことを教えてください。 茂出木:「親しみやすさ」を軸に考えて、デザインしています。AIのことを怖がる人もいるので、愛されるキャラクターにすることを目指しました。常に学習し、考え続けるというAIならではの特徴から、コンピューターのローディング中のくるくると回っている様子をモチーフにしています。

(NHK 「AI解説プロジェクト ZUNO」WEBサイトより)

田中:「ZUNOさん」の声にもこだわっていて、女性、男性、年齢などいろいろな声を試し、子供の声に決めました。イメージは、野球が大好きな男の子です。上からいわれている感じのなさ、予測を外したときの逃げ道を作るという意味でも声のイメージは重要です。 ―AIという実体のないものだからこそ、キャラクター化が重要なんですね。 田中:「ZUNOさん」のスーツケースのようなデザインはあくまでシンボルではあるのですが、これがあるのとないのでは、テレビに出たときの見え方が全く違います。シンボルがあることで、見ている人はそこに「ZUNOさん」が存在していると認識でき、人格を感じてもらえます。
NHK社内の評判もよく、ファンの反応も好意的
―公開後、NHKさんの反応はどうでしたか? 田中:良いですね。野球番組に活用できる可能性を感じたので、今後も番組の中でどう活用できるかを検討していきたいというお言葉もいただいています。早速、試してみようということで、6月9日の「ゆる〜く深く!プロ野球!」(NHK BS-1 18:20〜放送)に「ZUNOさん」が出演する予定です。ぜひ、見ていただけばと思います。 ―野球界やファンからの反応はいかがでしたか。 田中:全体的におもしろがってくれていて、好意的な反応が多かったです。開幕直前に順位予測を発表したときの反応が一番大きく、ファンからは「なんで阪神が最下位なんだ」とか「割と的を得ている」とか「オレと同じ予想だ!」といったように賛否両論いろんな反応がありました。「戦略まで立てられて、監督を担うことができるようになったらもっとおもしろい」という声もありました。 徳井:「ZUNOさん」が出てきたせいで、“迷”解説者がいなくなったら寂しいというような声もありましたが、「ZUNOさん」の予測があることで、人間の解説者のずれているところがさらに際立って、むしろ共存する面白さが出てくるのではないかと思っています。目指しているのは、「ZUNOさん」が人間の解説者に取って代わることではなく、人間の解説者や野球好きな人の会話を引き出すためのシステムなんです。
人間とAIが共作するおもしろさをかたちに
―「ZUNOさん」は今後どのように進化をするのでしょうか。 徳井:数字のデータを扱うだけではなく、映像からディープラーニングの分析を行う研究を進めています。これまでは、モーションキャプチャーのような特殊な装置を体に付けなければ、人の動きを分析することはできなかったのですが、これからは映像だけで分析ができるようになります。 これを野球に応用すれば、試合中の選手の体の動きから投球フォームなどの認識ができるようになります。試合の序盤と後半で投球フォームがどう変わるのか、シーズン中にどう変わっていくのかといった分析、投手同士の投球フォームの比較などもできるようになります。 ―「ZUNOさん」プロジェクトに限らず、今後AIを応用してどういったことを仕掛けていきたいと考えていますか。 田中:人間とAIが共作するコンテンツができたらおもしろいと思います。人間が気付かないようなきっかけがAIによって与えられて、それに人間がクリエーションを加えていくことでコンテンツができあがっていくような作り方です。実際に、AIと人間による台本のない即興劇の企画案もあがっています。こういった例に限らず、AIはあらゆるものとの掛け算が可能です。これまでになかったクリエーションが生まれる可能性を秘めていると思います。

(写真左から)Dentsu Lab Tokyo 藍耕平さん、山田興生さん、株式会社Qosmo(コズモ) 徳井直生さん、Dentsu Lab Tokyo 田中直基さん、株式会社TWOTONE(ツートン)茂出木龍太さん、Dentsu Lab Tokyo 後藤萌さん、株式会社電通 大津裕基さん

ただのバズで終わらせない ブランドメッセージに落とし込むムービーの作り方とは?「#TackleTheRisk」チームに聞く

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Case:AIGジャパンスペシャルムービー『#TackleTheRisk』
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。 今回は、AIGジャパンスペシャルムービー「#TackleTheRisk」を取り上げます。このムービーは、グローバルパートナーであるラグビーニュージーランド代表オールブラックスの選手9人を起用し、東京を舞台に撮影が行われました。 街中を駆け巡りながら、新宿を通行中の女子高生、自転車に乗ったメッセンジャーサービスの男性、着ぐるみを着てビラ配りをする人、名刺交換をしているビジネスパーソンなどに次々とタックルを決めていくオールブラックスの選手たち。映像の後半では、オールブラックスの選手がタックルをした人たちにさまざまなリスクが降りかかり、タックルによって怪我などが事前に回避できていたことが明らかになります。スピード感と意外性のあるこのムービーが表現しているのは、「まさか」の時だけでなく、その「まさか」が起こらないように、世界中の知見とテクノロジーを駆使してお客さまをお守りするAIGの事業戦略コンセプト「ACTIVE CARE」です。 企画が生まれたきっかけから撮影秘話まで、TBWA\HAKUHODO チーフクリエイティブオフィサー 佐藤カズーさん、プラナー 梅田哲矢さん、コピーライター 山﨑博司さんにお話を伺いました。
Interview & Text : まきだ まどか
オールブラックスを使って「ACTIVE CARE」をどう表現する?
―今回の企画が立ち上がったきっかけを教えてください。 佐藤:ラグビーニュージーランド代表のオールブラックスのオフィシャルスポンサーをしているAIGジャパンから、11月にオールブラックスが来日するタイミングを活かして、何か企画を考えてくれないかと去年の5月ごろに話があったのが始まりでした。 海外の選手が来るとなると、PRイベントをするのが通常ですが、今回はムービーをメインに、イベントを含めた立体的なキャンペーンをしましょうと提案しました。 山﨑:2018年1月にAIG損保という会社が合併により設立されます。今回のムービーでAIGブランドの認知を高めてもらおうという狙いもありました。 ―今回のムービーで訴求している「ACTIVE CARE」というコンセプトができた経緯を教えてください。 梅田:1年半くらい前に「ACTIVE CARE」というブランドの新しいコンセプトを立ち上げました。このコンセプトを今回のムービーでは、“タックル”をキーに表現しています。 佐藤:事業コンセプト設計の段階から私たちエージェンシーが入り、一緒に考えていく中で「ACTIVE CARE」という概念にたどり着きました。事業やサービスもこのコンセプトをベースに作られており、AIGジャパンのすべての活動のコアとなるコンセプトになっています。 今回のムービー企画においても、オールブラックスを使って「ACTIVE CARE」をどう表現するかというのがお題でした。 ―言語を使わずにノンバーバルな表現をしているという点は、やはり意識しているんですか。 佐藤:その点は常に意識しています。クライアントはアメリカ人ですし、参加してくれるのもニュージーランドの選手、撮影クルーも海外からの参加が多かったです。私たちTBWA\HAKUHODOとしても、国境を越えて愛されるものを作っていこうという思いがベースにあります。 ―撮影はどのように行われたのですか。 梅田:オールブラックスが東京で暴れまわるというのが重要な要素だったので、新宿や渋谷、外苑前などの見たことのある街中で撮影をする必要がありました。 撮影はすごくハードで、6カメで撮影するほどスケールの大きなものでした。 山﨑:また、地域によっては早朝に撮影しなければなりませんでした。駅前でオールブラックスの選手が駆け抜けるシーンは、朝4時に集合して撮影しています。 梅田:朝、オールブラックスの選手がユニフォームを着て街中を走り回っている状況は、やはり目立ったようで、そのときの目撃ツイートも広く拡散されていました。 ―タックルによって吹っ飛ばされるアクションはどのように撮影しているんですか。 梅田:実際にはマットを敷き、安全に配慮して撮影しています。タックルしたシーンと人が倒れたシーンを別で撮り、合成して制作しました。荒々しい内容になっていますが、カット数がかなり多く、撮影の時間配分やセキュリティの配置、シーンの内容など緻密に計算されていて、現場での撮影は慎重に、繊細に行われました。 佐藤:実際にタックルをしている瞬間は、する側も受ける側もスタントマンを使って撮影し、後でシーンをつなぎ合わせています。ラグビー経験のある海外のスタントマンを採用し、オールブラックスの選手の撮影をした後に、別日にスタントマンの撮影をしているんです。 タックルをされて吹っ飛ぶ様子は、ワイヤーで体を浮かせて撮影しています。 ―撮影や編集で最も大変だったことは何ですか。 佐藤:大勢のエキストラを使って日中にアクションを撮るので、撮影コンディションをコントロールする難しさがありました。信号で止まってしまうなどのアクシデントはどうしてもありました。 カット数がかなり多く、1シーンに30分も満たないくらいの時間しかかけられなかったので、ねらった画が撮れるのか不安は大きかったですね。 タックルの本気度を再現するための検証も大変でした。タックルの仕方や装置を使ったスタントなどのテストシュートを重ねて、一番パワフルに見えるもの、漫画っぽく見えるものを導き出し、細かなところまでこだわりました。激しすぎて怖くなってもだめなので、さじ加減が難しかったです。 そういった細かな検証があったからこそ、最初の女子高生のシーンで「何がおきたの?」と見る人を引き付けて、最後まで見てもらえるものに仕上がったんだと思います。 梅田:編集の段階でも、音楽、タックルのぶつかる位置など細かなところまでこだわって編集をしていて、2ヶ月ほどかけて何度も修正を繰り返しました。そういった工程があったからこそ、誰が見ても引き付けられるムービーに仕上がり、見た後の納得感にも結びついたんだと思います。 山﨑:監督をしてくださった江藤さんが偶然ラグビー経験者だったことも、演出に厚みを出すことにつながったと思います。演出コンテは150カットにもなり、最適な見せ方ができたと思います。
世界中で拡散され、再生回数はトータル1億回を突破
―3月31日に公開になった後、世界中で話題になっていますが、再生回数はどれくらいまで伸びているんですか。 梅田:オフィシャルのFacebookとTwitter、YouTube、さらに海外で新たにアップされるなどして、現在再生回数は1億回を超えました。オーストラリア、ニュージーランドはもちろん、フランスや南米でも再生回数が伸びているようです。 ―どんな反応がありましたか。 梅田:約3分と、ウェブムービーとしては長いですが、「最後まで見てしまった」という反応がどこの国でも多かったですね。ねらい通りでした。他のオールブラックス出演のムービーのように、ただ単に「オールブラックスのガタイがすごい」というような反応で終わらせたくはありませんでした。 山﨑:社内でチームを組んで日々コメントをチェックしていましたが、ネガティブなツイートなどはほとんどなかったようです。見ている人のリテラシーが高いのだと思います。 佐藤:保険会社の表現というと、基本的には、ライフスタイルを描いて、エモーショナルな演出をするのが今までのコンベンションだと思います。 それに対して、今回のムービーは、スポーツブランドのようなアプローチで、保険会社のメッセージを伝えているという点に新しさがありました。それゆえに、ポジティブなコメントやツイートしたくなるような現象を引き起こすことができたんだと思います。 ―AIGジャパンからは、そういった常識を打ち破るような表現が求められていたんですか。 佐藤:AIGジャパンの会長自身が保険業界のイメージを変えたいと考えている人なんです。そういう思いもあって、今回のような新しい表現が受け入れられたんだと思います。 ―AIGジャパンの反応はいかがでしたか。 山﨑:好評いただきました。もともとはオールブラックスの選手3人が来日の予定だったんですが、企画案を受けて9人に増やしていただきました。撮影日も1日だったのが最終的に3日間に延ばしてもらえました。 佐藤:撮影には、ニュージーランド大使やラグビー協会の会長まで来るほど、注目されていたようです。 ―再生回数が伸び、認知度の向上につながったかと思いますが、ブランドイメージの構築につながったという実感はありますか。 梅田:「ACTIVE CARE」という言葉だけでは抽象的で分かりづらかったものが、ムービーという具体的なものを作ったことによって直感的に分かってもらえるようになりました。 佐藤:保険のビジネスモデルは、営業部隊であるエージェントがいかに売ってくれるかが重要です。ムービーによって、みんなが「ACTIVE CARE」を理解して盛り上がって、営業マンも売ってやろうという雰囲気になっているという話を聞きました。インナーに対しても効果が大きかったようです。
バズを起こし、ブランドメッセージも伝える新しい挑戦
―世界的に話題性を高めることができたポイントは何だと考えていますか。 梅田:よくあるオールブラックスの「ハカ」のようなムービーにするのではなく、オールブラックスをうまく使いながら、きちんとブランドメッセージに落としたというのが驚きにつながり、拡散につながったポイントだと思います。 佐藤:私は正直、ここまでのバズにつながるとは想像していませんでした。理由は、バイラルビデオとしては長めの3分だからです。90秒くらいで離脱してしまうのではないかというのを恐れていたので、3分間ずっと「次どうなる?」と思わせ続けられるように、編集にはかなり気を使いました。 梅田:Facebookムービーをバズらせる基本法則としては、冒頭からサビ(おいしいところ)がきて、そのままサビが続かないと見られづらい。しかし、今回のムービーは、その既存の法則にもチャレンジしていて、ストーリーがありつつも、ちゃんとバズにつながっています。手前味噌ですが、ここまでブランドとバズが両立しているものは、今まであまり見たことがありません。 バズを起こすことだけを考えて、バズの法則を積み上げて作ると、他のムービーと似てしまい、既視感のあるものになってしまいます。今回の企画は、バズのことも考えつつ、ブランドのメッセージもしっかり伝えるという新しい挑戦でした。オールブラックスのタックルのインパクトから、ブランドメッセージに落とし込み、「なるほど!」と思わせる落差みたいなものも、バズにつながるんだと分かりました。 佐藤:嫌な気分にならないよう、炎上させないように配慮もしました。最後に少年を出し、これからのスポーツシーンを担う子供たちへの思いを込めたシーンにするなど、見る人の気持ちをどう作るかというのを考え抜きましたね。 山﨑:今回は、ムービー公開時に広告を打っていないにもかかわらず、最初の3日間で1000万回再生されました。広告ムービーですが、みんな広告だと思って見ているのではなく、フィルムコンテンツとして見てくれたというのが、たくさんの人が見てくれた理由だと思います。アドからの誘導ではなく、ここまでオーガニックなものは見たことがないですね。 そして何よりも、制作に関わるみんながワクワクして、楽しんでおり、ブランドのメッセージに直結する企画になったことで、AIGジャパンも、オールブラックスのチームも動かし、見る人の心も動かしたんだと思います。 佐藤:今後、続編があるかも?しれません。

(写真左から)TBWA\HAKUHODOクリエイティブチーム プラナー 梅田哲矢さん、コピーライター 山﨑博司さん、チーフクリエイティブオフィサー 佐藤カズーさん

“広告”を超えた広がりを狙う–山田孝之が歌う「モテモテ マーロ」 制作秘話

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Case: ネイチャーラボ『マーロ』
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。 今回は、山田孝之さんが「モテモテ マーロ モテ マーロ」と歌い踊るフレーズが印象的な、株式会社ネイチャーラボのシャンプー「マーロ」のCMを取り上げます。CMとしての展開にとどまらず、フルバージョンの楽曲配信やフルバーションのMV公開などといった広がりを見せているこの施策。 THE DIRECTORS GUILD 細野ひで晃さんに、CMが生まれた背景や制作秘話を伺いました。
Interview & Text : 市來 孝人
新生活の季節を狙った、若年層に向けたコミュニケーション
—まずは、今回のCMが生まれた背景について伺えますか? マーロは商品立ち上げの当初から関わっていて、最初から山田孝之くんを起用し、30代中盤から40代中盤をメインターゲットにコミュニケーション施策を行っていました。 携帯電話だと最初の購入時を取ると大きな理由がない限り変わらないので、4月にどれだけ面白いコミュニケーションをして買う人を増やすかということが肝になるんですね。この点がヘアケア製品でも大事なのではというお話をしていました。 今回2年ぶりにリニューアルするにあたり、若い層、例えば美意識が生まれてきた男の子や新社会人になるような層がマーロを選んでくれるためのコミュニケーションをすることでブランドが育っていくのではというご提案をしました。一方、マーロ17というより育毛などに特化したラインナップもあり、香川照之さんを起用しています。だからこそマーロは、より購入層を広げた広告展開をしようという面もあります。
「モテモテ マーロ」のフレーズを使った理由
—CMの舞台についてはどのような設定ですか?アメリカっぽくもありながら、日本語の小道具も出てくる独特な世界観が興味深いです。 私が中学まで日本で、高校と大学がアメリカだったので、折衷といいますか元々こういう世界観が好きでした。映画『鈍獣』でもこのような世界観を手がけましたね。中学まで育った日本は当時ビーバップ世代、ヤンキー世代で、逗子で育ったので暴走族もたくさんいましたし。 落書きの壁は日本のモチーフを使ったものにしてほしいとか、提灯をつけてほしいとか、チャリンコが出てきたりとか、アメリカっぽくもありながらディテールは日本らしいものを取り入れています。ある種ブルーノ・マーズ的な、彼のMVで出てくるような”アメリカの田舎の兄ちゃん”みたいな世界観を、日本っぽくしていったということかもしれないですね。 —楽曲の作詞も手がけられていますね。 ヤンキーっぽい世界観なので、歌詞もいかにも特攻服に書いてあるようなワードを元に書いていきました。歌詞は10分くらいで書けましたよ(笑)。 —サビの「モテモテ マーロ」というフレーズも印象的ですが、このフレーズはどのように思いついたのでしょうか? マーロを知ってほしいというコミュニケーションなので、ただマーロと言うだけではなく、面白い語呂で言えるものがないかと思っていました。そういう時に「モテモテ マーロ」はいいなと。実は、このCMを手がける前から面白いフレーズだなと思っていたんです。昨年、マーロのブランドイメージについて若い世代にグループインタビューをした時に「モテモテ マーロってどうかな」とパッと聞いたら「絶対買いません」と否定的な意見ばかりで(笑)。その時に、むしろこれは絶対行けると確信したんですね。 そして、今回のCMがうまくいったのは山田くんがここまでやってくれたというところですね。山田くんがやったら本当にモテようという感じにならないといいますか、全てがユーモアに転換できるとも思いましたし。あれだけの歌、踊り、衣装がありながら楽しんでやってくれました。お姉さん(SAYUKIさん)も出てきょうだいで出演というのも微笑ましい感じでしたよ。さらには現場監督をやってくれたチェンコ塚越くんも、カメラ・振り・音楽、それぞれに関わる方も楽しんでくれて、クライアントさんの度量の深さもあって、みんなで作った感じがありますね。
”広告を超える”施策を次々と
—クライアントさんも、こういった世界観がお好きだったのでしょうか? そうですね、海外の文化もみなさん知っていて大好きですし。一番決定権のある方がスーパーボウルでのブルーノ・マーズのパフォーマンスを見て「生まれ変わったらなりたいな」とおっしゃっている位ですから。また、極論で言うと商品が出ていなくてもいいといいますか、消費者が楽しんでくれたらいいなという、広告を文化だと思っている感覚なんです。物が売れるのは広告だけじゃないと理解しているからこそ、むしろ広告の役割は消費者にエンターテインメント、生活にちょっとでも楽しい何かをお届けできればという認識がありました。 私も今回はプレゼンの入りが「紅白を狙います」というところからでしたから。大事にしたのはマーロの認知を上げたいということと、広告の枠を超えていきたい、ということです。若者は広告の枠の中に入っていたら絶対に認知してくれないと思うので、今回は”広告の外に出ていく”という狙いでしたね。 —一時、Spotifyの日本のVIRALチャートでも1位になっていて驚きました。CMソングのフルバージョンが各音楽配信サービスに配信されましたが、これは最初から狙っていた施策ですか? そうですね、配信は狙っていました。ユニバーサルさんに話をした時、最初の反応が「いい曲ですね」というものでビックリしましたが(笑)。広告を超えたいと思っていたので、楽曲を作って配信することはもちろん、あたかも新曲が出たかのようにMVを配信する、カラオケに入れる(6月24日よりJOYSOUNDで配信)、アドトラックを走らせる、109のビルで広告を打つというところは初めの提案からありました。 —CMや楽曲について、細かい部分でのこだわりについても聞かせていただけますか? フルのMVを作りながらも、15秒のCMでは初めに「わーっ」と叫ぶシーンを入れて、CMならではのアテンションをつけています。楽曲は、作曲いただいたCom.aさんは耳に残るコード進行などを分析されていたようで、とっておきの楽曲を作っていただいたと思います。Airmanさんによる振りは、子供でも踊れるような”外し”方をお願いしましたね。 —今後どのような展開がありますか?また、20年近く広告に携わられている中での細野さんご自身のこだわりについてもお聞かせください。 虎視眈々と仕込み中です。フェスや音楽番組など、音楽の世界にも進出して広告の枠を超えていきたいと思っています。例えば、以前も日清食品さん(カップヌードル)で、「NO BORDER」というコピーで平和を訴えたり、「FREEDOM」というコピーで、人にとっての自由はなんでしょうかということを訴えたりしました。「クライアントを喜ばせよう」「文句を言われないようにやろう」というだけではなく、クライアントさんと一緒に「世の中に発信していきませんか」ということです。これからも、そのようなことに携わっていたいですね。

THE DIRECTORS GUILD 細野ひで晃さん(写真中央)

SNSで話題 “漁師からモーニングコール”施策はどのように生まれ、どれだけの依頼があったのか

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Case: 一般社団法人 フィッシャーマン・ジャパン『フィッシャーマンコール』
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。今回は、一般社団法人 フィッシャーマン・ジャパンが宮城県石巻市とタッグを組んで展開した『フィッシャーマンコール』を取り上げます。『フィッシャーマンコール』は、依頼した日時に“早起きのプロ”である漁師から、朝が苦手な若者にモーニングコールがかかってくるユニークなサービス。本施策が生まれた背景には、石巻市の切なる願いがこめられていました。 本施策を主導した、一般社団法人 フィッシャーマン・ジャパン 事務局長 長谷川琢也さん、プランニングを手がけた株式会社電通 第3CRプランニング局 コミュニケーション・プランニング3部 クリエーティブ・ストラテジスト キャンペーン・プランナー 長島龍大さん、同 デジタル・クリエーティブ・センター デジタル・クリエーティブ3部 コピーライター 藤田卓也さんに、実施の意図やウェブ・動画制作の舞台裏、バズを生み出した背景等を伺いました。
Interview & Text : 香川 妙美
「漁師は得意。だけど、若者が苦手なことって?」なぞなぞのような問いから生まれたクリエイティブ
—まずは、企画の発端を教えてください。 長谷川:フィッシャーマン・ジャパンは、漁業の課題解決団体として、これまでも様々な施策を行っています。その活動の一つとして、3年前から宮城県石巻市の委託を受け、水産業の担い手を増やす施策に取り組んでいます。これまでに漁師専用求人サイトの立ち上げや、漁師向けシェアハウスの整備、漁業体験ツアーの開催など行ってきましたが、まだまだできることがあると感じていました。今回は県外に向けた試みを念頭にしていましたので、面白いことをやりたいと考えていました。 —そこで、長島さんと藤田さんがプランナーとして手を挙げられたのですね。 長谷川:はい。フィッシャーマン・ジャパンには、多くの人がプロボノとして関わってくれています。今回、クリエイティブチームのメンバーとして「手伝うよ」と声をかけてくれたのが、長島さんと藤田さんでした。 —フィッシャーマンコールの着想はどうやって生まれたのでしょうか。 藤田:シェアハウスをはじめ水産業の担い手を増やすための直接的な取り組みは既に行われていたので、僕たちは漁師や漁師という仕事に興味を向けるきっかけづくりに取り組むことにしました。そこから漁師の強みを生かして何か若い人の困っていることを助けられないか?という視点でいろいろ考えていたところ、『漁師は早起きが得意で、若者は早起きが苦手』という企画のコアにたどり着きました。 長島:この案が出たときには、お互いに手ごたえを感じましたね。話題化をするうえで、漁師のイメージと漁師のアクションとの間にギャップが必要と考えていたので、「漁師がモーニングコールをかける」というのは意外性もあるし、今までにない接点づくりにもなるので、色々なことが同時に解決できそうだと感じました。 —長谷川さんは、提案を受けた際にどう感じましたか。 長谷川:僕も元々は漁師ではなく東京の人間なので、そういう目線から分かりやすい企画でおもしろいと感じましたが、それと同時に「役所の人と漁師には、絶対に理解してもらえないのでは」とも思いました。案の定、彼らからは「漁師に対して興味を持ってもらうのに、なぜモーニングコールなの?」という反応が返ってきました。 —そういった地元の方の疑問をどのように解いていったのでしょうか。 藤田:いきなりモーニングコールと言うと、戸惑うと思っていたので、地元の方には、“漁師と話せるウェブサービス”として説明しました。『担い手を増やすために交流の機会を増やしましょう。石巻市に行かなくても漁師と話せるサービスを作りましょう』という立て付けですね。そのうえでサービスの提供は、朝のシチュエーションに絞ることを伝えました。日常的にバズネタに触れていない方たちなので、個々の説明は特に丁寧に行いました。 —モーニングコールをかける漁師さんは、どのように選定されたのでしょうか。 長谷川:石巻市の事業なので、地域のまとめ役になっている漁師さんを中心に、やることの意義に賛同してくださった熱い方にお願いしました。 フィッシャーマン・ジャパンは、旧態依然とする水産業に風穴を開けてきた団体なんです。それに対する風当たりの強い時期もありましたが、共感してくれる人も徐々に増えてきていて。今回協力してくれた漁師のなかには、過去僕らの活動にいちゃもんを付けた人もいるんですよ(笑)。でも、今では「新しいことに抵抗して何もしないでいるうちに漁師の数は減っていく。何でもいいからやってみないと」と言ってくれています。今回の企画は、そんな熱い思いを持つ人の声が、プロダクトとして表に出たこともまた良かったと思っています。
WEBサービスらしさを意識したムービー制作
—ウェブ制作、動画制作に関するこだわりを聞かせてください。 長島:まずウェブは、サービスに奥行きをもたらすために各漁師の情報を充実させました。また、モーニングコールサービスなら声が聞きたいのでは、ということで、ボイス試聴をできるようにもして、個性豊かな漁師が揃っていること、そのなかからコールしてもらう人が選べることを打ち出しました。サイトをシェアすると抽選で銀鮭がもらえるキャンペーンも、小ネタですが漁師ならではの仕掛けを入れています。そして、漁師一人ひとりのタイムスケジュールを入れることで、仕事への興味を喚起できるようにもしました。 藤田:続いて動画ですが、制作はピラミッドフィルムクアドラにお願いしました。こだわったのは、本物のサービスとして見えるか?という点です。“スタートアップ企業が始めた、新規サービスを紹介するムービー”をイメージしています。おもしろおかしくやりすぎて嘘だと思われると癪なので、リアリティは大切にしました。あとは、どうしてもチームが大所帯になってくるので、何のための動画なのかを共有することも重視しました。動画自体がバズることよりも、この動画を見れば一発でサービスが理解できるものにしようと話したり。また、最近は、Facebookで流れてきたものを視聴するケースが主流なので、最初の10秒にキラーカットを入れる、スマホでは無音で視聴するケースも多いので、音が無くても分かるようにするなど、何を狙いにするのかを明確にしました。
実際の依頼数はどうだったか
—今回、プロモート予算をかけずに多くのパブリシティを獲得したと伺っています。具体的にどんな活動を行ったのでしょうか。 長島:まずは、『漁師』『モーニングコール』という二つのワードが流通するようにプレスリリースを書きました。そのうえでメディアさんの連絡先を一つずつ調べて情報提供を行うという地道な作業をしています。そこから一つ二つと記事化されるにつれ、露出が爆発的に伸びていきました。ツイッターの影響も大きかったですね。「漁師のモーニングコールがおもしろい」とツイートした人が6,000人もいたんです。さらには、動画のスクリーンショットを集めてツイートした人のリツイートが40,000くらいありました。その反響を見たメディアから、また問い合わせが舞い込むという具合です。 —露出内容もバラエティに富んでいたんですよね。 長島:そうですね。リリースは、「5月病をなんとかしたい!」という文脈も入れたので、「だるい」「早起きが辛い」とツイートしている人に対し、「こういうサービスがあるらしいよ」という会話が生まれるなど、広がりを出せました。このほか、漁師がモーニングコールをしているギャップのおもしろさを紹介するものから、色々な課題を解決するアイディアとして秀逸だというもの、単純に漁師に起こされたいというミーハー心をくすぐるものまで出方は様々で。なかでも印象的だったのは、漁師の阿部誠二さんのキャッチコピー、『父子鷹の秘技に酔いしれろ』が、アニメ『テニスの王子様』に出てくる跡部圭吾の決め台詞「俺様の美技に酔いな」を連想させるらしく、ファンの方が反応していたこと。こういうのを見ると小ネタは色々入れておくものだと、しみじみ思います。 結果として、ウェブメディアでは150媒体、TVは10媒体、新聞も5媒体、このほかラジオや海外メディアにも多く取り上げられ、大きな成果を出すことができました。 —モーニングコールの依頼数はどうでしたか。 長島:もともと100~200件を想定していましたが、実際は1500件を超えました。申込者は女性が7割と多く、年代は20代が中心でした。当初は、申し込み件数は重要視していませんでしたが、あまりに反響が大きかったので、漁師さんにはできうる限りモーニングコールをお願いして頑張ってもらいました。ちなみに応募される方は、『なぜ起こしてもらいたいのか』など質問に答えていただく必要があったのですが、『漁師になりたい』と書いてくださっている方の声を拾うことができた点は良かったですね。 —今回の成果を振り返って、どう感じていますか。 長島:今回の施策は、企画が話題になってよかったという単純なものではなく、地方をはじめ、斜陽になりかけている産業に就く方が、新しいチャレンジをするうえでの原動力になっていくと感じています。ここからが大事ですよね。 長谷川:そうですね。チームでも話していますが、この反響を一過性のものとして終わらせるのではなく、この接点を深める、もしくは広げていくことは継続していきたいと思っています。今回の施策の成功により、行政や漁業関係者の期待の高まりも実感しており、各地の漁業関係者から「自分たちもやりたい」と連絡が入るなど、副次的な効果が生まれています。「フィッシャーマン・ジャパンに任せるとおもしろいことが起きる」という印象も形成できつつありますので、次の企画の弾みにしていきたいですね。 フィッシャーマン・ジャパンの活動は、これまでも地方創生の文脈で色々なメディアに取り上げていただいていますが、地方クリエイティブが増えている昨今、本質的な企画の立ち上げ方やプロとの関わり方を探っていくことも我々の役目だと思っています。クリエイティブやバズと無縁の生活を送る地方の人たちのアイディアが、都会のクリエイターの企画やアクションを越える時代を作っていきたいです。 今回のフィッシャーマンコールの事例により、広告やクリエイティブが、世の中の困っていることを助ける手段の一つとして認識されるようになると嬉しいです。

写真左:株式会社電通 第3CRプランニング局 コミュニケーション・プランニング3部 クリエーティブ・ストラテジスト キャンペーン・プランナー 長島 龍大さん 写真中:一般社団法人 フィッシャーマン・ジャパン 事務局長 長谷川 琢也さん 写真右:株式会社電通 第3CRプランニング局 デジタル・クリエーティブ・センター デジタル・クリエーティブ3部 コピーライター 藤田 卓也さん

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