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Channel: BEHIND THE BUZZ – AdGang
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代理店クリエイターが出版社に自主プレし実現 対話を通して子供と議論し本音を引き出す本『どう解く?』

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Case:『答えのない道徳の問題 どう解く?』
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。 今回は株式会社ポプラ社から3月23日に発売となった、対話を通して子どもの本音が引き出せる本『答えのない道徳の問題 どう解く?』を取り上げます。実はこの本、エージェンシーのクリエイター3人が中心となって企画したものなのです。
この本では「いじめ」「いのち」「かぞく」「ゆめ」「すき」など、13の正解のない普遍的な問題が、簡単な絵と言葉の組み合わせで子どもたちにも分かりやすく「問いかけ」られます。また、「せんそう」にはジャーナリストの池上彰さん、「うそ」には詩人の谷川俊太郎さん、「らしさ」には歌手・タレントのミッツ・マングローブさんなどが解答例を寄せた「考えるためのヒント」が本の後半に掲載されています。 2018年4月から全国小学校で「特別の教科 道徳」がスタートする中、子どもたちの話す力、考える力を伸ばす対話の一助になることを目的に出版されました。 株式会社 ポプラ社から、児童書出版局 幼児編集部 部長 花立健さん・児童書出版局 幼児編集部 チーフ 仲地ゆいさん・営業局 児童書営業企画部 部長 平瀬律哉さん・営業局 宣伝マーケティング部 部長 松田恭子さん。企画をポプラ社に持ち込んだ株式会社 博報堂 コピーライター 山﨑博司さん・TBWA\HAKUHODO シニアアートディレクター 二澤平治仁さん・TBWA\HAKUHODO アートディレクター 木村洋さん、PRを担当するTBWA\HAKUHODO PRプラナー 小林秀行さんに、この書籍のアイデアが生まれ、形になるまでの過程について、話を伺いました。
Interview & Text : 市來 孝人
いじめを「よくない」と言う機会はあっても、「なぜよくないのか」を考える機会がない
―まず、企画が立ち上がった経緯を教えていただけますか? 山﨑:構想には三年かかっています。全員父親で子供がいる二澤平と木村の三人で、「いじめなどの社会問題がある中、子どもたちが成長したときに不安だよね、何かできないか」元々はそんな話をしていました。 いじめは「よくない」という話があっても「なぜよくないのか」を考える機会がありません。そのような問いかけをして考える機会を作ることができないか話し合っていた時に、「これは本にするのはどうか」という案が挙がり、その後ポプラ社さんと知り合うことができ、形になりました。 ポプラ社さんには最初、出版される本にも含まれている三問程度の問いかけと、なぜ必要か、なぜやりたいのかという点を示した企画書を持っていきました。 花立:幼児編集部として、いつもは赤ちゃんから小学二年生ぐらいまでを対象にした本を作っています。このお話をいただいた時は言葉とビジュアルがこれまでの児童書にない手触りで、とても面白いなと思いました。 ただ、この企画を道徳という教科と紐付け、子どもたちが読んでくれる本にしようとすると色んなバランス感覚を持ってやらないといけないなとも思ったのが、第一印象でした。 ―「いじめ」などの13の問いかけについては、どのように決めていったのですか? 山﨑:僕らで「こういう問題はどうか」という提案もありましたが、大きかったのはポプラ社さんからも今の子どもたちのニーズを踏まえた「何か好きか」「どういう問題に関心があるか」という意見をいただいたことです。 さらには、子どもたちが興味のあることということを第一前提にしつつ、働き方改革やLGBTなど、今の社会における大きな枠での課題・問題なども含めていきました。 仲地:小学校の道徳の授業を見に行き、実際にどういうことを学んでいるかを視察しましたし、司書さんにも普段子どもたちが何を気にしているかヒアリングを重ねました。 花立:やはり(子どもたちのいる)現場にいる方は「子どもたちはこういう風に考えていて、先生はこう教えているんだ」という点を捉えています。また、本の企画についても「すごくいい」という反応があって自信にもなりました。 山﨑:ポイントは、本の前半に問い、後半に「考えるヒント」という構成にしたことです。この点に関しては相当議論しました。 もともとは問い一つに対してヒントが出てくるという案もあったのですが、これでは答えがすぐ載っているように見えてしまいます。やはりこの本は、話し合ってもらって考えてもらうためのもの。そのためヒントは後半でまとめることになりました。 ―様々な著名人の「考えるヒント」が記されていますが、人選はどのように決めていったのでしょうか? 仲地:前提として「子ども達に語れるメッセージを持っている人」という点があります。 花立:「児童書らしい」人に偏らないよう、幅広さを意識しています。 小林:実は、答えを考えに考えた末「子ども達のために私が意見をいうのは難しい」とポジティブに辞退してくださった方もいるほど、皆さん真剣に考えてくださっています。
広告の作り方と、本の作り方の違い
―イラストや、文字数が研ぎ澄まされたテキストなど、洗練された仕上がりとなっていますが、デザイン面でこだわられた点はありますか? 木村:例えば「うそ」について、閻魔様が舌を引っこ抜くようなイラストで表現するなど、重い雰囲気にはならないようにしています。テーマが重いものもあるので、子どもたちが見ても楽しいイラストとは何か、必死で探しました。 二澤平:広告は「できるだけ情報を省く中で価値ある情報をいかに入れるか」「シンプルなコピーで伝える」という仕事ですよね。本は真逆なのですが、そこが面白いところでもありました。最終的には「いい意味での余白感」を意識しています。 仲地:本という体裁では「突っ込んで、掘り下げて、言葉でも、量でも見せたくなる」ものです。つい面白いと思うとそこを掘り下げようするあまりに様々な要素を足そうとしたこともありましたが、企画を最初に面白いと思ったときに感じた「スパッとした」イメージに立ち返りました。 花立:途中、仲地が「(当初の企画の)キレ味をそいでいくのはやめましょうよ」という話をしたんです。 仲地:当初はシャープでスタイリッシュなこの本に子どもがついていけるか不安ではありました。でも小学生に実際に見せて見ると、みんな「かっこいい」と。保護者の方も「おしゃれで今っぽい」という反応でした。「児童書ってこういうもの」という固定観念があったのかもしれません。今の子どもたちはビジュアルが気に入らないと本当に手にとってくれないので。 小林:営業の皆さんも「書店に並んだときにどう売れるか」「図書館の担当の方が買ってくれるかとか」という目線から様々な意見をくれたんです。 平瀬:この本をどういった家庭に届けるかというところを思い浮かべながら、議論はかなりしました。このままでは一見シンプルでおしゃれなので「教育意識が高い人だけに向けた本」という風に見えがちですが、そうではなく「この本があれば自然に話をできる」というイメージで幅広い家庭の方に手に取ってもらえるように、POPや帯などを考えていきました。 松田:今は子どもがアプリを使う家庭も増えていますが、アプリでは一人遊びになってしまう場合もあります。本の場合は「もの」があるので、一緒にめくったり読んだりできることが強みです。そういったコミュケーションツールとしての本、という議論は社内でもよく出る点です。 この本を通して赤ちゃんの頃絵本を通してできていたような体験が、成長した小学生の家庭でもできるようになれば良いなと思いました。 二澤平:子どもと一緒の空間を作るというシチュエーションで、本は最高のデバイスかなと思っています。
詰問ではなく、子どもと親が意見を交わしあえる
―どういうシチュエーションで、この本を読んでもらいたいですか? 山﨑:基本は家で、親子で読んでもらいたいですね。先行体験してくださった方は「これがあれば子どもの意見も聞けて、親の意見も言えて、意見を交わし合える」という点に手応えを感じてくださいました。ゆくゆくは学校の中でもそういった場が開かれたらいいなと思います。 私も、今子どもが4歳になるのですが、「自分も、子どもが小学校になったときにやりたい」という思いで作ってきました。 仲地:「いじめられてない?」と聞かれると「いじめられてないよ」というコミュニケーションで終わりますが、「この本に書いてあること、どういう風に思う?」とワンクッション挟む形で質問すれば、詰問されてるわけでもないですし、いい距離感で語り合えますよね。 ―今後の展開拡大も予定されていますか? 小林:一部の教育委員会にもご意見をうかがっています。この本をフォーマットとして、授業などでも使ってもらいたいですね。
上段左から 株式会社 ポプラ社 営業局 宣伝マーケティング部 部長 松田恭子さん、株式会社 ポプラ社 児童書出版局 幼児編集部 チーフ 仲地ゆいさん、株式会社 ポプラ社 営業局 児童書営業企画部 部長 平瀬律哉さん、株式会社 ポプラ社 児童書出版局 幼児編集部 部長 花立健さん、TBWA\HAKUHODO PRプラナー 小林秀行さん 下段左から TBWA\HAKUHODO アートディレクター 木村洋さん、株式会社 博報堂 コピーライター 山﨑博司さん、TBWA\HAKUHODO シニアアートディレクター 二澤平治仁さん

“ギャルの聖地”から若者の夢を叶える場所へ。SHIBUYA109が新ロゴ公募を決めた背景とは

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Case: SHIBUYA109エンタテイメント『SHIBUYA109 LOGO CONTEST』
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。 今回は、「SHIBUYA109 LOGO CONTEST」について取り上げます。東京・渋谷のランドマークであるファッションビルSHIBUYA109は1979年にオープンし、来年で40周年を迎えます。その節目を機に、「若者の夢を叶える」存在として生まれ変わろうと、ロゴの刷新を決断し、109ロゴコンテスト(公募期間:4月18日~5月20日)を開催しました。 10代から20代前半の若い世代にSHIBUYA109のメッセージを届けたいという思いから、ロゴパーツを組み合わせてロゴをつくり、Twitterでシェアすることでコンテストに応募できる「109ロゴメーカー」を制作。約109億通りあるパーツの組み合わせによってロゴを制作できます。デザインスキルがあれば、イチからロゴを制作して応募も可能。最優秀賞に選ばれた作品の受賞者には賞金109万円が贈られます。 ロゴ変更に至った経緯、109ロゴメーカー制作について、株式会社SHIBUYA109エンタテイメント 広報担当山森晶奈さん、ブランディング担当リチャードソン千尋さん、株式会社東急エージェンシー デザイナー 佐藤茉央里さん、プランナー 室田彩貴さんにお話を伺いました。
Interview & Text : まきだ まどか
ロゴ刷新の背景に、若者の自己表現手段の多様化
―SHIBUYA109のロゴを変更する理由について教えてください。 山森:今から40年前、現在の場所にファッションコミュニティー109としてSHIBUYA109がスタートしました。去年4月には、SHIBUYA109のブランドを扱う会社として、「SHIBUYA109エンタテイメント」を設立しました。企業理念の「Making You SHINE!」には、若者の夢を叶えるという思いを込めています。 過去にSHIBUYA109は“ギャルの聖地”だといわれたことがありました。現在でもそのイメージが先行することがあり、より幅広い若者に向けたブランドにしたいという私たちの思いとのズレを感じてきました。ロゴの刷新によって、SHIBUYA109が今までも続けてきた若者の夢を叶える場所であることを改めて伝えたいと考え、「SHIBUYA109 LOGO CONTEST」を立ち上げました。 ―これまでにもイベントを開催するなど、新たな取り組みをされているようですね。 山森:SHIBUYA109から世界へ向けて、若者が活躍する機会を提供したいと考え、イベントなどを開催してきました。4月には、若者の夢を叶えるひとつのかたちとして「109路上ライブ」の決勝バトルを開催しました。店頭のイベントスペースで、歌のライブバトルを開催し、優勝者には賞金とニューヨークでのボイストレーニングの権利を贈呈しました。若者が世界に羽ばたいていけるよう、これからもいろいろな方法でお手伝いしていきたいと考えています。 ―SHIBUYA109はファッションカルチャーの発信地だったと思います。今後はどのように変わっていくのでしょうか。 山森:若者の自己表現として、以前はファッションに重きが置かれていましたが、現在は、音楽、ゲームなど自己表現の方法が多様化しています。大人から見るとニッチに見えるものでも、彼らの中では好きなものの世界は広く広がっています。SHIBUYA109は、彼らが好きなエンタメを一緒につくり上げていくこともできますし、発信して拡げていくこともお手伝いできます。
若い世代の画像加工の文化に着目し、109ロゴメーカーを制作
―ロゴを公募にし、109ロゴメーカーを作った理由を教えてください。 山森:いかに世の中の若い世代を巻き込むかということに焦点を当てていたので、一般の人たちから募集するというのが前提としてありました。イチからデザインを考案してもらうものと、109ロゴメーカーを使ってロゴを制作するというふたつの方法で応募できるようにしました。 室田:ニュースでロゴが変わることを知るだけでは、ロゴ刷新に込めた思いやメッセージまでは届けられません。どうすればロゴ刷新を通して若い世代との距離を縮められるかを考えました。 一般的な公募の場合、応募してくれるのは、デザインのスキルがあるクリエイターや美大生に偏ってしまいます。SHIBUYA109が思いやメッセージを届けたいのは10代や20代前半の若い世代です。彼女たちに届けるためには、“傍観者”ではなく、“参加者”として公募に関わってもらうことが大切だと考え、特別なデザインスキルがなくても若い世代に公募に参加してもらう仕組みとして、109ロゴメーカーを提案しました。
―いろいろなパターンのロゴパーツを組み合わせることでロゴが完成するので、デザインスキルがなくても簡単に応募できますね。 室田:公募への参加ハードルを下げるために、私たちが注目したのが、若い世代の画像加工の文化です。彼女たちはSNSなどにアップする画像を日常的に加工しています。イチから新しくデザインはできなくても、素材を組み合わせたり、アレンジしたりすることは得意なのではないかと考えました。 そこで、SHIBUYA109のロゴを作ることができるパーツをこちらで用意して、組み合わせたりアレンジしたりすることで、SHIBUYA109のロゴをつくってもらい公募に参加してもらおうという話になりました。「109」にちなんで約109億通りの組み合わせができるようになっています。 ―ロゴパーツのデザインで工夫したことは何ですか? 佐藤:ロゴパーツの中には、かっこいいものだけではなく、つっこみどころがあったり、既視感のあるものなど、おもしろ要素を多めに盛り込みました。下手な字のパーツには「中二男子」、渋谷のモヤイ像をモチーフにしたパーツには「渋谷駅西口」など、パーツのネーミングにも遊びの要素を入れて工夫しました。 室田:中高生たちの若者文化や流行の研究もしました。人差し指と親指をクロスさせた「指ハート」が流行っていたので、指文字で109を表現しているロゴを作ったり、流行の80年代風の柄を入れたり、インスタ映えするスイーツのイラスト素材も用意したりしました。
想像を超える新たなロゴを期待
―ロゴの応募総数はどれくらいですか? 山森:最終の応募数は集計中ですが、ロゴをイチからデザインする通常の応募、109ロゴメーカーからの応募ともに、私たちが想定しておりました応募数を超える応募をいただきました。 ―どういったロゴを期待していますか? 山森:これまでのSHIBUYA109のイメージを変えるような、私たちの想像を超える新しいものが生まれるといいと思います。 ―SNSではどんな反応がありましたか? 室田:10代、20代の女の子からの投稿が多く、「何回もつくってみたくなる」という反応もありました。SHIBUYA109のショップ店員さんもロゴを作って発信してくれたので、そこから興味を持ち、ロゴを作ってシェアしてくれた人もいたようです。 リチャードソン:10代、20代の女の子以外にも、館内のポスターやイベントなどを通して、渋谷に来ているいろいろな人たちが興味を持ってくれて、109ロゴメーカーを使ってくれました。男性の方や、外国の方も参加してくれました。 ―今後、どのような企画を予定しているのですか? 山森:現在進行中なのですが、6月にもひとつ新しい企画をスタート予定です。今後も、若者の夢を叶える新たな企画を実施し、ひとつずつ丁寧に夢を叶えていくお手伝いをしたいと考えています。
(写真左から) 株式会社東急エージェンシー プランナー 室田彩貴さん、デザイナー 佐藤茉央里さん、株式会社SHIBUYA109エンタテイメント リチャードソン千尋さん、山森晶奈さん

「U.F.O.」ふたのキャベツを落とすプロダクト 無念の発売中止も…日清食品の「PRODUCT X」担当者に聞く

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Case: 日清食品『キャベバンバン CBB-001』
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。 今回は、日清食品「PRODUCT X(プロダクト ペケ)」プロジェクトの第2弾「キャベバンバンCCB-001」を取り上げます。食にまつわるさまざまな問題に対して、日清食品独自の視点でアプローチする商品開発プロジェクト「PRODUCT X」。その第2弾として開発されたのが「日清焼そばU.F.O.」のふた裏に付着したキャベツを振動で落とすことができるデバイス「キャベバンバン CBB-001」です。日清食品グループオンラインストアにて、5月17日より5月31日までクラウドファンディングによる予約販売を実施。予約数が1,000個に達した場合、4,980円(税込)で購入が可能になるプロジェクトです。予約数が1,000個に達さず発売中止となるも、このデバイスはネット上で大きな話題となりました。 企画が立ち上がった経緯から商品開発の舞台裏までを、株式会社電通・電通ライブ コミュニケーションプランナー 加我俊介さんにお話を伺いました。
Interview & Text : まきだ まどか
日清食品の問題意識から始まった「#キャベバンバン」プロジェクト
―商品開発プロジェクト「PRODUCT X」がスタートした経緯について教えてください。 「PRODUCT X」は、日清食品グループオンラインストアのリニューアル1周年記念のプロモーションとしてスタートしました。オンラインストアへの接触欲求を喚起するため、この場だけで買える話題性のある商品を継続的に産み出すプラットフォームを作ろうと考え、「PRODUCT X」を提案しました。ド真面目な商品開発というよりは、日清食品さんらしいユーモアの視点を大事にしながら、食にまつわるさまざまな課題を解決する商品作りを目指した取り組みです。「社会課題」は最も確度の高い話題化の源泉であるという考えから課題解決型の商品開発としました。 ―「日清焼そばU.F.O.」の「#キャベバンバン」キャンペーンを受けて「キャベバンバンCCB-001」のプロジェクトがスタートしたそうですね。 「#キャベバンバン」は、「日清焼そばU.F.O.」が今年3月上旬から展開していたブランドプロモーションで、湯切り後にキャベツがふたの裏に付着してそのまま捨てられるのを防ぐことを目的に、食べる前にふたをバンバンたたこうと呼び掛けた企画です。日清食品では、商品開発的な観点で、以前からこのキャベツがふたに付着することを問題視していたそうです。そういった問題意識が「#キャベバンバン」プロジェクトとなり、今回の「キャベバンバンCCB-001」につながりました。 「#キャベバンバン」プロジェクトがローンチする直前に、U.F.O.チームから私たち「PRODUCT X」チームにお声が掛かり、ふたに付着したキャベツを落とすデバイスを商品化できないかと相談がありました。U.F.O.のブランドマネージャーが針金と輪ゴムで独自に作ったプロトタイプがあり、既に試作品作りも進められていて、それをもとに商品化・販売できないかとのことでした。 ―日清食品にもともとあった問題意識がかたちになったプロダクトだったのですね。 日清食品の社員の間では、ふたを叩いてから食べるというのが当たり前だったそうです。そのことを企画にしたのが、「#キャベバンバン」だったんです。実際に商品を作っているメーカーならではの発想だと思います。
日清食品の各ブランドの受け皿として「PRODUCT X」を機能させたい
―針金で作ったプロトタイプからどのように商品の開発を進めていったのですか? ベースとなる機構はすでにでき上がっていたので、精度/意匠両面のクオリティを上げる作業でした。3Dプリンターで試作品を作っては、ゴムの位置や角度などを変えながら検証・改良。このプロセスを何回・何十回と繰り返し、ようやく完成に至りました。「#キャベバンバン」のキャンペーンからいかに時間をあけないで「キャベバンバンCCB-001」をリリースできるかが勝負だったので、スケジュールはタイトでした。 ―どんな点にこだわりましたか? 今回の商品も機能・存在自体が“無駄(バカバカしい)”だからこそ、それとのギャップを作り出すために、商品原価とせめぎ合いながら、デザインを“無駄に”カッコよくする・スタイリッシュに仕上げることにこだわりました。「キャベバンバンCCB-001」をプレゼンテーションするPVにおいてもその点を意識して世界観を構築しています。 ―某家電メーカーを連想させるような動画に仕上がっていますね。 「PRODUCT X」のキーワードは“無駄に”なのですが、「キャベバンバンCCB-001」はまさに存在自体が無駄ともいえます。手で叩けばいいものを、わざわざ4,980円もする商品を使ってふたに付いたキャベツを落とす。しかも、このデバイスを使ったとしても、ふたに付いたキャベツの除去率は81%。そこが最大のツッコミどころです。そういった“無駄”な要素について、ユーザーにつっこんでもらい、笑ってもらい、話題にしてもらえるよう表現したのがあの動画なんです。 表現については、動画を作る段階で、「キャベバンバンCCB-001」の商品がまだできあがっていなかったという制約を勘案して、フルCG前提で企画を考えました。その結果、最大のツッコミどころである「除去率(81%)」を最大限引き立てることをゴールに、商品のCGとナレーションで無駄にカッコよくプレゼンテーションする動画に仕上げることになりました。 ―「#キャベバンバン」のキャンペーンで一度話題になっているので、ユーザーも受け入れやすかったのではないでしょうか。 「#キャベバンバン」キャンペーンからそこまで間をあけずに展開できたので、企画背景の説明なしに「キャベバンバンCCB-001」の話題に入っていけました。ユーザーの理解の速度が速かったですね。メディアの方も取り上げやすかったと思います。 現在、さまざまな企業がSNSを起点に話題化を狙ったバズプロモーションを展開していますが、そのほとんどが2~3日で情報消費されてしまっています。作り手としても、この世の中の情報消費の早さにどう対応していけばよいか、ずっと頭を悩ませていました。その点、今回はひとつの着眼点/企画で、「#キャベバンバン」と「キャベバンバンCCB-001」で2度の話題化に成功した事例となりました。 日清食品では、それぞれのブランドでおもしろいプロモーションをたくさん展開しています。そこで作られる話題を「PRODUCT X」で商品化することで、話題化文脈の主語を変え、もうひとつのニュースを作ることができます。「PRODUCT X」は日清食品グループオンラインストアのプロジェクトですので、それぞれのブランドのキャンペーンの受け皿として機能させていきたいと考えています。
クラウドファンディング目標予約数は達成ならず
―メディアでも多く取り上げられていたようですね。 日本テレビ、NHK、朝日新聞、日経新聞、Yahoo! トップでは2回取り上げられました。合計約500媒体で取り上げてもらいました。企画の再利用としては、十分すぎる露出量ではないでしょうか。 ―ユーザーからはどんな反応がありましたか? 「日清食品さんは相変わらずおバカなことするねw」というあたたかい声が基本ですが、もちろん悪くいわれることもあります。クライアントさんも私たちも、話題最大化を狙うからには賛否両論が基本というスタンスで臨んでいます。 ―クラウドファンディングで掲げていた予約数1,000個は達成したのでしょうか? 残念ながら予約数839個で、第1弾の「音彦」同様、販売には至りませんでした。予約してくださったお客さまには予約がキャンセルされた旨のメールをお送りしています。達成できなかったことについても、ユーザーの投稿を起点に多くのメディアで取り上げてもらっていますが、私たちは大真面目に販売を目標にしていたので、オフィシャルでは大々的な報告は特にしていません。クライアントさんも真剣に商品化を目指していたので、商品化が叶わず悔しがっていました。 ―発売延期等の対応も可能性としてはあったと思いますが、発売中止とした理由はありますか? もちろん実際に販売したいとは思っていますが、プロモーション視点では、クラウドファンディングが成功した、失敗したという結果はそこまで大事ではないと考えています。商品化が実現したらそれはそれで盛り上がっていたとは思いますが、できなかったとしても話題作りには十分貢献できているからです。4,980円という価格設定と1,000個のロットという条件も、商品を販売する=事業として成立させるためのギリギリのラインでした。 ―「PRODUCT X」今後の構想は動き出しているのですか? リリースのタイミングは未定ですが、構想段階の企画はいくつかあります。今後もオリジナル商品はもちろんのこと、日清食品のいろいろなブランドが展開するバズプロモーションの受け皿として、今回のような話題を再利用した商品開発を積極的に手掛けられたらと考えています。オンラインストアを企業/ブランド横断のプラットフォームとして、世の中の情報処理の早さに抗いながら、話題の継続化、(商品開発による)話題の収益化に挑戦していきたいと思っています。

株式会社電通・電通ライブ コミュニケーションプランナー 加我俊介さん

「銀魂」キャラクターが「モンスト」を席巻! あえて“謝罪広告”を制作した理由

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Case: 「モンスターストライク」×「銀魂」コラボレーション
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。 今回は株式会社ミクシィ XFLAG スタジオによるスマホアプリ「モンスターストライク」とアニメ「銀魂」コラボのプロモーションについて取り上げます。 このコラボレーションの一環として実施された、「銀魂」キャラクターによる「反省キャンペーン」。このキャンペーンは、その前に行われた(キャラクターたちがCMに初めて登場した)「宣誓キャンペーン」にて、「銀魂」の人気キャラクターたちが“行き過ぎた行為”をしてしまったため“謝罪”を行うという設定。『週刊少年ジャンプ』への“謝罪広告”の掲載、リコールCM風の“謝罪CM”、キャラクターが24時間謝罪対応する“お問い合わせ電話窓口”の開設等が行われました。 CMに起用するはずだったキャラクターの“謝罪広告”をあえて制作するというコンセプトが斬新なこの施策について、株式会社ミクシィ モンスト事業本部 マーケティング部 宣伝企画グループ マネージャー 米田陶哉さん、株式会社ミクシィ ライフエクスペリエンス事業本部 スポーツマーケティング室 (当施策に関わった当時はモンスト事業本部マーケティング部 第2宣伝企画グループ)柴篤志さん、TBWA\HAKUHODO クリエイティブディレクター 荒井信洋さんに話を伺いました。
Interview & Text : 市來 孝人
キャラクターが実際に「言いそうか?」を意識
―「反省キャンペーン」の前に実施した4月の「宣誓キャンペーン」含め、銀魂のキャラクター性が前面に出ていますね。 荒井: ブリーフィングの時から、銀魂のキャラクター性を生かしてファンをつかんでいきたいという話がありました。モンストさんは、実は結構前からCMで羽目を外しているんですよね。それにひけをとらないぐらいの(銀魂の)キャラクターがいて、もし彼らがモンストのCMの主役として抜擢されたらどれだけ暴れるかと想像しました。きっと彼らはやる気を出して力を入れるんじゃないかと。そこで「暴れる」という「宣誓」を4月に行いました(=「宣誓キャンペーン」)。 ―「宣誓」したと思いきや、その後5月に「謝罪」がスタートしました。 荒井: 最初に、銀魂ファンが集まっている『週刊少年ジャンプ』で「謝罪広告」を発信、その次はお茶の間の皆様への「謝罪」としてテレビCMを展開しました。 柴: 「もっと謝罪っぽく」などとご相談したりして、最初にご提案いただいたものから「謝罪感」をより大きく出していただきました。 荒井: 前提として、本当に銀魂のキャラクターが生きていて、この広告に参加しているということを意識しました。(新聞広告やテレビCMでの言葉は)彼らが「本当に言ってそうかな?」ということは何度も議論しました。 ―ちなみにテレビCMは、本当にリコールCMとしてあり得そうな出来でしたが、やはり過去のCMを研究されたのでしょうか? 荒井: これは本当にバランスが重要でした。リコールのCMは、ともすれば気分を害す方もいらっしゃるかもしれませんが、「銀魂らしい伝え方」とのバランスをとりました。 フォントはキャラクターなりに本気で謝罪している風を伝えるために明朝体にしています。 ―この広告に銀魂のキャラクターを起用するにあたって、気をつけた点などはありますか? 柴: キャラクターボイスを最大限に生かした形でクリエイティブを考えていただきたいというオーダーをしました。また、紙面広告はもちろん声は聞こえないのですが、銀魂キャラクターが「言いそう」だと想像しやすい言葉を意識しました。 米田: 事前調査をしたところ、銀魂の作品自体はもちろんですが、声優さんもの人気が非常に高いことも特長でした。CMは静止画で制作したのですが、声を活かす時には動画ではなく、静止画の方が耳で集中して聞けますし、さらに耳で楽しむプロモーションとして「電話窓口」を開設する設計にするなど、とことん声にこだわりました。 荒井: 実は、提案時点ではリコール風のCMと電話窓口は別の企画だったんです。ただ、「謝罪」をして「(キャラクターが活躍する)CMを流せなくなりました、ごめんなさい」だけだと、キャラクターのCMを期待していたファンはやっぱりがっかりしてしまいます。その期待にしっかり応えてあげるコンテンツをどうにか作りたいというお話を聞いていたので、電話で、耳で伝えるのが相性の良いストーリーかなと思いました。 過去に電話を使ったキャンペーンはありましたが、今回は特に成果がでました。その理由は、ストーリーの中に電話を組み込んでいることです。単に「かければ繋がる」ではなく、「テレビCMで謝罪をしたけれど、深く反省の気持ちを伝えるために電話に出る」という、時系列で楽しめることが数字にも出たのではないかと思います。 米田: 仰るとおり、プロモーションのストーリーをユーザーやファンの皆さんにうまく体験してもらえたかなと思います。電話窓口の他にも、キャラクターたちが、「行き過ぎた行為をしてしまったために流せなくなったCM」をWEB限定で公開したり、キャラクターの誕生日を祝う動画を突然公開したりと、ストーリー上の出口やサプライズとなるコンテンツも複数用意しました。過去のキャンペーン事例より、比較的ロングテールでファンのテンションが持続した印象です。 広告というスタンスではなくて、ツッコミどころのあるコンテンツに加え、答えも用意する、また(電話をするという)直接参加する体験を提供できたことも大きかったのかなと思います。
ファンが楽しむ「体験」を作れたコラボレーション
―ファンの方の反応はいかがでしたか? 米田: とても良い反応でした。銀魂とファン層の方々が、TwitterをはじめとしたSNSと相性が良いということもあるのですが、SNS上を中心に非常に多くの反響、拡散が生まれました。公開した動画9本もトータルで900万回以上再生されています。銀魂ファンでない方からも「この間のCM…」などと言われることもあり、結果として銀魂を知らない方にとっても気になる展開ができたのではないかと思います。 柴: 電話は開設5日間で13万6496件の着信があり、動画は視聴して評価をした方のみの集計ですが、97%の方から「高評価」をいただきました。 荒井 一時期「バズ」ブームがあって、数値的な広がりに関する話がたくさんありましたが、「深さ」の部分も大事です。広さは当然広げつつも、ファンに楽しんでもらう、夢中になってもらう体験を作るのが大事です。そういった体験を作れた良いコラボレーションになったなと思います。 ―今回はアニメ・漫画の登場人物ですが、そのような人物やVTuberも含め、架空のキャラクターを広告に起用する事例はこれからも増えていくと思います。意識すべき点はどのような点だとお考えですか? 柴: 「キャラクターや作品の“らしさ”」を表現することだと思います。版元さんもとてもご理解があって、我々がお持ちする企画に対して「銀魂らしくてよいですね」などと面白がっていただき、コミュニケーションはスムーズにいきました。びっくりするぐらい柔軟な対応で、むしろ準備期間には「面白くないと認めない」といったプレッシャーをかけられたくらいです(笑) —過去にもモンスターストライクとして、様々なCMを展開されています。それらからの流れという意味では、今回のCMはどういう位置付けでしたでしょうか? 米田: モンストは運営型のサービスなので、ユーザーの皆さんを常に飽きさせないような刺激を生むことが大事だと考えています。過去のCMも今回のCMも、毎回意外性のある表現や仕掛けを盛り込んでいるといった点では共通しています。 基本的なスタンスとして「これを数ヶ月先にやろう」などと、先のプロモーション展開を決めすぎないようにしているんです。世の中も、ユーザーの動向も、日々変わるものですし、特に若い人たちは興味関心が素早く変わっていく。それを「理解し、裏切り、超えていく」ことを常に考えています。これからも変わらず驚きを生み出せるよう、努力し続けていきたいです。 画像:©空知英秋/集英社・テレビ東京・電通・BNP・アニプレックス ©XFLAG

(左から)TBWA\HAKUHODO 荒井信洋さん、株式会社ミクシィ 米田陶哉さん、株式会社ミクシィ 柴篤志さん、

漫画の中身をフリー素材で再現!? 確実な「売り」につなげる常識破りの販促プロモーション

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Case: 講談社『100万の命の上に俺は立っている』
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。 今回は、6月8日(金)に講談社より出版された漫画『100万の命の上に俺は立っている』(別冊少年マガジン連載中)最新刊第5巻のプロモーション企画について取り上げます。新たなコミックス読者を獲得するため、最新刊全編をフリーイラストサイト「いらすとや」の素材に差し替え、無料で試し読みができる「ワケあり無料版」として公開。発売と同時に特設Webサイトにてフリーダウンロード、フリーシェアが可能な無料公開を開始しました。「マンガは、読まないと魅力が分からない。だけど、魅力が分からないなら買いたくない。」という矛盾に挑戦した常識破りのプロモーションは注目を集め、コミックスの売上げにも貢献しています。 企画が立ち上がった経緯から、「ワケあり無料版」制作の舞台裏まで株式会社電通クリエーティブ・ディレクター 小布施典孝さん、クリエーティブ・ストラテジスト 福井康介さん、プランナー 多々良樹さんにお話を伺いました。
Interview & Text : まきだ まどか
漫画は「5巻」が勝負
―今回のプロモーションが立ち上がったきっかけについて教えてください。 福井:編集者さんの「もっと売れてもいい作品だ」という強い思いから私たちに声がかけられ、始まった企画でした。漫画の5巻は、その後の明暗を分けるすごく大事な巻だといわれています。5巻までは書店に置いてもらえるのですが、6巻以上になると、人気作品以外は棚に全巻を置いてもらうことが難しくなるからです。5巻までで、どれだけ売れた実績を作れるかが重要。話題化するだけではなく、最新刊の第5巻の「売り」につながる販促プロモーションにする必要がありました。 ―漫画の未来を左右するプロモーションだったんですね。 福井:「売り」につながる販促について、講談社の宣伝部や編集者の方に聞くと、やはり、試し読みが効果的とのことでした。試し読みをしてもらえて、単行本の内容を読みたくなる企画は何かを考えた結果、フリー素材でマンガを構成して新刊を1冊丸ごと試し読みしてもらうというアイデアに至りました。作品すら知らなかった人、作品として知ってはいたけど、単行本に手を伸ばしたことはなかった人にアプローチすることが目標でした。 多々良:5巻の内容すべてが「いらすとや」のゆるいイラストで構成されているので、ストーリーはなんとなく分かる程度になっており、「ワケあり無料版」を読むと、オリジナルの漫画が気になって、実際に買ってみたくなる企画です。やっぱり漫画家の画力ってすごいんだと、オリジナルに敬意を持つ企画にもなりました。 ―フリー素材に差し替えているとはいえ、5巻の内容すべてを無料公開することについて、漫画家さんや出版社の方は懸念を示していなかったんですか? 福井:それが、全くなかったんです。「これはいい!」といっていただけて、すぐに決まりました。漫画家さんも企画にのってくれて、どんなものになるか見守っていただけました。 小布施:試し読みをしてもらえるし、内容もちゃんと理解してもらえそう、話題になりそうだしいいねといっていただけました。漫画のプロモーションで、作品の内容をイラストに置き換えるなんて普通はできないと思います。でも、今回は、漫画の担当編集の方と一緒に企画を考えるチャンスをいただいたので、企画案が出たときに「先生に聞いてみます」といってもらえたなどサポートいただき、企画を実現させることができました。
「いらすとや」のいろいろな素材を組み合わせて再現
―内容はすべて「いらすとや」にある既存のイラストを組み合わせて作っているんですね。 福井:基本的に「いらすとや」に入っている素材以外は使っていません。「いらすとや」の素材を切り抜いたり、組み合わせたりして作っています。 多々良:忠実に再現しすぎてもおもしろくないし、再現度が低すぎてもおしろくない。どれくらいの完成度にするか検討しながら作りました。 この表紙についても、いろいろな素材を組み合わせていて、腕の部分は土管のイラストでできていたり、外国の国旗を使っていたり、顔はホストの素材です。当たらずとも遠からずの再現度合いの塩梅を工夫しました。
(左が正規版単行本の表紙、右が「ワケあり無料版」の表紙)
―どの素材を組み合わせるか、ひらめきが重要になってきますね。 多々良:元々の絵から直感で組み合わせてもらっています。若干ずれていてもいいから、無理やり再現する。デザイナーさんのこだわりにまかせました。 ―メイキング映像を拝見したのですが、制作にはかなりの手間がかけられていますよね。制作期間はどれくらいですか? 福井:ゴールデンウィーク明けくらいに正式に企画が決まり、そこから本制作が始まったので、制作期間は約3週間でした。
編集部との協力が企画成功のカギ
―通常は、宣伝部とやりとりしながらプロモーション内容を決めていくことが多そうですが、今回は担当編集者と一緒に進めていったからこそ、思い切った企画でも、スムーズに実現できたといえそうですね。 小布施:特設サイトだけではなく、本屋さんにも「ワケあり無料版」の冊子が配られたり、5巻の帯でも告知してくれたりしました。さらに、他のコミックの中に入っているチラシ、別冊少年マガジン本誌にも告知のページを載せていただきました。 多々良:デジタルで「ワケあり無料版」を見た人が、本屋に行って小冊子や帯を見ると、「そういえばあったな」と思い出すきっかけになります。手に取る機会を増やすことにつながりました。ありがたい援護射撃でした。 ―今回の企画が成功した一番の理由は編集部との協力にあったのですね。 小布施:普通は作品内容に手を加えることはなかなかできないので、それを許可してくれた講談社チームのおかげで実現した企画だと思います。 多々良:企画案について、「ばかにしている」「完成品をチープにして出すとは何事だ」みたいにいわれていたら、かたちになることはなかった企画でした。今回、編集部、宣伝部のみなさんと、一丸となって走り抜けられたこと、本当にありがたく思っています。 ―無料公開を他の漫画ではなく『100万の命の上に俺は立っている』で実施した理由は何ですか? 多々良:この漫画は、主人公が非人道的で、とことん合理的だったり、仲間がどんどん死んでいったり、敵にも正義があるなど、物語の定石を崩し、世の中の常識を裏切っていく作品です。漫画って読まないと分からないけど、読むためには買わないといけない。でも、これまでは買う以外の方法がなかったということに対して、このマンガらしい予想外の回答を示すことができたと思います。 小布施:企画の上で言語化した、この作品の裏テーマは「予定調和を壊す物語」なのですが、プロモーションにおいても、予定調和を壊すことを意識して仕掛けました。 ―反響はどういったものがありましたか? 小布施:「いらすとや万能だな」「意外と手間かかってるな」「読んでみたら全巻読んでみたくなった」「この発想はなかった」などの声がありました。 福井:ツイート数は2万ツイートくらいまで伸びました。 ―今回のプロモーションは単行本の売上げにもつながりましたか。 小布施:プロモーションを始めてから売上げが伸びたようです。特に、1巻や2巻の売上げから売上げが落ちていないようで、これはコミックの売上げとしては珍しいようです。 ―他の作品でも「ワケあり公開」をすることもありうるのでしょうか。 福井:編集者の方次第だと思います。今回はこの作品のスタンスに合っていたというのもありましたが、いろんな漫画に転用されてもおもしろいかもしれません。今後、広がるといいとは思ってます。

(左から)株式会社電通 クリエーティブ・ディレクター 小布施典孝さん、クリエーティブ・ストラテジスト 福井康介さん、プランナー 多々良樹さん

開発者自らファンと交流し、密なコミュニケーションを目指す「INFOBAR xv」の販促戦略に迫る

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Case: KDDI『INFOBAR xv』
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。 今回は、9月4日より予約が開始された「INFOBAR xv(エックスブイ)」のプロモーション戦略について取り上げます。国内外の著名なプロダクトデザイナーと手を組み、数々の“デザインケータイ”を作り上げてきたKDDIの「au Design project」から今年秋に発売予定。INFOBAR発売15周年を記念し、バータイプのフィーチャーフォンとして発売されます。INFOBARは、「NISHIKIGOI」 に代表されるユニークなカラーリングとデザインによって、2003年の初代INFOBAR発売から15年経った今でも根強い人気のあるデザインケータイです。 クラウドファンディングやTwitterでの情報発信など、ファンとのコミュニケーションを重要視したプロモーションの取り組みについてKDDI株式会社 商品企画本部 砂原哲さん、美田惇平さんにお話を伺いました。
Interview & Text : まきだ まどか
開発をしている自分たちの手ですべての企画を仕掛けていく
―「INFOBAR xv」のプロモーションとして、ユーザーとのどのようなコミュニケーションを目指していますか? 砂原:INFOBARは2003年の10月に発売し、今年で15周年を迎えます。INFOBAR の15周年記念モデルとして、ファンの人たちと一緒に企画を作り上げていきたいという思いから「INFOBAR xv」プロジェクトは始まりました。そのため、「INFOBAR xv」については、通常のモデルよりも早い発売の約半年前の7月12日に発表し、発売までの期間をファンと一緒に盛り上げていくことを目指しています。 外部の広告代理店などに依頼することなく、自分たちの手で企画を立ち上げ、開発をしている僕たち自身がファンの方々と直接コミュニケーションを取る。僕たちがファンの代表みたいなポジションで仕掛けていくことを大切にしています。 ―発表後、クラウドファンディングも立ち上げたそうですね。 砂原:応援していただく場として、3,240円から支援できるクラウドファンディングを始めました。映画のエンドロールに支援者の名前を載せるように、プロダクトの中に支援者の名前をクレジットします。隠しコマンドによってクレジットが表示される仕組みです。リターンとしてオリジナルピンバッジ、「INFOBAR xv」専用ケースなども用意しました。 ―どれくらいの方々に支援いただいたのでしょうか? 美田:全部で3,539人の方に支援いただきました。お金を集めるのが目的ではなく、できるだけたくさんの方に参加してもらうのが目的でした。 ―他にはどんな施策を行いましたか。 砂原:「au Design project」15周年を記念して立ち上げたスペシャルサイトでは、開発の情報を開示し、開発状況を伝える記事を出しています。先日は塗装についての記事を出しました。普通は公開しないような内容でも、今回のプロジェクトではファンが喜ぶものであれば表に出しています。 美田:今回のプロジェクトでは、従来のマスコミュニケーションのように一方的にお伝えして、ファンを放置するようなことはしたくないと思い、その都度、見せられるものは見せていき、きめ細やかなコミュニケーションを目指しています。
熱狂的なファンが集結するINFOBARファンミーティング
―Twitterでも積極的に情報発信をしていますね。 美田:お知らせだけではなく、お客さんとのコミュニケーションの場にしたいと思い、僕が「au Design project」のアカウント(@adp_au )を運営しています。関連ワードで検索をしてすべて目を通し、いいねやリツイートをしています。「支援しましたよ」「予約しましたよ」というメンションにはお礼を伝えたり、質問にはできる限り丁寧に答えています。お客さんのことをしっかり見ていると伝えたい、少しでも興味を持ってくれている人にはファンの仲間に入ってもらいたいという思いでコミュニケーションを取っています。 ―web上だけではなく、オフラインでのイベントなどもあるのでしょうか。 美田:「INFOBAR xv」の展示に合わせて新宿、京都、名古屋でファンミーティングを行いました。熱いファンの方々が集まり、とても盛り上がりました。 ―どんな方が集まったのですか? 砂原:初代INFOBARから愛着を持ってくれている熱狂的なファンの方々です。初代発売のときに中学生や高校生だった20代後半から30代前半の方々、当時20代で、現在30代後半から40代の方々などが集まってくれました。 中には、壊れてもネットオークションなどで探し出して10年以上前の機種を使い続けている方、INFOBARのぬいぐるみを作ってくれた方、INFOBARカラーの衣装を着た女性3人組もいました。プロダクトとしてだけでなく、コンテンツとしても楽しんでくれているのを感じました。 美田:ファンミーティングのために大分県からわざわざ東京に来てくださった方、INFOBARのコレクターの方もいました。初めてファンミーティングを開催したことで、熱狂的なファンの存在を再確認できました。 砂原:ファンの方にとっても、自分と同じ気持ちの人たちがいるんだと確認できる場になったと思います。 ―ファンミーティングではどんなことをしたのですか? 美田:開発の裏話をお伝えしたり、写真撮影NGの開発時の写真やスケッチなどをお見せしたりしました。参加者のみなさんが歴代のINFOBARを持ってきていたので、機種を見ながら思い出を語ったりもしました。 ファンミーティングが終わった後、Twitterで検索をして、ファン同士で相互フォローをする動きもあるなど、想像以上に熱いイベントとなりました。
ファンの声を拾い上げ、「INFOBAR xv」プロジェクトがスタート
―INFOBARはファンの方々の強い思いに支えられてきたんですね。 砂原:昨年7月に開催した展覧会「ケータイの形態学展」では、約4,000人のお客さんにお越しいただき、その後実施したクラウドファンディング「au×TRANSFORMERS PROJECT」でも、3,000人以上の方に支援していただきました。他にも、「au Design project」の15周年記念サイトのコメントページで「新しいINFOBARを出して欲しい」というような応援メッセージをたくさんいただきました。 美田:昨年の3月には、「auおもいでケータイグランプリ」を開催し、auの携帯の中で思い出に残っている携帯についてユーザーに投票をしてもらいました。総投票数75,000という中、1位に初代INFOBAR、2位にINFOBAR2という支持をいただきました。 15周年記念サイトでも、「INFOBARをガラケーで復活させてください」という声がたくさん寄せられ、その声を受け止めて、展覧会が終わった去年の秋頃から、初代INFOBARを現代に復活させたらどうなるかという検討からプロジェクトがスタートしました。 砂原:通常、端末の開発や宣伝広告はメーカーが行うのですが、「au Design project」については、au主導で製品化を進める特殊なスタイルを取っています。スマートフォン時代になってからは、グローバルで展開する機種が増えてきたため、生産台数の少ないデザインケータイの製品化は、なかなか難しい状況にあります。 そういった中、プロジェクトを進めるためには、ファンの方々に味方になってもらう必要がありました。大切なのは、「ファンの方々に向けて作る」という意識を社内外に知らしめることでした。「ケータイの形態学展」や「auおもいでケータイグランプリ」によって、こんなにファンの方がいるんだと社内へ伝えることができ、プロジェクトが動き出したんです。 ―今後の展開について教えてください。 砂原:10月31日から11月12日まで「新・ケータイ INFOBAR展」を東京ミッドタウンで実施します。発売前の「INFOBAR xv」の実機に触れられるほか、歴代のINFOBARの展示も予定しています。 今は「INFOBAR xv」の開発で手一杯ですが、発売後も引き続きお客さんの声に応えていきたいと思っています。

(写真左から) KDDI株式会社 商品企画本部 砂原哲さん、美田惇平さん

リーチ数3,500万超!「ライオン×フジモン」新たな生活習慣を提起したキャンペーンの裏側

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Case: LION『フジモン2WEEKフロスチャレンジ』

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は、デンタルフロスの普及を目的に行ったライオンの「フジモン2WEEKフロスチャレンジ」を取り上げます。お笑い芸人FUJIWARAの藤本敏史がライオンの広告タレントとして、7月25日よりフロスを使った14日間のデンタルケアに挑戦。14日間のチャレンジ前とチャレンジ後にはTwitterの生配信を行い、チャレンジ中には2日に1本のペースでTwitterとInstagramにフロスをしている動画をアップ。生配信や動画、広告などを合わせた総合リーチ数は3,500万を超え、日本のTwitterキャンペーンとしては異例の数字を記録しました。

企画を実施した目的や工夫した点、キャンペーンの反響についてライオン株式会社オーラルケア事業部の馬場啓太さんにお話を伺いました。

Interview & Text : まきだ まどか
キャンペーンの目的はフロスをより身近なものにすること

―どういった経緯で今回の「フジモン2WEEKフロスチャレンジ」を実施したのですか?

馬場:日本はデンタルフロスの普及がまだまだ進んでおらず、2~3割の普及率にとどまっています。それに対して、オーラルケア先進国といわれているスウェーデンの普及率は5割を越えています。日本でもさらなるフロスの普及・拡大を目指し、今回のチャレンジに至りました。
これまでももちろん、デンタルフロスの啓発は行ってきました。例えば「歯ブラシ+フロスで歯間の歯垢が1.5倍落ちる」といった内容でフロスを使う重要性を訴求したり、年間数十万本のサンプリングをしたりするなどの活動を行ってきましたが、普及拡大は微増にとどまっているという課題がありました。

―そういった課題意識がある中、「2WEEKフロスチャレンジ」を行ったねらいを教えてください。

馬場:フロスをより身近なものにしたいというのがねらいです。現状、フロスについては、「なんとなく大切なものだと認識はしているものの使うきっかけがない」という人が大半だと思います。正直、使わなくても生活が成り立つため切迫感がなく、始めるきっかけがないんです。そういった状況を変えたいと思い、今回の企画を実施するに至りました。
フロスをなかなか始めるきっかけがない人と同じ目線で語ることができる生活者の代表として藤本さんを起用、その藤本さんの2週間のフロス体験を発信することによって、「私にもできそう」「自分もやってみたい」というような共感を集めたいと考えました。

―「生活者の代表」という他に藤本さんキャスティングの理由はありますか?

馬場:藤本さんは、お口のケアに関する悩みで話題になっていました。バラエティ番組などでネタにされることも多かったため、見ている人にも身近に感じてもらえるのではと考え、藤本さんにお願いしました。

「リアル」にこだわった14日間のフロスチャレンジ

―企画を実施するにあたり、工夫したことはありますか。

馬場:こだわったのは、「リアル感」です。チャレンジ中にアップする動画は自撮りにするなど、今日もどこかで藤本さんが実際にフロスにチャレンジしている、という臨場感を大切にすることで、生活者の共感を集めたいと考えました。

―確かに動画を見ると、藤本さんのリアルな反応が伝わってきました。

馬場:今回の企画のキャッチコピーである「ごっそり!スッキリ!クセになる」にあるように、ごっそり汚れが取れる驚き、スッキリして気持ちいい瞬間、その気持ちよさがクセになる様子をフロスチャレンジを通して描くことにこだわりました。フロスで取れた汚れの量やその臭いに驚く様子、歯磨きでは得られない、フロスをした後のスッキリ感がクセになっていく様子も動画でお伝えしました。
チャレンジを終えた藤本さんから、お口のケアが行き届いたことで、「娘さんがチューしてくれた」というコメントがあったように、最終的には、デンタルケアによって周囲の反応が変わり、少し前向きになれた姿まで描き切ることができました。

 

―Twitterの生配信の内容も、手作り感があり、親しみやすい感じがしました。

馬場:フロスチャレンジ前の「チャレンジ発表会」、チャレンジ後の「結果発表会」として行ったTwitterの生配信では、視聴者からのコメントに藤本さんが応える場面もありました。藤本さんとみなさんとの掛け合いによる臨場感を高めつつ、フロスへの興味喚起の輪を拡げることにつながったと思います。

―SNS上ではどんな反応がありましたか?

馬場:「おもしろそうなことやってる」「がんばれ」「私もやってみようかな」という好意的なコメントがほとんどでした。SNS上ではネガティブなコメント等が来ることも懸念して対応策も考えてはいたのですが、全くといっていいほどなかったのが意外でした。身近な存在である藤本さんが、みんなの代表として一生懸命フロスチャレンジをする姿に共感し、結果として前向きなコメントばかりになったのだと思います。

また、SNS上でプレゼンキャンペーンも実施しました。専用ハッシュタグを付けて、Instagramにフロスにまつわる写真をアップすると、抽選でフロス100本をプレゼントするという内容です。
どちらかというとマニアックな部類に入るフロスだったと思いますが、この写真投稿キャンペーンでは、600を超える応募が集まったことが正直驚きでした。特に、どの写真も前向きな内容で、「フジモンと一緒にこれから私もがんばらなきゃ!」とか「小さいうちからフロスって大事、家族みんなでがんばります」といったコメントをいただきました。この企画を通じて、フロスをより身近なものにする!という狙いが確実に世の中に広まりつつあると私自身が実感できた瞬間でした。

―TwitterやInstagramのキャンペーンということで、やはり若い世代にアプローチできたのでしょうか。

馬場:Instagramの広告の結果を見てみると、特に20代の男女が多かったです。フロスの普及率は、年齢が上がっていくにつれて3割程度まで上昇します。トラブルが出てくるため、義務として使う人が増えるんです。今回の企画では、より若い人たちにフロスを根付かせたいという意図があったので、実際にそういった人たちにお届けできたと思います。

想定を上回るリーチ数3,500万超え

―再生回数などはどれくらいだったのですか?

馬場:動画など全てを合わせて、リーチ数は3,500万超、動画再生は730万回(広告を含む)でした。これだけの人たちにお届けできたのは大きな成果だったと思います。Twitterで行った生配信では、今までの日本のTwitterによるキャンペーン事例で前例がないほど多くの再生回数となったようです。藤本さんがSNSで好意的にいじってもらえるキャラクターだったというのが一番大きな要因だったと思います。
Twitterの生配信で藤本さんが歯医者さんに口の中を診てもらうシーンで、藤本さんが口を開けると視聴数が伸びるというおもしろい傾向もありました。タイムラインで流れてきたときに、口を開けている場面だと思わず見てしまう人が多かったのだと思います。

―今回の企画は、実売にも影響を与えましたか?

馬場:ドラッグストアやスーパーなどの流通に関わる方々の支持を集めたことによって、実売にもつなげることができました。これまでは、ハブラシやハミガキなどに比べると、デンタルフロスは大々的に売り出すような商品ではありませんでした。今回のキャンペーンでは、デンタルフロス自体のマーケットの拡大を目的としたことで、売り場で大々的に展開しようという店舗様が増えました。そのため、売上げベースで見ても、大きな成果を残すことができました。自社製品であるクリニカの枠を超え、フロス市場全体の活性化を目指したからこそ、流通関係の方々が共感してくれたのだと思います。

―さらにフロスを根付かせていくため、今後必要だと考えていること、今後の展開について教えてください。

馬場:今後の課題は、より若いうちからフロスを習慣化してもらうことだと思っています。まだアイデアレベルですが、家族みんなでフロスを習慣化しようという切り口での提案を考えています。今後も、第2弾、第3弾と施策を打ち出していく予定です。


ライオン株式会社 オーラルケア事業部 馬場啓太さん

タクシーが“本のない図書館”に変身!音声コンテンツ認知のためのオトバンクのストーリー設計とは

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Case:『audiobook.jp ×日本交通 本のない図書館タクシー』

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は、オーディオブックの制作・配信を行う株式会社オトバンクと、日本交通株式会社による、第72回読書週間に合わせて実施された、期間限定・車内にいながらオーディオブックで存分に読書を楽しめる特別なタクシー「audiobook.jp ×日本交通 本のない図書館タクシー」を取り上げます。

10月29日(月)から11月11日(日)まで東京23区、武蔵野市、三鷹市エリアを運行。乗車時にタブレットを貸与することでオーディオブックを体験、くつろげるオリジナルクッションを設置、3台中1台のみ乗務員が書店員の格好をしたラッキータクシー仕様、などといった施策を展開。つまりオーディオブックを通して本を楽しめる図書館となったのです。

この施策を実施した経緯や成果について、株式会社オトバンク 広報 佐伯帆乃香さん、日本交通株式会社 メディア開発部エグゼクティブプロデューサー 金高恩さん、株式会社goodstory Story Designer 山田泰裕さんに伺いました。

Text : 市來 孝人
企画を設計する上での3つのポイント

―企画が立ち上がった経緯について教えてください。

佐伯:
オトバンクでは、耳で聴く本「オーディオブック」のサービスを2007年から提供してきました。これまで、コンテンツの拡充を中心にサービス拡大を続けてまいりましたが、スマートフォンの普及などデバイスの進化などに伴い、ここ数年ユーザー数が激化しています。そんな中、オーディオブックがまだまだ一般的ではない日本国内において、オーディオブックが持つ「耳のスキマ時間の活用」と、その利用シチュエーションの認知を広げる活動の必要性を感じて、これまで意識調査やイベントなどを展開してきました。今回もその一環として、オーディオブックの利用シーンで最も多い「移動時間」の利用訴求を目指し企画を実施いたしました。

―今回、企画の細部でこだわられた点はありますか?

山田:
まずは、オーディオブックというものを楽しんでいただくシチュエーションを想起してもらえること、そして、容易に関与してもらう、”参加のハードルを下げること”にありました。主に下記の3つのポイントで企画を設計しました。

audiobook.jpのサービス特徴が伝わるかーー「本が手元になくても、大量の本が読める」「手元に本を置かずに、本を読める」というサービスの特徴を伝えるため、そのユニークさをうまく可視化できるシチュエーションを考えました。また、移動中に利用するユーザーが多いというaudiobook.jpの特徴から、「移動中」であることが一目でわかる場所を探しました。

人から人に伝えたくなる要素を組み込めているかーー「車の中なのに図書館として本が読める」というギャップを軸に、車内での体験を設計していきました。まず、「本のない図書館タクシー」と銘打っていることもあり、現実の図書館と同じような体験ができるかと考え、図書館員を想起させるために、乗務員さんにはピンクのエプロンを着ていただきました。また乗車してくれた方には、図書館利用カードを配布し、audiobook.jpのサービスにアクセスするための導線を作りました。さらにくつろいで車内体験をしてもらうために、少し大きめのクッションを用意しました。また、車内のタブレットアプリもオリジナルで作りました。audiobook.jpのコンテンツの幅広さを知っていただくために、「ビジネス・自己啓発」「小説・エッセイ」「ちょっと役立つ話」の3カテゴリーで各10作品ずつ収録。その中に、有名声優が読んでいる作品も収録し、そのファン層からの話題化も狙いました。

「なぜ今やるのか」というストーリーの設計ができているかーーaudiobook.jpのユーザー調査で、オーディオブックを聴くと原著を読みたくなるというユーザーの声があることから、オーディオブックは、書籍との相性が良いということはすでに把握していました。その上で、10月27日から11月9日まで「読書週間」という長く続いている行事があること、そして、社会的な課題でもある「読書離れ」という現象があることから、そこに「車の中では本を読めない人がいる」という「プロダクトインサイト×ソーシャルインサイト×ターゲットインサイト」を掛け合わせたストーリーを設計していきました。また、タクシー業界の中で、革新的な取り組みを行っている日本交通様と一緒に展開していくことで、社会的な注目を集めることを考えました。

―収録されたコンテンツはどのようなターゲットを想定していたのでしょうか?

山田:
タクシーはビジネスパーソンが利用しているというイメージですが、実際には近年子育て層や学生、シニア層の利用も多いという情報がありました。そのうえで各層にお楽しみいただくべく「ビジネス・自己啓発」「小説・エッセイ」「ちょっと役立つ話」の3カテゴリーを基準に作品を選定しました。

―反響・成果について教えてください。

佐伯:
約400組のお客様からご予約をいただくことができました。また、男性よりも女性のお客様が多く、年齢は30代のお客様が多かった印象です。「時間も丁度よく、コンパクトにまとめられた数種類の書籍と出会う事が出来良い経験でした。」「夫が読書マニアです。しかし、年齢的に二人とも老眼。だんだん読書が苦になってきました。絶好の機会だと思い申し込みました。」といった感想がありました。

目の時間の競争は激化しているが、耳は意外とヒマしている

―音声コンテンツの、キャンペーン分野との相性について教えてください。

佐伯:
オーディオブックが最も利用されているのは「移動時間」ですが、ほかにも入浴中や家事の最中などさまざまなシーンで“ながら”で楽しまれています。スマートフォンの普及により視覚情報は激増しており、目の時間を抑える競争は激化していますが耳は意外とヒマしています。音声であれば、目の時間を抑えるのが難しい方に対してもうまくアプローチすることができるのではないでしょうか。

―タクシーの広告媒体としての価値について教えてください。

金:
タクシーは乗車と降車時は忙しく、乗車中の時間は意外と手持ち無沙汰になることがあります。お客様の乗車時間は平均18分ですが、日本交通ではこの乗車時間を読書時間・美容ケアの時間・くつろぎの時間など、単なる移動時間ではないものに変換するべく、新たな価値を提供する取り組みを常日頃行っています。車両のラッピングや行灯のカスタマイズといった外観はもちろん、後部座席に設置された車載タブレットでの動画放映、乗務員からのサービスやサンプリングと、一方的な視聴だけでなく実際に体験していただくという、複合的なアプローチを行っています。タクシー車内というプライベート空間だからこそ、乗車されたお客様に深いブランド体験をしていただくことができ、商品理解を促進することができます。また、お客様にとっても移動に新たな価値を提供することができています。

―今後の展開があれば、お教えいただけますか?

佐伯:
移動時間のエンタメ化はこれまでにも国内外の航空機や高速バスとの連携などで進めてまいりましたが、今回、タクシーとの連携も好評いただきました。今後、さらに細分化した移動時間での利用訴求を広げていければと考えています。


音楽の力は差別や貧困をどう変える?ヤマハのコロンビアでのプロジェクト 舞台裏に迫る

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Case: Yamaha『I’m a HERO Program』

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は、格差や貧困から生まれる差別意識や偏見などに立ち向かう子どもたちに焦点を当てたYamahaの「I’m a HERO Program」を取り上げます。今年日本との修好110周年を迎えたコロンビア共和国を舞台に、コロンビアの貧困地域で暮らす子どもたち26名がコロンビア国内のサッカー1部リーグである「カテゴリア・プリメーラ A」において、大観衆を前にコロンビア国歌を演奏しました。その際に使用された楽器は、Yamahaオリジナルの「Venova™」(ヴェノーヴァ)という新しい管楽器。より多くの方に管楽器を通じて音楽を楽しんでいただきたいという思いから、壊れにくくメンテナンスもしやすい楽器として開発した新しい楽器です。約半年間の練習を経て披露された演奏は、現地コロンビアで大々的に取り上げられ、多くの人に感動を呼びました。

「I’m a HERO Program」に込めたYamahaの思い、本番当日の様子、現地での反響について、ヤマハ株式会社ブランド戦略本部の嘉根林太郎さん、株式会社エイド・ディーシーシークリエイティブディレクターの山中雄介さんにお話をうかがいました。

Interview & Text : まきだ まどか
音楽の力が子どもたちの人間的成長を促す

―どういった経緯で「I’m a HERO Program」はスタートしたのですか?社会問題にYamahaが取り組む理由について教えてください。

嘉根:中南米では、非行防止・貧困撲滅のために国策として行われている「エル・システマ」というベネズエラの音楽教育活動を発端に、音楽の力で子どもたちを非行や犯罪から遠ざける青少年オーケストラ・バンドの活動が広がりを見せています。
Yamahaはそういった活動をサポートするため、楽器の修理問題に着目。2014年から「AMIGO Project」という活動をスタートさせ、現地の人々が自分で楽器をメンテナンスできるよう、ワークショップを開催したり、楽器の修理ができる技術者の育成をサポートしてきました。さらに、Yamahaは独自に「Venova™」(ヴェノーヴァ)という壊れにくい管楽器を開発し、楽器の修理問題の根本的解決を目指しています。
今回の「I’m a HERO Program」では、子どもたちの中に音楽への憧れを創出し、音楽がひとつの選択肢になるのだと知ってもらいたいというのが当初からの思いでした。

―社会問題を取り扱った今回のプログラムは、Yamahaの事業や理念にどのように結びついているのでしょうか。

嘉根:今回の企画は、社会貢献性が高いプログラムというだけではありません。Yamahaの楽器販売のビジネスにつなげる活動でもありました。Yamahaがビジネスを世界で展開するためには、現地の人々が楽器を演奏する下地を整える必要があります。そのことがYamahaのビジネスにつながり、その先に、現地の音楽の発展につながると考えています。

山中:Yamahaのコーポレートスローガンは「感動を・ともに・創る」です。楽器を作って販売するだけでなく、その先にある感動を一緒に作ろうというものです。音楽の力を使って感動を生み出し、社会を前進させるという意味で、今回のプログラムはYamahaの存在意義につながるものだと思います。

―「音楽を子どもたちのひとつの選択肢にする」とは、具体的にはどんな問題の解決を意味するのでしょうか?

嘉根:コロンビアの貧困地域に住む子どもたちは、極端にいうと、サッカー選手になるか、非行に走るかというように、将来への幅広い選択肢を持つことが困難な環境に置かれていると考えています。今回のプログラムでは、そういった子どもたちに音楽という選択肢を提示することで、練習を通じて感性を育み、人間的成長につなげることができたと感じています。今回のプログラムは、彼らの人生の転機になりうるものだったと思います。

サッカースタジアムはコロンビアの人々にとって憧れの象徴

―貧困問題を抱える地域はたくさんありますが、コロンビアを舞台に選んだ理由は何ですか?

嘉根:コロンビアにあるYamahaの販売代理店が音楽教育活動に非常に積極的だったことが一番大きな理由です。彼らは貧困地域の子どもたちに向け、独自の音楽教育カリキュラムを実施しています。

山中:現地にプログラムを実施する環境が整っていることで、現地の人たちが仕組みに賛同し、プログラムを推進してくれました。しっかりとした受け皿があるという点でコロンビアは最適でした。

―サッカースタジアムを演奏の舞台に選んだ理由を教えてください。

嘉根:コロンビアでは、「憧れの舞台=サッカースタジアム」という共通認識があります。音楽とサッカーではジャンルが全く違いますが、子どもたちをヒーローにする憧れの舞台を用意するためには、サッカースタジアムが最適だと考えました

山中:音楽によって子どもたちの選択肢を増やすためには、音楽に興味がない人たちにも振り向いてもらう必要がありました。コロンビアでは、街中あらゆるところでサッカーをしていて、サッカーが生活に根付いています。コロンビアの人々にとって、サッカースタジアムは「憧れの象徴」です。その舞台に立つことが、ひとつのヒーロー像の提示になると思いました。

―文化が全く違う異国でのプログラム実施ということで、困難が多かったのではないでしょうか。

嘉根:現地のステークホルダーなどとの調整で時間がかかり、実施まで1年弱かかりました。仕事に対する考え方など文化が違うため、現地の方とのコミュニケーションはやはり大変でした。
しかし、最終的には現地の制作会社もYamahaの販売代理店も、みんながプログラムに賛同してくれました。同じ方向を向き、誰もが熱い思いを持って取り組んでくれました。

プロジェクト参加によって変わりはじめた子どもたち

―プログラム名「I’m a HERO Program」に込めた思いを教えてください。

山中:まず、誰にでも分かるシンプルなタイトルであることを意識しました。その上で、10人いたら10通りのヒーロー像があるように、誰もが誰かのヒーローになれる。そんな思いを込めてタイトルを決めました。
このプログラムに関わる人たちはみな“I’m a HERO”と何度も口にするようになります。その言葉は、言霊のように発した人に返ってきて、いつしか自分たちを奮い立たせるような自信につながったように思います。
プログラムに参加してくれたマークという男の子は本番の演奏を終えて、“I’m a HERO!”と叫び、喜びを爆発させていました。子どもたちの間にも、このテーマがしっかり根付いていたのだと思います。

―9月30日の本番当日の様子を教えてください。

山中:大舞台を前に、緊張とワクワクで押しつぶされそうになっている子どもたちの様子が印象に残っています。中には、泣き出してしまう子もいました。子どもたちは選手と手をつないで入場した後、バックバンドと共に数万人の観客を前に国歌を演奏しました。見ているこちらまで誇らしい気持ちになる演奏でした。
将来、音楽をしてくれたら一番うれしいですが、音楽ではなくても、今回のプログラムが何かのきっかけや自信を持つことにつながったり、生きていく糧になってくれたらいいなと思います。

嘉根:演奏が終わった後は、子どもたちも、応援し続けたお父さんお母さんたちも、みんなが涙、涙でした。会場の雰囲気もとてもあたたかかったです。運営側の私たちも、無事に終わった後の達成感はものすごいものがありました。
子どもたちはこの大舞台に向けて努力を重ねてきました。ひとつのことを成し遂げた経験は、彼らの今後の人生にとって大きな財産になってくれればと思います。

―プログラムを通して、子どもたちや周りの人たちに何か変化はありましたか?

山中:最初は、お父さんの後ろに隠れるほどシャイだった7歳の女の子が練習期間を経て、見違えるように自己主張するようになるなど、プログラム参加を通して子どもたちそれぞれに変化が生まれたのを感じました。
プログラムに参加してくれた子どもたち4人に出演してもらい、ドキュメンタリームービーを制作しました。子どもたちの成長の様子を描いています。ぜひご覧ください。

嘉根:本番に向けてみんなと一緒に努力したことが、彼らの考え方や行動を変えました。「音楽の力」とよく聞きますが、実際のところ、音楽は万能ではありません。音楽の力だけで世界に平和をもたらすことは難しいかもしれません。しかし、個人の考え方は確実に変えられると実感しました。音楽の力強さに私たちの方が気付かされました。
プログラムに参加してくれたパッチョという男の子は、家に帰って練習をするために、悪い人たちと付き合わなくなったそうです。よくない歌詞の歌は自ら避け、きちんと音楽を選んで聞くようになったともいっていました。自分を変える意識が子どもたちの中に生まれていました。

現地大手メディアで取り上げられ、Twitterトレンドワード1位

―コロンビアでの反響について教えてください。

嘉根:テレビ中継で放映され、現地のメジャー新聞『エル・スペクタドール』『エル・ティエンポ』で取り上げていただきました。Twitterのトレンドワード1位も獲得しました。市長やサッカーチームの社長からは前向きなコメントをいただき、参加した子どもたちの今後のサポートを約束してくれました。Web関連では、合計約2,200万以上のインプレッションを達成しました。コロンビアの人口は5,000万人ですので、比較的大きな数字だと思います。

山中:試合後の観客インタビューでは、スタジアムで生で演奏を聞いていたお客さんたちから「感動した」「幸せな気持ちになった」という声がたくさん寄せられました。

―「I’m a HERO Program」の今後の展開について教えてください。

嘉根:まだまだ構想段階ですが、今回のような企画を継続的に実施したいと思っています。今回参加してくれた子どもたちについても、継続してサポートしていきたいと考えています。

山中:貧困問題にさらされている子どもたちへのサポートとして、経済的な支援だけではなく、音楽による支援がともに行われることによって、差別などの見えない壁を打ち壊す力になると信じています。誰に対しても平等で、みんなをハッピーにしてくれるのが音楽です。発展途上国で今回のような取り組みが広がるよう活動を続けていきたいですね。



(左から)ヤマハ株式会社ブランド戦略本部 嘉根林太郎さん、株式会社エイド・ディーシーシークリエイティブディレクター 山中雄介さん

日清のどん兵衛流・バズの作り方とは?世の中の”なんか変”を発見し、ハイクオリティなネタ広告に

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Case: 日清食品『なぜどん兵衛⾁うどんは広告しなくても売れるのか?』

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は、日清食品「日清のどん兵衛」のデジタルプロモーションとして実施された架空のビジネス書「なぜどん兵衛⾁うどんは広告しなくても売れるのか?」を取り上げます。本企画の広告サイトが10月22日に公開され、併せて、本書についての交通広告が展開されました。今回の企画は、86年の発売以来、主に⻄⽇本で愛されてきた「日清のどん兵衛 ⾁うどん」初の広告施策。「きつねうどん」「天ぷらそば」に次ぐ “第三のどん兵衛” の地位確立を目指した広告展開となりました。

「なぜどん兵衛⾁うどんは広告しなくても売れるのか?」のアイデアに至った経緯、他事例も含めた日清食品のデジタル広告施策の特徴、バズを生み出すポイントについて、株式会社博報堂コミュニケーションプラナー小島翔太さん、コピーライター神林一馬さん、デザイナー小暮菜月さん、PRプラナー小渕朗人さんにお話をうかがいました。

Interview & Text : まきだ まどか
みんなが思っている「なんか変」がおもしろさにつながる

―どういった経緯で「なぜどん兵衛⾁うどんは広告しなくても売れるのか?」の企画がスタートしたのか教えてください。

小島:今回プロモーションを行った「どん兵衛⾁うどん」は、1986年に発売され、主に関西で販売されてきました。関西では、コンビニでも販売されているほどメジャーな商品ですが、関東では、大型スーパーなどでしか取り扱いがなく、関西に比べ、親しみの薄い商品でした。これまでほどんど広告をしてこなかったのですが、関西では売れ行きのよい商品でした。
「きつねうどん」と「天ぷらそば」に加え、第3のどん兵衛として「肉うどん」をプッシュしていきたいというオリエンを受け、「どん兵衛肉うどん」広告施策を実施することになりました。「日清のどん兵衛 肉うどん」が広告しなくても売れているということがストレートに伝わる案で、かつ、おもしろいものというオーダーでした。

―どんな思考を経て、「ビジネス書のパロディ」というアイデアに行き着いたのですか?

小島:「どん兵衛肉うどんは広告していないのに売れている」という事実が、何となくビジネス書っぽいと思い、「架空のビジネス書」という今回のアイデアにつながりました。
「○○すればすべてうまくいく」みたいなタイトルのビジネス書の広告をよく電車の中で目にしていて、もともと「なんか変だけどおもしろいな」と思っていました。そういった世の中の人が「なんか変、でもおもしろい」と思っていることを言ってあげることで、「ネタ」になり、おもしろさが生まれます。

―制作面で工夫されたことはありますか?

神林:細かなところまで小ネタを詰め込み、ディテールにこだわりました。架空のビジネス書ですが、著者のプロフィールまで細かく設定しています。著者は「Nick Juicy(ニック・ジューシィ)」で、出身大学は「ニクジューグッド⼯科⼤学」です。

小島:細かなところまで読んでくれる人は少ないかもしれませんが、読んでくれた人には「読んでよかった」と思ってもらいたい。裏切りたくないと思っているんです。

小暮:いくつかの出版社のビジネス書の広告を集めて、そのフォーマットを研究しました。読者の感想が掲載されていたり、タイトルが大きく載っていたり、グラフが大げさだったりといったつっこみどころのある小ネタをできるだけたくさん盛り込むことを意識しました。

―リリース後の反応はいかがでしたか?

小渕:本物のビジネス書の広告と見間違えた人もいたようです。電車でこの広告を見た人のツイートで「amazonで調べてしまった」というものもありました。

小島:今回の広告は、おもしろさの追求だけではなく、日清食品が伝えたいことをしっかり伝える必要がありました。そのため、通常の日清の広告に比べて、より広告っぽい企画になったと思います。SNSでは、「これはコンテンツマーケティングのお手本だ」という声もありました。

日清食品が目指すのは、まだ誰もやったことのないおもしろさ

―これまでもユニークな事例が多くある日清食品の広告ですが、広告制作に対するスタンスには、エージェンシーの立場から見るとどんな特徴があるとお考えですか?

小島:「おもしろい」が正義です。「もっとおもしろい企画を持ってきてください」といわれたのは日清食品が初めてだったかもしれません。日清食品に合うように、おもしろい企画を持って行っているのですが、「もっとおもしろく」「もっと壊してください」といってくださいます。そういったおもしろさをとことん追求する精神がずば抜けています。

小暮:とがった企画を持って行くと、通常は、「おもしろいけど、実現はできない」といわれることがほとんどですが、日清食品の場合は、「もっととがらせてください」と、さらなるおもしろさを求められます。他の企業とはおもしろさの基準値が違うんです。

―日清食品の「おもしろい」は、「話題になる」という意味でしょうか?

小島:基本的にはそうです。しかし、単純に「話題化」だけを基準に評価しているわけではないと思います。「そんなに話題にはならなかったけど、このアプローチは新しかった」というように、それまで誰もやったことのなかった新しさを高く評価する文化があります。日清食品が生み出した「即席麺」は、それまで世の中になかった新しいものです。そのDNAが広告制作においても息づいています

―これまでで特に話題になったものについて教えてください。

小渕:特に話題になったのは、高級マンション広告、いわゆる「マンションポエム」を「どん兵衛」の広告として再現した「どん兵衛ポエム」です。マンション広告が掲載されている媒体に「どん兵衛ポエム」を掲載したり、実際のマンション広告のようなチラシやポケットティッシュを制作し、配布しました。
その結果、SNSで大きな話題となり、不動産業界で働いている専門家の人たちからも「相当研究しているね」と絶賛していただきました。

小渕:パロディものこそ、クオリティにこだわらなければ反感を買ってしまうと思います。「どん兵衛ポエム」では、注釈の小さな文言にまでこだわり、クオリティを高めました。

おもしろさのツボを押さえ、まずは、自分たちが笑えるものを作る

―バズを生み出すことを課されたチームとして、企画を考案する上で大切にしていることを教えてください。

小島:当初、メンバーを集めるとときに、企画を一緒に楽しんで考えられるメンバーを集めていいといわれたので、普段から仲のいいメンバーを集めました。

小暮:チームメンバーは全員20代で、年齢が近く、フラットな関係です。仲がとてもよく、週に1度集まり、今日おもしろかったツイートを共有しています。全員がネット文脈に詳しいです。

神林:よくメンバー間で「これおもしろくない?」と自分がおもしろいと思ったものを共有しています。そういうとき、「分かる!おもしろい」といってくれる人がメンバーにいることが大事だと思います。
今はSNSが生まれたことによって、笑いのツボが変わりました。時代とともに笑いのツボは変化しますが、メンバー全員がそのツボを押さえているからこそ、バズにつながる企画を作り出せるのだと思います。企画を考案するときは、まず、自分たちが笑えるものを作ることを意識しています。

―今後、チャレンジしてみたいことはありますか?

小島:デジタル施策の成功例として日清食品の事例が挙げられるようになりました。いろいろな企業がネットでの話題化を目指し、世の中のあらゆるネタが掘り起こされています。みんながバズを求めて鉱脈を探す中、僕たちは他の誰も想定していなかったようなところで、新しい鉱脈を探し当てて、新しくておもしろいことを実現したいと思っています。



(左から)株式会社博報堂 PRプラナー 小渕朗人さん、コピーライター 神林一馬さん、コミュニケーションプラナー 小島翔太さん、デザイナー 小暮菜月さん

「承認欲求」「他人の目」「同調圧力」に対し“あなたはあなたを走れ”…現代の価値観にHondaが問いかける広告の狙いとは

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Case:Believe your INSIGHT. あなたは あなたを、走れ。

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は、Honda New INSIGHTティーザーコミュニケーションを取り上げます。2018年12月14日のHondaの新型ハイブリッド車「INSIGHT」の発売に先駆け、公開されたティーザーコミュニケーションのメッセージは「Believe your INSIGHT. あなたは あなたを、走れ。」。渋谷、新宿、新橋、東京など、都内主要18駅のポスターやサイネージを掲出し、HondaのTwitterやFacebook公式アカウントでは本キャンペーンの動画を公開し、「#あなたはあなたを走れ」のハッシュタグとあわせてツイート。スペシャルサイトも同時に公開しました。

東京の街並みを思わせるモノクロ写真とともに、「承認欲求」「空気を読む」「他人の目」「忖度」「フォロワー数」「映え」などの現代の価値観や意識に関わる50以上ものキーワードと、それらの言葉を否定するように引かれている赤線。時代の価値観、生き方や本質を問いかけるメッセージが共感を呼び、キャンペーン開始1週間でSNSでの反響は1,000件を超え、大きな話題となりました。

今回のアイデアに至った経緯やSNSなどでの反響について、株式会社博報堂 コミュニケーションプラナー/ディレクター 勝俣浩一さんにお話をうかがいました。

Interview & Text : まきだ まどか
次の時代への価値観や自分自身の本質に向き合ってもらうきっかけを作りたい

―今回は、今の時代に一石を投じるようなキャンペーンだと思いました。企画にどんなメッセージを込めたのか改めて教えてください。

勝俣:今回のキャンペーンでは、スマートフォンやソーシャルメディアが一般化し、情報が氾濫するこの世の中で、皆が「正しい」とか「普通」であると思っている価値観や意識は、本当に「正しい」のか、それらは本当に自分が信じられる美しい価値観なのだろうかを問いかけています。

一度、立ち止まって考えてもらうことで、次の時代への価値観や自分自身の本質に向き合ってもらうきっかけを作りたい。そうすることで、それぞれが自分らしく生きていける未来につながるかもしれない。そんな思いを込めて企画しました。

メインメッセージ「あなたは あなたを、走れ。」は、Hondaに脈々と受け継がれるクルマづくりの姿勢だったり、社会に対してずっと発信してきたHondaのフィロソフィーでもあると思っています。

―HondaのINSIGHTが「あなたは あなたを、走れ。」を発信する意義について教えてください。

勝俣:新型INSIGHTは、走り・デザインというクルマの本質価値をHondaの美意識に基づき、徹底的に磨き上げたクルマです。そんなINSIGHTが目指したのは、今の時代を生きる人々に対しての「メッセージカー」。「世間の価値観や、他人の評価に惑わされずに、自分の価値観・美意識にしたがって生きていくことが大切である」というメッセージ性のあるクルマとして認識してもらうことを目指しました。

―自分自身の生き方、信念を貫くことがキーメッセージになっているのですね。

勝俣:クルマ選びも人生も、何かにとらわれたりしたり、周りを気にしたりせずに、自分自身の信念を信じて欲しいという想いを込めています。例えば、クルマ選びであれば、「みんなが乗っているからそれでいい」という消極的選択だったり、他人の目を気にしたり、見栄えを気にするだけの判断基準でクルマを選ぶのではなく、クルマを持たない選択肢も含めて、自分自身の価値観にしたがって検討してほしいというメッセージを込めています。

ティーザーコミュニケーションを経て、12月13日よりスタートしたテレビCMでは、そういったメッセージを強調するため、モノクロの映像に赤色だけが色付いたビジュアルを制作。今回のテーマやメッセージにマッチするサカナクションの楽曲『years』を使用させていただき、ボーカルの山口一郎氏にナレーションをお願いすることで、より力強く世の中にメッセージし、問いかけられたと思います。

スタート1週間でSNSに1,000件以上の反響「今の時代だからこそのメッセージ」

―どういった思考を経て、今回のメッセージに行き着いたのでしょうか?

勝俣:ローンチのタイミングで期待感を最大化して欲しい、世の中に大きな反響を作るコミュニケーションにして欲しいとオリエンを受けていました。

クリエイティブチームで、現代の人々の行動やその根源を徹底的に話し合うことから始め、世の中で正しい、普通であるとされている一般的な価値観に人々はとらわれているのではないか?もっと多様性を受け入れるべきでは?スマホやSNSの普及が進んだが、社会は本当によくなっているのか?といった現代社会に対しての問いかけ、自分たちへの問いかけをきっかけにして、企画と全体コミュニケーションを検討していきました。

目指したのは、ソーシャルインサイトを捉えたメッセージによって、ジャンルを超えた広い層にアピールし、新型INSIGHTのポテンシャルを最大化することでした。また、Hondaというブランドに対しての人々の期待感を裏切らないことも強く意識しました。

―どのようなチーム体制で企画を練り上げていったのですか?

勝俣:今回は博報堂内で、非常に素晴らしいクリエイティブスタッフが集まり、企画をかたちにすることができました。エグゼクティブ・クリエイティブディレクター米村浩のもと、クリエイティブディレクター兼アートディレクター長島慎、クリエイティブディレクターに小島曜と瀧澤慎一(僕とYOU)、コピーライター渡辺潤平(渡辺潤平社)、アートディレクター田中心剛、インタラクティブディレクター村重直宏、須藤拓之介などのメンバーで企画立案から制作ディレクションまでを担当しました。

僕は、企画から全体コミュニケーションをつないで統合して考えつつ、人々の反応をイメージしながら実際のエグゼキューションにつなげていく、コミュニケーションプラナー兼ディレクターとして参加しました。

博報堂内だけでなく、CMの監督には関根光才さんに参加していただくことで、よりメッセージ性が高いコミュニケーションが実現できたと思います。サカナクションの山口一郎さんにご参加いただけたのもラッキーでした。そして、博報堂プロダクツやAOI Pro.など多くの優秀な制作メンバーが一丸となって、エグゼキューションに至ることができたと思います。
もちろん、クライアントのHondaのみなさまにもたくさんの有意義なインプットや勇気ある判断をいただき、実現することができました。

―話題化のためにこだわったこと、工夫した点はありますか?

勝俣:キーワードについては、人を傷つけず、でもはっと考えさせることを意識し、現代の価値観や意識、または現代において我々がおかれている現象などを表すキーワードを大量にリストアップしました。さらに、この広告に接触した人々に気付きを与えられるように、街やエリアごとの特性を分析し、タッチポイントごとにキーワードやクリエイティブをセレクトして掲出しました。

ローンチキャンペーンを含めた全体を通して、シンプル、かつソリッドでストイックなトーンに揃えましたが、キーワードと共に出てくるビジュアルイメージは各エリアにて撮影を行い、見ている人たちに自分たちのことだと感じてもらえるように工夫を行いました。

―今回のキャンペーンはどういった人に向けたものだったのでしょうか。

勝俣:ターゲットはクルマに興味を持たなくなったミレニアル層や、以前は車に興味を持っていた30代~50代までの人々です。着目したのは、ここ数年、生活者の中に「流されない自分らしい本質を問い直そう」という兆しが生まれていることでした。

他人や周囲に左右されず、自分にとって本当に大切なものは何かを見極める自由な感性を持っている人たちに共感してほしい。そういった人々の「これからの新しい選択肢」として新型INSIGHTを意識してもらうためのコミュニケーションを目指しました。

今だからこそ、広告によって世界を少しでもいい方向へ

―ローンチ後、SNSなどではどんな反響がありましたか。

勝俣:都内の主要駅や、SNS、スペシャルサイトなど、限られたタッチポイントでの展開で、期間も10日間程度のティーザーコミュニケーションでしたが、スタートしてたった1週間で、この施策に関するSNSでの投稿が1,000件以上にのぼり、大きな話題となりました。数千、数万単位のフォロワーを抱えるインフルエンサーからの発信も多く、さまざまな反応や解釈が見られました。中には異論もありましたが、想像以上に共感の声が多く、反応のほとんどが好意的な反応だったことに驚きました。

また、多くのメディアなどでも取り上げていただき、世の中に反響とちょっとした議論を作ることができたと思います。

―具体的にはどのような声があがりましたか?

勝俣:「今の時代だからこそのメッセージ」「背筋が伸びたような気がする」「久々に広告でドキッとした」「心に響く」「突き刺さる」「この時代に一石を投じる」「油断したら当てはまってしまう」「勇気づけられた」など、共感と好意的な声で溢れました。

―今後、チャレンジしてみたいことはありますか。

勝俣:Hondaさんのコミュニケーションはもちろん、それだけに限らず、世の中に一石を投じて、新たな価値観を人々に提示したり、元気づけたり、多様性を活性化させたり、未来を切り開いていくようなアウトプットが実現できればいいなと思っています。現代において、世の中にはたくさんの社会課題や身近な問題が存在しています。ブランド課題と共に、そのブランドに紐付いた社会課題に対してアクションするコミュニケーションなどもチャンスがあれば積極的に手がけていきたいと思っています。

今は、広告が無視され、嫌われる時代なのかもしれません。しかし、こんな時代だからこそ、広告にできることがあると考えています。広告コミュニケーション活動も含めたブランドアクションにより、現代を生きる人々、そして、この世界を少しでもいい方向に導くことができればと思っています。



株式会社博報堂 第3クリエイティブ局 コミュニケーションプラナー/ディレクター 勝俣浩一さん

パラスポーツの面白さを伝えるため、斬新な卓球台を製作–「PARA PINGPONG TABLE」の舞台裏

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Case: PARA PINGPONG TABLE

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は、日本肢体不自由者卓球協会(通称:パラ卓球協会)が発表した「PARA PINGPONG TABLE カタチにとらわれない卓球台」(以下、パラ卓球台)を取り上げます。パラ卓球は、一人ひとり異なる障がいを抱え、プレースタイルもそれぞれ異なる選手同士が対戦するスポーツ。そのおもしろさを伝えるため作られたのが、パラ卓球選手20名へのインタビューにより可視化された選手の障がいにより形が異なるパラ卓球台です。

パラ卓球台のプロデュースを手がけたTBWA\HAKUHODOのチームは、障がいによって卓球台の見え方・感じ方も変わる点に着目。パラ卓球選手それぞれの卓球台の見え方をデザインし、2020東京 オリンピック・パラリンピックの公式卓球台にも決まっている三英の協力によって、3種のパラ卓球台を製作しました。

今回のアイデアに至った経緯や今後の展開について、TBWA\HAKUHODO シニアクリエイティブディレクター 浅井雅也さん、アートディレクター 木村洋さん、アートディレクター 松田健志さん、PRプラナー 橋本恭輔さん、コピーライター 大石将平さん、プロデューサー 斎藤竜太郎さん、映像ディレクター 阿部慎利さんにお話をうかがいました。

Interview & Text : まきだ まどか
自分の障がいと向き合い、相手の弱点を突くプレーをするのがパラ卓球の面白さ

―今回の企画が立ち上がった経緯について教えてください。

浅井:クライアントである日本肢体不自由者卓球協会から、パラリンピックを来年に控え、パラ卓球のファンを1人でも増やしたいと依頼を受けました。
ニールセンによる調査によると、日本でパラスポーツを観戦したことのある人は1%しかいないそうです。テレビで放送されることはなく、会場に来てくれる人もほとんどいないパラ卓球の現状を変え、人々が注目するようなスポーツにしたいとご相談をいただきました。
そこで、リブランディングプロジェクトとして、公式HP、ポスター、リーフレット、名刺などを制作。選手の名刺には、パラ卓球台をモチーフに使い、障がいによって一人ひとり異なるデザインに仕上げました。ポスター制作では、パラ卓球選手たちのかっこいい写真を撮ることで、選手たちにスポットライトを当てることを意識しました。

―実際に卓球台を作ると決めたのは、その後なんですね。

浅井:ポスターなどを制作するうちに、実際に卓球台として形にしたいと考え、2020東京 オリンピック・パラリンピックの公式卓球台を製作する三英に協力をお願いしました。

―卓球台を変形させて、パラ卓球選手の見えている世界を表現するアイデアはどういった経緯で生まれたのですか?

木村:日本代表のパラ卓球選手20人へのインタビューを通して、パラ卓球は相手の弱点を攻めるスポーツだと知りました。卑怯なように思えるかもしれませんが、弱点を攻めるのは、相手に敬意を示している証拠。ネット際に手が届かない車いすの選手に対しては、ネット際を狙い、自分の打たれたくない場所に打たせないようにするなど戦略的なスポーツなんです。
インタビューで話を聞くうちに、もしかすると、パラ卓球選手には、僕たちが認識している卓球台とは違う世界が見えているのではないかと考え、パラ卓球台のアイデアにつながりました。

浅井:パラ卓球選手の障がいは多岐にわたり、例えば、右手に障がいがある人と左足に障がいがある人が対決することもあります。それぞれの弱点は異なり、見えている世界、プレースタイルも異なります。それぞれが自分の障がいと向き合い、相手の弱点を突くプレーをする。それがパラ卓球ならではのおもしろさなんです。

松田:選手20人に卓球台がどんな風に見えているかスケッチしたもらったところ、おもしろいことに、全員が違う形を描きました。車いすの茶田ゆきみ選手は、ネット際に手が届かないので、ネットまでが長く感じる。生まれつき両手が短い八木克勝選手は、手が届かないエリアを足を使って普通より大きく動き、そのエリアが円のように広く感じる。左足首を自分の意思で曲げられない岩渕幸洋選手は、左側への動きと左側からの戻りが遅い分左サイドが大きく遠く感じています。

メッセージを整理し、ワンビジュアルに落とし込む

―それぞれの見えている世界を卓球台に落とし込むのは想像以上に難しそうです。

大石:ひとつの台で、ワンメッセージ、ワンビジュアルに落とし込むのが大変でした。みなさんそれぞれ違った障がいがあり、プレースタイルも異なります。それらをすべてデザインに起こすと複雑になってしまいます。どんな形にすれば、その選手の障がいが伝わるかを考え、メッセージを整理していきました。

―スケッチしたパラ卓球台から、実際に3台を制作したそうですね。

浅井:規格外の卓球台のため、手作業で作っていただきました。三英さんの協力のもと、安全性はもちろん、クオリティもオリンピック・パラリンピックでも使用される国際基準を満たしたモデルに仕上がりました。

木村:どれくらいの長さ、大きさで設計すれば、パラ卓球選手の世界を体感できるのかを検証するため、自分たちで段ボールのプロトタイプを作ったりもしました。簡単に手が届く長さでは、パラ卓球選手のプレーの難しさを体験してもらうことはできないので、長さの設計が難しいポイントでした。

―これまでにどんな方々が体験しているのですか?

斎藤:11月下旬、東京・調布市で開催された「ParaFes 2018~UNLOCK YOURSELF~」のサブアリーナで体験会を行ったときには、若い世代の方々が体験してくれました。虎ノ門ヒルズの「PARA PINGPONG TABLE展」では、ビジネスマンが多かったです。小学校と中学校では特別授業も行っています。スポーツ庁長官の鈴木大地さん、渋谷区長の長谷部健さんにも実際にプレーしていただきました。

(写真提供:日本財団パラリンピックサポートセンター)

浅井:小学校の特別授業では、渡邉剛選手にも参加していただきました。対戦相手の小学生には丸くなっているサイドに立ってもらい、渡邉選手のボールを返してもらいます。渡邉選手はわざと手前に落として相手に取らせなくするため、小学生はボールを返すことができず、渡邉選手の技のすごさに驚きます。授業が終わる頃には、選手たちが小学生たちのヒーローになっていました。

パラ卓球台だから実現できるポジティブなパラスポーツ体験

―プレーして初めて気付くこともありそうですね。

浅井:パラ卓球は健常者卓球とは全く違った軸での勝負だと実感してもらえると思います。車いすの選手にとってのネット際のボールの意味や、パラ卓球選手ならでは技術のすごさを知り、パラ卓球の魅力に気付いて欲しいですね。
今までのパラスポーツ体験は、車いすに乗ったり、手を固定したりして、非日常の状況で体験するものでした。しかし、パラ卓球台はなんの拘束もなく、そのままの状態で全力でプレーできます。日常の延長にパラ体験があることで、ポジティブなメッセージを伝えることができるんです。

―できるだけたくさんの人に体験してもらうことが重要になってきそうですね。

橋本:パラ卓球台のよさは、実際に台に立ってもらうことで伝わると思います。僕たちのこらからの課題は、できるだけたくさんの人に卓球台に立ってもらう場を作ることです。今後も、大型ショッピングモールで体験会を行ったり、渋谷区庁での展示・体験会を行う予定です。これからパラリンピックに向けて、さらに体験の場を広げていければと思います。

浅井:パラ卓球台は、パラ卓球とは何かを表している普遍的な企画だと思います。まだ東京近郊でしかイベントを開催していないので、今後は、北海道から沖縄まで全国にパラ卓球の魅力を伝えるイベントを開催できたらと考えています。
さらに将来は、パラ卓球台をオープンソースにして、海外のパラ卓球選手の台を作りたいとパラ卓球協会の方と構想しています。世界中のパラ卓球選手の台を並べ、世界中で体験会が行われるようになったらいいですね。

木村:選手にインタビューの中で、卓球に出会っていなかったら、今どうなっていたか分からない。卓球に出会ったからこそ、働いたり、卓球に打ち込む今の自分がいると話してくれた選手がいました。
パラ卓球は、他のパラスポーツよりも、始めやすい競技だそうです。車いすでも、手や足が不自由でも、ラケットがあれば始められます。パラ卓球台をできるだけ多くの人に知ってもらい、健常者の方だけでなく、障がい者の方にもそのおもしろさを伝えることで、誰かの人生を変えるきっかけになるかもしれない。この企画にはそんな願いも込めています。


(写真左上から)
TBWA\HAKUHODO PRプラナー 橋本恭輔さん、シニアクリエイティブディレクター 浅井雅也さん、プロデューサー 斎藤竜太郎さん、映像ディレクター 阿部慎利さん
アートディレクター 松田健志さん、アートディレクター 木村洋さん、コピーライター 大石将平さん

“就活の不自由”からの解放を打ち出しエントリー数急増!伊勢半の「顔採用」活動の狙いとは

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Case: 伊勢半「顔採用」

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は、株式会社伊勢半の「顔採用」を取り上げます。「ヒロインメイク」「キスミー フェルム」などの化粧品ブランドを展開する伊勢半は、2019年3月1日より解禁される2020年新卒採用において、学生の個性の表現を推奨する採用制度「顔採用」を導入しました。このプロジェクトに込めたのは、「就活メイクで自分を偽ることなく、自分らしい見せ方で、面接に来ていただきたい」という伊勢半の思い。「顔採用」はコーポレートブランドKISSMEのメッセージ「私らしさを、愛せるひとへ。」を体現する取組みでもあります。

就職活動におけるメイクや服装の不自由からの解放を目指した伊勢半の「顔採用」では、「私らしさ」を表現した写真や動画をInstagramに投稿することでエントリーが可能。3月1日に「顔採用」の新聞広告を出稿すると、Twitterで話題となり、学生にとどまらず、多くの方々から共感の声が集まりました。

今回のアイデアが生まれた経緯や今後の展開について、株式会社伊勢半 デジタルマーケティング・広報宣伝部 部長 大町龍さん、デジタルマーケティング・広報宣伝部 課長 松本智子さん、株式会社電通 クリエーティブディレクター 吉川隼太さん、コピーライター 福岡万里子さんにお話をうかがいました。

就活にも「私らしさ」を。就活全体が変わるきっかけになってほしい

―「顔採用」プロジェクトが生まれた経緯を教えてください。

吉川:ブランドメッセージ「私らしさを、愛せるひとへ。」にあるように、KISSMEは「私らしさ」を応援するコスメブランドです。「顔採用」は、このブランドの思想を伝えるコミュニケーション活動のひとつという位置付けです。
メイクや服装についての不自由は、就活市場において特に顕著です。就活中はリクルートスーツを着るべき、就活メイクはこうするべきなど、個性を表現することが許されないのが現状です。不自由さのある就活を変え、伊勢半が「顔採用」を通して「私らしさ」を肯定する活動は、ブランドにとって意味のあることだと考えプロジェクトがスタートしました。

大町:リクルートスーツや就活メイクによって、企業が望む姿に自分を合わせ、本来の自分を表現できずに面接に挑んでいる学生さんがたくさんいると思います。化粧品の会社として社会全体にメッセージを投げることで、就活全体が変わるかもしれない。そのきっかけになればと思いました。
最初にご提案いただいてから、炎上リスクに対する議論はずっとありましたが、最終的にはブランドメッセージとぴったり合っていて、企業の姿勢も伝えられる、メイクの会社だからこそ伝えられる価値があると判断し「顔採用」をスタートさせました。

―最初から採用に関わるプロジェクトと決めていたのですか?

大町:アイデアを出す段階では、採用に限定していませんでした。KISSMEブランドを体現するプロジェクトと考えたときに、就活における「私らしさ」に言及することがブランドとして伝えたいことと一致したんです。

革新を求める企業のDNAのもと、今の時代に伝えたいメッセージ

―伊勢半の持つ企業カルチャーも、この企画に大きく関係しているのでしょうか?

大町:はい。伊勢半は、創業190年以上の老舗化粧品メーカーとして、常に新しいことへチャレンジし、社会的にメッセージを投げかけたり、世の中に必要とされるブランドを作ろうと挑戦してきました。この革新を求める精神は会社全体に根付いていると思います。
今ではもうドラッグストアなどで当たり前になっているセルフ販売(棚にフックなどで化粧品が陳列されている販売形式)についても、業界で最初に取り入れたのは伊勢半でした。お客さまの自由意志で商品を選べるように販売形態を変えた取組みです。

吉川:1952年に化粧品会社で初めてカラーの新聞15段広告をしたのも伊勢半だと聞きました。革新や遊び心、「私らしさを、愛せるひとへ。」の思想がDNAに埋め込まれている企業だと思います。そのDNAが、現代の就活の領域でのプロジェクトにつながりました。

―今回のプロジェクトでは、「顔採用」というコピーのインパクトがやはり大きいですよね。

福岡:「顔採用」と聞いたときにどう伝わるのか、正しく伝えられるのか。ボディコピーでおさえるとしても、間違ったイメージを持たれる恐れがあったので、コピーは何度も検証しました。
「メイク採用」「個性採用」など、他にも考えてはいたのですが、「メイク採用」にすると男性を排除してしまう。「個性採用」にすると、目立っていればいいととらえられてしまうかもしれない。いろいろと検証した結果、「顔採用」が伝えたいメッセージに一番ぴったりでした。男女問わず、どんなメイクをしてもいいと象徴するような化粧品会社らしい言葉だと行き着きました。

―クリエイティブの制作面で気を配ったところ、工夫されたところはありますか?

福岡:伊勢半としての姿勢を丁寧にお伝えすることはもちろんですが、就活生にいかに寄り添うか意識しました。当然のことではありますが。特に「顔採用」という一見強い言葉を置いているからこそ、傷つく人が出ないように、言い回し一つ一つに細心の注意を払いました。

吉川:「顔採用」という言葉からネガティブイメージが出ないように気を付けました。「顔採用」というと、どうしても女性を対象にしているイメージに寄ってしまうので、男性もメイクをしていいし、採用を受けてもいいときちんと伝えることを意識しました。「顔採用」のサイトでは、「性別は問いません」と明記しています。

松本:新聞のコピー内の「すっぴん」「ノーメイク」という言葉においても、「私らしさ」を表現する一番の方法がすっぴんであれば、それがいいと伝えたことに伊勢半らしさが出ていると思います。この言葉がなければ、メイクの会社の採用で、好きなメイクで来てくださいというと、派手なメイクがいいのかなと考える人が多かったと思います。実際、社内にはすっぴんに近い人も結構いるんです。社内状況に即した表現になっていると思います。

「顔採用」のメッセージが共感を呼び、46,000リツイート

―リリース後、SNSなどで大きな話題となりましたね。

大町:想像していたよりもずっと大きな反響をいただき、肯定的に捉えてくださった印象でした。「よくやってくれた」など、応援コメントが多かったのがうれしかったです。「伊勢半は知らなかったけど、『ヒロインメイク』の会社なんだね」と反応している方もいました。最終的に、展開しているブランドに紐付いていく理想的なかたちになったと思います。

吉川:意見を出してくれる人たちは、内容をきちんと理解してくれている感じがして、意外でした。
3月1日(金)に新聞広告を出稿し、3日目くらいにツイート数が急激に上がってきました。
「顔採用」にまつわる一般女性のツイートが起点となり、リツイート数が約46,000にのぼりました。

松本:Twitterで話題になり、Yahoo!トピックス、NHKなどのテレビでも取り上げていただき、さらに反響が大きくなりました。

一般採用の応募数が昨年の2倍に!

―採用の応募数にも影響はありましたか?

松本:想像を遙かに超える数の応募をいただきました。応募いただいた内容も、どれも本当に強い思いが感じられ、読み応えがあり甲乙つけがたいものばかりでした。「顔採用」だけではなく、一般採用の応募数も増え昨年の約2倍になりました。「顔採用」が少なからず影響していると思います。

大町:ポータルサイト経由で採用活動を行う総合職の説明会はすでに4回実施しており、そこでも、学生さんたちの様子に少し変化がありました。昨年も「リクルートスーツ着用の必要はありません」とお伝えしていたのですが、やはりリクルートスーツ着用の方がほとんどでした。しかし、今年は総合職の採用の際にも、リクルートスーツではない方がたくさんいらっしゃったんです。少なからず学生さんの意識に影響しているようです。やはり、服装が違うと採用する側が受け取る印象が全然違いますし、学生さんも自己アピールがしやすいと思います。

(顔採用 会社説明会の様子)

松本:明るめの髪色の学生さんも多く、ヘアカラーはメイクやリクルートスーツとは違って、その日だけ変えられるものではないですよね。取って付けたようにその日だけ私服で来たわけではなく、私たちが発信したメッセージに反応して募集してくれたのだと感じました。一般採用にもいい影響が広がっているのが分かり、うれしくなりました。
今回は、採用に関わる施策でしたが、「私らしさを、愛するひとへ。」を体現する活動はこれからもずっと発信し続けていきたいと考えています。


(写真左から)株式会社伊勢半 デジタルマーケティング・広報宣伝部 部長 大町龍さん、デジタルマーケティング・広報宣伝部 課長 松本智子さん、株式会社電通 コピーライター 福岡万里子さん、クリエーティブ・ディレクター 吉川隼太さん

日本のSNS文化を理解し“改元ツイート”増を後押し Twitter Japan「#平成を語ろう」はどう設計された?

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Case: Twitter Japan #平成を語ろうキャンペーン

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は、Twitter Japanの「#平成を語ろうキャンペーン」を取り上げます。平成から令和への改元に合わせ実施された今回のキャンペーンでは、Twitter上での会話をさらに盛り上げるべく、平成の思い出を語り合う糸口となる期間限定サイト、新元号をみんなで予想して楽しむ「新元号考えてみた ジェネレーター」、全国5都市の鉄道路線で中吊り広告などを使ったトレインジャック、4月30日には日経新聞にセンター見開きの30段広告を展開。

3月28日に開設した期間限定サイトには、平成を象徴する出来事などの140のキーワードが記された「キーワード年表」を掲載。利用者はキーワードをタップすることで、そのキーワードにまつわるツイートをすることができ、ハッシュタグで検索もできる仕組みになっています。

今回の企画が生まれた経緯やキャンペーンに込められた思いについて、株式会社電通 クリエーティブ・ディレクター 阿部光史さん、デジタル・プランナー/コミュニケーション・プランナー 伊藤拓郎さん、CMプランナー/コピーライター 中川賢太さん、アートディレクター根岸明寛さん、シニア・アカウントリード 木村恵美子さん、株式会社電通クリエイティブフォース プロデューサー 明石幸恵さんにお話をうかがいました。

Twitterの「今まで」と「これから」をコピーで定義付け

―「#平成を語ろうキャンペーン」を立ち上げた経緯を教えてください。

阿部:私たちは一昨年からTwitter Japanのブランディングを担当してきました。Twitterは単なるSNSではなく、今起きていることを1番早く見られるプラットフォームです。2年前のキャンペーンでは、トランプ大統領を起用したり、働き方改革をテーマにしたTVCMを制作するなど、これまでにも世の中で話題になっているニュースを取り上げてきました。
2019年の場合、前半で1番話題になるのはやはり「改元」ではないかとクライアント側からお話があり、企画の考案がスタートしました。

中川:最初の段階で、なぜTwitterがこれをやるのか、将来的にTwitterがどうなりたいかを定義するため、以下のコピーを考案し、クライアントに提出しました。Twitterは、これからさらに世の中の人たちの言葉が集まる場所になり、みんなが今を語る場所になる。みんなが「いま」をツイートしてきたからこそ、Twitter上の平成ができあがっている。次の令和の時代もみんなで「いま」を語って新しい時代を作っていきましょう、という意図です。

阿部:クライアントからは、Twitterとしてこのタイミングで伝えたい内容がまとまったコピーだといっていただけました。この言葉に立ち返りながら、企画をかたちにしていきました。

中川:諸外国では、議論の場としてTwitterが使われることが多いのですが、日本人は議論プラスみんなで「遊ぶ」場になっています。
Twitter Japan側としても、どんな施策をしたらみんな(利用者)がより楽しんでくれるかを考える姿勢があるので、企画を考える僕たちも楽しんで考えることができました。

大切なのは「遊ぶ余白」を作ってあげること

―「新元号考えてみた ジェネレーター」を作ったのは、日本独特の遊びの要素からなんですね。

伊藤:まさにその通りです。Twitterの企画を考えるときに大切にしているのは、世の中の人たちが遊ぶ余白を作ってあげることです。そうすることで、利用者ジェネレーテッドなものが生まれ、会話量の増加につながります。大喜利のお題にみんなが乗っかってくれる文化があるのは、日本ならではだと思います。今回のジェネレーターはそういった日本のTwitter文化に即したものになるよう作っています。

―Twitter上でより盛り上げるためのフレームを提供するにあたり、どういった議論がされたのでしょうか?

伊藤:4月1日に新元号の発表があることが事前に分かっており、Twitter上でも新元号に関わる会話が多数生まれると予想しました。新元号についてTwitter上で普通に会話するだけでもおもしろいのですが、遊びの要素を取り入れることでさらに会話がしやすくなり、盛り上がるのではと考えました。硬貨や新聞の一面、スペースキャット、小学生の絵など、複数のジェネレーターの画像から選んでもらうことで、遊ぶ要素のベクトルをいくつも用意し、自由度を持たせることを意識して制作しました。

根岸:トレインジャックでは、平成で話題になった15の時事ネタをピックアップし、若い人から年配の人まで、どの年代の人でも懐かしいと思ってもらえるようビジュアルの種類を増やしました。扇子、たまごっち、エアマックスを実物大で切り抜いた特殊な中吊りを作り、よりキャッチーになるように仕上げています。たまごっちは本物に近いチェーンを使って吊り下げているので、車内で揺れたりもしてリアリティを楽しんでもらえたと思います。さらにそれをTwitterでシェアすることによって、他の人にもTwitterを介して広がっていく展開になったと思います。

「ネット民が冷めない」キャンペーンの空気作りとは?

―Twitter独特の文脈など、Twitterにまつわる文化を理解していることが必要になりそうですね。

伊藤:僕自身、2007年にTwitterに登録し、Twitterとの付き合いはかなり長いです。ある企業の公式アカウントの中の人を担当したこともあり、どっぷりTwitterにつかってきました。
大切なのは、みんなが遊べる場所を作ることです。しかし、公式がそれを大々的にやると、ネット民たちは冷めてしまうところがあります。僕もネット民側の人間なので、公式が大々的にやると冷めちゃうのはすごくよく分かるんです。ネット民には、自分たちで遊びを考えて遊ぶ文化がありますから。
Twitterのキャンペーンではそうならないよう、見せ方をすごく考えました。期間限定サイトのトップページは、ロゴなどをあえて作らず、整然とした冷めたトーンに仕上げています。「みんなで遊ぼうぜ!」という風には絶対に言わずに、突然そのサイトがあったようにしておくのが大事なんです。

―他に企画をかたちにしていく中で、気を配ったことはありますか。

阿部:改元は日本人の根幹にかかわる重いテーマでもあります。そこを刺激しないようにするため、「新元号ジェネレーター」ではなく、「新元号考えてみた ジェネレーター」にするなど気を配りました。新元号で「遊ぼう」ではなく、「これをきっかけに考えてみませんか」といった堅めのスタンスを取ることを意識しました。この塩梅を一歩間違えれば炎上する可能性があったので、慎重に進めました。

―期間限定サイトの140個のネタのピックアップはどのように行ったのですか。

明石:平成元年から平成31年まで、トピックをそれぞれの年について5~6個、クリエーティブチームに出してもらいました。許可取りについては飛び込みで電話をしたり、弊社に担当がいれば、そこから確認をしてもらったりしました。
平成を振り返るという社会的なテーマ性もあり、快く許可してくださった会社が多かったです。毎年「トレンド大賞」を選出している小学館の『DIME』、写真は共同通信社に協力していただいています。

元旦の「おめでとう」ツイート数を上回った「新元号」ツイート数

―キャンペーンローンチ後の反応について教えてください。

木村:「新元号考えてみたジェネレーター」については、生成数が約10万8千件。4月1日の新元号発表に関する総ツイート数は1,100万ツイート、4月30日〜5月1日の改元タイミングにおける関連ツイート数は1,200万ツイートを超えたとのことです。Twitter Japanからはグローバル的に見ても成功したキャンペーンだと評価をいただきました。メディアでも多く取り上げてもらい、NHKや日本テレビ「ZIP!」、日経新聞などでも取り上げていただきました。
トレインジャックを見た人の中には「こんなにあたたかい広告は今までなかった」と感想をいただくなど、広告らしからぬ「エモい」広告として受け入れてもらった気がします。

―他に印象に残っていることはありますか?

伊藤:トレインジャックをしている電車にたまたま乗ったとき、目の前に座っていた女性2人がたまごっちの中吊りを見て、懐かしいと反応し、コピーの音読までしてくれたのが印象に残っています。周りを見渡すと、他の多くの乗客の方も上を見渡してくれていました。トレインジャックの仕事で、こんなに乗客の方が注目してくれているのを見たのは初めてでした。

中川:近年は新聞30段の仕事をできる機会があまりないので、印象に残っています。平成最後の日の新聞広告では、日経新聞のTwitterのほかに、朝日新聞のNetflixの60段広告が掲載されていました。平成最後の日に、平成に生まれた新しい2つの企業が新聞に大きく広告を出す不思議さもあり、歴史の区切りとなる広告に携われて本当によかったと思っています。

明石:今後も引き続き、オープンプラットフォームとして、世の中の話題をとらえて増幅させる施策を続けていきます。


(写真左から)株式会社電通 シニア・アカウントリード 木村恵美子さん、株式会社電通クリエイティブフォース プロデューサー 明石幸恵さん、株式会社電通 アートディレクター 根岸明寛さん、デジタル・プランナー/コミュニケーション・プランナー 伊藤拓郎さん、クリエーティブ・ディレクター 阿部光史さん、CMプランナー/コピーライター 中川賢太さん

ロンドンバスがモノ消しゴムに変身し話題に!「モノカラー誕生50周年記念」企画はどのようにして生まれた?

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Case:トンボ鉛筆「モノカラー誕生50周年記念」企画

Interview & Text : まきだ まどか

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は、トンボ鉛筆の「モノカラー誕生50周年記念」企画を取り上げます。モノ消しゴムでお馴染みの青白黒の「モノカラー」が誕生してちょうど50周年の2019年、トンボ鉛筆は、発売から今日に至るまでのモノ消しゴムの歩みを復刻した「モノカラー誕生50周年記念セット」の発売、MONOシリーズ製品購入でモノグッズが当たる文具店での店頭クジ、「これであなたもMONO知りキャンペーン」と題したオープンキャンペーン、これら各種企画をより多くのユーザーに知ってもらうための「MONOロンドンバス」のPR走行&乗車イベントを実施しました。

バスの車体全体にモノカラーを施した、巨大なモノ消しゴムのようなデザインの「MONOロンドンバス」は、6月19日~21日にかけて渋谷、原宿、表参道を走行。その様子を目撃した人々がTwitterなどのSNSに画像をアップし、大きな話題となりました。さらに、週末の22日・23日には無料乗車イベントを開催。幅広い層のユーザーが集まったといいます。

今回の企画が生まれた経緯やキャンペーンに込められた思い、ユーザーからの反応について、株式会社トンボ鉛筆 プロダクトプロモーション部 堀井奈津美さんにお話をうかがいました。

ノートやリュック、スニーカーまで「モノグッズ」が当たるキャンペーンを実施

―「モノカラー誕生50周年記念」企画を立ち上げた経緯、企画に込めた思いについて教えてください。

堀井:今年は「モノカラー」が誕生してちょうど50年です。この企画は、商品を卸している文具店さんにMONOブランドを定番として育成してもらった感謝と、エンドユーザーのみなさんにさらに「モノカラー」に親しみを持ってもらいたいという思いを込めた施策です。

―復刻版を含めた5個のモノ消しゴムとピンバッチがセットになった限定発売の「モノカラー誕生50周年記念セット」はすでに入手困難なほど売れているそうですね。

堀井: 6月下旬に出荷開始し、売れ行きは好調です。現時点(7月11日)で、計画のほぼ90%を売り上げました。歴代のモノ消しゴムのセットを販売したのは今回が初めてだったため、みなさまに手に取っていただけたのだと思います。年代ごとにMONOのロゴやトンボのロゴのデザインが変化しているのが分かる商品です。
商品企画の段階では、社内から「一般ユーザー向けの商品ではないのでは」という意見もあったのですが、結果的には、MONOブランドのファンの人はもちろん、一般ユーザーにもお買い上げいただいているようです。予約された方もいたと聞いています。

―今から50年前の1969年の発売以来、「モノカラー」は消しゴムの定番としてのイメージがとても強いです。発売当時から「モノカラー」へのこだわりが強かったのですか?

堀井:当時は、今ほどは「モノカラー」を今後もずっと守っていく意識ではなかったのではないかと思います。50年のうちに「モノカラー」といえば消しゴムのイメージがユーザーの間でも、社内でも強くなり、今では「モノカラー」を大切に守っていこうという意識が強まっています。2017年3月には、特許庁第一号の「色彩のみからなる商標」として「モノカラー」が登録されました。もともとは旗をイメージしてデザインされたそうです。

―いろいろなモノグッズが当たるキャンペーンも開催しているそうですね。

堀井:販売店でMONOシリーズの製品を買った方を対象に、スピードクジを引いてもらい、限定の景品が当たるクローズドキャンペーンを実施しています。景品は通常の40倍の大きさのモノ超ジャンボ消しゴムや、オリジナルノート、ブックマーカーです。MONOシリーズの製品は、消しゴムだけでなく、修正テープやシャープペンシルなど、現在40種以上あり、その中からの購入で、クジを引くことができます。

他にも、誰でも応募できるオープンキャンペーンとして、「これであなたもMONO知りキャンペーン」(https://www.tombow.com/cp/mono50th/)を実施しています。MONOシリーズの製品にまつわる5つの動画の中からひとつを選び、Twitterにシェアすることで、モノリュックや、モノスニーカー、モノTシャツが当たるキャンペーンです。

文具店を対象に、今年で4回目の実施となる「MONOシリーズ陳列コンテスト」も実施中です。店頭でMONOシリーズの商品を陳列してもらい、その写真をコンテストサイトにアップして応募してもらいます。最終的には、審査を経て、1位の文具店に50万円を贈呈予定です。

―今回の企画を実施したねらいについて教えてください。

堀井:「MONOといえば消しゴム」のイメージを利用して、他にもいろいろなMONOシリーズ製品があると知ってもらうことが今回の企画全体の一番の目的でした。「モノ修正テープ」はシェア1位ですし、「モノグラフ」のシャープペンシルも人気があります。しかし、個々のMONO製品に満足してくださっていても、それがつながった「MONO」のイメージになっているかというと、まだテコ入れしなくてはならない点があるんです。
企画の考案を始めた当初は「モノ消しゴム発売50周年」という切り口だったのですが、MONOブランドのシリーズで企画ができるよう、「モノカラー誕生50周年」にタイトルを変え方向転換しました。

MONOバス目撃ツイートが3万リツイート超え!

―「MONOロンドンバス」を企画した意図を教えてください。

堀井:「モノカラー誕生50周年記念」企画全体をPRするために実施したのが「MONOロンドンバス」でした。ロンドンバスを「モノカラー」でラッピングし、7月19日~21日の平日3日間は広告として車両を走らせ、その週の土日に乗車イベントを実施しました。原宿や渋谷、表参道などで走らせ、SNS上で拡散してもらい「モノカラー誕生50周年記念」企画全体を多くの人に知ってもらうのが狙いでした。

―SNS上で大きな話題になっていましたよね。

堀井:「MONOロンドンバス」を都内で走らせた初日、その写真を添えたとある女性のツイートが3万リツイートを超え、その日バズったツイートとして取り上げられました。一番早かった目撃ツイートだったため、爆発的に拡散されたようです。MONOバスが走り始めてから、「これであなたもMONO知りキャンペーン」の応募数もグッと増え、「MONOロンドンバス」だけではなく、web上ではキャンペーン全体のことについて書かれた記事も多数アップされ、キャンペーン応募にとても貢献してくれました。

―どんな反応が多かったですか?

堀井:「MONOロンドンバス」が走り始めた19日のSNSの投稿では、「遭遇!」「見つけた」など初めて見た内容のコメントが多かったのですが、イベントの後半になってくると、「話題の」「Twitterで見た」「噂の」など、認知が上がっていることが分かるコメントが増えました。

―ロンドンバスの施策内容はスムーズに決まったのですか?

堀井:最初は山手線の1両だけをモノカラーでラッピングしたかったのですが、車両全面のラッピングはできないことが分かり、諦めました。電車がだめなら、都営バスはどうかと考えたのですが、バスも全面ラッピングは不可とのこと。そうして思案しているところに、偶然、屋外広告の営業に来てくださり、その中にロンドンバスを発見して、ぴったりだと決定したんです。

―乗車イベントにいらっしゃったのはどんな方々でしたか?

堀井:幅広い方々がいらっしゃいました。親子連れ、カップル、30代~40代の方が多かった印象です。バスに乗るために、群馬から始発で駆けつけてくれた小学生もいました。先着順で12時に受け付け開始のところ、その小学生は3時間前くらいから並んでくれていました。「トンボが好き、MONOが好き」といってくれ、さらに後日送ってくれたメールでは、文具店の「買って当たるキャンペーン」で、3種類の景品すべて当たったと連絡をくれました。いつもHPをチェックしてくれているそうです。

―参加した方々の反応はいかがでしたか?

堀井:お客さまには2階に乗車してもらい、ラッピングで窓を塞いた1階部分の座席には大きな消しゴムの模型を座席にひとつずつ置いたところ、モノ消しゴムが乗車しているようでおもしろいと意外にみなさんに喜ばれました。記事を書いてくださったり、SNSで投稿してくれる人もいました。

―乗ってみないと見られない光景ですね。キャンペーン全体を通して、他にはどんな反応がありましたか?

堀井:「いつもおもしろい企画をいろいろ開催するよね」「このセンスを発揮する社員さんの努力を思うと、モノの消しゴムを使い続けてよかったと思います」と投稿してくれている人がいて、非常にうれしかったです。「消しゴムが道を通るから道がきれいになった」など、少しとんちの効いた投稿もありました。
社内からは、通常ラッピングバスは音を出して走っているイメージがありますが、モノバスは無音でスーッと通り過ぎるため、消しゴムっぽくていいというコメントがありました。

―50周年を迎え、モノブランドの今後の展開について教えてください。

堀井:ブランドとしては、MONO製品を消しゴム以外にも広く展開して、皆さんにより親しまれるブランドに育てていきたいと考えています。そのためにも、MONOシリーズの製品を知ってもらう活動は継続していかなければと思っています。


株式会社トンボ鉛筆 プロダクトプロモーション部 堀井奈津美さん

東京2020の機運を街全体で盛り上げ!「日本橋シティドレッシング」はいかにして実現したのか

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Case:三井不動産株式会社「日本橋シティドレッシング for TOKYO 2020」

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は「日本橋シティドレッシング for TOKYO 2020」を取り上げます。三井不動産株式会社が旗振り役となり、東京 2020 オリンピック競技大会から1年前となる今年7月23日(火)から8月25日(日)まで行われた企画。

東京2020 オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、東京 2020 大会)エンブレムや東京 2020 大会ルック(オリンピックとパラリンピックの精神と東京 2020 大会ビジョンを視覚的に伝えるグラフィック)、アスリートの肖像を用い、三井本館やコレド室町テラスなどのビル壁面の装飾やデジタルサイネージなどで街全体を装飾し機運盛り上げを行いました。

実現の舞台裏について、株式会社電通・電通ライブ コミュニケーションプランナー 加我俊介さん、株式会社電通2CRP局 アートディレクター 井本善之さん、株式会社電通7BP局 アカウントエグゼクティブ 河津賢次郎さんにうかがいました。

「東京2020大会で盛り上がるスタジアム」を表現するためのこだわり

―企画実施の経緯を教えてください。

加我:東京2020ゴールドパートナーを務める三井不動産が、東京の中心地とも言える日本橋(=街)を起点にオリンピック・パラリンピックの機運醸成/更には東京2020大会の成功に貢献すべく2015年からスタートした試みで、今回で4回目を迎えます。そして、今回はオリンピック1年前という大事な節目であることから、これまで以上に規模を拡大し盛り上げていくべくプランニングを進めました。

―制作にあたり、こだわった点を教えてください。

加我:「日本橋シティドレッシング for TOKYO 2020」は自社の企業プロモーションではなく、オリンピック・パラリンピックの機運醸成を目的にしたパブリックイベントです。その為、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会等にも共催や後援いただきながら、その他スポンサー各社にも広く参加を呼び掛け、東京2020の大会エンブレムや大会ルック、様々なアスリートの肖像を用いて街全体の大規模装飾を実現しています。

ただ、その特性上、アスリート肖像は新規撮影が難しくストックフォトで対応しなければいけないなど制約も多く、これまでの表現との「差分」を出しづらいという難しさがありました。その為、このような制約下でいかにしてこれまでの表現と「差分」をつくりだしながら、1年前に相応しい盛り上がりを醸成するかが最大のポイントでした。

井本:ビジュアル面で特に気をつけたのは「熱気」です。火の色は赤と青で構成されますが、今回アスリートの写真を敢えてその赤と青で加工することで、静態表現の中に熱を込め、2020大会の盛り上がりを表現しました。その周囲にはアスリートに声援を送る観客のビジュアルを配置し、アスリート同様、熱や勢いを感じるデザインにしています。まさに、日本橋の街全体を使って、「東京2020大会で盛り上がるスタジアム」をいち早く再現する試みです。

加我:オリンピック・パラリンピックの盛り上がりはアスリートだけではなく、声援を送る観客とともに生まれるものです。そこで、今回はスポンサー企業の社員の皆様にご協力いただき、アスリートに声援を送っているシーンを再現、その様子を撮影しました。リアルな熱気やライブ感を取り込みながら、躍動するアスリートと彼らに声援を送る観客という図式を街全体にそのまま投影することで、日本橋に「東京2020大会で盛り上がるスタジアム」を再現しています。

この企画は4回目ということもあり、参加企業の皆様にはこの仕組/システムをご理解いただけていたと思います。その為、今回は新たに「社員の有志参加」というお願いをさせていただきました。各社様にとってオリンピック協賛は社内活性化の側面もあり、こちらも大変協力的、積極的にご参加いただけました。

―現地での反応はいかがでしたか?

加我:日本橋シティドレッシングの一環として、日本橋のたもとにオリンピックのシンボルマーク「ファイブリングス」の巨大オブジェ(スペクタキュラー)が国内で初めて設置されたこともあいまって、日本橋自体が「いよいよオリンピックまであと1年」ということを伝えるフォトスポットとして注目度を向上させることができました。

日本橋はオリンピックと縁深い場所

―連動して展開した機運盛り上げ施策について教えてください。

河津:この企画に合わせて、昨年開催時に19日間で25万人以上を動員し大変ご好評をいただいた、東京2020オリンピック・パラリンピックの競技・種目や選手について楽しく遊んで学べる体験型展示イベント「超ふつうじゃない2020展 by 三井不動産」を、COREDO室町テラスや、東京ミッドタウン日比谷で開催しました。「日本橋シティドレッシング」でムードを高め、「超ふつうじゃない展」で実際に身体を動かしいち早く楽しんでもらう。場を持つ三井不動産ならではの展開として、リアルな体験・フィジカルな体験まで伴うことでオリンピック・パラリンピックの機運醸成に貢献できたと考えています。

―来年の大会期間中は、日本橋エリアをどのような形で盛り上げたいですか?

加我:日本橋は、東京2020の各会場からも近く、日本中が祝祭ムードに包まれた前回大会(リオデジャネイロオリンピック)のメダリスト凱旋パレードの舞台でもある、オリンピックと縁深い場所です。開催期間中、国内外から多くの方が東京を訪れると思いますが、ここ日本橋がオリンピックの盛り上がりの中心地の一つとなるような仕掛けを作れたらいいなと思っています。

「恋のストーリー」動画も話題に 相鉄がJR直通時に仕掛けた多面展開とは?担当者に聞く

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Case:相模鉄道「相鉄都心直通記念ムービー|100 YEARS TRAIN」

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブ事例の裏側を、担当者へのインタビューを通し明らかにする連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は、昨年11月30日、相模鉄道(以下「相鉄」)とJR東日本の直通線開業により、相互乗り入れがスタートしたことを記念し公開された「相鉄都心直通記念ムービー|100 YEARS TRAIN」を取り上げます。

このムービーは、二階堂ふみ・染谷将太主演。大正・昭和・平成・令和を舞台に、「つながる」をテーマにそれぞれの時代の恋のストーリーを描いたもの。またムービ ー内では、くるり「ばらの花」、サカナクション「ネイティブダンサー」の2つの既存曲をマッシュアップした楽曲を使用。ムービーはYouTubeで現在260万超再生とネット上で話題に。

さらに、この「都心直通」のタイミングで様々なPR展開を実施し、都内での認知度アップに向けて動いていったといいます。今回は、ムービー製作の狙いと、どのようなPR展開をし、どのような点を重視していったのか、相鉄グループ広報・PR担当(相鉄ビジネスサービス株式会社 総務広報担当) 係長 飛川和範さん、竹下晶子さんにうかがいました。

「直通」にちなみ「つながる」ことをイメージ

―まず、「相鉄都心直通記念ムービー|100 YEARS TRAIN」はどのような経緯で生まれたのでしょうか?

飛川:
これは「SOTETSUあしたをつくるPROJECT」の一環として取り組んだ施策です。このプロジェクトは、今回のJR東日本さまとの直通運転と2022年度下期に予定している東急電鉄さまとの直通運転に向け、さまざまな仕掛けで認知度を上げ、最終的には相鉄線沿線に住んでもらおうという目的で行っています。
相鉄は今まで神奈川県のみでの運行で、都内では4割程度の認知しかない(2018年9月調査)状況でしたので、鉄道会社各社さんが沿線への住み替え需要を競う中で、我々も知ってもらわなければいけないという課題意識からスタートしました。

―鉄道と恋愛というテーマは、過去にはJR東海の「クリスマス・エクスプレス」などもありましたが、日々の通勤電車の中でという点が新鮮でした。

飛川:
「直通運転」ということで「つながる」というテーマをイメージしました。鉄道会社は、日々さまざまな乗客の方との出会い・別れを繰り返し、色々な人とつながっているものです。沿線の方や沿線以外の方とも、心をつなげたいという思いで制作しました。

―大正・昭和・平成・令和とさまざまな時代を再現しています。再現にあたってはどのような点にこだわったのでしょうか。

飛川:
メインのお二方以外の登場人物の関係性も、時代ごとによって、最初は付き合いはじめていたり、令和では女性が妊娠していたりと変化しています。小道具も、大正時代は書物・昭和では新聞・平成では漫画雑誌・令和ではタブレットなどと、時代を反映するものを入れています。また、舞台になる車両は大正・昭和のものは現存していないので、車両の担当者に図面や資料、写真を倉庫から探し出してもらい、それを元にセットを再現しました。ムービー内で流れるテーマソングも2曲の楽曲をマッシュアップしたという点で、「つながる」ことを表現しています。
直近では、ムービーで使用したマッシュアップ曲「ばらの花 × ネイティブダンサー」をクリスマスに合わせて配信リリースしました。また、ムービーに使用したセットも新駅の羽沢横浜国大駅に展示しており、昨今のインスタ映えを考慮してフォトスポットのような形に改良しました。実際に着席して写真を撮ることができます(3月31日まで)。

沿線外からの反響はもちろん、沿線からの応援の声も

―ムービーの反響は予想通りでしたでしょうか?また、印象に残った反応・感想はありますか?

飛川:
予想より大きいです。沿線外の方から「住んでみたい」「興味を持った」などといった反応をいただき、まさに我々が目指している「住んでいただく」というところに近い反応でした。狙い通りではありますが、ここまで反響が大きくなるとは思っていませんでした。

竹下:
Twitter上では「俺たちの相鉄」という言葉を多く見かけ、沿線の方々からの応援にお応えすることができて嬉しかったです。「通学で好きな人と一緒に帰る電車が相鉄線だったので、懐かしかった」「見ていて切なくなった」などといったムービーへの共感の声も多くいただきました。

飛川:
沿線の方の愛を感じる機会にもなりました。普段はご意見をいただくことが多いお客様センター経由でも、お褒めの言葉を数多くいただいています。

竹下:
毎日、お客さまから何かしらの声が届いています。こういった企業広告を作った時に、一般の方から「ありがとうございます」とお礼を言われることは実はあまりないので、最初はびっくりしました。沿線の方からの「とてもかっこよく作ってもらえて誇らしい」「住んでいたことを誇らしく思う」という言葉はうれしかったですね。

話題を最大化すべく、広告とパブリシティ両面で展開

―今回の直通開始のタイミングで、ムービーはもちろんさまざまな形でSNSやメディアで相鉄が話題になっている印象を受けました。どのような仕掛けを行っていったのでしょうか?

飛川:
広告ではJR東日本さまと共同で車内広告、駅貼り広告、特殊広告を展開しました。また崎陽軒さま、横浜ビールさま、山崎製パンさまのパンやカステラなど、色々なな企業ともコラボレーションをして商品を開発しました。
沿線の名店の掘り起こしや誘致を行う取り組み「相鉄沿線名店プロジェクト」では、乗り入れ先の一つである新宿でイベントを行いました。相鉄線いずみ中央駅の近くにイタリアンレストランを誘致しましたが、実はシェフが以前修行していたお店が新宿高島屋さまにあるということで、ストーリー的にも良いなと。
パブリシティも、普段は取材依頼を受けてから対応することが多いですが、相互直通運転が露出を図る最大のチャンスと考えて積極的に番組に売り込み、「タモリ倶楽部」のようなバラエティ番組の取材誘致にも成功しました。
このタイミングで話題を最大化すべく、まさに広告とパブリシティ両面で展開していきました。

竹下:
例えば、崎陽軒さんとコラボレーションした「お祝い」がテーマの紅白弁当は、販売後すぐ売り切れたのですが、それを買ってくださった方々の反応を見ていると、「記念に」「お祝いに」などと当社の想いに寄り添ってくださるようなもので、企画一つをとっても皆さまに喜んでいただけてやりがいがありました。横浜ビールも、実は沿線の瀬谷で生産された小麦を使っているといったように、意外にも横浜は地産地消の食材が多いんです。今後も、新たな横浜の魅力を発信していくことができたらと思います。

―パブリシティで意識したのはどういった点でしょうか。

飛川:
テレビは「初」という情報を好まれますよね。そのため、開業前の駅や運行前の車両など、PRネタが多くあったので積極的に押し出しました。例えば、JR東日本の広報さまにご協力いただいて、車両が新宿に初めて乗り入れる時に新宿駅で報道公開をしたり、回送電車を一本仕立てて報道向けの試乗会を行ったりしました。
また、並行して『相鉄 新型車両「12000系」新宿駅初入線前面展望ムービー』や新宿駅から西谷駅までの前面展望ムービーをYouTubeで公開し、37万超の再生と、こちらも好評をいただきました。

竹下:
最初は鉄道好きの方をターゲットにした活動から始めて、続いてデザインへの興味がある方向け、(一般消費者向けの)コラボ商品…などと、開業までの約半年間、段階的に情報を広げていき、最後は「相鉄都心直通記念ムービー|100 YEARS TRAIN」で話題を高めていきました。
このムービー自体にも、色々な面で話題になるように出演者、音楽、鉄道車両などさまざまなファクトを入れました。SNSを見ていてもさまざまな視点での評価をいただいていると感じます。

「ホームでスマホを向けていただく」車両自体も広告塔に

―Twitterでは、相模鉄道キャラクター「そうにゃん」が車両の運転席に乗っているという点も話題になっていました。

飛川:
工場で車両が完成した後、貨物列車と同じような形で輸送してくる甲種輸送というものがあります。この時電車は自走出来ないので、電気機関車が牽引する形なのですが、その際に「そうにゃん」を12000系の運転席に乗せました。
この直通用車両「12000系」は、車体を「YOKOHAMA NAVYBLUE(ヨコハマ ネイビーブルー)」という濃紺一色にして、車両自体が広告塔となるようなカラーリングにしています。この塗色は駅や制服、車両を統一したコンセプトでリニューアルする「相鉄デザインブランドアッププロジェクト」の一環で進めてきたものです。一般的に、電車の車体は銀色が多い中、全体に塗装して都心に乗り入れていくと「あの電車はなんだ」と知ってもらえるきっかけにもなっています。

竹下:
直通運転開始から一ヶ月以上経っても、都心の駅のホームでスマートフォンを向けている方が多いですね。

飛川:
12000系の前に登場した20000系(東急直通線用車両。現在は、相鉄線内を運行)も似たようなデザインで、これが出た時に「イケメン電車」と言っていただき、女性の方も写真を撮ったりしているような光景に驚きました。これら新型車両は、車内の照明も時間によって切り替わるなど、車内も随所に工夫をこらしています。

広告一辺倒ではなく「自分たちで汗をかけばなんとか形になる」

―今後も、やはりさまざまな外部の企業と取り組んでいくのでしょうか?

飛川:
チャンスがあればさまざまなご協力を得ながら取り組んでいきたいと思います。また、広告出稿一辺倒では費用もかさみますし、パブリシティは自分たちで汗をかけばなんとか形になります。また、社内でも社員がテレビに出て家族が喜ぶというインナーコミュニケーション効果があり、また露出が増えることで人材獲得にもつながっていくと思います。今後も色々と仕掛けていけたらと思います。

竹下:
「都内ではない」ことに強みとチャンスがあると思っています。地元から離れても横浜を愛する人はとても多いので、協力をしていただけるのかなと思いますし、都心からも近くて住みやすい「地元」をみんなで盛り上げていくことができたらいいなと思います。他路線のように観光資源がある沿線ではないからこそ、沿線の方のご協力も得ながら価値向上に取り組んでいきたいです。

飛川:
2022年度下期には東急さまとの乗り入れも控えていますので、今回の施策のいいところ悪いところを精査して、認知度を高めていきたいなと思っています。


相鉄グループ 飛川和範さん(左)、竹下晶子さん(右)

コンサルから「春水堂」に転身 タピオカティーブームの先駆者に聞くPR展開の変遷

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Case:春水堂

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・PR事例の裏側を、担当者へのインタビューを通し明らかにする連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は、1983年創業・台湾で50店舗以上を展開し、2013年に日本に上陸したお茶専門カフェ「春水堂」のPR戦略を取り上げます。

話をうかがったのは株式会社オアシスティーラウンジ/株式会社オアシスティースタンド 代表取締役 木川瑞季さん。マッキンゼー・アンド・カンパニー出身の木川さんは、台湾勤務時に「春水堂」のお茶を知り、「春水堂」の日本上陸にあたり転職。日本でのブランド展開に携わってきたという経歴の持ち主。「タピオカミルクティー発祥の店」の仕掛け人として昨年は多くのメディア露出も。

タピオカブームが起こる前から日本でどのようにブランドを認知させてきたか、また、コンサルティングファームから転身しどのようにPR戦略を組み立ててきたかをうかがいました。

日本上陸後、順次打ち出していったキーワードとは

―「春水堂」は2013年の日本上陸以来、PR展開にあたってはどのようなキーワードを打ち出していったのでしょうか?

木川:
「春水堂」は日本に進出して7年目ですが、どうやって(ブランドや業界の)一個一個の段階を追っていくかを考え、受けるキーワードを一つずつ打ち出してきました。当初は「台湾スイーツ」「台湾カフェ」などと打ち出しながら、2017年ごろから「タピオカミルクティー」のブームが来たなと、タピオカミルクティー発祥の店であることを全面に押し出しました。
(タピオカブームの前は)一ブランドでいくら頑張っても店舗数も少ないですし、最初は台湾カフェ・スイーツの一つとして知ってもらおうと考えました。タピオカのお店が多く日本に入ってきたのは2015-16年ごろですが、マンゴーかき氷やパイナップルケーキなど、台湾スイーツのお店はそれよりも少し早く日本に入ってきていたんです。
そんな中で2014年に打ち出した「台湾スイーツ」というキーワードは、「ぐるなび旬ワード」などにも入るなど話題となりました。複数のプレーヤーがいると、お客様にとって「台湾スイーツ」というカテゴリが成立しますから、その中の選択肢の一つとして関心をもってもらえないかと最初に考えました。

―そこから「タピオカ」切り口を打ち出したのはいつ頃でしょうか?

木川:
2015-17年ごろに「Gong cha」さん、「THE ALLEY」さん、「CoCo都可」さんなど大型のブランドが日本に上陸し多くの人が並び始めた時に、「あ、タピオカくるかも」と感じました。そこが初めて、シンプルに「タピオカミルクティー発祥の店」とだけ伝えてもお客様がわかってくださるタイミングでした。実は、2013年の日本上陸当時弊社は「お茶専門カフェ」と言っていたのですが、その当時はまだ早かったのです。

―「タピオカミルクティー発祥の店」という点を前面に打ち出す中で、変えたことやこだわっていることはありますか?

木川:
プレスリリースや看板も全て変えています。ただ、「いいお茶を出す」というところだけはブレないようにしています。(ブームの中でも)なぜ商品が受けていますかと聞かれると、「お茶がおいしいからです」と答えています。
500円を払い続けられる飲み物として認知されるためには、絶対にベースとなるお茶が美味しくないといけません。私も、コーヒーでいうスターバックスさんのような世界観があるオンリーワンのブランドだと思っているからこそこの仕事をやっているというぐらい、自社のお茶は好きですから。

―その後、現在は「タピオカミルクティー」に限らず、「アレンジティー」というキーワードを打ち出しているそうですね。

木川:
ここからようやく「アレンジティーのブランドです」と言えるようになったと思っています。もともとタピオカミルクティーはアレンジティーの一つで、アレンジティーのバリエーションはとても広いです。(タピオカミルクティーの普及で)これからお茶の飲み方が多様化すると思っています。
お茶のカテゴリで、これまでスターバックスさんのようなお店がなぜできなかったかというと、500円の商品をつくるためにはストレートのお茶ではだめだったんです。コンビニエンスストアでペットボトルの商品もあり、130円ほどしかお金を出さないものです。ここにアレンジティーというカテゴリができると、中にタピオカを入れたり、ミルクをしっかり入れたり、おいしいラテにしたりと商品価値が上がる商品になります。ようやくこのカテゴリが出現したというところです。

―コンサルティングファームからの転身ということが、PR戦略の検討に活きた点はありますか?

木川:
それまで広報はやったことはなかったですが、経営コンサルとして携わってきたマーケティングの一環として広報はどうしたらいいのかという理解がありました。
コンサルティングはそれまで知らなかった業界でもお客様の要求が激しいので、クイックラーニングと呼ばれており一ヶ月・二ヶ月で(その業界について)学ばなければいけません。早く学んで、学んだことのPDCAを回して、半年ぐらい経ったときにはモノにしてお客様の知識をある意味超えていかないといけない、そんな仕事の仕方を10年間叩き込まれていました。どうやってこのお茶のブランドをマーケティングすればいいのか、マーケティングの観点では広報をどうしていくか、と考えていきました。

行列が話題となる中「並ばなくていいですよ」というメッセージ

―タピオカブームの現状はどのように捉えていますか?

木川:
ある程度ブームになることは私たちにとってもいいことです。どんなにうちが「良いブランドです」と言っても、ワンブランドでは認知度は上がらないですし、良いブランドがいくつか揃うことによって自社のことを言えるようになります。また、ブランドが競うことでお客さんの選択肢も広がりますし、「どこに行った?」という会話にもなりますし、業界が成立します。
ブームになったことで弊社も売り上げは上がりました。また、来店される方も元々多かった20-40代の女性だけではなく、10代の女性も来られるようになりました。たくさんの方に飲んでもらうことはもちろん嬉しいですし、行列こそが人気店の証という考えもありますが、例えば、スーツを着た男の人が一人で並ぶのは恥ずかしいと思われるというような変化もあります。
ブームになりすぎるとちょっとアンチになる人が出てしまったり、遠のいたり、誤解されたりというリスクがあります。世間的に行列の頂点は昨年の夏だったと思うのですが、そんな時に、なるべく早く元に戻そう、いろんな方に飲んでもらおうと、モバイルオーダー「スマタピ」をリリースし、「並ばなくていいですよ」というメッセージを打ち出しました。

―「スマタピ」の発想のきっかけは何ですか?

木川:
おととしに上海へ視察に行った時、コーヒーもティースタンドもお店に行って買うのではなく事前にオーダーしてピックアップするという商習慣になっていたことです。スーパーマーケットも、モバイルでオーダーしてバイクで届けてくれるような形になっていました。

―おととしには「タピオカミルクティー協会」も設立されていますね。飲み歩きから発生するごみ問題対策としてのごみ拾いなどの活動を、SNSでも積極的に発信されている印象です。

木川:
ごみ拾い活動は「春水堂」のタピオカミルクティー好きな女性が中心となり、最近は親子でのご参加、中学生の参加も増えています。また昨年6月ごろから(容器の)環境を配慮するニュースが多くなったことから、学生さんの関心が高まっています。そこで春水堂のストーリーを聞いてお茶自体に興味を持ってくださった方も多く、春水堂が主催したお茶セミナーにまで参加してくださる方もいます。

―現在、新たな展開として予定されていることがあれば教えてください。

木川:
「春水堂」が大事にしているお茶の品質・空間・サービスをみなさんと共有させていただきたく、店舗でお茶に絡めた様々なワークショップを開催予定です。また、春水堂ではお客様をお迎えする空間を彩る生け花を店員自らが生けており、日々の生け花を紹介するインスタグラムも開設(@ikebana_chunshuitang)しましたのでぜひ見ていただきたいです。

株式会社オアシスティーラウンジ/株式会社オアシスティースタンド
木川瑞季さん

カルビー“受験生応援ポテトチップス” 開発から商談まで 高校生との密な連携はどのように実現した?

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Case:カルビー株式会社「ポテトチップス合格する梅 梅キムチ味」

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・PR事例の裏側を、担当者へのインタビューを通し明らかにする連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は、カルビー株式会社が、福岡県立福岡農業高等学校と共同開発した『ポテトチップス合格する梅(ばい) 梅キムチ味』(中国・四国・九州エリアにて数量限定発売)を取り上げます。

この両者のコラボレーションは2013年度よりスタート。2009年から太宰府市内で収穫した梅を使用した商品開発を行っている福岡農業高校が、カルビーの地域に根差した商品開発の取り組みを知り、2012年12月、カルビー九州支店にコラボレーションを提案したことがきっかけだそう。

“地元の梅を使用した商品で、受験生を応援したい”という双方の想いが合致し、2013年度から同校とカルビーとの共同開発で「ポテトチップス合格する梅」シリーズの商品をエリア限定・数量限定で販売。コラボレーション第7弾となるこの商品も、原材料には福岡農業高校の生徒たちが収穫した梅のペーストを粉末状にしたものを使用。カルビー従業員が高校に出向き授業を行い、高校生が商品開発の工程にも関わり小売向けの商談にも同行。商品のあらゆる工程でのコラボレーションが実現しています。

この商品開発・展開の裏側について、カルビー株式会社 セールス&マーケティングカンパニー 西日本営業本部 新規チャネル販売課 江本早岐さんにうかがいました。

自社内でも各部門を巻き込み

―高校生側から九州支店にコラボレーションの提案があったそうですが、初めて提案を受けた時の印象はいかがでしたか?

江本:
弊社九州支店も地域に根差した商品開発の取り組みを積極的に行っていたため、コラボレーションの提案を受けた時は、“地元の梅を使用したポテトチップスで、受験生を応援できるのであれば協力したい!”と思い、提案を受けました。

―今回の商品については2019年4月以降、カルビー従業員が18回福岡農業高校に訪れて商品開発に関する授業を行ったとのことですが、どのような内容だったのですか?

江本:
昨年4月から授業をスタート。夏までにコンセプトの立案、味案の決定、パッケージデザインの決定を行い、夏休み明けからは販促物の作成や商談実習等を行いました。さらに発売日からは、店頭販売実習を実施。一年を掛けてマーケティング・商品設計・販売までの一通りを学生の皆様に学習いただきました。
授業には、弊社の企画担当者のみが参加するのではなく、味案の選定時には開発担当者、デザイン検討時にはデザイナー、商談時には営業、と各部門を巻き込み、様々な面から意見を聞ける場を設けています。

―開発における学生のアイデアで印象的だったものを教えてください。

江本:
毎年、学生から出る味案のアイデアに驚かされています。今年度の「梅」と「キムチ」を掛け合わせた味においても、「疲れている受験生の目を覚まさせて、更にやる気を出してもらいたい」、それならば「キムチ!」となった高校生の考えは、私たちには考え付かないものでした。キムチの辛さでやる気梅増【ばいぞう】!(※倍増の当て字)という“梅”の漢字をあてたキャッチコピーも高校生らしい発想でした。

―2019年10月には、福岡県内の小売業に対してカルビー従業員が行う商談に生徒たちが同席し、本商品の販売提案にも参加したとのことですが、どのような形で協力して行ったのでしょうか?

江本:
実際に営業担当が毎月行っている、小売業様に対する商談の場に同席いただきました。商談では、弊社企画担当が作成した商談書をもとに、高校生が商品概要やプロモーション情報を説明しました。基本的には、高校生メインの商談で、弊社営業は補足説明をするといった形です。

コラボレーションを重ね、商品の県内認知度も高く

―小売や消費者の反応はいかがですか?

江本:
高校生との共同開発商品であることや、学問の神様を祀る太宰府天満宮のある太宰府の梅を使用しているので、非常に縁起が良さそうということから小売・消費者の方々からに大変好評をいただいております。「ポテトチップス合格する梅」を毎年楽しみにしてくださっている地域の方々も多く、福岡県内での認知度は高くなりつつあります。

―長年続いているコラボレーション。御社としての当施策の意義を教えてください。

江本:
九州、福岡の“太宰府の梅”を使用することで地域の活性化に繋がればと思います。令和の里として更に有名になった太宰府ですが、“太宰府の梅”についても、この「ポテトチップス合格する梅」を通じて知っていただけたらと思います。
また、高校生がポテトチップスを共同開発していること、太宰府の梅を使用していることに興味を持っていただき、今までポテトチップスを食べてこなかった方々にも、是非この商品を購入し、食べていただきたいです。

ソニー×電通の総合広告会社が生み出した“Motivated Content Design”の考え方とは?担当者に聞く

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Case:株式会社フロンテッジ「Motivated Content Design」

話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・PR事例の裏側を、担当者へのインタビューを通し明らかにする連載「BEHIND THE BUZZ」。

今回は、ソニーと電通が出資する総合広告会社、株式会社フロンテッジが今年1月に提供開始した「Motivated Content Design(モチベーテッドコンテンツデザイン)」にフォーカス。

「生活者の瞬間的な欲求(パルス)を捉え、彼らとブランドとのパーパスドリブンな活動を設計・実行する、SNS時代の統合コミュニケーションのオリジナルソリューション」(プレスリリースより)で、その考え方を元に展開した事例第一弾が、2020年元日の統合コミュニケーション、西武・そごう「『わたしは、私。』2020 -炎鵬の逆転劇-。」となっています。

この事例の考え方や、「Motivated Content Design」の持つ強みなどについて、株式会社フロンテッジ シニアクリエイティブディレクター 上島史朗さん、統合コミュニケーションディレクター 河原敬士さんにうかがいました。

数年前から生まれていた「Motivated Content」の考え方

―まず「Motivated Content Design」の定義について教えてください。

河原:
Motivated Content Designとは、SNS時代の統合コミュニケーションのオリジナルサービスです。Motivated Contentとは、メッセージ・動画・キャンペーン・イベントなどのコミュニケーション活動から生まれた成果物のことを指し、あらゆる登場人物がモチベートされていくものです。

Motivated Contentは、3P(スリーピー)で構成されています。3Pとは、Purpose(パーパス)・Participation(パーティシペーション)・Pulse(パルス)です。Motivated Content Designは、生活者の瞬間的な欲求を捉え、生活者とブランドとのパーパスドリブンな活動を設計・実行します。3Pについては、以下のように定義しています。

1) Purpose (パーパス)
2019年の広告賞はパーパスドリブンな作品群が世界から注目されました。パーパスは、一過性のブームではなく、サステナブルやSDGsをはじめとした社会が成し遂げたい目標であり、企業の存在意義です。Motivated Content Designは、賑やかしのバズではなく、ブランドパーパスから逆上がりした誠実で透明度の高いコンテンツを開発します。

2) Participation (パーティシペーション)
Twitterなどのデジタル空間では、生活者が偶発的に発見した現象、ハッシュタグでつながりあう大喜利など、フォロワーを巻き込んだうねりが自然発生し、集団や運動体を形成しています。Motivated Content Designは、違和感なく生活者がブランドを助け、活動を盛り上げて伴走していく参加型コンテンツを開発します。

3) Pulse (パルス)
スマートフォンの普及と成熟に伴い、生活者の情報判断能力や記憶力、忍耐力は限界まで到達しようとしています。24時間で消えるStoriesやパルス型消費など時間やタイミングを捉えたアプローチが欠かせません。Motivated Content Designは、瞬間的な欲求に呼応し、瞬時にSNSに拡がる波動のようなコンテンツを開発します。

―2017年に研究組織「モチベーション・ラボ」を設立されたとのことですが、「Motivated Content Design」の構想はいつ、どのようにして立ち上がったのでしょうか。

河原:
フロンテッジは、2017年に設立した研究組織、モチベーション・ラボから生まれたメソッド、モチベーションデザインをクライアントに提供してまいりました。その後も、かつてないスピードで変化するデジタル環境や生活者に対応すべく、統合コミュニケーションの現場は常に変質しています。
例えば、バズ施策、バイラルムービー、分散型コンテンツマーケティング。拡散を過度に狙ったBranded Contentを制作し、SNSに流通させ、マスメディアでブランドを刷り込んでいく作業が世の中に溢れています。しかし、生活者は企業都合の情報に踊らされないよう警戒するようになりました(炎上の原因でもあります)。
いま求められているのは、企業から一方通行のBranded Contentではなく、生活者とのCo-Creationを誘発するMotivated Contentであるとフロンテッジ社内で声があがりました。これが2018年ごろです。
2019年夏ころから、Motivated Contentの考え方に近い業務を集約し、体系化していきました。それらの共通項が3P(スリーピー)だったのです。まさに、モチベーションデザインの新しいメソッドが生まれた瞬間です。
2020年1月、発見したメソッドに具体的な提供メニューを加え、Motivated Content Designと名付けました。SNS時代の統合コミュニケーションのオリジナルサービスとしてプレスリリースに至ります。

―「Motivated Content Design」ならではの強み、御社ならではのコンテンツ開発の強みについて教えてください。

河原:
強みは2つあります。「SNSの専門家と仕組みがあること」「ソニーと電通から生まれた総合広告会社であること」この2つを兼ね備えた組織は他にないと考えています。

前者については以下のような強みがあります。
・生活者の無意識レベルの発言から動機を発見する、分析ツールや独自理論
・高速に芽生えていく、小さくとも熱量が深いSNS上のうねりの把握と洞察
・SNSに特化した、複数のシステムベンダーとの連携とテクニカルディレクション

後者については以下のような強みがあります。
・職域の壁のない、水平なチームによる自由闊達なクリエイティブディレクション
・よい解決のために、よい課題を発見することを信条とした、ニュートラルなメディア選定
・ソニーの自発的な学びと実践のDNAと、電通の思考量と質へのこだわりが同居した企業風土

「わたしは、私。」は多面的な解釈ができるよう、慎重に企画を構成

―「わたしは、私。」についてはどのようなきっかけから生まれたのでしょうか。また、「Motivated Content」としての設計をどのように行ったか、お教えいただけますか。

上島:
2016年に樹木希林さんを起用した「ADVANCED MODE」という婦人向けファッションの取組みを担当していました。年齢を重ねた女性のファッションは、もっと自由に、思い思いの個性を表現してもいいんじゃないですか、という提案です。結果とても大きな反響をいただいたことから、ファッションだけではない百貨店のあり方についてクライアントと話していきました。
百貨店が扱っているのは、一人ひとりの生きかたなのではないか。ポジティブな生きかたの提案をどれだけできるかに、百貨店の力は試されてゆくのではないかと。西武・そごうにくるお客さまには、他の誰でもない「私」を大切にしてほしい。そんな思いから「わたしは、私。」という言葉を開発しました。
その意味では、「Motivated Contentという名付けをするよりも前からの取組になります。以来、4年間に渡って「わたしは、私。」というメッセージを伝えてきましたが、常に時代の空気と対話するように設計してきました。その間、「わたしは、私。」は、西武・そごうのコーポレートメッセージとなりました。だから、今回のMotivated Contentに照らすならば、ひとつは「Purpose」になります。「わたしは、私。」というメッセージを持っていた西武・そごうは、「想像以上の提案で、お客さまに発見を。」という企業理念を掲げています。こうした視座をクライアントが持っていなければ、「わたしは、私。」は決して生まれませんでした。

2020年の「わたしは、私。〜炎鵬の逆転劇〜」に限って言えば、逆読みする仕掛けに気づいた人が「偶発的な発見」として人に言いたくなる点は「Participation」に、元日にローンチしたことで2020年の指針にしたくなるような「瞬間的な欲求」を満たすことができたとすれば、それは「Pulse」と言うことができるかもしれません。そうして多面的な解釈ができるよう、慎重に企画を構成していきました。

―西武・そごうさんの反応についてはいかがでしたか。

上島:
自分たちの信じてきたメッセージが、世の中の皆さんに受け入れてもらったことに大きな手応えを感じていらっしゃいます。また、インナーモチベーションとしても機能しており、現場の皆さんから「取引先でも話題になっていて称賛の声をいただいた」などと自社の取り組みに誇りを感じる機会が生まれているようです。

―この事例についての成果や、世の中の声について手応えを感じている点がありましたらお教えいただけますか。

上島:
世の中の空気を見つめつつも、クライアントと共に信じられるものを作ろうと毎回取り組んでいますが、今年の反響はとても大きなものだったと感じています。
学校関係者の皆さんからポスターを授業で使いたいから欲しいと連絡が多数入ったり、1月だったことから成人式で紹介する市長がいらっしゃったり、真偽はわかりませんが自殺を踏みとどまったという声もあったり、2次創作に挑戦される方や、歌にする方がいらっしゃったり、広告という範疇からはみ出た“現象”のようなものを感じることがたくさんありました。
施策のスタートは店舗の閉店など、暗いニュースです。だからこそ、人の心にエネルギーを注げるようなコミュニケーションとなったことが、一番の成果ではないかと感じています。

―今後、他クライアントも含めて「Motivated Content Design」として予定している事例がありましたら、教えてください。

河原:
今後の展開について、具体的な企業名やブランド名は開示できませんが、食品・トイレタリー・自動車・家電・スポーツといった業種のクライアントと業務が進行中です。
なお、すべてMotivated Content Designの業務ではないですが、こちらで業務について随時更新しています。Motivated Content Designをテーマとした公開セミナーなどの情報発信も続ける予定です。今後もMotivated Content Designの活動にご期待ください。

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